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※私があの雌狼に負けてーる?(ノアム視点)

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洋服屋の一件が終わってから、私はテルシャと別れて、今崩れた魔法研究所のところへ来ていーる。

虚しい。

ここを元に戻すだけでも、認可を受けてからではないといけないと、女王陛下に言われたからーだ。

あのムカつく女王ーめ!!
今にみてろーよ!!

「ノアム理事長。」

拳を握り締める私に声をかけてくるものがあーる。
振り向くと、ゴルボスが立っていーた。

「なんーだ。
お前まで私を笑いに来たのーか?」

暗い目で睨みつけると、ゴルボスは無表情な顔でこちらを見ていーる。

なんーだ。
止まってるのーか?

次の瞬間、ゴルボスは瞬きをして、愛想のいい顔をしてきーた。

「その様子ですと、金の用意は出来てないみたいですね。
一応、あの黄泉の一族の女を追跡だけはしてます。
精霊の神殿に身を潜めてますよ。」

と、言う。

「なんだーと?
精霊の神殿ーに?
冥界に帰ったとばかり思っていーた。」

「何か目的があって、留まってるみたいです。
神殿の中は流石に手が出せません。
ま、それでも、金さえ貰えればなんとかしますけどね。」

「ほぅ。
まあ、しばらく待ーて。
必ず返り咲くのだかーら。」

「そうですか・・・。
あてにならんな。」

「なーぬー?」

「あ、あぁいえいえ。
そうだ、リタのことですが。」

「あの雌狼がどうかしたのーか?」

「あいつの髪の毛を、実験に使ったりしたことはおありで?」

なんだーと?
髪の毛ーを?

あんなろくに洗ってもいない髪の毛なんぞ、使えるものーか。

いや、待てーよ。

「確か、物好きな奴がリタの髪の毛を1本切るいたずらをしたと聞いたーな。
あっという間に、切ったところから元の長さに戻ったと聞いていーる。」

「ほう?
それで?」

「切った髪を捨てるのを忘れていて、手に絡まったまま、微風の呪符の実験をしたところ、突風が吹いて大騒ぎになったそーだ。
呪符を間違えたのだろーと、その件はそれで終わりになったーが?」

「おお!
やはり!!」

ゴルボスの目が異様に輝いていーる。
なんだ、なんだ。

「どうしたのーだ。」

「理事長は、漆黒の狼の伝説はご存知ないので?」

「あぁ、子供のお伽噺だーろ?
千年に一度、三柱の神の中でも、根源を司る混沌の神が分身である黒竜を使いに出して、世界を滅ぼすかどうかを判断させるとかいーう。
その黒竜が、この人間界では漆黒の狼として現れるとかなんとーか。」

「滅ぼす・・・ですか。」

「お伽噺ーだ。
実際、そんな狼が現れた記録はないだーろ?」

「そうでしょうね。
記録になんて残させない・・・。
知られる前に狩って、毛皮を取り引きしていたのだから・・・。」

「はー?」

「いえ、ありがとうございます。
リタはあれ以来姿を見せませんが、そのうち捕まえます。
あれはもう私の狼なので。」

「私が買ったのだがーな。
返金してもらいたいくらいーだ。」

「服従の焼印と、服従の魔樹の鞭まで合わせてお渡ししたのに、人狼を逃したのはあなたくらいですよ。」

「今なんと言ったー!?」

「よほどの間抜け・・・いえいえ、別に。
勿体無いことをしましたね。
ここは時が一時停止しない、驚くべき場所でもあった。
それすら、リタのおかげだったこともわかりました。」

ゴルボス!お前まで私を愚弄するのーか!?

「何を根拠に・・・!」

「リタを狩に行った人狼の村も、時が止まらないと言われた場所だったのですよ。
私はあの場所のせいだと思っていましたが、リタがこの研究所に来てから今度はここが止まらなくなった。
共通点はリタしかいない。
あいつが逃げてから、ここも止まり出した。
そうですよね?」

「く・・・!!」

「時間停止なしの有効範囲は5キロと見た。
人狼の雌の逃走速度を計算に入れれば、かなり接近しないとすぐに引き離されてこちらが止まる可能性があるな・・・。」

ゴルボスはそう言うと、私がここにいないかのように、ぶつぶつと言いだしーた。

この・・・っ。
しかし、漆黒の狼の伝説ーか。
それと時の一時停止なしは、なーんにも関係なさそうだーが?
少なくとも、あのお伽噺の中ですら、そんな話は出てこなーい。

そもそも、あいつは私の靴を磨くためにいる奴だったのーだ。

小汚くて醜い雌狼。

それが世界を滅ぼすか決める、黒竜の化身だーと?
馬鹿ーな!!

「お・・・?」

と、言って、ゴルボスが何やら道具を取り出して、嬉しそうに眺めていーる。

「どうしたのーだ。」

「時が止まらなくなりました。
リタが近くに来ている!」

「なんだーと!?」

私は辺りを見回すが、そんな気配はなーい。

ゴルボスは、ニヤリと笑ってその場を走り去って行っーた。

まったくなんなのーだ。
私はトボトボと家路についた。

そんな私の目の前を物凄い速さで、馬を走らせてくるあの天族の男が見えた。

「おぉ、私に会いに来てくれたのーか?」

と、言った瞬間、

「リター!
どこだー!!
返事をしてくれー!!」

と、彼は叫び、土煙を上げて目の前を通り過ぎていった。

「げほっ。
ごほん!
おぇー。」

体中、土埃にまみれて、すっかり汚れてしまっーた。

ようやく一息ついたと思ったら、

「カミュン、待ちなさい!
あてもなく探しても見つかりません!」

と、別の男が乗る馬が、同じように土埃をあげて目の前を過ぎて行く。

「ごほっ!
ごほん!!
ゔー!
ちくしょう!」

目の中にまでゴミが入って、痛くてたまらなーい。

まったくなんて日ーだ!!

こんなに汚れて・・・。
は!!
まさか・・・。

足元を見ると、靴が汚れていた。

「うぎゃぁぁぁぁぁー!!
靴がこんなに汚れているぅぅぅぅー!!!」

騒ぎながらしばらく私は、そのまま一時停止していた・・・。
私の災難はまだまだ続く・・・。





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