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番外編

※ランヴァルト視点 未来

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「まーだ、この手配書、誰も受けてないのぉ?」

フェレミスが、ギルドの手配書が貼り付けられた掲示板の前で首を傾げている。

妖婆の討伐か。

これが貼り出されて、1週間になる。

破格の値段が書かれているが、誰も引き受けてない。広域手配もされてるようだが、よそのギルドも担い手がいないようだ

「邪眼を取り戻した妖婆は、余計危ない。おまけに肝心のイバリンが、法王府に逃げ込んだんだろ?」

俺が、フェレミスの隣で補足してやった。

そう、あれからイバリンたちは、夜も眠れなくなったそうだ。

あちこち泊り歩いていたけれど、妖婆の追跡は振り切れなかったとか。

むしろ、奴らの宿泊先の他の人間が、巻き添えを食って怪我をする始末。

怯えた彼は、キャロン元法王補佐官のコネを使って、法王府に保護を求めたらしい。

法王府に保護されるには、それなりの理由を説明しないといけない。

法王府の調査部が動いて、ギルド本部の調査と重なった。その結果、イバリンの悪事が次々と露呈したのだ。

邪眼に生気を抜かれたと言い張った、ギルドマスターと事務長だったが、本部に責任を問われて交代させられた。

意識不明で監禁されていた、ハンターのOBも保護されたらしい。

ジェシカは、聴取を受けて処分された後、ギルドを去ったと聞く。

彼女はシルヴィアへの嫉妬心から、協力していただけだったのだ。

イバリンが関わって、飛び級したハンターたちは再査定を受けた。

実力不足と判定を受けた者は、降格かそのランクのハンターのパーティーへの強制加入が義務付けになったとか。

シルヴィアへの、逆恨みもなかった。妖婆の討伐で、実際対峙することの難しさを痛感したらしく、皆納得したそうだ。

「イバリンにのせられて、シルヴィアを利用したハンターの報告もちゃーんとしたのにねぇ。ほとんど除名かと思ったけど、全員残留したね。」

フェレミスが、俺の方を見る。

まぁ、シルヴィアがイバリンに唆されていたことは、他のハンターには関係ないから、こうなるとは思っていたけどな。

「やることは、やった結果だ。どのみち、これから実力不足の連中は、現場で苦労することになる。魔物は事情なんて忖度しないからな。」

と、俺は言った。
せいぜい苦労すればいいと思ってる。

「それよりも、シルヴィアに余計なことを吹き込むなよ。」

俺はフェレミスに釘を刺す。

「先週のこと、まだ怒ってんの?」

フェレミスが、俺を流し目で見た。

「フェレミス、俺は彼女が叱れと言うから叱ったけど、そこまで怒ってなかったんだぞ。」

「ランヴァルト、彼女は誰かに、やってしまったことを注意されたかったんだ。周りが遠慮して言わないからさ。
昔、俺がそれで失敗したんだよ。」

「?」

「自分の最愛の女性に、『みんなが遠慮して言わないことでも、あなたは言ってほしい』と言われてさ。俺は彼女を責めたくなくて、言わなかった。」

「・・・。」

「でもさ、守ってたのは、彼女を傷つける悪者になりたくない俺自身だったのよ。彼女のためじゃなかった。後から気づいた時には遅かった。」

「そうか・・・。」

「シルヴィアは、お前に叱られることで、けじめをつけたかったんだと思う。きっと、心は軽くなったはずだ。」

「・・・そうか。ありがとうな、フェレミス。辛い体験から来たアドバイスだったんだな。」

「ん?辛い?」

「別れたんだろ?その女性と。」

「いや?後からちゃんと言ってあげたから、今も俺の恋人よ?いっちばん長く続いてる彼女だから、参考になると思って。」

「なんだと!?」

「わー!なんで怒るんだよ!」 

「あの話の流れからしたら、別れた話かと思うだろうが!」

「話をちゃんと聞かずに、結論出すそっちが悪いだろうが!!わからなかったら、聞けよ!」

「紛らわしい言い方しやがって!!」

俺たちがギャーギャー言い合っていると、ギルドの奥からシルヴィアが戻ってきた。

「お待たせ。」

彼女は肩にモーガンを乗せ、手にはハンターランク認定書を持っている。

シルヴィアが、改めて成績を査定してもらえたのだ。

吸血鬼の能力で達成した分が評価されるのかどうか・・・査定の人員が変わったし、あのおかしな規定も変わったから、問題ないはず。

だが、彼女はイバリンに加担してハンターたちに、成果を譲渡していた事実がある。

実力はSクラスでもおかしくはないが、どうかな・・・。

「ランク・・・Aか!」

認定書を見て、俺はほっと胸を撫で下ろす。
Sは無理でも、Aなら妥当だ。

いずれSにもなれるだろう。

フェレミスもシルヴィアを抱き上げて、クルクル回っていた。

「シルヴィア!おめでとうー!!」

「きゃ!ありがとう、フェレミス。」

「お祝いに、何か食べに行こうよ。」

「う、うん、あの。フェレミス、降ろして?」

「えへへへ、このまま行こうよぉ。」

フェレミスがニヤニヤして、シルヴィアを抱っこしたまま歩き出そうとする。

この野郎!!

「返せ!」

俺はフェレミスから、シルヴィアを奪い返した。

「あぁー!ランヴァルトのケチ!!」

「俺の恋人だ。」

「いいじゃん!俺、俺最近ハンナの相手ばかりさせられて・・・。疲労困憊なのよ。」

フェレミスが、俺の肩にもたれてくる。
そういや、ここんところ、フェレミスはハンナの家に連れ込まれていると聞いてたな。

「お前、ハンナに気に入られてるもんな。」

「毎日この胸で泣かせてあげてるのよぉ。でもさ、おかげで俺の彼女たちに会いに行けないのぉ。」

「それは、気の毒に。」

「シルヴィア、慰めて!今夜は俺を指名して!」

「ふざけんな!」

俺はシルヴィアを抱えて、外へ飛び出す。
フェレミスは後ろから追いかけてくると、俺の背中にしがみついた。

「意地悪しないでぇー、ランヴィー。」

「その名前で呼ぶな!ったく!」

「ふふふ。」

シルヴィアが、俺の肩に手を置いたまま笑っている。

素直な笑顔。
俺は、嬉しくなって彼女を降ろして抱き締めた。

「本当によかったな。」

「えぇ、ランヴァルト。あなたやみんなのおかげよ。ありがとう。」

それを聞いたフェレミスが、シルヴィアの後ろから俺ごと抱き締めてくる。

「よかった。いつものシルヴィアだ。」

「フェレミス・・・。」

「ランヴァルトの慰めが効くとは思ってたけど、心の傷は見えないからさ。」

「えぇ、大丈夫。ランヴァルトがね、とても大切にしてくれるから。」

「成長したよね、シルヴィア。」

「えぇ、みんなのおかげ。」

彼女を真ん中に挟んで、フェレミスと目が合う。

「大丈夫みたいだな。」

フェレミスが言うので、俺も答える。

「あぁ。彼女は強いよ。」

あれだけ利用されていたのに、なんとか乗り越えようとしている。

俺はこれからも、できることはなんでも協力したい。

シルヴィアは、俺の胸から顔を上げると、

「さ、今日の討伐に行きましょう。」

と、言った。
おいおい、休まなくていいのか?

「食事はいいのか?」

と、俺が聞くと、彼女は頷いた。

「後で行きましょう。妖婆の討伐が済んでから。」

と、シルヴィアが言う。

「イバリンが出てきちゃうよ?第一、あいつが俺らに任せない、て、宣言したんだぜ?」

フェレミスが不満そうに言うと、シルヴィアが笑った。

「私はもぅ、弱味は掴まれてないもの。怪我人が出ている以上見過ごせない。
それに、妖婆を討伐できるのは、私たちしかいないわ。」

あー、そうくるか。やっぱり言うと思った。

「誰も取らない依頼だしな。」

「ま、イバリンがここに戻っても、ハンターの掟を犯した以上、安全じゃないからねぇ。」

「そう!私たちは最強のチームでしょ。」

シルヴィアの笑顔が眩しい。
俺たちもつられて笑顔になる。

やっぱりこの3人だよな!

「ホーホゥ!」

モーガンも、羽をバサバサさせて鳴く。
ごめん、この3人と1羽だな。

討伐はもちろん大成功。
俺たちの評価もまた上がった。

破格の報奨金も出たし、しばらく仕事をとらなくても済みそうだ。

久しぶりに、シルヴィアとゆっくり過ごそう。

シルヴィアにそう伝えると、嬉しそうに笑った。

妖婆が討伐された後、イバリンは法王府を出て、キャロン元法王補佐官と国外へ逃げたそうだ。

シルヴィアと同じ『共闘の盟約』に従った吸血鬼が、新たに来たという国へ。

また、利用する気だな。

だが、そいつはシルヴィアと同じようにはいかなかったらしい。

なんでも、2人とも魔物討伐に同行した時、怪我を負って瀕死状態になったそうだ。

その吸血鬼は、救命という名目で咬んだらしい。2人とも今ではしもべとして、こき使われているとか。

俺は、都合よく利用しようとしたのを察知されて、反撃を受けたのだと思っている。

人を吸血しない、シルヴィアに慣れすぎたな。
彼女のような吸血鬼は稀なのに。

それから、時は流れた。

シルヴィアはまた少し変わった。

何もかも背負い込もうとせず、俺たちによく相談もするし、自分の能力を安売りしなくなった。

そして、俺に対する信頼も、以前より増したと思う。

俺も、彼女に背中を預けられるようになった。
フェレミスも、同じだが。

「ランヴァルト、心から愛してる。」

と、シルヴィアが、今日も俺のそばで言ってくれる。

「俺も、愛してる。」

俺が応えると、シルヴィアがそっと身を任せてくるので、部屋の明かりを落とした。

色々あったが、なんとか乗り越えていけた。

これからも、俺たちは支えあってやっていく。

今日も、明日も明後日も。

大切な彼女と一緒に。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

次話は、キャロン視点に切り替わります。隣国で吸血鬼の僕となったイバリンと彼は、シルヴィアを罠にかけようと待ち構えますが・・・?

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