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巨人との対決

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巨人の腕が一本、また一本。
水面を割って4本の腕が、空を飛ぶ私たちを狙ってくる。

「くっそー!
さっきから雷撃の魔法も、炎もこの湖の水が全部吸収しやがる!!」

ガルンティスが、流石に疲れた様子でホシイロワシにしがみついている。

「奴らさっきから腕しか出してない。
なぜ全身を現さない?」

アシェリエルが、訝しそうに見ている。

「この湖の水が、魔法を無効化するからでしょうか。」

クロスノスがホシイロワシの手綱を、上手く引いて巨人の腕を避けていく。

「これだけ大きいと剣撃も、大きな技を使わないと効かないな。」

カミュンもどうしたものかと、悩んでいる。

「クロスノス、私の髪の毛で力を上げて、湖を凍らせるのはどう?
さっきから見ていると、腕に対する攻撃を湖が飲み込んでるけど、湖そのものを凍らせたら、巨人も動けなくなるんじゃない?」

「うーん・・・。
魔法を吸収する湖を、魔法で凍らせるのは・・・。」

クロスノスも首を捻る。

こういう時、時を操れたら・・・。

「きゃぁぁぁ!!」

レティシアの叫び声が聞こえた。

レティシアたちが乗るホシイロワシの足が、掌を閉じかけた巨人の指に捕まっている!

握り潰されてしまう!!

いけない!
レティシアたちが!!

「アシェリエル!シールドを!!」

カミュンが叫ぶけど、

「ダメだ!防御魔法すら湖が吸い取るようだ!」

と、言っている。

私たちも助けに向かおうとするけど、残りの三本の腕がそれを阻む。

レティシアたちを捕まえた、巨人の指はそのまま彼女たちを握り潰そうと閉じ始めた。

そ、そうだ!
時を止めた時は、私がその対象に触れていた時だ!!

素早く鼻を擦ってクシャミをする。
クロスノスが驚いて私を見た。

「リタ!?何を!?」

「クロスノス!
私をあの二人のところへ!
早く!」

クロスノスは、ホシイロワシを絶妙に操って私をレティシアたちが捕まる巨人の手の上に降ろす。

私は狼の姿で飛び降りると、4本の足でしっかりと巨人の指に触れた。

「止まれ!」

必死に願うけど、巨人の手は止まらない。

「リタ、逃げて!
無理よ、ちゃんと訓練しないと任意には・・・!」

レティシアの体が、巨人の指の間で締められていく。

私は素早く彼女たちがいる、巨人の手の内側へと、潜り込んだ。

「リター!!」

カミュンの必死な声が聞こえる。

閉じて来る手の力の強さより、レティシアたちが苦しむ姿の方が怖かった。

「止まってぇー!!」

4本の足で巨人の掌を突っ張るようにして、叫んだ。

・・・。

「嘘・・・。
止まってる・・・。」

レティシアが驚愕の声をあげた。

私は、レティシアとアシェリエルを、服を噛んで巨人の手の中から引き摺り出す。

そしてホシイロワシも、みんなで引っ張り出した。

停止した巨人の手の甲に乗ると、もう一本の手も止まっているのが見えた。

巨人を一体停止させたんだ!

二人を先にホシイロワシで逃して、私はクロスノスがあやつるホシイロワシに飛び乗った。

「さすが、原初の精霊に次ぐ高位の精霊の力!
湖も吸収できないんですね。」

クロスノスが感嘆の声を上げる。

「油断しないで!
ノアム元理事長もいつの間にか動けるようなってた!
いつまでもつかわからないの!」

私はそういうと、残りの巨人の腕を見つめた。

「もう、乗り込んじまえ!」

ガルンティスが、止まった巨人の腕の隙間を縫うように、『ペルシオネの断崖』に降りようとした。

「ゔぉぉぉぉぉぉぉー!!!」

突然大きな唸り声がして、動いている腕が湖の縁に手をかけると、大きな頭が湖から出てくる。

そのまま全身が現れて、『ペルシオネの断崖』の高さの2倍はある巨人が現れた。

「全身が出てきたぞ!
魔法が効くんじゃないか!?」

巨人は、断崖を守るように立ち塞がっている。

「リタ、あなたの髪の毛の力を借りますよ。」

クロスノスが、前に私があげた髪の毛の束を手に掴んだまま、

「闇の精霊よ・・・。
その大いなる闇の底へ引き込むように、深い眠りへ誘いたまえ。
リープス・レネム・ハイ!」

と詠唱した。

巨人の全身をみるみる大きな闇が覆い、ゆっくり消えていく。

闇が消えた時には、巨人は眠っていた。

「今です!!」

みんな一気にホシイロワシを『ペルシオネの断崖』に向けて飛ばす。

断崖の上には、大きな城が見えた。

私たちは、そのまま城の城門に向かって降りていく。

みんなそれぞれ地面に降り立つと、ホシイロワシが、そのまま飛び去ってしまった。

「どうやって開ければいいの・・・。」

私が言うと、中から城門が開いていく。

「何をしにきたぁぁぁぁ?」

クオ・リンゴブが一体出てきた。

「クタヴィジャ姫の治療に来ました。」

と、私が言うと、

「漆黒の狼かぁぁぁぁ。
入るがいぃぃぃぃぃ!
だが、忘れるなぁぁぁぁ。
出来なければ食うぞぉぉぉぉぉ!」

と、叫んで城の中へ案内してくれた。

私たちは、ゆっくりついていく。

「さっきはありがとう、リタ。」

レティシアがやってきて、話しかけてくる。

「いいえ、怪我はないですか?
レティシア。」

私が聞くと、

「大丈夫。
アシェリエルも無事よ。」

と、答えてくれた。
よかった。
私も、誰かを助けられるんだ。

「リタ!」

カミュンが、後ろから追いついて来る。

「あんな無茶はもうするな!
今回はうまくいったけど、次も同じとは限らない。」

と、言う。
だって・・・他にどうしようもなかった。

「心配かけて、ごめんなさい。」

「怪我はないな?」

カミュンは、顔を覗き込んでくる。

少し前はこの気配りが嬉しかった・・・でも。

ティルリッチの『カミュンは、すぐ可哀想な人に同情する性格』という言葉が思い出されてなんだか・・・。

それに彼はティルリッチのためにいる。
彼女だけ心配すればいいのに。
彼が彼女ではなく、私を気にしてくれると思うと、期待してしまう自分が悔しくなる。
なんで、こんな気持ちになるの?

彼を気にしないようにしているのに、背を向けていても彼の声を聞いている自分がいて、知らないうちに目が姿を探してしまう。

それなのに近くに来られると、すぐにまた彼女のところに戻るんでしょ?と思う自分が彼を遠ざけようとしてしいた。

「リタ?
やっぱりどこか・・・。」

「私は平気、カミュン。
ティルリッチのそばにいてあげて。
彼女、体が弱くて大変なんでしょ?」

私はそう言うと、逃げるように前を歩くクロスノスの方へと駆けていくことにした。

広くて長い廊下を、私たちは歩く。

特に攻撃をされるわけでもなく、あっさり通されて少し拍子抜ける。

後ろでは貧血を起こしたティルリッチが、カミュンにしがみついていた。

「大丈夫ですか?
どうぞ、おつかまり下さい。」

カミュンはティルリッチを抱き抱えて、歩き始める。

「おいたわしい。
お薬をどうぞ。」

アシェリエルは、ティルリッチに何か薬を渡していた。


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