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〜ウドレッダ姫の受難〜

※ウドレッダ視点 美しくなるのは、私よ?

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「いらっしゃいませザマス」

来店の時間が来た。

マザージモミが、店の入り口でおさとクローディアを迎えている。

あいつ、どんなふうに変わったんだろ。

こっそり覗いてみることした。

───ん?

頭に一本角が生えてるけど、他にはとくに変化ないじゃない。

髪の色も、肌の色も、目の色も変わらない。
羽もないじゃない。
なーんだ。

異形転生なんて、大袈裟な。

角が生えただけの、いつものクローディア。

着ている衣装と装飾品が、豪華になった感じね。ふん、埃だらけで私に命令されるがまま、働いていた分際で。

そんな綺麗な服を、着る資格なんかない。
おさに気に入られただけの、愚かな女。

おさに嫌われたら、なーんにもできないくせに。

さっさと私に、その座を譲りなさい。

そう思って見ていると、おさと仲良く店内に入ってきた。

もちろん、クローディアと私は、視線がカチリと合う。

「ウドレッダ姫」

「ごきげんよう、クローディア……様」

く、様をつけるのも忌々しい。
でも、今は我慢。

「ウドレッダ姫、ごきげんよう。毎日忙しいと聞いてる」

「ええ! でも、こんな素敵な衣装に囲まれて生活できるんですもの。働きがいがある、てものよ」

うー、心にもないことを言うのは辛いわ。衣装を準備する側ではなく、選ぶ側になりたいのに。

そうそう、聞いておかないと。

「異形転生したと聞いたわ。鬼になったのね。クローディア様」

「ええ」

「見た目の変化は、そんなにないわね」

「ええ、力を使う時以外は、前のままの姿になれるようにしているの」

「だから、羽も見えないのね」

「ええ。でもね、このマザージモミが作ってくれる衣装のおかげで、羽を出し入れしやすくなったの。それがなかったら、背中の辺りが毎回破れて大変だったから」

「背中が、破れ……ねぇ」

あんたのために、全部破れるようにしといたわよ。クスクス。

「これ! ウドレッダ」

「はい、マザージモミ」

「敬語で喋るザマス!!」

「あ、失礼。ようこそ、おさ

私はクローディアの横を抜けて、おさの前に立った。

今日も素敵……私の大切な推し。
その目が私を見てくれるだけで、舞い上がりそうになる。

「おう、なんとかやってるみたいだな」

「ええ。おさの先見の名には驚きますわ。私に天職をくださったのだもの。新作のモデルも、任されたりしますのよ?」

「満足してる、てか? いちいち、マザージモミに逆らうと聞いてるぜ。しかも気分で」

!!
何、バラしてんのよ、千目鬼のマザージモミのやつ!!

私はチラリとマザージモミを見た。
彼女は、涼しげな顔で見返してくる。

頭にきちゃう。
でも、顔に出してはダメ。

推しの目の前で、悪女の顔は見せられない。

たおやかに、控えめに、少しでも美しく見えるように。

「まだ、慣れていないもので、私も未熟ですわ。今後は、精進します」

「今、やるんだぜ?」

「ええ、もちろん」

あなたのためなら、やれるわ。私は、さりげなく彼の腕に触れる。

おさは、ご注文はありませんの?」

「ないね。今日はクローディアの分だけだ」

「そうですの。採寸が必要なら、おっしゃってくださいね。あちらの部屋で、二人っきりで測れますわ……」

彼の腕に体を押し付けて、それとなく上目遣い。ふふ、クローディアより、胸があるんだから。私の方がいいわよ?

おさは一瞬腕を引こうとしたけど、その場を動かない。

クスクス、彼も男よね。

クローディアの顔はどうかしら。
不安? 悔しがってる?

チラッと彼女を見ると、マザージモミと話し込んでいて、全然見ていない。

……ムカつくわ。

ま、いいわよ。この間に、落としてやるんだから。

そう思って、おさの顔を見上げると、眉根を寄せてクローディアを見ていた。

は? あなたも私を見ていないの?

ねぇ、こんなにくっついてるのよ?

さらに腕に密着しようとした時、おさはスッと離れてスタスタと歩いて行った。

え、えええ?

今までの貴族の男たちなら、みんな嬉しそうにデレて鼻の下を伸ばしたものよ?

鬼は違うというの?

人間と交わりが持てるなら、そんなに変わらないはずなのに。

「クローディア」

おさは優しい声で彼女を呼ぶ。
何? そのセクシーな声。

そんな声が出るの?
え、私も呼ばれたい。

「何? シュラ」

普段より、少し高い声。あんたも、何よ。甘えてんじゃないわよ、クローディア。

イライラする私の前で、二人は仲良く寄り添ってマザージモミに向き合う。

おさは、クローディアの肩に手を置いて、マザージモミに話しかけた。

「今度の、百鬼夜行に着ていく衣装ができたんだよな?」

「ええ、そうザマスよ、おさ。丹精を込めて、仕立てました自信作ザマス。他の妖どもに、決してひけはとらせないザマス」

「シュラ、本当に私が行っていいの? 前はディアベル御前と、出席したと聞いたわ」

「いいんだよ。鬼の一族以外にも、クローディアを紹介しておくんだ。母様はもう、引退なんだよ」

「そうザマスよ、クローディア様。これからは、クローディア様が新しい御前として、おさの隣に立つんザマス」

「緊張するわ……」

さ、三人とも……私をガン無視!?

まるで、私がここにいないみたいじゃない。
悔しい!!

私も鬼になろうかしら。
おさに頼んで、彼の腕の中で生まれ変わるの。

きゃー! 最高。

妄想の中でニヤニヤしている間に、クローディアはマザージモミと試着室へと入っていった。

ふふふ、いよいよね。

私は試着室の外で待つ、おさに接近する。
もうすぐ、あなたは私のもの。

そう思いながら。

おさ

「んー?」

「私も鬼になりたいですわ」

「へー。よく、考えた上か?」

「もちろん」

「どんな鬼になるかは、わからないからな」

「美しい鬼に、なりたいですわ」

「それは保証できないぜ。本当に誰にもわからないから」

「例えば、おさと交わっても?」

「関係ない。相手が誰だろうと、本当にランダムだ」

「私は、おさに……」

「忠告しておく」

「え」

「関係を持つなら、本当にお前を大切にできる鬼としろ」

「あら、私を心配してくださるの? 嬉しい」

「鬼にとって、人の体は脆い。余程大切に思えないと、加減なしにお前に触れて、血の海になるだろう」

「!!」

「俺だって初夜は相当、忍耐を強いられた。それでも、クローディアを壊したくない想いが、彼女を守ったんだ」

淡々と言う様子が、余計に怖い。

簡単に考えていたわ……。

「それから、マザージモミの許可を得ずに、敷地の外にも出るなよ」

「え」

「俺が、適当にお前ら親子を任せたと思うな。“人間”を理解し、多少の血にも動じないのは、上級の鬼たちだけだ」

「え、でも、クローディアは、自由に行動していたでしょ」

「彼女の体は、最初、血を流せないものだっただろ」

「あ……」

「それに、あの時は彼女も、俺が許可したところにしか、出入りしていなかった」

「そう……でした」

「人の血肉に狂えば、鬼は悪鬼と化す。ただ、人を襲う化け物に堕ちてしまうんだ。あんたらのせいで、仲間を悪鬼に堕としたくはないからな」

おさの声が冷たい……なんだか怖いわ。でも、その顔も素敵なのよね。

やっぱり手に入れたいわ。この鬼を。




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