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試練

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バキバキバキ!! ズゥゥゥゥン!

激しい落雷の音に、ウドレッダ姫と後ろにいた従者たちは、耳を塞いでしゃがみ込む。

私も思わず肩をすくめた。

そんな私の目の前に、二匹の小鬼が風に乗って降りてくる。

「いタ!! クローディア様」

「いタぁ。探してましタ」

私は心底ホッとして、二匹を笑顔で迎える。やっぱりこの子たちだった。

「ゼカ、ライ」

「はイ」

「はーイ」

「シュラは?」

「クローディア様が消えテ、しばらく動かなかった。でも、ライがちゃんとクローディア様のメッセージを伝えましタ」

「よかった! それじゃ、まだ鬼の世界にいるのね?」

「いえ、あノ……」

「?」

「宝珠を返したい、と人間の王様に呼ばれましタ。ソラメカ様と城にいらっしゃってまス」

「!!」

なぜ? ちゃんと罠だと、ライに伝えさせたのに。

「私たちは、クローディア様を守れと、命じられましタ」

ゼカが、得意そうに胸を張る。私の生存をわかっているということは、メッセージを理解したということ。

それなのに、城に来るなんて。
何かあるのね。

「城に行くわよ!」

「えー」

「お願い、連れて行って」

「わ、わかりましタ」

二匹と手を繋ぐと、私の体も風に乗ってふわりと浮き上がる。

テス王のそばにいる、モノケロガヤはシャーマン。

多分、鬼の調伏もできる。

シュラ、無茶しないで。
どうか、無事でいて。

「あ、クローディア! みんな、撃ち落とすのよ!!」

飛び去る私に気づいて、ウドレッダ姫が大声をあげる。

従者たちが、弓矢を放ってきた。

「ビュー」

ゼカが、突風を吹かせて飛んでくる矢を弾き飛ばす。

「ゴロゴロ!!」

ライが指をさすと、そこに落雷が起きた。
みんな驚いて逃げ回る。

「きゃー! きゃ!」

「ウドレッダ様!!」

ウドレッダ姫が落雷に驚いて、斜面を転がり落ちそうになり、近くの従者にしがみついた。

「は、離してください! 落ちてしまいますーっ!!」

「お黙り!! たとえ死んでも、私を助けるのがお前の責務でしょう!!」

「そんな無茶な……」

「あ! きゃあ!! 早く……早く!!」

泥だらけになりながら、ウドレッダ姫は必死に這い上がっている。

私は彼女を見下ろしながら、ゼカとライと一緒に城を目指した。

空からだから、警備の目も誤魔化せる。

私は、城の一番高い塔に降ろしてもらった。

「私たちは、中には入れませン」
「結界があって、力の強い鬼以外は弾き出されてしまうのでス」

「わかった。大丈夫。城の隅から隅まで掃除していたから、中には詳しいの」

「外でお待ちしまス」

「若様を、ソラメカ様もよろしくお願いしまス」

「ええ」

私は身を低くしながら、塔を降りていった。

うまく兵站用の倉庫に入り込み、甲冑を身に纏う。兵士になれば、顔は分かりにくいし、怪しまれないし。

ただ、喋らないこと。
女だってバレちゃう。

廊下を歩いていると、給仕係の侍女たちが、お料理やお酒を運んでいる場にでくわす。

あれは来賓用の食器。
シュラがいる。

急がないと。

私が小走りに走り出すと、奥の部屋から悲鳴があがった。

「きゃ!!」
「きゃあー!!」

「騒ぐな! 踊り子達を下がらせよ!!」

テス王の声。何があったの!?
まさか、シュラに危険が!?

兵士に押し出されるように、踊り子達が飛び出してくる。

ちょうどいいわ、扉が閉まる前に紛れ込もう。

私は、兵士に変装したまま、奥の部屋に入った。

あ!!

酒席が設けられた部屋で、シュラとソラメカが机に突っ伏すようにして倒れている。

そんな……そんな。

テス王は笑いながらシュラに近づき、彼の懐から鬼神棒を抜き取った。

「おおお、これが鬼神棒か!! なんと美しい」

彼は興奮して、よろめきながら鬼神棒を振り上げる。

それを見ていたモノケロガヤが、拝みながらテス王に話しかけた。

「その通りです。万物を己の意のままに動かせる、奇跡の神器。もはや無敵でございます」

「うむうむ。どこから攻めるか。隣国か? 遠方の国々か。いや、まずは邪魔な鬼どもを駆除するか!」

「思いのままに、王」

「鬼門を開け! モノケロガヤ。あの美しい鬼の世界をもぎ取り、鬼どもを蹂躙してやる!!」

「は! 王よ、その前にお試しになられては?」

「ふふふ、確かに。ではまず、この鬼のおさから血祭りにあげてやるわ!!」

「やめてぇ!!」

私は周りの兵士を押し退けて、テス王の腕にしがみつくと、鬼神棒を取り上げようとした。

「む! なんだ、貴様あ!!」

「やめて! おじ様!!」

「クローディアか? しぶとい女だ!!」

「きゃあ!!」

私は腕を振り払われて、床に倒れ込んだ。
ろくに体を鍛えてなさそうなのに、まともに組み合うと、やっぱりかなわない。

私はシュラの背中にかぶさるようにして庇うと、テス王を見上げた。

「酷いことしないで!」

「ふ、お前もその鬼に心奪われたか。嘆かわしい。お前は最早、王家の恥晒はじさらしだ。いや、王族ですらない、卑しい平民だ!!」

「平民で構わない! もう何年も、私は姫ではなかった。それに、この鬼たちは、あなたより数倍も誇り高くて素晴らしい種族なのよ!」

「なんだとぉ?」

「あなたは、この種族の子供達の足元にも及ばない人間よ。宝珠を借りた恩も、仇で返すような罪人だわ!!」

「お前の方こそ、命を永らえさせた恩人に、逆らっているではないか!」

「私を助けたのは、ウドレッダ姫が私を使いたかったからよ! 彼女におもちゃをねだるように言われていたこと、知っているのよ!!」

「くそ……小賢しい娘が! おい! こいつの着ている甲冑を剥ぎ取れ!!」

「は!」

兵士たちが群がってきて、よってたかって、甲冑が引き剥がされた。

「く!!」

それでも、すぐにシュラの背中に被さって彼を庇う。諦めるものですか!

「ふん、生意気な小娘が。私はお前を、この兵士どもに、くれてやることもできるんだぞ?」

「!!」

「誰に逆らったか、それで思い出せるかもな」

「……ケダモノ!!」

「ケダモノね。鬼に見染められ、身を許すお前も同類だろうが。この淫売が」

「へへ」
「くくく」

周りを囲む兵士たちの、含み笑いが聞こえる。
気持ち悪い。

好きでもない異性の好色の目線は、生理的嫌悪感しか感じない。

テス王が顎をしゃくると、兵士の一人が、後ろから私の襟を掴んでシャツを破いた。

ビリ!!

「きゃあー!!」

思わず叫んで、シュラに強くしがみつく。
シャツは肩から背中にかけて、大きく裂けていた。

「ふん、日に焼けて、王族とは思えぬ肌だな。だが、『女』としては成熟している。可愛がってもらうがいい」

テス王の無慈悲な声を合図に、兵士たちの手が迫ってくる。

やだ……嫌だ!!

「シュラ!!」

思わず叫んだその時だ。

「───グルルル」

低い、とても低い唸り声がした。
そのあまりの恐ろしい声に、私に迫る兵士たちが、思わず後ろに下がる。

シュラ?
目の前のシュラは、机に伏せたままピクリとも動かない。

唸り声もすぐに止んで、モノケロガヤが試しに触れても反応がなかった。

「ふん、まったく驚かせよって!」

テス王が、腹立たしそうに近づいてくる。おもむろに私の肩を掴んで、シュラから引き剥がそうとしてきた。

「いや!!」

「うるさい! さっさと兵士たちの餌食になれ!」

体が浮き上がり、重心が後ろに傾きそうになる。必死にシュラの体に爪を立てて、私は叫んだ。

「この、人でなし!! いいえ、人ですらないわ!」

「ふはは! 鬼とでも言いたいのか? いいだろう。目の前で、この鬼のおさが砕け散るのを見るがいい!!」

「……!」

私は、渾身の力でテス王の手を振り払うと、シュラにしがみついて目を閉じた。
ごめんなさい、ごめんなさい!!

せめて、一緒に……!

「───ぐ?」

その時、テス王がうめき声をあげた。

え?


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