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番外編

※ランヴァルト視点 戦闘

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「グフ!イバリーン!!」

キャロン元法王補佐官の声が、響き渡る。

俺たちが注目する中、閉じた口をくちゃくちゃいわせる妖婆が、悔しそうに鍋の縁を叩いた。

「小賢しい、吸血鬼め!!」

妖婆が叫ぶ。
シルヴィアが、すんでのところでイバリンと一緒に透明化していたのだ。

彼女は俺の隣に来ると、姿を現して実体化する。

救出されたイバリンは、恐怖のあまり固まっていた。キャロン元法王補佐官は、そんな彼に駆け寄って心配そうに顔を覗き込んでいる。

「邪眼を使いすぎた人間は、我らの餌になるのだ!それが代償だ。置いていけ!!」

妖婆が叫ぶ。
イバリンはハッと正気に戻って、シルヴィアの後ろに隠れた。

「フハ!嫌だぁぁ!!吸血鬼、なんとかしろ!食われたくない!死ぬのは嫌だ!!」

妖婆は、歯をガチガチと言わせだす。
これは・・・戦闘になりそうだな。

俺は、モーガンをシルヴィアの肩に戻すと、剣を抜いた。

モーガンが、一度に抑え込めるのは1人だけ。
あの邪眼を持つ方を抑えないと。

「みんな!私の後ろへ!!」

シルヴィアが叫ぶので、俺たちは彼女の後ろへと集まった。

彼女が手をかざして、見えない鉄壁の壁のバリアが俺たちを包む。

次の瞬間、毒の霧と溶解液が、妖婆の背中から生えた蛇たちの口から一斉に吐き出された。

キャロン元法王補佐官たちが入れられていた鍋が、一瞬で溶けてなくなる。

すごい威力だ。

反撃をしようにも、この毒の霧と溶解液を吐き出す蛇たちをなんとかしないと。

「ウケケケ、全員弱らせて食ってやろう。」

後ろから迫る妖婆が、掌につけた邪眼を向けて来る。

「シルヴィア、俺が合図をしたらモーガンを放て!!フェレミス、奴の急所を撃て!!」

フェレミスが、銃の先をシルヴィアのはる壁の向こうに出して、妖婆の眉間を撃ち抜いた。

「グブ!」

妖婆の頭が、反動で後ろに反り返る。

「中和剤を散布しろ!!」

俺は、そう叫んで素早くシルヴィアの後ろから跳躍して飛び上がると、正面から迫る妖婆の眉間に剣を刺した。

その妖婆も、背中をのけぞらせて仰向けに倒れる。

けれど背中の蛇たちは、毒の霧や溶解液を噴き出し続けていた。

背中の蛇がまだ生きてる・・・!
このくらいでは倒せないか!

剣を引き抜いた俺は、毒の霧をまともに被って意識を失いかけながら、シルヴィアに叫ぶ。

「シルヴィア!モーガンを!!」

モーガンが、シルヴィアから離れて、邪眼を持つ妖婆のお腹に飛び乗る。

「うぐぉお!!」

妖婆の1人は、背中に生やした蛇ごと動かなくなった。

「ランヴァルトー!!」

シルヴィアが倒れかけた俺を呼ぶ。
くそっ、体が痺れる・・・!

不死身になったとはいえ、毒の苦しさはなくならない。

「シルヴィア、私が行くよ!」

ハンナが口に布を巻くと飛び出してきて、俺を抱える。

「ハンナ!私の後ろへ!!」

シルヴィアがうまく手を使いながら、俺たちをバリアの中に迎え入れた。

「ランヴァルト、しっかり!」

シルヴィアが治癒力で、俺の体の毒を抜いてくれる。

「う・・・ありがとう。もう一体の妖婆をなんとかしないと。」

モーガンの爪にかかった妖婆はおとなしくなっているけれど、もう一体の妖婆がモーガンを跳ね除けたら復活してしまう。

俺は仲間たち全員を見た。
シルヴィアの斬撃で、一気に一刀両断もありだが、下手に背中の蛇が生きていると、俺のように毒か溶解液をくらってしまう。

「妖婆の背中に生えた蛇たちの頭を落とせるか!?」

力の源は、妖婆の背中の蛇たちだ。

「背後に回ることが、出来れば。」

シルヴィアが言うと、2体の妖婆のうち、モーガンが乗ってない方の妖婆が起き上がる。

「おのれ!人間ども!まとめて石にしてやる!」

妖婆が、背中から生えた蛇たちの目を光らせて睨んできた。

「蛇たちと視線を合わせるな!!目を閉じろ!!」

俺が叫ぶと全員目を閉じる。
でも、このままではジリ貧だ。

俺は目を閉じたまま、みんなに小声で話しかける。

「俺が囮になる。その隙に背後に回り込んで、背中の蛇たちを全員で切り落とすんだ。」

「1人の囮では、意味ないよ。私もやる。ウィンスロットほどないけど、このハンナ様は身軽なのよ。」

「目を閉じたままで、大丈夫?ハンナ。」

「気配を読めるのが、Sクラスのハンターよ。それより、きっちりやってね!」

「そ、そんなことができるんですか?目を閉じて陽動なんて・・・!」

レイモンドたちは、懐疑的だ。
それでも、やれるのがSクラスだ。

「チャンスは一度だ!!しっかり中和剤を撒き続けろ。俺たちを支えてくれ!」

俺はそう叫ぶと、ハンナと一緒にシルヴィアの後ろから飛び出し、素早い動きで妖婆を翻弄する。

「ちょこまかと、面倒な人間ども!溶けちまいな!!」

妖婆が溶解液を放ってくるのを、ギリギリまで研ぎ澄ませた神経を頼りに避ける。

フッとシルヴィアたちの気配が消え、彼女たちが透明化したのを察した。

回り込む気だな。

ガキ!!

妖婆が俺の剣を咥えて、受け止める感触がした。

直後、俺の腹を妖婆の腕が突き抜ける。

「うぅ!!」

「ギャハハー!!腹の中から溶けてしまえ!!」

「ランヴァルトー!!」

ハンナの叫び声の直後、ボトボト!と重い何かが落ちる音がした。

ゆっくり目を開けると、足元に妖婆の背中に生えていた蛇の頭たちが落ちている。

「ギャァァァ!!」

・・・やったか?

意識が遠くなって行く中で、フッと体が柔らかい温もりに包まれ、痛みと苦しさがなくなっていく。

「ランヴァルト!」

その声に気がつくと、俺はシルヴィアの膝の上に頭を乗せていた。
お腹を触ると、傷口は塞がっている。

「おー、気がついた?」

フェレミスが、切れた妖婆の腕をぶらぶらと振って、放り投げる。

助かった・・・のか。

蛇を切り落とされた妖婆は、力無く俯いている。もう、攻撃能力を失くしたからな。

床に撒き散らされた溶解液や、空気中に漂う毒の霧は、レイモンドたちが中和剤を必死に散布して防いでくれていた。

「くそ・・・ハンターどもめ!」

モーガンの爪にかかった妖婆が、忌々しそうに呟く。

「元はといえば、人間が邪眼を盗んだせいなのに。」

蛇を切り落とされた、もう一体の妖婆が言った。

まぁな。そこは何もいえない。
だが、俺たちが勝った以上、これで手を引いてもらわないとな。

問題は邪眼を持つ妖婆の方だ。
背中の蛇たちが健在だから、モーガンが離れた途端に、襲ってこないか心配だな。

「邪眼は返した。人質も無事だ。目的は果たしたから、俺たちは帰る。追撃しようと考えるなよ。俺たちには、このモーガンがいる。」

俺が起き上がって言うと、妖婆たちは悔しそうにイバリンの方を見る。

「お前の顔は覚えたぞ、人間。」

「住んでいる場所も、気配で覚えている。お前が戻った後に、狩りに行ってやる。」

と、言ったのでイバリンが震え上がった。

「フハ!ひぃっ!ヒイイィ!!」

そしてシルヴィアの腕にしがみつくと、

「吸血鬼、こいつらを倒せ!倒してしまえ!」

と、叫んだ。シルヴィアは首を横に振る。

「できません。今回の目的は討伐ではなく救出です。あなたたちを連れ帰ることが、仕事なのです。」

「フハ!なんだ、金か。金ならいくらでも積む!救出から討伐に切り替えだ!やれ!!」

「きちんとギルドを通してください。口約束の討伐はできません。」

「フハ!この・・・ノロマで頭の固い吸血鬼め!私がどれだけ、お前に『人助け』をさせてやったと思ってる!?」

「私がどれだけ、あなたを守りましたか?あなたの懐を温めたのは、私でしょ?」

「・・・フ・・・く!お前の『人助け』は、私やハンターにどこまでも都合のいい奉仕だろうが!!」

「違います!」

シルヴィアは、イバリンの腕を振り払った。
イバリンは驚いてシルヴィアを見る。

「私は・・・私は、かつて1人だけ生き残った。その後奇跡的に救われて、全てを忘れ、のうのうと暮らしてきた自分が、どこか許せなくて・・・!」

シルヴィアが拳を握り締める。

震える彼女の肩に、俺もたまらなくなって、シルヴィアを抱き締めた。

「大きなシルヴィアたちみたいな犠牲者を減らしたくて、私・・・頑張ってるだけ。都合のいいなんて・・・違う。」

「もういい・・・もういいから、シルヴィア。」

俺は彼女の背中を撫でた。
そんなふうに考えてるんだな・・・彼女の行動原理の一つが、罪悪感にあることはなんとなく感じていた。

人が滅びれば、吸血鬼も滅びるから戦うという建前だけでは、いくら絶大な力を持っていても、ここまで戦えない。

表裏一体、人のためという信念の裏にある、後悔と自責の念。

イバリンが、金儲けに利用していい想いでは、決してないのだ。

俺はイバリンを睨みつけて、

「俺たちは仕事でここに来た。あんたたちを無事に返せばそこまでだ。妖婆のことはギルドに依頼を出せ。誰が受けるかは知らないがな。」

と、言い放つ。

金さえ積めば、やる奴がいるさ、と呟くイバリンに、俺はため息をついた。

どうだろうな。

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