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番外編

※ランヴァルト視点 追尾

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バタバタ!

そこへ、奴の召使いたちがギルドに踏み込んでくる。1人担架に乗せられていて、ピクリとも動かない。

「フハン!?お前たち何をしている!」

「旦那様・・・!もう、あなたにはついていけません!私たちを置き去りにして、逃げるおつもりでしょ!?」

執事のような人が、イバリンに食ってかかる。

「フハン、バカを言え。見ろ、こうして手配書を出しにきたのだ。」

「いいえ、旦那様は馬車に金庫を積ませた。命より大事だとおっしゃっていた金庫を持ち出すのは、もう、戻らないからでは!?」

「フハン、使用人風情が・・・!」

「瀕死のジョナサンも、医者に診せる金が惜しいとおっしゃった。10年もあなたに、真面目に仕えたのに・・・私たちは命懸けで彼を降ろして医者に診せましたが、もう助からないと・・・。」

そこまで聞いて、シルヴィアがすぐに駆け寄る。

「大丈夫・・・ジョナサン。」

シルヴィアがジョナサンの体に触れると、ジョナサンの傷が完治して目を覚ました。

彼女の治癒力は、それほど高い。

「おお!!」

彼の同僚が、嬉しそうに生還を喜んでいる。
執事はシルヴィアに深々と頭を下げて、イバリンに辞表を押し付けた。

「お世話になりました。」

「フハン!勝手にしろ!退職金は払わんぞ!!」

「ご心配なく。裏帳簿のお金を全ていただきました。」

「な・・・!」

「私どもの残業代や、未払いの給与分も賄ってもお釣りがあるほどの金額です。表に出せぬ金ゆえ、横領罪も難しいでしょう。」

「フハン!お、おま、お前いつの間に!?」

「汚い仕事をしてきたのは、私です。旦那様は指示を出すだけ。このお金がどうやって浮かせられたか、仕組みすらご理解してないでしょう。」

「フハン!?な、な、な!!」

「お父様の代からお仕えしてきましたが、もう十分義理は果たしました。使用人の命に無頓着な人にこれ以上仕えられません。」

「フハ・・・ちょ、ちょっと待て。な、なら、屋敷は今無人?」

「えぇ。もしかしたら、あの魔物がお迎えくださるやも。」

「フハ・・・ひ、ヒィイー!!」

イバリンは、あたり構わず自分を守れと訴えていた。

でも、誰も動かない。

死ぬリスクが高ければ、誰も引き受けない。

誰か1人でも生還しないと、報酬は受け取れない。金は生きてる時に使うものだからな。

「グフ、仕方ない。イバリン、よそへ行こう。」

キャロン元法王補佐官が、イバリンの背中を叩く。

「・・・フハン。え?」

「グフ、ギルドはここだけではない。大きな支部の一つではあるが、他の支部ならまだ望みが・・・。」

「フハ、妖婆相手だと吸血鬼抜きでの討伐は難しいですよ、叔父さん。」

「グフ、確か隣国に共闘の盟約に従った、新人の吸血鬼が来たと聞く。何もシルヴィアだけが、頼みの綱ではあるまい。」

どうだろうな。
シルヴィア以上の攻撃力を持つ吸血鬼はいない。

妖婆の攻撃をあそこまで防げるのも、彼女だけ。並の魔道士のシールドでは、あの溶解液と毒の霧の合わせ技を防げないだろう。

イバリンは、シルヴィアを恨めしそうに見ながら、ギルドのカウンターへと向かった。

「フハン、手配書は取り下げる。」

「それはおやめになった方が・・・。」

ギルドの事務長が、窓口に来て応対している。

「フハン、何故だ。」

「ボソボソ・・・あなたに国外へ行かれては困ります。」

「フハ、なんだ。飛び級させることができなくなるからか。」

「邪眼もない今、本部の調査が来た時に、どう言い逃れを?あなたには、責任を取ってもらわないと・・・。」

「フハン!?なんだと!散々俺のおかげでいい思いをしたくせに、恩を仇で返すのか?」

「我々は、ジェシカとあなたの間で、討伐情報を事前にやりとりしていた事実を立証できる。そうすれば、あなたを追うのは妖婆だけではなくなる。」

「!?フハン、そう来るか?お前らがギルドの成績上げのために、俺に協力していた事実を俺だって立証できるぞ。」

「!!」

「フハン、一蓮托生なのだ。事務長。わかったら大人しく・・・!?ギルドマスター?その金庫は・・・!?」

部屋の隅でゴソゴソしていたギルドマスターが、黒い大きな金庫を足下に置いている。

「あぁ、君たちの馬車が盗難に遭いかけたらしくてね、私が金庫だけなんとか取り返したんだよ。」

「フハ!か、返せ返せ!!」

「だが、これが本当に君たちのものかわからなくてね。渡すわけにはいかんな。」

「フハン!ふざけるな!」

「金庫の鍵を渡せ。金庫が開いたら渡してやろう。」

「グフ!馬鹿なことを言うな!泥棒!!」

「フハ、鍵を渡せば、中身を調査するとか言って中の金を取る気だろ!逃走資金にする気か!ギルドマスター!!」

「口を慎みたまえ!」

何してんだ、こいつら。

「ランヴァルト!!」

シルヴィアが叫んで、口元に触れながらギルドの入り口を見た。

敵か!?

その時、頸の毛が逆立った。
この圧力は!

その場にいるハンターたちも、何かを感じて身構える。

素早く振り向くと、ギルドの入り口に妖婆が来ていた。

街中にまで来やがったか!!

「ギャァァァー!!」

「ウボァァァァァァ!!」

イバリンとキャロン元法王補佐官が、大声で叫ぶ。

すぐにモーガンが妖婆に向かって飛んでいくと、妖婆は慌てて逃げていった。

ハンターたちも、ギルド関係者も、突然のことに驚いて怯えている。

「銭金の問題じゃねぇ!他を当たれ!!」

ハンターたちは、イバリンに向かって叫んだ。
イバリンは、腰を抜かしてキャロン元法王補佐官と抱き合って泣き始める。

「フハハーン、怖いよ!!」

「グフフフ!!誰か助けてぇ!!」

後ろを取られたのは、久しぶりだ。
やはり妖婆は、恐ろしい魔物の1人なのだ。

シルヴィアは、口の中の牙を確かめながら、戻ってきたモーガンを肩にとまらせる。

「あの、もう大丈夫・・・。」

シルヴィアは、そう声をかけたのに、2人は跳ね上がってギルドを這うように出ていった。

「フハハハン、フガ、フガ、フハンフガ・・・」

「グフフ、グ、グス、グス グス!!」

・・・2人は、そのまま暫くあちこち逃げ回ったそうだ。嘘のような本当の話だ。


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