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新たな危機

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私はグレパドゥの『精霊の産み直し』という聞き慣れない言葉に驚いて、

「なんですか?
産み直し・・・て。」

と、尋ねた。

「時の精霊が崩壊した時、原初の精霊はこの世の全てを吸い上げて己の中に戻してしまう。
そして、また一からやり直す。
これを『精霊の産み直し』という。」

と、グレパドゥは答える。

まるで、産みだした命を、母体に戻すみたいなことを言うわ。

「そんなことしたら、ハーティフも・・・。」

と、私が言うと、

「産み直しの時、末端から吸い上げが起こる。
即ちまずこの世の全て、それから精霊たち。
時の精霊のそばいにいるハーティフは、恐らく一番最後に残るだろう。」

と、グレパドゥは言った。

「あの膨大なエネルギーを神々から受け続ける、原初の精霊をどうする気でしょう。」

クロスノスは、首を捻る。
私もそう思う。

そこで冥王が、

「奴はリタに、未来を作ってやろうと言っていた。
つまり、世界の創造。
自身が原初の精霊と同化して、望む世界を創り出すことではないのか?」

と、言って私を見る。

「必ず倒すのだ、リタ。
ハーティフを停止させたまま、倒せれば良いが、できなけれは先に時の精霊の核を戻せ。
その場合、時の精霊を守りながら戦うことになる。」

と、天王も言った。

・・・みんな、とても難しいことを言う。
でも、時の精霊の核を返してしまえば、確実にハーティフは動き出す。

「淀みも油断がならぬ。
千年前は先代の漆黒の狼、アムが全て倒したというが、リタには今回ハーティフのみに集中してもらいたい。
淀みは我々だけで排除せねば。」

と、魔王が言う。

そうだ・・・淀みの問題もあったわ。

「リタ、体は慣れてきたか?
やっぱり一日は必要か?」

と、ガルンティスは言う。
体はまだ力が入らないわ。
自分が脆い土のように感じるの。

「多くを求めすぎよ。
リタ、体は無事?」

レティシアが庇うように言って、背中を撫でてくれる。
いつもありがとう、レティシア。
彼女の気配りには、救われてばかり。

私は頷いて、

「あと少し休ませてもらえれば。
ごめんなさい。」

と言うと、アシェリエルが私を抱え上げた。

「では、リタはこの結びの間の『裂け目』で休ませましょう。
私がリタを連れて行きます。」

と、言って歩き出そうとする。

「リタ、それでは一時間待とう。
それから時の精霊の使い方を教える。」

と、魔王が言ってくれた。

「すみません。」

私は貧血を起こしかけながら、頭を下げた。
早く体を慣らさないと。

クロスノスやレティシアも、心配そうな顔をしながら、それぞれの世界へ帰っていく。

あ、クロスノスがこっちを見てるわ。

でも、アシェリエルが歩き始めて、クロスノスが見えなくなっていく。

アシェリエルは、私を抱えたまま、結びの間を歩き続けた。
『裂け目』とは、どこのことだろう。

「あの・・・。
裂け目とは、どこのことですか?」

私は彼を見上げて話しかけると、彼は顎をしゃくる。

「あれだ。」

その方向を見ると、結びの間の空間に、歪みのようなものが見える。

「ここは、三つの世界が、常に空間を引っ張りあっている。
結果、日々あんな裂け目がいくつも出来る。
中は、異空間となっていて、大きな魔法の練習は皆ここでやるんだ。
黒竜へと変わり、その力を使う練習もできる。」

そのまま、アシェリエルと一緒に裂け目に飛び込んだ。

「わぁ・・・。」

中は結びの間の床と同じ色の、深くて青い色の空間だった。

「宝石の中にいるみたい。」

私の感想に、アシェリエルはふっと笑った。

「可愛いことを言う。
ここは中で何が起きても、外からは分からない。
ハーティフの化身たちも、ここを特定するのは、難しいだろう。」

そう言うと私を降ろして、『裂け目』から出て行った。

早く、体を慣らさないと。
それに、さっきのカミュン、クロスノスのあの表情・・・。

どういうことなの?

カミュン・・・あれはあなたじゃないの?
クロスノスに相談したいな。

クロスノス・・・そう、クロスノスを呼ぼう。

私はよろよろしながら起き上がって、裂け目の出入り口から顔を出した。

そこにアシェリエルの姿はなく、裂け目の出入り口をあちこち確認している、カミュンの姿が見えた。

思わずさっと裂け目から、顔を引っ込めて、隠れてしまう。

カミュンなのに、隠れるなんて・・・。

そう思ってふと、爪書簡を書いてみようと思った。
彼の手の中に短冊が届くのを見たら、確信が持てるわ。

私は唇に右手の薬指をあてると、

『カミュン、会いたい。』

と、薬指で書いて裂け目から顔を少し出した。
カミュンは、近くの裂け目を覗き込んでいる。

私はそれを見ながら、薬指を上に弾いた。

彼の右手に、薄い桃色の短冊が届くはず・・・。

そう思って手元を見ているけど・・・。

!!
届かない!!
やっぱり、か、彼じゃない!

私は顔を引っ込めると、座り込んだ。
誰?じゃ、あれは誰なの?

「リタ、見つけた。」

いきなり、カミュンの声がして顔をあげると、彼は裂け目から顔だけ中を覗き込んで、こちらを見ていた。

「あ、あぁ・・・。」

私は何とか、取り繕いながら、少しずつ後ろに下がる。

「よかった、二人きりになれて。」

カミュンは、笑って中に入ってくる。
やっぱり匂いが薄い。

「すぐに済ませるからさ、リタ。」

カミュンは、すらりと剣を抜いた。

「カミュン?」

「ティルリッチから伝言。
『私のものに手を出せば、こうなるのよ。
本物は渡さない。』だってさ。」

そう言うと、私の頭の上で剣を振りかぶった。

次の瞬間、カミュンの手首に鞭のようなものが絡まり、そのまま剣が振り落とされる。

カミュンが振り向くと、クロスノスとレティシアが入ってきた。

「な、なんだよ、クロスノス。
俺は少しふざけただけだぜ?」

カミュンが動揺しながら手首を振ると、クロスノスが、

「私の親友は、リタに刃は絶対に向けない。
どれほど大切にしているか、私が一番知っている。」

と、いつもと違う口調で話す。

「あなた、カミュンじゃないの?」

レティシアが武器を構えて、カミュンを睨む。
カミュンは、素早く跳ねて私の後ろに回り込むと、羽交い締めにして首を絞めてきた。

「動くな!
首の骨を折るぞ。」

クロスノスたちに向かって、脅すように声を荒げる。
首の骨が軋む音がして、私は苦しさに呻いた。

「手を離し・・・!」

レティシアが叫ぼうとした時、

「今すぐその手をどけろ!
親友をこれ以上貶め、リタを傷つける気なら、お前を放った主人ともども、『闇の顎門あぎと』が食いちぎるぞ!!」

と、クロスノスがすごい剣幕で怒鳴った。

私は一瞬苦しさを忘れ、普段と全然違うクロスノスを見る。
レティシアもカミュンも、呆気に取られていた。

ふと私たちの後ろの方から、恐ろしい獣の唸り声が聞こえてくる。

カミュンは、私を突き飛ばすように離し、裂け目の出入り口に逃げ込もうと走り出す。

すかさずクロスノスが、

「氷の精霊よ、この者の体を凍てつく力で押し止めよ、オーリ・ズ・コリフ!!」

と、唱えて、カミュンを一瞬で凍りかせた。

激しく咳き込む私の前に、クロスノス、レティシアが駆け寄って来る。

「リタ、大丈夫ですか!?」

クロスノスがそばに来て、私は思わずしがみついた。

「クロスノス、カ、カミュンが・・・。」

「えぇ、わかっています。
裂け目を探し回る彼を見て、後をつけていました。
彼はカミュンの複製体です。
とても精巧で、私も確信は持てませんでした。」

クロスノスの後ろに、凍りついたカミュンが見える。

「これは、どういうこと?」

レティシアが私たちを見る。
私は、少し震えながら、

「テ、ティルリッチが彼に、『私のものに手を出せば、こうなるのよ。本物は渡さない。』と、伝言を言わせたわ・・・。」

と、言った。
クロスノスは、複製体のカミュンを睨みつけ、

「恐れていたことが起きました。
昔から、カミュンを独占したがる方でしたが、今回はやり過ぎです。
天王は賢明な王なのに、昔から彼女に関しては、何も手を打てない。」

と怒ったように言う。

ティルリッチ・・・。
ここまでやるなんて。

「彼は生きてるの?」

私の問いに、クロスノスが答えようとした時・・・。

ズズッ。

え?

ズズズッ。

妙な音に気づいて、周りを見回す。
なんだろう、この音。

そして、微かに感じる振動がある。
目を凝らしても、この空間の中には何もいない。

何かしら・・・。

ズリズリッ。

今度は、はっきり聞こえた。
空間の壁の方から?

何か・・・何かいる!!




















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