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三章

ゾンビダラボッチの来襲

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この国の司祭は、大聖殿にいるらしい。

観光案内のパンフレットによると、百年前トゥンカル・ミズ国は暴君がいて、国民が長く苦しめられた歴史があるそうだ。

多くの国民が犠牲になり、その墓土の中から生まれたのが、ゾンビダラボッチ。

「ゾンビダラボッチは、国民の怨念が作り出した、とも言われている」

ケルヴィン殿下が、道々歩きながら説明してくれる。

「怨念……て、ゾンビダラボッチは魔族なのでしょう?」

おそるおそる質問するフィオ。
彼女は今、「忍者」と呼ばれるジョブに扮している。頭に被る布が、耳をうまく隠してくれるからだ。

尻尾は腰に巻きつけて、帯のようにして誤魔化している。

「アンデッド系の魔族じゃの。じゃが、犠牲者の埋まる墓地の中から出てきたから、まるで怨念を背負っているように見えるのじゃろう」

魔導士ティトが、杖をつきながら肩をすくめる。

アンデッド系か。聖属性の力を持つフィオが、奴にとっては一番脅威になるだろうな。

「いやー、それにしてもこの国はいいですね。半人半馬族もたくさんいるから、馬に化ける必要がありませんよ」

聖騎士ギルバートは、ニコニコして周りを見回している。

はは、確かに。
でも、馬に化けた彼を見たかったな。

やがて、大聖殿が見えてきた。

む? あれは……。
大聖殿の入り口に、馬車が停めてある。

「大聖女専用の馬車です! シャーリー様がいるんだわ……」

フィオが、小声でみんなに告げる。
おっと、シャーリーが来ているなんてな。

ネプォンもいるかもしれない。
鉢合わせは、まずいな。

出直そうか……そう思った時だ。

ズズーーーーン!!

ものすごい地鳴りがして、異様な気配が接近してくる。これは……!?

すぐに大聖殿の中から、法衣に身を包んだ、半人半馬の男性が飛び出してきた。

聖騎士ギルバートと同じ種族?
法衣を着てるということは、この人は司祭?

「みんな!! 大聖殿の中へ!!」

と、慌てふためきながら叫ぶ。

なんだ!? 何が起きた?

俺たちが走り出そうとしていると、背後から巨大な影が、山が盛り上がるように高くなっていく。

地面から、何か湧いて出たのか?

俺の肩に乗ったオウムのフェイルノが、空を見上げて悲鳴をあげた。

「ギャー! デカイ!! オバケェー!!」

お化けだ?
俺も思わず見上げると、巨大なゾンビが街を見下ろしていた。

大きい! まさか、これがゾンビダラボッチ!?

まるで土の塊。
それが第一印象だった。

俺は反射的に弓矢を構えて、地面に向かって放つ。

矢を打ち込んだところから、敵の力の流れに干渉する力場が広がり、ゾンビダラボッチを包んでいった。

矢が刺さった地面が、いつものようにカッと光るのと、ゾンビダラボッチの目が光るのが、ほぼ同時。

まさか……これは戦闘開始直後に、自動的に発動されるという、『瀕死波動』か? 相手の体力の九割を削いでしまう固有スキル。

間に合うか!?

……。

ゾンビダラボッチは、街中を見回すばかりで、何もできずにいる。

……ほ。
ほとんど僅差だった。

俺がほっとしていると、奴は稲妻の光を全身に纏い始めた。二度目の攻撃は、雷の魔法を放とうとしているな。

常に全体攻撃中なら、俺も対象に入ってる。これなら、ずっと止められる。

プスンと音を立てて、稲妻が消えていった。
二度目も攻撃抑止の効果で、発動できずにいる。

三度目……奴自身の攻撃が跳ね返る。

そう思っていると、踏み潰そうと思ったのか、ゾンビダラボッチは片足を大きく上げた。

人々の悲鳴が響き渡る中、足が振り下ろされる前に、ゾンビダラボッチがグシャ! と、潰れる。

土が崩れるように、ゾンビダラボッチは地面に落ちていった。

三度目の踏み潰しのダメージが、跳ね返ったな。

絶対反転の効果は、絶大だ。

ついに、やったか?

その時、大聖殿から笑いながら出て来る神官がいた。

シャーリーだ。

豪華な法衣に身を包み、これでもかといわんばかりの装飾具をつけている。
あいつ、大聖女の品位を落としていないか?

「ほほほ! ごらんなさい。この国の神器などなくても、私が来ただけで、ゾンビダラボッチは倒れたのです」

彼女そんなことを言っている。
そして、怯える街中の人の前で両手を広げて、語りかけた。

「皆様、どうかご安心を。私は大聖女シャーリー。ゾンビダラボッチは、アンデッドの魔物。聖属性の魔法の最高峰にいる私に、敵うべくもありません」

なんて言ってる。お前が何をしたんだ?
俺の心の中のツッコミをよそに、人々はシャーリーに感謝して拝み始めた。

終わったのだろうか……ゾンビダラボッチは、肉体が消滅せずに、潰れた土の塊のようになったままそこにある。

「いえ、ゾンビダラボッチは倒れていない!」

俺の隣で、フィオがゾンビダラボッチを見つめて叫んだ。

何!? まだ、体力が余っているのか?

そう思っていると、ゾンビダラボッチは再び起き上がる。

それを見た人々は、悲鳴をあげた。

「大聖女様、お助けを!!」

「奴を倒してください!!」

口々に、彼女に懇願の声があがる。
シャーリーは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、サッと切り替えて祈りの書を開いた。

「我らの女神、ルパティ・テラ。我が敵を打ち滅ぼすため、その矛を貸し与えたまえ、ホーンス・リラー!!」

直後、空から雲を割って、光り輝く巨大な矛がゾンビダラボッチに襲いかかる。

シャーリーの一撃必殺技だ。
これを耐え切れたアンデッドは、見たことがない。

見た目が派手なことも手伝って、あちこちから賛美の声があがった。

「大聖女様!」

「大聖女様ぁ!!」

みんな彼女に跪き、手を合わせている。
でも、彼女の隣で法衣を着た半人半馬の男は、険しい表情を崩さない。

なぜ、そんな顔を?

周りの賞賛に気をよくしたシャーリーは、満面の笑みでそれに応えようとした。

その時だ。

「ヴガァァァァー!!」

ゾンビダラボッチが吠えた。
そのまま刺さった矛を引き抜いて、握りつぶしてしまう。

「な……!!」

「そんな!!」

見ていた人々が、驚きの声をあげた。
シャーリーの聖属性の魔法が、効かないなんて!!

シャーリーは、もう一度同じ呪文を詠唱したけど、結果は同じ。

「そ、そんな馬鹿な!」

彼女は、戸惑いながら祈りの書のページをめくって、より強力な魔法を探している。

いや、ダメだ。

何かが、攻撃という攻撃を吸収して、ダメージにならない。

奴自身の攻撃さえ、意味をなしてない。

考えろ……考えるんだ!!

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