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大ピンチ
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私は必死に考えを巡らせていた。
予知夢の時とは違い、法王様の呪文がない中では、ヴァレンティカの首が接近しても、私の首が落ちることはないみたい。
でも、首が近いと私の力が無効化される。
この牙は、元々ヴァレンティカの牙だから・・・。
せめてディミトリの主人格の、ギュラドラ公の棺の場所さえわかれば!
真祖の牙を持つとはいえ、彼を噛んで吸血鬼にしたのは、ギュラドラ公。
ギュラドラ公が滅びれば、彼も道連れになるのに。
ガキーン、ガキーン。
瓦礫の向こうから、ランヴァルトたちが瓦礫を避けようとしてくれている音が聞こえる。
でも瓦礫はよければよけるほど、上から落ちてきて、さらに積み上がっていった。
「徒労だな。さあ、小さなシルヴィア。永遠に透明なまま、私とここで2人っきりで過ごすか?それとも出てきて、首を落とされるか。」
ディミトリの提示した選択肢は、どちらも最悪。
嫌に決まってる!!
私は透明化を維持したまま、ディミトリの触手の先にぶら下げられた、ヴァレンティカの首を見た。
お養父様は昔、彼女の牙は自分から動いて、私の中に収まったと言っていた。
そこが、ディミトリたちと違うところ。
でも、この牙はまだ、彼女の干渉を受ける。
だから、私の力を無効化してしまう。
私と彼女は、まだ主従逆転してないから。
ディミトリは、ゆっくりと部屋中を動き回っていた。
今のうちに、クロスボウに矢をつがえて、2本目を撃てるかな。
とにかく血を流させれば、チャンスがある。壁や床に落ちた血でも、この際なりふり構っていられない。
私はディミトリが、背中を見せて歩いていることを確認して、手だけを実体化して矢をつがえる。
その瞬間、ディミトリが戻ってきて、私の実体化した腕を掴んだ。
あ、と言う間に、私の全身の透明化が解けてしまう。
「きゃあ!!」
「さっきから、ヴァレンティカの首を狙うのは何故だ。こんなもので射抜いても、血が流れるだけで、彼女は消えはしないぞ。」
バキ!!
クロスボウが矢ごとへし折られて、床に投げ捨てられる。
あぁ・・・なんてこと!
私は必死にディミトリの腕を振り払い、距離を取って透明化した。
ディミトリは、クスクス笑って自分の手をしげしげと眺める。
わざと手を離したんだ・・・まるで狩を楽しむ肉食獣みたい。
「怖がることはない。私の中には、大きなシルヴィアがいる。・・・彼女にまた会えるぞ。」
ドクン!胸の鼓動が大きくなる。
大好きな、大きなシルヴィア・・・。
ディミトリは、クスクス笑いながら胸を撫でた。愛おしそうに見下ろして、目を閉じる。
「お前が崖から落ちたあと、彼女と最高の時間を過ごしたよ。そして、必ず小さなシルヴィアと会わせてやると約束した。」
「!!」
「彼女はなんて言ったと思う?」
「・・・!」
「あの子は、あなたの思い通りにはならない、だとさ。」
大きなシルヴィア!!
思わず目頭が熱くなる。
「ふふふ、ほとんど血を失いかけて、命の灯火が消えようとしているというのに、彼女の瞳は力強かった。最期は弟の名前を呟いて事切れたから、残さず彼女を食べ・・・。」
「ディミトリィィ!!」
私は、大声をあげて姿を現した。
全身が燃えるように熱い。
「許さない・・・!絶対に許さない!!」
私は、奥歯を噛んで血を飲むと、無茶苦茶に手刀を切った。
ディミトリは素早くヴァレンティカの首を、私が飛ばす見えない刃の前にかざす。
シュン!と音を立てて、私の刃が消えていった。
「邪魔しないで!ヴァレンティカ!!」
再び手刀を切るけど、ディミトリまで届かない。
「くくく!いいぞ、いいぞ!その憎しみに満ちた目!多くの僕たちと同じ目だ!私もかつてはそんな目をしていた!」
「うるさい!」
「理不尽な目に合わせた連中を呪い、それを変えられない自分を呪い、そんな自分を救わない神を呪う。ふふふ、お前も私を呪いやがて自分を呪う。何せ・・・。」
ディミトリは、ニヤリと笑って語気を強める。
「大きなシルヴィアが逃げ遅れたのは、誰のせいだったかな?」
「!?」
「誰かさんが怖がったから、彼女はすぐに海に飛び込むことができなかった。」
「・・・!!」
思わず手刀を切る手が止まる。
大きなシルヴィア・・・私がいたから、私が足手まといになったから。
ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。
「耳を貸すな!!シルヴィア!!」
瓦礫の向こうから、ランヴァルトの声が聞こえる。
私は、ハッとなって瓦礫の方を見る。
ランヴァルト・・・。
「そもそも、誰がこんな目に遭わせた?シルヴィアや姉さんを攫ったのは、ディミトリだ!」
ディミトリは、そんなランヴァルトの言葉を鼻で笑った。
「ほほぅ?大きなシルヴィアの弟か?ダグラスといいお前といい、私の僕にならなかったとは。それもこれも、小さなシルヴィア、お前の仕業か?」
ディミトリがヴァレンティカの首を持ったまま、高速移動してきて私を捕まえる。
「きゃあー!!」
奥歯を噛んで血を飲んでも、体が透明化しない。
力が、使えない!!
「捕まえた。今度こそ逃がさない。お前は私と一つになり、永遠を生きるのだ。」
「く!!」
私は、残りのクロスボウの矢を取り出して、ディミトリの首に深く刺した。
え・・・!?
ズブズブと、クロスボウの矢は飲み込まれていき、ディミトリの首の後ろまで通り抜けて、床に落ちていく。
カキーン、コロコロ・・・。
「嘘・・・。」
私が呟くと、ディミトリは涼しい顔で私を抱き寄せた。
「離して!!嫌!!触らないで!!」
無我夢中で暴れるけれど、ディミトリはびくともしない。
「シルヴィア!!くそ・・・!フェレミス、爆薬はないか!?」
と、ランヴァルトが、瓦礫の向こうから叫んでいる。
「爆薬は、イシュポラとの戦いで使っちまった。それにここは吹き飛ばしても、また上から落ちてくるぞ!」
「無理をするな!君たちはその体では、これ以上は何もできん!」
フェレミスとお養父様の声。
その体・・・て、怪我してるの!?
ディミトリもその声を聞いて、笑い出した。
「ククク、イシュポラは負けたようだが、奴らを瀕死にまで追い込めたようだな。
さぁ、小さなシルヴィア。大きなシルヴィアの元へ旅立つ時が来たぞ。」
予知夢の時とは違い、法王様の呪文がない中では、ヴァレンティカの首が接近しても、私の首が落ちることはないみたい。
でも、首が近いと私の力が無効化される。
この牙は、元々ヴァレンティカの牙だから・・・。
せめてディミトリの主人格の、ギュラドラ公の棺の場所さえわかれば!
真祖の牙を持つとはいえ、彼を噛んで吸血鬼にしたのは、ギュラドラ公。
ギュラドラ公が滅びれば、彼も道連れになるのに。
ガキーン、ガキーン。
瓦礫の向こうから、ランヴァルトたちが瓦礫を避けようとしてくれている音が聞こえる。
でも瓦礫はよければよけるほど、上から落ちてきて、さらに積み上がっていった。
「徒労だな。さあ、小さなシルヴィア。永遠に透明なまま、私とここで2人っきりで過ごすか?それとも出てきて、首を落とされるか。」
ディミトリの提示した選択肢は、どちらも最悪。
嫌に決まってる!!
私は透明化を維持したまま、ディミトリの触手の先にぶら下げられた、ヴァレンティカの首を見た。
お養父様は昔、彼女の牙は自分から動いて、私の中に収まったと言っていた。
そこが、ディミトリたちと違うところ。
でも、この牙はまだ、彼女の干渉を受ける。
だから、私の力を無効化してしまう。
私と彼女は、まだ主従逆転してないから。
ディミトリは、ゆっくりと部屋中を動き回っていた。
今のうちに、クロスボウに矢をつがえて、2本目を撃てるかな。
とにかく血を流させれば、チャンスがある。壁や床に落ちた血でも、この際なりふり構っていられない。
私はディミトリが、背中を見せて歩いていることを確認して、手だけを実体化して矢をつがえる。
その瞬間、ディミトリが戻ってきて、私の実体化した腕を掴んだ。
あ、と言う間に、私の全身の透明化が解けてしまう。
「きゃあ!!」
「さっきから、ヴァレンティカの首を狙うのは何故だ。こんなもので射抜いても、血が流れるだけで、彼女は消えはしないぞ。」
バキ!!
クロスボウが矢ごとへし折られて、床に投げ捨てられる。
あぁ・・・なんてこと!
私は必死にディミトリの腕を振り払い、距離を取って透明化した。
ディミトリは、クスクス笑って自分の手をしげしげと眺める。
わざと手を離したんだ・・・まるで狩を楽しむ肉食獣みたい。
「怖がることはない。私の中には、大きなシルヴィアがいる。・・・彼女にまた会えるぞ。」
ドクン!胸の鼓動が大きくなる。
大好きな、大きなシルヴィア・・・。
ディミトリは、クスクス笑いながら胸を撫でた。愛おしそうに見下ろして、目を閉じる。
「お前が崖から落ちたあと、彼女と最高の時間を過ごしたよ。そして、必ず小さなシルヴィアと会わせてやると約束した。」
「!!」
「彼女はなんて言ったと思う?」
「・・・!」
「あの子は、あなたの思い通りにはならない、だとさ。」
大きなシルヴィア!!
思わず目頭が熱くなる。
「ふふふ、ほとんど血を失いかけて、命の灯火が消えようとしているというのに、彼女の瞳は力強かった。最期は弟の名前を呟いて事切れたから、残さず彼女を食べ・・・。」
「ディミトリィィ!!」
私は、大声をあげて姿を現した。
全身が燃えるように熱い。
「許さない・・・!絶対に許さない!!」
私は、奥歯を噛んで血を飲むと、無茶苦茶に手刀を切った。
ディミトリは素早くヴァレンティカの首を、私が飛ばす見えない刃の前にかざす。
シュン!と音を立てて、私の刃が消えていった。
「邪魔しないで!ヴァレンティカ!!」
再び手刀を切るけど、ディミトリまで届かない。
「くくく!いいぞ、いいぞ!その憎しみに満ちた目!多くの僕たちと同じ目だ!私もかつてはそんな目をしていた!」
「うるさい!」
「理不尽な目に合わせた連中を呪い、それを変えられない自分を呪い、そんな自分を救わない神を呪う。ふふふ、お前も私を呪いやがて自分を呪う。何せ・・・。」
ディミトリは、ニヤリと笑って語気を強める。
「大きなシルヴィアが逃げ遅れたのは、誰のせいだったかな?」
「!?」
「誰かさんが怖がったから、彼女はすぐに海に飛び込むことができなかった。」
「・・・!!」
思わず手刀を切る手が止まる。
大きなシルヴィア・・・私がいたから、私が足手まといになったから。
ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。
「耳を貸すな!!シルヴィア!!」
瓦礫の向こうから、ランヴァルトの声が聞こえる。
私は、ハッとなって瓦礫の方を見る。
ランヴァルト・・・。
「そもそも、誰がこんな目に遭わせた?シルヴィアや姉さんを攫ったのは、ディミトリだ!」
ディミトリは、そんなランヴァルトの言葉を鼻で笑った。
「ほほぅ?大きなシルヴィアの弟か?ダグラスといいお前といい、私の僕にならなかったとは。それもこれも、小さなシルヴィア、お前の仕業か?」
ディミトリがヴァレンティカの首を持ったまま、高速移動してきて私を捕まえる。
「きゃあー!!」
奥歯を噛んで血を飲んでも、体が透明化しない。
力が、使えない!!
「捕まえた。今度こそ逃がさない。お前は私と一つになり、永遠を生きるのだ。」
「く!!」
私は、残りのクロスボウの矢を取り出して、ディミトリの首に深く刺した。
え・・・!?
ズブズブと、クロスボウの矢は飲み込まれていき、ディミトリの首の後ろまで通り抜けて、床に落ちていく。
カキーン、コロコロ・・・。
「嘘・・・。」
私が呟くと、ディミトリは涼しい顔で私を抱き寄せた。
「離して!!嫌!!触らないで!!」
無我夢中で暴れるけれど、ディミトリはびくともしない。
「シルヴィア!!くそ・・・!フェレミス、爆薬はないか!?」
と、ランヴァルトが、瓦礫の向こうから叫んでいる。
「爆薬は、イシュポラとの戦いで使っちまった。それにここは吹き飛ばしても、また上から落ちてくるぞ!」
「無理をするな!君たちはその体では、これ以上は何もできん!」
フェレミスとお養父様の声。
その体・・・て、怪我してるの!?
ディミトリもその声を聞いて、笑い出した。
「ククク、イシュポラは負けたようだが、奴らを瀕死にまで追い込めたようだな。
さぁ、小さなシルヴィア。大きなシルヴィアの元へ旅立つ時が来たぞ。」
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