上 下
11 / 74

狼に変身しちゃった

しおりを挟む
「遠慮せずにどうぞ。
中身も見てください。
気に入っていただけるといいんですが。」

と、クロスノスが言った。

私は、初めて人に服をただでもらったことに驚いていた。

新しい服なんかもらったことがないから、いつも捨ててあるカーテンや、布切れを見つけてきて、それを持っていた服に縫い付けてきた。

体が大きくなるたびに、探すのが大変で、最後に来ていたあの服も、もうキツくなっていたから。

私はビクビクしながら、クロスノスから紙袋を受け取ると、中身を見た。

「わぁ、可愛い!」

思わず笑顔になって、その場で飛び上がった。
色もデザインも、ずっと欲しかったものだった。
おしゃれなんて、したくてもできなかったから、余計に嬉しかった。

私はときめきを抑えられず、紙袋をぎゅっと抱きしめる。

そんな私をクロスノスは、にこにこと笑顔で見つめていた。

「いやー、可愛らしい。
こんなに素直に喜ばれると、もっと、あげたくなりますねー。
カミュン?」

と、クロスノスがカミュンを見るので、私も彼を見る。

カミュンは後ろを向いて、こちらを見ようともしない。

私は紙袋を抱きしめたまま、彼のそばに行って頭を下げた。

「あの、お手数おかけしてすみません。」

と、言うと、

「・・・別に。」

と、言って彼はさらにそっぽを向いた。
・・・怒ってるのかな。

「ふふ、そういう時は、『ありがとう』で、いいんですよ。
えっと・・・お名前をまだ聞いてませんでしたね。」

「私は、人狼のリタです。
リタ・カトラ・アーキムと言います。」

「リタですか。
いい名前ですね、私はクロスノス・オディン。
魔族と人間の混血です。
そして、彼はカミュン・テイムダル。
天族と人間の混血。」

と、クロスノスは教えてくれた。
また新しい種族の人と知り合えたんだわ。
私は感心しながら頷いた。

「あの、ありがとうございます。
とっても嬉しいです。
大事に着ますね。」

私はカミュンの方を見て、もう一度笑顔で頭を下げた。

カミュンはチラリとこちらを見たが、

「おぅ・・・。」

と言っただけ。

「カミュン、失礼ですよ。
すみません、リタ。
カミュンは、単に照れてるだけなんです。」

「照れ・・・。」

「余計なこと言うなよ、クロスノス!」

「はいはい、すみません。
こちらへどうぞ、リタ。
お風呂場はこちらです。」

と、クロスノスは涼しい顔で言って、私の先を歩いて案内してくれる。

私は部屋を出る前に、カミュンをもう一度見た。
彼は背を向けたまま、片手で口を押さえて震えているようだ。

耳が少し赤い気もするけど。照れてるようには見えない。

男の人、てわからないな。
今着ているこの寝巻きも返さないといけないし、早く洗って返そう。

私は、申し訳なく思いながら、クロスノスについて行った。

「ここです、鍵も内側からかけられますから。
中のものはなんでも使っていいですよ。
ごゆっくり。」

クロスノスは脱衣所の扉を開けて、私を中に入れると扉を閉めた。

こんなに優しくしてもらえたのは、初めて・・・。
本当はまだ少し怖いけど、何かする気なら、もうされてるよね。

鍵を閉めて、お風呂に入る。

わあ、きちんとしたお風呂なんて子供の時以来だ。

浴槽のお湯もちょうどいい温度だし、体を洗ったらしっかり温まろう。
嬉しい、自分の体臭も流石に嫌になってたから。

えっと、髪や身体はどれで・・・。
とってもいい香りのするものばかり。
特に、柑橘系のこの香いいなー。

さっそく泡立てて使ってみる。
わぁ、いい香ー。
男の人が使うものだから、もっと違うものかと思ってたけど、2人ともおしゃれなんだなー。

そう思っていると、鼻がむずむずしてきた。

「は・・・くっしゅん!!」

大きなくしゃみをしてしまった。
その瞬間、両手を真っ黒な毛が覆った。

ええ!?
嗅覚が急に鋭くなる。

こ、この久しぶりの感覚・・・まさか!!

慌てて鏡をみると、そこには泡まみれになった漆黒の狼がいた。

そんな・・・そんなどうして?
満月を見たわけでもないのに。

あ、そうか。
18歳になったら、任意に変身できるんだっけ。

も、戻らないと。
どうやるんだっけ?

あー、久しぶりで思い出せない!

焦っていると、泡で足を滑らせて派手に転んでしまった。

「どうしました?」

クロスノスの声がする。

な、なんでもありません!
そう言いたいのに、

「ウォッ、フォッ。」

と、獣言葉しか言えない。

「リタ?」
「なんだ?どうした?」
「いえ、何やら獣の声がするのです。」
「獣?
リタ?リタ、大丈夫か?」

カミュンまで来てる!
急いで戻らなくちゃ!
あぁぁ、どうやってたかしら?

「鍵がかかっていて、開かねぇ。」
「当たり前ですよ、女性が入浴中なんですから。」
「中で倒れてるんじゃないのか?」
「仕方ありませんね。
リタ、今からプルッポムリンを放ちます。
世話好きの妖精で、あなたに寝巻きを着せてくれた女性の妖精です。
彼女にあなたの様子を見にいかせますので。」

と、クロスノスが言った後、お風呂場に小さな金色の蝶のような妖精が入ってきた。
風呂場のドアをすり抜け、ゆっくり近づいてくる。
私は慌てて立ち上がろうとして、また滑る。
久しぶりだから、体の動かし方の要領が悪い!

「あら、泡だらけの狼さん。
まさか、あなたはリタなの?」

プルッポムリンにそう言われて、頷く。

「こんなところで変身するなんて。
クロスノスー、大丈夫よ。
ちょっと中で変身してるだけだからー。」

彼女の言葉に、また何か言おうとして、落ち込んで俯く。

「初めてまして、よね。
起きている時に出会うのは、そうだもの。
世話好きな妖精、プルッポムリンです。
あなたは今、人の言葉は話せないみたいね。
大丈夫、そのうち出来るようになるわ。」

と、言ったプルッポムリンは、小さな見た目にそぐわず凄い力で、さっとお湯をかけて泡を流してくれた。

「これでよし。
わあー、綺麗な狼ね。
こんなに漆黒の毛艶のいい狼は、初めて見るわ。
さて、どうやって変身したの?
もう一度やれば戻るかもよ?」

私は体をブルブル振ってお湯をとばすと、必死に思い出していた。

確か・・・確かくしゃみをしたんだった。
そう思った途端、

「ブシュン!!」

と、くしゃみをした。
すると、手足の毛がすっと引っ込んでいった。

急いで鏡をみると、元の自分に戻っている。

「も、戻れた。」

ほっとしている私の顔の近くに、プルッポムリンは飛んできた。

「くしゃみなのね。
面白い子。
さ、まだまだ綺麗にしないとね。
手伝ってあげるわ。
体を乾かしたら、髪を整えてあげるね。」

私は彼女に促されて、しっかり洗った後、ポカポカのお湯に浸かって温まった。
プルッポムリンが、頑固な汚れも綺麗に落としてくれて、自分が別人みたいに見える。

「はい、リタ、あがってー。
のぼせるわよー。」

プルッポムリンがにこにこ笑いながら、私を立たせて脱衣所に連れて行った。

体を拭いて、着たかったあの服に袖を通す。
鏡に自分を映して、その姿に嬉しさがこみ上げた。

「へぇー、あなた本当に美人さんね!
これは腕によりをかけて、素敵に仕上げなくちゃ。
楽しみにしてて。」

プルッポムリンはそう言うと、私の顔や髪を整えてくれた。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

本当の貴方

松石 愛弓
恋愛
伯爵令嬢アリシアは、10年来の婚約者エリオットに突然、婚約破棄を言い渡される。 貴方に愛されていると信じていたのに――。 エリオットの豹変ぶりにアリシアは…。 シリアス寄りです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...