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三章

とどめの一撃

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ゾンビダラボッチを追って、俺たちは走る。

走るスピードは、やはり半人半馬のギルバートの方が速い。

「その足では遅い! 乗って! アーチロビン!!」

「ありがとう!」

聖騎士ギルバートの背に乗って、俺たちはシャーリーを握ったまま、砲台の方へ向かうゾンビダラボッチを追う。

「ぎゃあぁぁぁぁーあぁぁぁ!!」

その時、急に悲鳴が響き渡った。

よく見ると、ゾンビダラボッチの手に握られたシャーリーの全身が、ゾンビのような肌の色に変わっていくのが見える。

「ゾンビ化させられてるよ!!」

聖騎士ギルバートは、スピードを上げて並走すると、槍を構えて気を込め始めた。

聖騎士の槍は聖なる力を宿す。

「我らが神よ、この槍に力を宿らせ、悪きものを滅ぼしたまえ!」

聖騎士ギルバートは、助走をつけて槍をゾンビダラボッチに放つ。

ドォォォン!!

光を纏った槍はまっすぐ飛んで、シャーリーを掴んでいる手を打ち砕いた。

シャーリーはそのまま落ちていったが、柔らかい光が彼女を受け止めて、ゆっくり運んでいく。

フィオか? それともティト?

いや、それより。

砕かれた手を瞬く間に再生させて、ゾンビダラボッチは俺たちを睨む。

こっちに気をよせられるか?

ドドーン!!

そこへまた大砲が飛んできて、ゾンビダラボッチはまた砲台を目指して歩き始めてしまった。

「仕方ない!! スピードを上げるよ、アーチロビン! 奴を追い越して、先に進もう!」

「ああ!」

聖騎士ギルバートの俊足で、ゾンビダラボッチを追い越して、砲台を目指す。

「アーチロビン、見えてきた!! あそこに砲台がある!!」

聖騎士ギルバートが叫んで、指を差す方向に砲台が見えてきた。

街の端にある外壁が砲台になっていたのか。
どおりで、遠距離から撃っていると思った。

「やめろー! 撃つなぁ!!」

俺は砲台の砲手に向かって、叫ぶ。
兵士たちは驚いたように俺たちを見た。

「そこを退け!! 街を守らねばならんのだ!!」

司令官らしき兵士が、身を乗り出すようにして手を振る。

俺はギルバートの背から飛び下りると、彼らに大声で呼びかけた。

「逆効果だ! 奴には攻撃が効かない! 結界の準備が整うまで、控えてくれ! 俺が止める!!」

「何!?」

「頼む!!」

「……」

「ガァァァァァァァ!!」

ゾンビダラボッチが雄叫びをあげ、城壁に向かって、口を開いたまま突進してくる。

口の中には光が溢れ、高熱のビームを吐き出すつもりのようだ。

全体攻撃だ。俺も射程範囲内に入る!

「総員、構えー!!」

それを見た司令官は、再び砲撃を開始しようとした。

「動くな!!」

俺は後ろを見ずに叫んだ。
頼む、何もしないでくれ!!

ピタリ。

ゾンビダラボッチの攻撃が止まる。
攻撃抑止の再発動だ。

後ろの兵士たちも、驚きと感嘆の声をあげていた。

「おお……!」

「い、一体なぜ?」

攻撃範囲内に俺がいれば、大丈夫。

ゾンビダラボッチ、そのまま俺を見てろ!!
時間稼ぎだ!!

「グルルル……ググ!!」

その時、急にゾンビダラボッチが苦しみ出す。

なんだ!?

何かに吸い込まれるように、ゾンビダラボッチの体が引っ張られ始める。

まさか、大聖殿の神器が元に戻されて、結界内に押し戻されそうになっているのか?

なら、早く……早く!!

「ゴガァァァ!!」

ゾンビダラボッチはもがきながら、大聖殿の方を振り向いた。

あそこにあるものが原因だと、わかっているんだ!!

ゾンビダラボッチは、吸われる力に抵抗しながら、大聖殿へと戻り始める。

ボロボロと、土の塊のような体が崩れて吸い上げられていくのに、奴は歩みを止めない。

俺はもう一度弓矢を射たけれど、大聖殿の方にゾンビダラボッチの関心が集中していた。

「ダメだ! こっちを向かない!!」

俺は慌てて聖騎士ギルバートと一緒に、大聖殿へと急いだ。

ギュイイイイイ……。

独特な音がして、ゾンビダラボッチは残された体で大きな口を開き、魔力を溜めていった。

光線を放つ気だ!!

「させるか!! 熱線、解放!!」

俺の全身がカッと熱くなり、顔を上げた目から熱線が放射されて、ゾンビダラボッチの胸を貫く。

大帝神龍王の攻撃の1つ、高熱ビームだ。

やったか!?

───あ!!

奴の体は胸から穴が広がって、空の彼方へ吸い込まれていった。
けれど、吐き出された光線は、まっすぐ大聖殿に向かっていく。

「フィオ!! ティト!!」

「ケルヴィン殿下あ!!」

ドガガガ!!

シールドと、ゾンビダラボッチの光線がぶつかり合う衝撃。

凄まじい力だ。

くそ! みんな無事でいてくれ!!

「あぁ……! シールドが……割れる!」

聖騎士ギルバートが、上空に張られたシールドを見て緊迫した声を漏らした。

見上げると、シールドにヒビが入っていき、今にも割れそうになっている。

みんなが……フィオが!!

パキッ!!

その時、何かが弾けるような音がした。
シールドがついに壊れた? いや、違う。

大聖殿の方から、九本の大きな柱が天に向かってそびえていく。

柱じゃない、あれは……尻尾!?

やがて、大きくて白い塊が膨れ上がっていき、純白で蜃気楼のように透けた姿が、はっきり見えた。

白狐!!

九本の尻尾をなびかせた、巨大な四本足の白狐が、大聖殿の方に現れる。

あれは、まさか……フィオ!?

白狐の全身が光ると、シールドはたちまち回復していった。

その間に、俺たちは元の通りに戻る。

シュオォォォォ……!!

シールドに力負けをした光線は、虚しく消滅していった。

巨大な白狐は、それを見届けると、シールド共に消えていく。

危なかった。
シールドがなかったら、今頃この辺り一帯は消し飛んでいたかもしれない。

フィオは、無事か!?
なんだか、胸騒ぎがする。

「アーチロビン!こっちじゃ!!」

魔道士ティトが、奥まった通りで必死に手招きしていた。
なんだ、どうしたんだ!?

俺は魔道士ティトと、ケルヴィン殿下が待つ場所へと急いだ。

「フ、フィオが……」
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