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二章

館への潜入

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気絶した暗黒騎士ヴォルディバは、彼の部下たちに保護されて、宿屋へと連れて行かれた。

彼は部下から『将軍』と呼ばれていた。
そんな身分になったのか。

こいつも出世したんだな。
まあいい。

俺は、さっき忠告してくれた男を見つけて、声をかける。

「すみません、オメガゴーレムの住む館の方向は、こちらですか!?」

俺が言うと、男はゆっくり振り向いた。

「……なぜ?」

「あの、仲間……い、いや知り合いが、助けを求めて来たのです!!」

「ほう」

「メンバーが次々と石化したらしくて、最後の一人が奮戦してみんなを守っているそうなのです。お願いです、場所を教えてください!」

「いいだろう。その代わり」

彼は俺の弓を指差した。
なんだ?

「それをよこせ」

「!!」

「その弓をくれるなら、教えてやる」

「ガー! イジワル! イジワルジジイ!!」

オウムのフェイルノが、男性に向かって叫ぶ。

俺は慌てて、フェイルノの嘴を指先で押さえた。

「よせ! フェイルノ!!」

「ふふふ、面白いオウムだ。この『タインシュタ・フラン』様を捕まえて、イジワルジジイとな」

「え! あなたが?」

まさか、ここで本人に会うなんて!!

俺が驚いていると、タインシュタ・フランは、ニヤリと笑った。

「大きな力の接近を感じて、港に来てみたらお前が来た。古代から続く偉大な力だ。お前自身のものか、その弓が力を宿しているのか、よくわからんでな」

「……」

「武器屋はこの街にもある。弓は新しいものを買うといい」

「いいでしょう。どうぞ」

俺は弓を渡した。なんの変哲もない『木の弓』だ。冒険者の初期装備だし。

今は何より時間が惜しい。

タインシュタ・フランは、満足そうに受け取って、オメガゴーレムの館の場所を教えてくれた。

「この道を真っ直ぐ行くといい。武器屋はほれ、すぐそこだ」

「ありがとうございま……」

俺がお辞儀をして顔を上げた時に、彼の姿はもうなかった。俺は武器屋に入り、新たな弓矢をすぐに購入する。

『ミスリルの弓』か。

俺の場合、弓そのものの攻撃力は意味をなさない。けれど、悪霊の装備破壊スキルは要注意だ。

予備にもう一つ購入して、隣のカウンターで防具も見る。

そうだ。
店員に、情報収集も兼ねて、質問してみよう。

「ここでは、走ってはいけないんですよね」

俺が言うと、防具屋の店員が頷いた。

「そうだ。死にたくなければ」

「オメガゴーレムの館まで、急いで行きたいのにな……」

「あー、あの冒険者さんたちの知り合い?」

「!? ご存知ですか?」

「防具の力で悪霊を防げないかとか、しつこく聞かれたから覚えてる。そんなに簡単なら、みんな走れていますよ」

……相当難しいのだな。
俺の力は、ソウルイーターをも抑え込めた。

けれど、さっきの悪霊が一体とは限らない。
後から、次々と湧いて出て来たら厄介だ。

「あと、石化を解く『解呪の針』はありますか?」

「オメガゴーレムに石化されたのかい? ありゃりゃ、だからよせと言ったのに」

オメガゴーレムは、石化の魔法をかけてくるのか。

「彼らも購入して行ったのでしょう?」

「あぁ、持てるだけ持って行ったよ。けどな、オメガゴーレムだけに気を取られてると、悪霊が来るからな」

「!!」

「オメガゴーレムの石化を解く間に、悪霊の攻撃をさばかないといけない」

「走らなければ来ないんでしょ?」

「……走ることになるのさ。あの館に入ってしまえば」

「!?」

「あんたも、『ミイラ取りがミイラになる』ことになるぞ。ましてや、ソロで行く気だろ」

「はい」

「たく、タインシュタ・フランの尻拭いさせられる冒険者が気の毒だ」

尻拭いだ?
どういうことなんだろう。

「というと?」

「古代秘術で奴が作り上げたのが、オメガゴーレムなんだが、結局制御できずに放り出したんだよ、あの館に」

「!!」

「あの館に閉じ込めるのが精一杯。そのくせ、オメガゴーレムを回収したくてたまらないから、何も知らない冒険者にこうやって頼むのさ」

「彼が生みの親……」

「生み出したものに責任をとる、というこの街の鉄則を、あいつは堂々と破る鼻つまみもんなんだよ」

「そうですか……」

「とにかく、走るな。人間は決して」

「!? 『人間』は?」

「不思議と動物が走っても、悪霊は出てこないんだよ。あ、半人半馬は人間にカウントされるからな。あの聖騎士のお兄さん、馬に化けてたけど、悪霊はだませない、って」

聖騎士ギルバートが、馬に化けてた?
想像つかないな。

と、とにかく!!

「馬を貸してくれませんか!?」

「いいけど、館の中には連れていけないぞ? 怯えていうことを聞かなくなる」

「かまいません!!」

「イソグ、イソグ!! ガー!!」

俺とフェイルノの剣幕に押されて、防具屋の店員が馬を貸してくれた。

俺は馬に飛び乗ると、崖の淵に建つ館を目指す。

みんな! フィオ!! 生きていてくれ!!

館の前に来ると、馬が怯えて前に進まなくなった。

「よしよし、ここでいい、ありがとうな」

俺は馬を降りて、館の扉を開いた。

大きな館だ、誰もいない。
シーンとして、あちこちに蜘蛛の巣がかかり、調度品は埃をかぶっている。

だが……。

床を見ると、埃があまり落ちてない。
天井と壁も、シミがついているけど何かおかしい。
足元の床を叩くと、場所によって音が違う。

仕掛けだらけの証拠だ。

よく見ると、強い摩擦の痕がある。
壁一面に、何かが動くようだ。

ここはオメガゴーレムが住むと同時に、トラップが張り巡らされてる。
奴を外に出さないために。

冒険者が走ることになる、ということは、鉄球が何かが、転がってくるのかもしれない。

皮肉にも、ネプォンの野郎に散々スカウトをやらされてきた経験が、こんなところで役に立つとは。

「ガー、キケン、キケン」

フェイルノが、俺を見ながら喋る。

「わかってる。でも、行かないとフィオたちを助けられない」

ピアノ線のように、切れたら張り直しをしないといけないものは、出入りできない場所にはないと考えていいだろう。

古代秘術で作ったゴーレムに、秘術で対抗しようとしても、全てに施すことはできないはずだ。

つまり……アナログで強力な罠がある。

俺は床板を慎重に見極めた。
重さがかかったり、光を塞いだり、振動を与えたり。

そういったものが、発動の条件になるだろう。

「ドウスルノ?」

オウムのフェイルノが、心配そうに聞いてくる。

俺は自分の考えを話した。

「おそらく、一つ罠が発動したら、連動して他の罠も起動すると思う。全部をかわす余裕も時間もないから、発動させてしまおう」

「エ!?」

オウムのフェイルノは、首を傾げる。

まあ、みてろ、て!

俺は一旦館の外に出て、その辺に落ちている大小の小石を掴むと、扉の隙間から中に投げ入れた。

バラバラバラー!!

バン!! と、扉が閉まり、ゴトン!! と大きくて思い音がする。

槍が刺さる音、床が開く音、そして、スズーン!! と、岩のようなものが壁に当たる音。

扉の下からは、毒ガスのような煙もはみ出してきた。

「すげぇ。これでもかというくらいの、仕掛けが作動してる。これくらいしないと、ここから出ようとするオメガゴーレムを止められないのかもな」

ふー、入らなくてよかったぜ。

俺は扉の外で、音が静まるのを聞いていた。

「ガー! ゼンブ? オワリ?」

「待て」

シーンと静まり返った館を前にして、フェイルノが声をかけてくるけど、もうひと押し。

バリバリ!!

中で、雷鳴のようなものが大きく鳴り響いた。

トドメの雷撃だ。

もう終わったと油断した後にくる、トラップあるあるだな。

俺は近くの窓を叩き割った。

中を覗くと、思った通り、発動した仕掛けが戻っていく最中だ。

次に備えて、自動的に戻る仕組み。
この時間が一番安全。

抜けた床も確認しておけば、そこを踏まずにすむ。

フィオたちの姿が見えないから、ここはなんとかやりすごしたのだろう。

続いてカッと床が光り、大きな魔法陣が現れている。

「これは、ここまで来たオメガゴーレムを、元の場所に戻す魔法陣だと思う」

「ガー! ソウダ、ソウダ! フィオタチノトコロ、イケル!」

俺は毒の煙が引くのを見極めてから、中に入って魔法陣に乗る。

今、行くからな!! みんな!!

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