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別れと旅立ち

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「こ、こ、こ、この大馬鹿野郎!!!」

ガルンティスが、私の手を離してノアム元理事長の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「なんて恐ろしいことを・・・!!」

大巫女シェーラも、両手で顔を覆っている。

「な、な、何がいけないのでーす。
そこに技術があり、世界を作り替えて従える力が手にはいーる。
やれるものなら、試してみたいではありませーんか。
それが、進歩というものでーす。」

ノアム元理事長は、しれっとした顔でみんなを見回していた。

「私たち人間は、時に禁忌に挑んで、その中で新しい発見を繰り返しながら進歩してきました。
先人の過ちさえ繰り返さなければできる、と思っていたのです。」

と、テルシャが大巫女シェーラに向かって言った。

「そ、そのとーり!!
先の神喰いの乱で、怪物が制御不能になったのは、融合した魂に知性がなかったからではないかーと。
なので、融合する魂は知性ある生者の魂が、知性と記憶を取り払った死者の魂を取り込む形にしようとウロンは言ったのでーす。」

ノアム元理事長は、ガルンティスに胸ぐらを掴まれながらも、スラスラ話しているわ。

「確かに先の乱では生前の余計な記憶と知性を取り去った、死者の魂だけを使ったと聞いてるわ。
その方が、使役する側の制御が効くと思って。
それでも、精霊を喰らうという本能をどうにもできなかった。」

レティシアが、ハッとしてノアム元理事長を睨みつける。

「まさか、あなたが神降しの召喚技で、最後に怪物を取り込む計画だったんじゃないの?」

「そうでーす。
ウロンが死んでから、ずっと待機してましーた。
まさか、この神殿の巫女に先を越されるとは思いませんでしーた・・・。」

ノアム元理事長は、がっくりと肩を落としているわ。

ガルンティスは、高く持ち上げたノアム元理事長を

「アホすぎて、殴る気も失せた。」

と、言ってぼとりと落としたの。

「いったぁぁぁ!」

ノアム元理事長はお尻を押さえて、悶絶している。

「ハーティフは、元々実力の高い神殿の巫女で精霊の知識も豊富。
姿を怪物に変えたとはいえ、下位の精霊を無視して真っ直ぐ時の精霊を目指したところに、知性を感じるわ。」

「ええ。彼女の狙いは、その先の原初の精霊。
三柱の神の力を一身に受ける至上の存在を、手にしようとしたのかもしれません。」

レティシアと大巫女シェーラは、そう言ってため息をつく。

「自分より優れた存在はいらない・・・。
破壊された神殿の中に残った彼女の残留思念は、そう言ってました。
怪物と融合したことで、その思いが理性の抑えを解いたのでしょう。」

と、大巫女シェーラが言うと、

「負けることに、耐えられなかったんだな・・・。」

と、カミュンが呟いた。

「さあ、もう行こう。
もはや知るべきことは知っただろう?
ハーティフも動けぬ本体の代わりに、化身を放ってリタを探している。
急がねば。」

と、アシェリエルが行って祭壇に手をかざした。
祭壇が左右に分かれて、光り輝く扉が開かれていく。

「来い、リタ。
ここが次元の階段の入り口だ。
高次元へいきなり行くとそなたの体は崩壊してしまう。
少しずつ慣らしながらいく必要がある。」

私はそう言われて、カミュンたちの方を見る。
カミュンが一歩私の方へ出ようとして、クロスノスがその肩に手を置くと、首を横に振っている。

カミュン・・・クロスノス・・・。

私は振り切るように、アシェリエルの後ろについていった。

私のすぐ後ろにレティシアが続いて、ガルンティスが追いかけてくる。

扉の中に入り、いざ閉まろうとした時、何故かノアム元理事長と、テルシャが滑り込んできた。

「わ、わ、私も行きたいでーす。
当事者として!」

「ノアム元理事長!!
いけませんと言いましたのに!!」

そんな言い合いをする2人の後ろで、扉が閉まった。

私は・・・こんな人たちより、カミュンたちに来て欲しかったな・・・。

「この大馬鹿人間ども!!
次元の狭間に落としてや・・・!!」

「待て、ガルンティス。」

2人を蹴り出そうとするガルンティスに、アシェリエルが素早く耳打ちする。

「・・・なるほど。
そうするか。」

ガルンティスは頷いて、前を向いて歩き出した。

次元の階段は、夜空に浮かぶ星の川のようになっている。

一歩進むたびに、水しぶきのような星屑が足元に散らばるの。

とても綺麗・・・。
カミュン、クロスノス、プルッポムリン。

彼らも、ここを通ったことがあるのかしら。
声を聞きたいな・・・心配ない、てカミュンの声。

私が無言なのを気にしたのか、レティシアが隣に来た。

「ごめんなさいね。
あの2人を同行させてあげたかったのに、出来なくて。」

「いいえ。
でも、ここまで混血が嫌われてるなんて思いませんでした。
失礼ですが、レティシアは純血?」

「そうよ。
でも、私は気にしないわ。
そもそも神喰いの乱の時だって、混血たちの力は純血を上回っていたという話よ。
特に、成長する人間との混血はね。」

「え・・・。」

「とどめを刺したのは純血だと聞いてるけど、おそらく瀕死の傷を負わせたのは、混血だと思うわ。
その頃から疎まれていたんでしょうね。
人間は高次元の存在から見たら、劣った種族だと、みなされやすいから。
特に天界は、その辺が他の二界に比べたら強いと聞くわ。」

「でも、混血が生まれると言うことは・・・。」

「そう。
そうは思わないものもいるのよ。
数は少ないけどね。
私もその1人。
愚かな人間もいるけどさ。」

そう言うと、レティシアはノアム元理事長をチラリと振り返る。
まあ、この人はね・・・。

「人狼だってそうなんじゃないの?
種族の壁を超えて、人間と恋に堕ちる人もいたはずよ。
その時には種族とか、違いなんて度外視でしょう。
ただ相手が恋しい、そばにいたい、声を聞きたいと思うはずよ。」

と、レティシアは言う。

人間と恋した人狼・・・そういえばいつの間にか追放されていた仲間がいたな。
種族の血を薄める行為だって。

血を薄める・・・か。

身体能力は、確かに人狼は人間を上回る。

人間との子供は、確かに弱いのかもしれないけど、その能力が成長させられるなら、人狼より遥かに強い存在になるかもしれないわけで。

むしろ、そちらの方が怖いのかも。

もし、ノアム元理事長みたいな人が、人狼との混血で成長した存在なら、面白がって人狼を滅ぼすかもしれない。

でも、今回のような事態を引き起こしたのは、ウロンという混血者だけじゃない。
普通の人間も関わってる。

とすればやっぱり・・・。

恐ろしい力を誰が持つのか・・・。
どう使うのか。
それが何に繋がっていくのか。

見えないこと、わからないこと。

これが一番怖いのかもしれない。

























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