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悪夢に怯えて

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私はまた、夢を見ていた。

「ねぇ、縄を解いて!
彼を呼んで!
私が魔女じゃないと、彼は知ってる!」

私はたくさんの人に叫んでいた。

その中の一人が、冷たい目をしてささやく。

「処刑執行書にサインしたのは、彼だよ。」

そう言われて、そこで目が覚めた。

涙が流れていて、泣いていたことがわかる。

もう、なんなの。
怖い夢。

このゲームの世界は、なんとなくバイオレンスな要素が多いな。

この悪夢はライカも見てるの?
彼女にも怖い思いをさせちゃったな・・・。

薄暗い部屋の中は静かね。

暖炉の火が燃える音が、パチパチとするだけ。

ケルフェネス王子も帰ったみたいだし、シャーリーンも隣の部屋で寝てるんだろうな。

・・・あれ?
寝息が聞こえる。
シャーリーン?

そう思って隣を見ると、そこにはまたライオネルがこちらを向いて、眠っていた。

「わ!」

驚いて跳ね起きると、ライオネルがうっすらと目を開けて、私を見る。
いつもの眼帯をはずしていて、髪に隠れた顔にぼんやり刃物で斬られたような傷痕が見えた。

それだけなのに、なんだかとても色っぽい。

ドキドキして、思わず私と彼の服を確認するけど、今度はしっかり着ていた。

ホッとしてもう一度彼を見る。

「服の袖・・・。」

「え?」

「服の袖を握ったまま、離してくれなかったから、そのまま寝ていただけ。
何もしてない。」

淡々と言われて、目線で自分の手の先を見ると、ライオネルの服の袖を握っていた。

「ご、ごめんなさい!」

慌てて離して顔を覆う。

な、何やってんだろ!?

耳まで熱くなるほど、顔が赤いのがわかる。

目まで覆った手の指を少し開いて彼を見ると、ライオネルはゆっくり起き上がって、私をじっと見ている。

慌てて指を閉じて顔を覆っていても、視線が刺さって気が気ではない。

「お誘い、じゃないのは知ってる。
本当は、そっちの方がいいんだけど?
半端な生殺しは本当に疲れるんだ。」

「ご、ごめんなさい。」

な、何謝ってるの?
私が悪いの?
・・・いや、悪いよね。

でも、わざとでもないの。

ライオネルは、そんな私を見て、クスリと笑って吹き出した。

「・・・、いいんだ。
体が弱ってるレモニー様に迫るほど、落ちぶれてないから。
実は、うなされていたから、心配していた。」

「うなされて?」

「『私は魔女ではないと、彼は知っている。』と。
彼、て誰?」

「え?」

「その『彼』というのは、誰のこと?
俺の知る限りでは、君に恋人はいなかったはずだ。
夢に見るくらい大事な人?」

「・・・怒ってるの?」

「泣きながら呼ぶくらいだから、気になる。」

・・・。
なんだろう。

すごく機嫌悪そう。

正直に言った方がいいみたい・・・。

「最近、変な夢ばかり見るの。
最初は故郷の夢。
それから、また帰って来いという夢。
そして・・・、魔女ではないと訴える夢を。」

「プレイヤー時代にやっていた、その手のゲームの名残?」

「いいえ。
もっとリアルなもの。
それとね、あなたが話していたパム村に聞き覚えがあるの。
そこで起きた悲劇、て?」

ライオネルは、軽く目を擦ると、話し始めた。

「俺が生まれる前、つまりゲームの中の歴史として、はるか昔に起きたことだと設定されている話だ。
シャトラ国は、魔女狩りの暗い歴史を持つ。
近年は改善されているが、辺境の村では、長く横行していたそうだ。
パム村の悲劇は、一番直近に起きた事件なんだ。」

私は頷いた。

「その村には、薬草の知識に秀でた女性がいたそうだ。
医者に簡単にかかれない人間は、皆彼女を頼りにした。
それが、異端審問官の関心をひいてしまったんだ。
彼女は悪魔と取引をして、薬草を調合し、魂を集めていると、決めつけられた。」

「ひどい・・・。」

「彼女は、領主と恋仲だった。
彼はなんとか彼女を守ろうとしていたが、不在の隙を突かれて、彼女の処刑が断行されたそうだ。
領主の訴えで国が動いた時には、異端審問官たちは逃げ去っていて、誰一人罪を問えなかった。
それがパム村の悲劇。
その後は、一件も魔女狩りは起きていない。」

「う・・・。」

そこまで聞くと、急に体が震え出した。

「レモニー様?
どうした?」

ライオネルが心配して肩に手を置く。

「彼女・・・、の・・・処刑執行にサインしたのは・・・彼だと・・・夢の中で聞いた・・・の・・・。」

「ゆ、夢だよ、レモニー様。
それに領主は、彼女を売るようなマネはしないさ。」

そう優しく言われても、震えはひどくなっていく。

怖い・・・!
悲しくて、悔しくて、怖い・・・。
どうしたんだろ。

ライオネルが震えを止めようと、優しく抱き寄せてきた。

思わずこちらも抱きついて、浅く早くなる呼吸を鎮めようとする。

「レモニー様、大丈夫・・・、大丈夫だから・・・。」

まるで小さい子をあやすように言われて、それでも止まらない震えに、不安になってくる。

ライオネルが背中を撫でて、そっと額にキスをしてくれた。

ハッとして気が逸れたのだろう。
震えが少しずつ止まっていく。

「こ、このままでいて・・・。」

ライオネルの背中に、爪を食い込ませるように抱きついたまま、一緒にゆっくり横になる。

「そばにいて・・・。
どこにも行かないで・・・。」

押し寄せる不安と恐怖から逃れるように、ライオネルの温もりに逃げ込む。

「わかった。
ずっとそばにいる・・・。」

と、言うとライオネルは、抱きしめる腕に力を入れる。
誓いのような、約束のような言葉を交わして、私たちは夜明けまでそのまま眠りについた。
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