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告白と別れ

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「シュラの角から作った指輪……」

今、シュラの頭には角が生えているから、わからなかった。

体が震えてきて、両手で自分を抱きしめる。
嬉しくて───ただ、嬉しくて。

私と過ごしたあの夜に、角がわったということは……。

愛してくれたんだよね? 私のことを。
勘違いじゃないよね?

シュラは私のそばにひざまずいて、視線を同じ高さにしてきた。

シュラ……シュラ……。
胸がドキドキする。

お願い、夢なら醒めないで。

私は一言も聞き逃すまいと、全身が彼の一挙手一投足に集中する。

景色が消え、音が消え、世界が二人だけになったかのような空間の中で、シュラの声が響いた。

「これは誓いの指輪という。はめたものを、生涯愛し抜くという誓いを立てるものだ。これを、クローディア、君に贈りたい」

ああ……心臓が壊れそう。
唇が震えて、うまく動かないよ。

「わ……わ、私……に?」

「ああ」

「嬉しい……ありがとう……」

「───よかった。“仕方ないから我慢する”とか、言われるかと思ったぜ」

「もう!」

「へへ」

シュラは私の手を取って、指輪をはめてくる。

ぴったり。サイズも知ってるの?
あ、そういえば前に、赤い糸を指に巻き付けて抜き取ってたよね。

あれは、このためだったんじゃない?

可愛い。

そう思うと、肩の力が抜けて言葉がスルスルと出てくる。

「ふふ」

「ん?」

「ううん、可愛いな、て」

「可愛い? どこが?」

「指輪のサイズ、指に糸を巻いて測ったでしょ?」

「あ、ああ、バレちまった」

彼は照れながら、おもむろに自分の手を見せた。

「あ、同じ指輪……」

「そう。角は二本あるからな。こっちは右の角、こっちは左の角。クローディアは左だ。心臓がある側の角を相手に贈るものだから」

「心臓ね」

「それだけ大切な相手、てこと」

シュラは指輪をはめた私の手の甲に、そっと口付けた。

幸せ……好きな人に大切だと言われるほど、嬉しいことはないもの。

「クローディア」

「ん?」

「この指輪は、魂にはめる指輪とも言ってさ。見た目はこうして指にはまるんだけど、魂にしっかり同化するんだぜ?」

「魂に?」

「そう。もう、逃げられねぇからな。クローディアは、身も心も魂も、俺のものなの」

「強引ね」

「鬼だからな。これくらいしとかねーと、クローディアが他の野郎に取られるかもしれないし」

「そんなこと」

「あるだろう。そんなに可愛いんだから。恋人がいないのは救いだぜ」

「……みんな元姫の私とは、関わらないようにしていたから」

「───そうだったな」

「あ、そうか。私のことも、配下の鬼に調べさせたのよね? 顔は知らなくても、状況は知って……」

「ゴホン!」

突然、シュラが大きく咳払いをする。
よく見ると、彼は首まで赤くなっていた。
え……なに?

見ている私まで、恥ずかしくなってくる。

「シュラ?」

「お、俺は」

「ええ」

「俺はクローディアの肖像画を、持っているんだ」

「え!?」

いつ? お父様が廃嫡されてから、私の肖像画なんて、一つもないはずなのに。

「配下の鬼が、ある日偶然クローディアの肖像画を拾ってきやがった。侍女の格好で、掃除をする姿のものを」

掃除?

あ、そういえば、ウドレッダ姫の専属の絵師が、弟子の練習台にと、私を描かせたことがあった。

できた肖像画は、ウドレッダ姫の命令で捨てられたと聞いていたけど、シュラの手に渡っていたのね。

「すごく印象的な表情でさ。俺の部屋に飾って、よく眺めていた。いつか会えたらいいなと」

「私に?」

「今思えば、あの時から惚れてたかも。でも、俺も自分の気持ちがよく分かってなくてさ」

シュラは照れて頭を掻く。この鬼が最初から親切だったのは、私を知っていたからなのね。見ていてくれる誰かが……私にもいたんだ。

「シュラ……」

「クローディア、俺は」

「ええ」

「クローディアを、心から愛している。だから、本当に俺を愛してもらえるように、これから……」

「シュラ、私も」

「え?」

胸の中に、温かい気持ちが溢れて、はち切れそうになる。
その熱が出口を求めて、口が自然と言葉を紡がせた。

「私も愛してる」

言葉を聞いたシュラは、あの夜と同じ驚いたような顔をして、嬉しそうな笑顔になる。

「やっぱり、脈ありだったんだな」

「ええ。そうみたい」

「ははは」

「ふふふ」

自然と近づいて、二人で抱き締め合った。この鬼と離れたくない。お願いだから、このままもっと……!!

パキッ。

え……。

パキパキッ。

なんの音? あ!!

シュラも気づいて、私を見た。

「クローディア!?」

私の……私の手が、クリスタルの塊に変わっていく。まさか、もう魂が離れるの!?

手も足も、指先からクリスタルへと変わり、おまけにヒビが入って行く。

「いや……!! シュラ!!」

「くそ!! なぜだ!? なぜ、今……!!」

「シュラ、シュラ!!」

「クローディア、行くな!!」

「私……!」

「!?」

「体が……まだ……」

シュラが見えなくなっていく。体はまだ生きてるの!!

人間の世界に、私の体が保管されてる。
戻れたら……もう一度……あなたのそばに……。

「ライ……話を……聞い……」
「クローディア!? なんだ? よく聞こえない!」

シュラの声も、姿も消えていく。
暗闇と静寂───。

私は、死んだの?
いや……こんな終わり方は嫌!!

シュラに会いたい、彼のそばに行きたいのに。

愛する人と、手を取り合える幸せを、奪われるなんて。

いいえ、違う。
奪わせてはいけない。

こんな目に遭わせた人達の、思い通りになんて、なるものですか!!

受け身ではなく、自分から勝ち取りに。今という状況に、打ち勝ちたい!!

ヒュオォォォ。

風の音が聞こえ始める。
……!!

諦めちゃいけない。
戻らないと……体に戻らないと!!

ビュオォォォ!!

さっきよりも激しい風の音。体に触れる草木の感触と、土の匂い。

そして、見えてくる光。

私……生きる!!

目をぱちっと開けると、外の景色が飛び込んできた。

ここはどこ? ───あ!!

体の左半分が、何も触れてない。まさか……これは!!

「やっだぁ。目を覚ましちゃったの?」

聞き覚えのある声。
ウドレッダ姫だ!!

体を捻って起き上がると、カラカラと小石が崖下に落ちていく光景が見えた。

崖の下に落とそうとしたのね。

私がウドレッダ姫の声がした方を睨みつけると、土手の上から見下ろしてきた。

「なんで落ちないの?」

「……」

「なんで生き返るの? なんで思い通りに、いなくなってくれないの?」

「……」

「消えなさい。あんた、鬼の世界で、いい思いばっかりして。見たわよ、あの超絶美形の鬼のおさ

「!!」

テス王とモノケロガヤは、私の体を媒介して宝珠に鬼の世界の景色を映し出させていた。

ウドレッダ姫も見ていたのね。
彼女は、勝ち誇ったように顎を上げて宣言した。

「彼は、私がもらう」

「は?」

「私がもらってあげるから、邪魔者は消えて」

これが彼女の本音よね。
分かっていた。
でも、シュラまで欲しがるなんて。

頭に来て拳を握ると、硬い指輪の感触がする。

ハッとして手元を見ると、私の手にシュラの指輪が光っていた。

誓いの指輪。
魂に同化すると、彼は言っていたもの。

一緒についてきたんだ。

私は指輪をした方の手を、もう片方の手で包み込むようにして、胸に抱いた。

シュラ、あなたは誰にも渡さない。
意を決して、ウドレッダ姫を見上げる。

「嫌よ」

「何? その口の聞き方」

「ウドレッダ姫、私はあなたの思い通りになんかならない」

彼女は、顔を赤くしながら目を吊り上げていく。滅多に人に逆らわれたことないものね。

「ダメよ! いなくなりなさい!!」

「嫌!」

「家族がどうなってもいいの?」

また、この言葉。
私を黙らせる殺し文句。
自分は反撃をうけないとでも?

「家族に手を出したら、あんたもただでは済まさないわよ、ウドレッダ姫」

「え?」

私の脅しに、彼女の目が揺れる。

その間に、私は状況を確認した。この辺りは、崖へと続く山の斜面の途中。

這い上がろうにも、途中で落とされる可能性が高い。

でも、このままここにいるわけにもいかない。

こうしている間に、シュラが誘き寄せられて、鬼神棒を奪われてしまうかも。

そんなこと、させない。
どうしたら……。

ヒュオォォォ。
また、風の音。

ゴロゴロ。
雷の音。

次第に、雷雲が近づいていくる。

風……雷……。
もしかして、あの子達が私を探している?

「ゼカ、ライ」

空を見上げて、私は二匹の小鬼の名を呼ぶ。

「私はここよ!! ゼカ! ライ!!」

そんな私を見ていたウドレッダ姫が、大声で笑い出した。

「あははは! なーに、あんた。ついに頭がおかしくなったのね」

「……いいえ」

「なんですって?」

ピシ!!
稲妻が強烈な光を放つ。

───来た。
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