上 下
4 / 76

それなら、なんとかするしかない!

しおりを挟む
悪役のレモニーが、実は何も命令していない!?

ゲームの中では、あの憎たらしいBGMと共に、レモニーが悪事の命令を出すシーンが沢山あった。

でも、プレイヤーが見れるのはそこまで。

翌日その命令を取り消すシーンなんて、見たことがない。

こ、これはどういうこと?

悪役令嬢として、何もしていないのに、最後は処刑?

「ひどいわ・・・。」

思わず口から言葉がこぼれ出る。

「間接的とはいえ、あなたのご希望通りのことが起き、全て王子たちによって阻まれる。
私も驚いております。」

シャーリーンが、答える。

「どうしてこんな。」

「日頃の行いのせいでしょう。
あなたは、昔から人間的には最低なんです。
なんでも口ばかりで、責任は全部他人。
そのくせ、いいことが他人に起きるのは許せない。
奪い取って、自分のために使ってしまおうとする。
他人は見下す。
そういう人間であることは、周知の事実です。」

「うぅ・・・。」

「そう、周りに言われてご成長されたのは、存じております。」

「え?」

「私がお仕えする前から、そういう前評判でした。
だから、みんなそんなふうにあなたを見ていた。
何か悪質なことが起きれば、それは全てレモニー様のせいだ、と。」

「シャーリーン?」

「私は、元スラム育ちでした。
あなたの財布を盗もうとして、取り押さえられ、警察に突き出されようとしたのを、あなたが止めてくださったんです。

何も盗まれていない、そんなにお腹が空いてるなら、私のメイドになればいいじゃない、と。

私は、その日からあなた付きのメイドになりました。」

「そうだったっけ・・・。」

設定資料には確か、『シャーリーンはレモニーのためなら、悪事に手を染めることも躊躇いのないスーパーメイド』としか、書かれていなかった。

「私はスラム育ちなので、悪人は見ればわかります。

あなたは、単に小心者で、無知で、勉強不足で、周りからいろんな悪いイメージを転嫁されやすい存在にすぎない、と思いました。」

「そ、それは褒めてるの?
けなしてるの?」

「もちろん、両方です。」

「あ、そう・・・。」

「ただ、恐ろしいのは、あなたは結果を引き寄せてしまうこと。
悪事の面に特化してますけど、口にしただけで、それが起こってしまう。
密室で言っただけのことで、悪事は起こりません。
実行するものがいないと。」

「そうよね。」

「誰かが、あなたを悪女にしようとしています。
おそらく、ワインの件も。」

「それが、ライオネル?」

「確証はありませんが、可能性は高い。
でなければ、王子たちをああも確実に、現場に連れて行けるはずがないんです。
自分で仕込んだのなら筋が通ります。」

「シャーリーン・・・。」

嬉しいな。
こんなふうに思ってくれる人がいる。

でも、どうやって証明すればいいのだろう。

「シャーリーン、使節団の誰かが、もうワインを飲んでるの?」

ワインが毒入りだとわかったということは、犠牲者が出た・・・?

「いいえ、どなたも飲んでいません。
ライオネルが入ってきて、これは毒入りだと言って止めたと。
その場で花壇にワインをこぼし、たちまち花が枯れるのをみて、皆毒だと確信したそうです。」

・・・・!!

間違いない。

ライオネルは、私を悪女に仕立てようと動くキャラクターなのだ。

ゲーム内の、ストーリーの補正役が相手となると難しくなる。

でも、なんでなの?

ストーリーを考えるなら、いっそレモニーが黒幕ということにした方が、スッキリするはず。

わざわざそう見えるよう、しないといけないなんて。

まるで何かを隠すみたい。

隠す・・・。

「裏シナリオ・・・。」

「え?」

「通常の攻略では辿り着けない、トゥルーエンディング。
ヒロインが恋の相手と結ばれるだけでは、到達できないシナリオがあるとしたら・・・。

だから、毒の送り主が最後まで伏せられていたのだとしたら・・・。」

「レモニー様?
何を?」

「まさか・・・、レモニーは裏シナリオの主人公なんじゃ・・・。
毒入りワインを送りつけた真犯人を見つけ出し、彼女を生存させて初めて開くシナリオがあるんじゃないの・・・?」

「レモニー様?
あなたが、レモニー様でしょ?」

私はシャーリーンを見た。

「シャーリーン。
私、私はね、本当のレモニーじゃないの。」

「え?」

「説明が難しいんだけど、私は、外の世界からレモニーとして転生した人間なのよ。
ほら、あなたの知るレモニーと違うでしょ?」

「た、確かに、レモニー様はこんな知的な会話が出来る方ではありませんでした。」

・・・、そういえば、シャーリーンとの会話シーンでも、話し合うなんてなかったもんな。

命令して、怒鳴って、わがままばかり。

最後は泣いて開き直り。

こんな人が裏シナリオの主人公だなんて、誰も思わないもんね。

でも、レモニーの出演シーンといえば、ヒロインが攻略対象キャラクターと仲良くなりだして、それに対する嫉妬に燃えて、意地悪を考えるシーンばかり。

誰だって好きな人を目の前で奪われていくのを見たら、あんなふうになるんじゃないのかな。

ヒロインとの会話シーンで、意地悪なことしか言わないのも、最初からみんなに愛されてるヒロインが、羨ましかっただけかもしれない。

それでも、今は私がレモニーなんだ。
こうなったら、私が私の裏シナリオを開けるよう、動くしかない!

「シャーリーン、私は新しいレモニーよ。
それでも今味方はあなたしかいない。
お願い、真犯人を見つけ出すことに力を貸してほしい。」

シャーリーンは、真顔でしばらく考え、ふっと笑った。

「私は、今のレモニー様の方が好きです。
中身が変わろうと、あなたのメイドであることに変わりはありません。
なんなりと御用命を。」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

Kingの寵愛~一夜のお仕事だったのに…捕獲されたの?~ 【完結】

まぁ
恋愛
高校卒業後、アルバイト生活を続ける 大島才花 すでに22歳の彼女はプロダンサーの実力がありながら プロ契約はせずに、いつも少しのところで手が届かない世界大会優勝を目指している そして、今年も日本代表には選ばれたものの 今年の世界大会開催地イギリスまでの渡航費がどうしても足りない そこで一夜の仕事を選んだ才花だったが… その夜出会った冷たそうな男が 周りから‘King’と呼ばれる男だと知るのは 世界大会断念の失意の中でだった 絶望の中で見るのは光か闇か… ※完全なるフィクションであり、登場する固有名詞の全て、また設定は架空のものです※ ※ダークな男も登場しますが、本作は違法行為を奨励するものではありません※

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】

まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡ 泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。 6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した 今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ… 結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり 逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな… バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの?? お話はフィクションであり作者の妄想です。

悪役令嬢のススメ

みおな
恋愛
 乙女ゲームのラノベ版には、必要不可欠な存在、悪役令嬢。  もし、貴女が悪役令嬢の役割を与えられた時、悪役令嬢を全うしますか?  それとも、それに抗いますか?

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

処理中です...