19 / 96
二章
魔王の秘術
しおりを挟む
俺たちが、揃って地下室を出ようとした時だ。
床がカッと光って、大きな転送の魔法陣が足元に広がる。
「わ!」
「きゃ!」
「どわ!」
みんなが思い思いの声をあげる間に、俺たちは見知らぬ場所へと転送されていた。
ここは……?
「大丈夫。皆様、ようこそおいでくださいました」
目の前に、ローブを羽織った綺麗な女性が立っていて、俺たちを見ていた。
「私はタインシュタ・フランの助手、『リリー』です。この度は、暴走したオメガゴーレムを止めてくださって、本当にありがとうございます」
と、彼女は言う。
助手? あの人、助手なんていたのか。
「オメガゴーレムは、破壊してしまいました。無傷で回収はできなかったのです」
と、ケルヴィン殿下が、彼女に説明した。
あれを無傷で?
無茶苦茶だ。
タインシュタ・フランは、そんな回収を依頼していたのか。
「いえ、無理もありません。先生の要望自体が、非現実的なのです。秘術を詰め込んだ結果、異常な魔法耐性と肉体の強度を持ってしまった。おまけに自分で制御できなかったのですから」
リリーは、悲しそうな顔をして俺たちの後ろを見る。
彼女の視線の先には、壊れたオメガゴーレムが横たわっていた。
一緒に転送される仕組みだったのか。
「石化した冒険者は、他にもいました。既に砕かれていて、元に戻すことはできません。助かったのはボクらだけです」
聖騎士ギルバートが、リリーに報告している。
そうなんだよな、犠牲者が沢山出てしまった。
「ええ、申し訳ないことをしました」
リリーが俯いていると、部屋の向こうから、タインシュタ・フランが現れた。
「秘術の知識は、ただでは教えられんのだ。彼等には、ちゃんと警告はした。それでも行くと言った以上、自己責任だ」
そう言って、彼はみんなを見回す。
冷たい言い方だ。
それが事実でも、俺はこの言い方が好きじゃない。
この人が、安全な場所から偉そうに言うせいだろう。
自分が痛いわけじゃないから、平気で口に出せるんだろうな。
タインシュタ・フランは片眉を上げて俺を見据える。
「やはりお前の力か」
「……」
「これで、力を宿すのは弓ではなく、お前だということがはっきりした」
「……」
タインシュタ・フランの質問は止まらない。
目がギラギラして、探究心が剥き出しになっているようだ。
「お前の力は、どこからきているのだ?」
「そんなことより、ケルヴィン殿下の質問に答えてください。オメガゴーレムはこうして、持ってきたのですから」
「無傷で、という条件が果たせていない」
俺はタインシュタ・フランの言い方にムッとして、言い返そうとすると、リリーが割って入ってきた。
「先生! 無傷の回収は無理だと、わかっていたことではありませんか!」
「黙ってろ! 助手が口を出すことか!」
「いいえ! これまで、誰も……先生ご自身ですら太刀打ちできなかったオメガゴーレムを止められただけでも、すごいことです! 彼等の質問にお答えください!」
「リリー!!」
「これ以上ヘソを曲げるなら、母さんだけじゃなく、私も出て行ってやるんだから!!」
「な……!」
な、なんだこりゃ、親子喧嘩?
二人は親子なのか?
俺たちは目を白黒させて、成り行きを見守るしかできない。
「えぇいくそ! オメガゴーレムは、私の研究の集大成だったのだ! それをこんなにして……! 暴走さえしなかったら……」
タインシュタ・フランの言葉を聞いて、ケルヴィン殿下は片手を上げる。
「それなんだが、俺たちが聞きたいことと、暴走の原因は無関係じゃないかもしれないんです」
「え?」
タインシュタ・フランとリリーは、驚いたようにケルヴィン殿下を見た。
フィオも進み出て、魔王ダーデュラの魂のことを告げる。
「魂の欠片が宿っていた……と?」
タインシュタ・フランは険しい顔になった。
「ま、魔王は勇者ネプォンのパーティーが、倒したはずです。だからこそ、彼は隣国ガルズンアース国の、国王になったのでは?」
リリーは、戸惑ったような表情で俺たちを見る。
「ネプォンて、誰だ?」
タインシュタ・フランはリリーに確認している。勇者ネプォンを知らない人なんて、初めて見た。
「すみません、先生……いえ、父は研究以外のことに疎いんです」
リリーは、簡単に勇者ネプォンのことを説明してあげたけど、タインシュタ・フランは興味なさそうだった。
そんな中、魔導士ティトが痺れを切らしてタインシュタ・フランの前に進み出る。
「ワシらは急いでおる。魔王ダーデュラは倒されても、魂の欠片を魔族の誰かに宿し、そいつが倒されるたびに逃げ去ってしまう。秘術に詳しいあんたなら、この状況を理解できると思ってな!」
「倒された後にか」
「そうじゃ。あの大魔導士イルハートの目の前で、肉体から離れた魂を分割させる秘術をやってのけておる! どういうことか、わかるか!?」
「うむ……面白い」
タインシュタ・フランが、やっと興味を持ったようだ。
沢山ある書棚の中から、一際分厚い本を取り出してくる。
「最古の秘術に、似たような技がある。勇者たる資質を持つ者が、効率よく転生を重ねることで、いち早く最強の天運を持って生まれ変わることができる、というものだ」
「?」
「勇者として産まれるには、膨大な時をかけて転生を繰り返し、自然発生的に出現するのを待たねばならぬ。そうだな?」
「ああ、そうじゃ。勇者となる魂は天が選ぶ。天の選定を受ける魂となるには、幾度もの生を生き抜いて、魂を鍛えなければならん」
「だが、この秘術を用いれば、擬似的な転生を同時進行で行えるのだ」
「擬似的な転生? 同時進行?」
「そう。魂を細かく分け、他の肉体と魂を乗っ取る。宿主が倒されるたび、それは転生と同じ効果を得られるというわけだ」
「!!」
「つまり、幾星霜の年月を重ねてようやく誕生する勇者と、ごく短期間で同じ強さを持てることになる」
「そ、それが狙い? だから魔王は、魂の欠片を魔族に宿しておるのか?」
「おそらくな。倒されるたびに、魂はどこかに集まっていき、やがて勇者…‥即ち歴代の英雄並みの力を得た魔王として誕生するだろう」
「英雄の力を持つ魔王───」
「そのために、勇者ネプォンとやらに倒されてやったのだ、魔王は。勇者を利用して、生まれ変わるために」
床がカッと光って、大きな転送の魔法陣が足元に広がる。
「わ!」
「きゃ!」
「どわ!」
みんなが思い思いの声をあげる間に、俺たちは見知らぬ場所へと転送されていた。
ここは……?
「大丈夫。皆様、ようこそおいでくださいました」
目の前に、ローブを羽織った綺麗な女性が立っていて、俺たちを見ていた。
「私はタインシュタ・フランの助手、『リリー』です。この度は、暴走したオメガゴーレムを止めてくださって、本当にありがとうございます」
と、彼女は言う。
助手? あの人、助手なんていたのか。
「オメガゴーレムは、破壊してしまいました。無傷で回収はできなかったのです」
と、ケルヴィン殿下が、彼女に説明した。
あれを無傷で?
無茶苦茶だ。
タインシュタ・フランは、そんな回収を依頼していたのか。
「いえ、無理もありません。先生の要望自体が、非現実的なのです。秘術を詰め込んだ結果、異常な魔法耐性と肉体の強度を持ってしまった。おまけに自分で制御できなかったのですから」
リリーは、悲しそうな顔をして俺たちの後ろを見る。
彼女の視線の先には、壊れたオメガゴーレムが横たわっていた。
一緒に転送される仕組みだったのか。
「石化した冒険者は、他にもいました。既に砕かれていて、元に戻すことはできません。助かったのはボクらだけです」
聖騎士ギルバートが、リリーに報告している。
そうなんだよな、犠牲者が沢山出てしまった。
「ええ、申し訳ないことをしました」
リリーが俯いていると、部屋の向こうから、タインシュタ・フランが現れた。
「秘術の知識は、ただでは教えられんのだ。彼等には、ちゃんと警告はした。それでも行くと言った以上、自己責任だ」
そう言って、彼はみんなを見回す。
冷たい言い方だ。
それが事実でも、俺はこの言い方が好きじゃない。
この人が、安全な場所から偉そうに言うせいだろう。
自分が痛いわけじゃないから、平気で口に出せるんだろうな。
タインシュタ・フランは片眉を上げて俺を見据える。
「やはりお前の力か」
「……」
「これで、力を宿すのは弓ではなく、お前だということがはっきりした」
「……」
タインシュタ・フランの質問は止まらない。
目がギラギラして、探究心が剥き出しになっているようだ。
「お前の力は、どこからきているのだ?」
「そんなことより、ケルヴィン殿下の質問に答えてください。オメガゴーレムはこうして、持ってきたのですから」
「無傷で、という条件が果たせていない」
俺はタインシュタ・フランの言い方にムッとして、言い返そうとすると、リリーが割って入ってきた。
「先生! 無傷の回収は無理だと、わかっていたことではありませんか!」
「黙ってろ! 助手が口を出すことか!」
「いいえ! これまで、誰も……先生ご自身ですら太刀打ちできなかったオメガゴーレムを止められただけでも、すごいことです! 彼等の質問にお答えください!」
「リリー!!」
「これ以上ヘソを曲げるなら、母さんだけじゃなく、私も出て行ってやるんだから!!」
「な……!」
な、なんだこりゃ、親子喧嘩?
二人は親子なのか?
俺たちは目を白黒させて、成り行きを見守るしかできない。
「えぇいくそ! オメガゴーレムは、私の研究の集大成だったのだ! それをこんなにして……! 暴走さえしなかったら……」
タインシュタ・フランの言葉を聞いて、ケルヴィン殿下は片手を上げる。
「それなんだが、俺たちが聞きたいことと、暴走の原因は無関係じゃないかもしれないんです」
「え?」
タインシュタ・フランとリリーは、驚いたようにケルヴィン殿下を見た。
フィオも進み出て、魔王ダーデュラの魂のことを告げる。
「魂の欠片が宿っていた……と?」
タインシュタ・フランは険しい顔になった。
「ま、魔王は勇者ネプォンのパーティーが、倒したはずです。だからこそ、彼は隣国ガルズンアース国の、国王になったのでは?」
リリーは、戸惑ったような表情で俺たちを見る。
「ネプォンて、誰だ?」
タインシュタ・フランはリリーに確認している。勇者ネプォンを知らない人なんて、初めて見た。
「すみません、先生……いえ、父は研究以外のことに疎いんです」
リリーは、簡単に勇者ネプォンのことを説明してあげたけど、タインシュタ・フランは興味なさそうだった。
そんな中、魔導士ティトが痺れを切らしてタインシュタ・フランの前に進み出る。
「ワシらは急いでおる。魔王ダーデュラは倒されても、魂の欠片を魔族の誰かに宿し、そいつが倒されるたびに逃げ去ってしまう。秘術に詳しいあんたなら、この状況を理解できると思ってな!」
「倒された後にか」
「そうじゃ。あの大魔導士イルハートの目の前で、肉体から離れた魂を分割させる秘術をやってのけておる! どういうことか、わかるか!?」
「うむ……面白い」
タインシュタ・フランが、やっと興味を持ったようだ。
沢山ある書棚の中から、一際分厚い本を取り出してくる。
「最古の秘術に、似たような技がある。勇者たる資質を持つ者が、効率よく転生を重ねることで、いち早く最強の天運を持って生まれ変わることができる、というものだ」
「?」
「勇者として産まれるには、膨大な時をかけて転生を繰り返し、自然発生的に出現するのを待たねばならぬ。そうだな?」
「ああ、そうじゃ。勇者となる魂は天が選ぶ。天の選定を受ける魂となるには、幾度もの生を生き抜いて、魂を鍛えなければならん」
「だが、この秘術を用いれば、擬似的な転生を同時進行で行えるのだ」
「擬似的な転生? 同時進行?」
「そう。魂を細かく分け、他の肉体と魂を乗っ取る。宿主が倒されるたび、それは転生と同じ効果を得られるというわけだ」
「!!」
「つまり、幾星霜の年月を重ねてようやく誕生する勇者と、ごく短期間で同じ強さを持てることになる」
「そ、それが狙い? だから魔王は、魂の欠片を魔族に宿しておるのか?」
「おそらくな。倒されるたびに、魂はどこかに集まっていき、やがて勇者…‥即ち歴代の英雄並みの力を得た魔王として誕生するだろう」
「英雄の力を持つ魔王───」
「そのために、勇者ネプォンとやらに倒されてやったのだ、魔王は。勇者を利用して、生まれ変わるために」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる