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マデカント領9
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ティーロさんと私は翌日からも数日はとてもぎこちない感じだったんだけれど、どちらからともなくまたいつものような感じにと戻って行った。
でも心なしか私達の仲は前と同じ立ち位置ではなくって、お互いを少し意識するようなそんな感じもあるような気がした。
実はあの果実の香りが中々取れなくっていくら髪を洗っても若干香りが残ってしまっているようで、自然に香りが消えるのを待っているんだけれど私が動くと微かに香るらしい。
香り自体は私もティーロさんも好きで、神殿の人達の中にもあの果実の香りが好きな人が私の体から香る香りに気付いて香水か何かと勘違いして羨ましがられた。
香水ではないことを説明したんだけれど、香りが体に染みつくまで入浴する必要があることと、人様に迷惑をかけてしますような大変な醜態をさらす危険があるので、神殿の人に詳しい方法を教えることが出来ない。
「果実を食べ過ぎたのかな・・ははっ」
と誤魔化したけれど、限界まで食べ過ぎることを試すのかどうかはわからない。
午前中だけの仕事でも1カ月以上働いていると少しずつ神殿の人達とも打ち解ける事が出来始め、結構人と話す機会が増えてきたけれど、さすがにカーリンさんだけはダメだった。
まず初対面から
「わたくしのことはカーリン様と呼ぶように」
と聖女と神殿使用人の線引きを求められたのだ。
「あっ・・・はい・・・」
思わず返事をしてしまったが、その様子を見ていたペトラさんが勢いよくこちらにやって来て、カーリンさんを叱りつけていた。
「中央神殿からはじき出されたなんちゃって聖女様がホホホホ、そんな冗談をねぇホホホっ」
とカーリンさんの心の傷を抉りながら私とカーリンさんを引き離してくれた。
カーリンさんは別に私にだけそれを求めたわけではなくって、神殿の全ての使用人達にカーリン様と呼ばそうとしていたので苛めではないのだ。
他の使用人達も決してカーリン様と呼ばずに
「カーリンさん」
と一応さん付けで呼んでいる。
聖女だと様をつけないといけないからだって。
ペトラさんは様付けを嫌って自らそう呼ばないようにって神殿で通達しているのにね。
作業小屋には案の定カーリンさんは近寄らないのであまり接点なく働くことが出来ている。
カーリンさんもポーションを作るけれど、神殿の表でパフォーマンス的に見せながら作ることが好きならしく、そっちで作ったりペトラさんと聖女の仕事をしたりしてるって。
カーリンさんが帰って来てからは神殿に出入りしていた騎士さん達の姿も見なくなった。
本当に、過去に何があったのか恐ろしいわ・・・
もうすぐ魔獣討伐の準備が始まるって伝えられてからはペトラさんもポーションを作る方に力を入れていて、三人体勢で頑張っていたりする。
いつものように作業小屋でポーションを作っていると早い時間帯に扉をノックされた。
「入って下さい」
扉の開閉時の空気の流れでポーション作成時に変化がないように魔力を込めている時には少し待ってもらうが、今は3本目が出来たばかりでそろそろ休憩をいれようかと思っていた頃合いだったので丁度良かった。
誰が作業小屋へ来たのだろうかと思っていたら、あの例の騎士だった。
「やぁ、マナ本当に久しぶりだね」
「本当ですね、今日はどうされたんですか?」
「いや、丁度ポーションを取りに来ようとして表にはほら、ポーションをわざわざ実演してるのがいるだろう。だから裏口から入って来たんだよ」
つまりアルフォ様はカーリンさんに会わないように裏口からやって来たんですね。
「通り道だからって寄っていただかなくってもアルフォ様はお忙しいんじゃないですか?」
「それは大丈夫だ、ほら、これは上手いから家から持って来たんだ。良かったら休憩の時に食べてくれ」
そう言ってアルフォ様は小さい菓子の包みをくれた。
「ありがとうございます・・・」
お菓子をくれたからじゃないけれど、案外良い人なのかもしれないわ。
「お時間あるんでしたら、よかったらお茶でも飲んで行きますか?」
「いいのか?」
「はい、でもお茶菓子はアルフォ様が持って来て下さった物ですが良いですか?」
「いや、丁度喉が渇いていたからありがたいし、私はお茶だけでいいから」
前回ここを訪ねて来た時には、最初は謙虚だったけど後半はまた初対面の強引さが戻って来てたのに、きょうはまた謙虚になってしまってるアルフォ様を思わずじっと見てしまった。
「どうしたんだ?」
「あっ、いえ随分アルフォ様の印象が変わったので・・・」
「初対面の時の私は最悪だったろうね、あの時は本当にすまなかったと思っている、どうしても聖女に頼み事があってね、マナを聖女だと思い込んでしまっていたんだ」
「頼み事って何ですか?ペトラさん以外の聖女に頼むつもりだったんですか?」
「ペトラさんはマデカント領の筆頭聖女だから討伐に同行してもらうわけにはいかないんだよ、だけどここ最近の討伐は怪我人が多くなってきていてね、ポーションでは間に合わない場合を考えて2泊3日の討伐に別の聖女が参加してくれればどんなに兵士にとっては心強いかって考えてたからね。騎士が神殿を訪れるのは大抵討伐がらみだから嫌がって新しい聖女が隠れてるって勝手に思ってしまったんだ」
私が入れたハーブティーを受け取ったアルフォ様は猫舌なのかハーブティーが少し冷めるのを待っている。
カモミールとミントをブレンドしたもので、飲んだ後爽やかな気持ちになれるので作業の合間の気分転換に飲んでいるやつだ。
「これは美味しいな」
「後味もすっきりしているんで、もし気に入られたのならお菓子のお礼に茶葉をお分けしますよ」
そう言うとアルフォ様は嬉しそうに笑っていた。
「マナは何だかいい香りがするな」
ふいにアルフォ様にまでそんな事を言われてしまった。
例の、あの果実の香りがまだ取れていないままなんでね。
「ちょっと家で失敗してしまって体に果物の香りが染みついてしまったんですが、この香りすぐにわかりますか?」
「いや、マナが動く度に僅かに香る程度だから気にはならないけれど、僅かに香るのがいいね。失敗って何かあったのか?」
褒めてくれているみたいだけれど、この香りが漂うたびにティーロさんとの事を思い出してしまい精神衛生上は非常に良くないのよ。
また思い出してしまって顔が自然と赤くなり、アルフォ様を見るとアルフォ様まで赤くなっていた。
えっ?つられてる?
「じゃあ、神殿の裏から保管庫に行かせてもらうよ、お茶をありがとう茶葉はまた今度貰いに来るから」
急に慌ただしくアルフォ様は席を立つとますます赤い顔をして作業小屋から去って行ってしまわれた。
この染みついている香りのおかげで最近なんだか恥ずかしいなぁ・・・
◇ラブラ◇
マデカント領特産フルーツ
皮をむいて冷やして食べると濃厚な甘さが楽しめる。
夏場に直射日光で熟成させると熟成しアルコール成分が増し、果実酒のように楽しめるがアルコール度数が高めなので食べやすくとも注意が必要
神殿で借りた植物辞典に例の果実の事が載ってたわ・・・
温めたらアルコール成分が増すなんて知らなかったし、まさか皮にまでそんな作用があったなんてね。
ラブラ風呂に入った後の香りの対処方法なんて載っているわけもなくそっと本を閉じた。
◇◇◇
兄のフレデリックは神殿に近づかなくなった。
カーリンが戻って来たからだ。
今年19歳になるカーリンは上昇志向が強いのか、マデカント領の貴族や裕福層の子弟に片っ端から秋波を送っていた。
その中でも兄のフレデリックを大本命としているのだろう、媚の売り方が露骨過ぎて小さな秋波を浴びせられていた者達は全員引いた。
中央神殿の上位聖女ならともかくとして、地方神殿に所属する聖女が高位貴族と婚姻関係を結ぶことがまずない。
地方神殿に所属する聖女でも優秀なら中央神殿に招き入れられ、そこから上位貴族と婚姻を結ぶことはあるので中央神殿に所属出来なければまずはその夢は叶えられないはずだ。
カーリンは身の程を知らない上昇志向を捨てることなく中央神殿に向かい、研修期間ではじき出された。
すると後足で砂をかけるように辞めたマデカント領の神殿にまた戻って来たのだ。
中央神殿で現実を見る事が出来たおかげなのか、上位貴族との婚姻は諦めた様子で以前のように必死になって領主の屋敷に神官と共に訪れようとする勢いはどうやら収まったようだ。
私はマデカント伯爵の次男だが兄のフレデリックがカーリンの攻撃的な秋波を浴びせられて以来、兄弟で避けていた。
神殿に顔を出すようになったきっかけは新しい聖女が入ったという街の噂からだった。
確かに性能の良いポーションが安定して神殿から納入されるようになったが、その頃に神殿に入ったのだろうか?
だがあくまで噂で誰もその姿を見ていなかった。
ひっそりと性能の良いポーションを作り続けているという若い女性に興味が湧いたからだ。
表に出ることなく自分の仕事をきっちりとこなす聖女はどんな人物だろうと興味が湧いたのと、カーリンの時には能力的にとてもじゃないが出来なかった討伐への聖女の参加が実現可能かもしれないから直接会いに行ったが、噂の新人聖女はまるっきり聖女としか見えない容姿なのに聖女ではなかった。
聖女ではないのに聖女と同等かそれ以上のスキルを持っているらしい。
マナという少女はいつも神殿の裏の作業小屋で黙々と課せられた仕事をこなしている。
領主に仕えている騎士だと思い込んでいるが、次男で爵位を継がない私は騎士の称号を持っているので領主に仕える騎士でも間違いではないので詳しい自己紹介はしていない。
人妻だと聞いたがどうみても人妻には見えないのでフリをしているのだろう。
地方は特に若い女性が少ないから安全のために夫婦と偽装している旅人も多い。
いつも一人で作業小屋で魔力を流しているので作業小屋はマナの魔力の香りで満たされている。
今日、作業小屋を訪れた時に、改めて謝罪をしたが今日は一段と甘い香りが作業小屋の中を満たしている。
その香りのことを訊ねれば果物の香りだと言っていたが、確かに似ている香りの果物はあるがその香りよりも甘い香りを放っている事にマナは気付いていないのだろう。
魔力を持つ者は貴族に多いが、多少なりとも魔力を持つ者ならこの果実の中に混じる魔力の香りを感じ取るだろう。
これ以上この小屋の中に居たらこの香りに酔ってしまいそうになり早々に小屋を出た。
本当にマナは聖女ではないのだろうか?
もしマナが聖女でペトラさんと同等の聖女とすれば、中央神殿に在籍も可能だろう。
そうすれば貴族との婚姻も当たり前のように認められるのだ。
神官にもう一度マナの能力を測定するように頼んでみよう。
でも心なしか私達の仲は前と同じ立ち位置ではなくって、お互いを少し意識するようなそんな感じもあるような気がした。
実はあの果実の香りが中々取れなくっていくら髪を洗っても若干香りが残ってしまっているようで、自然に香りが消えるのを待っているんだけれど私が動くと微かに香るらしい。
香り自体は私もティーロさんも好きで、神殿の人達の中にもあの果実の香りが好きな人が私の体から香る香りに気付いて香水か何かと勘違いして羨ましがられた。
香水ではないことを説明したんだけれど、香りが体に染みつくまで入浴する必要があることと、人様に迷惑をかけてしますような大変な醜態をさらす危険があるので、神殿の人に詳しい方法を教えることが出来ない。
「果実を食べ過ぎたのかな・・ははっ」
と誤魔化したけれど、限界まで食べ過ぎることを試すのかどうかはわからない。
午前中だけの仕事でも1カ月以上働いていると少しずつ神殿の人達とも打ち解ける事が出来始め、結構人と話す機会が増えてきたけれど、さすがにカーリンさんだけはダメだった。
まず初対面から
「わたくしのことはカーリン様と呼ぶように」
と聖女と神殿使用人の線引きを求められたのだ。
「あっ・・・はい・・・」
思わず返事をしてしまったが、その様子を見ていたペトラさんが勢いよくこちらにやって来て、カーリンさんを叱りつけていた。
「中央神殿からはじき出されたなんちゃって聖女様がホホホホ、そんな冗談をねぇホホホっ」
とカーリンさんの心の傷を抉りながら私とカーリンさんを引き離してくれた。
カーリンさんは別に私にだけそれを求めたわけではなくって、神殿の全ての使用人達にカーリン様と呼ばそうとしていたので苛めではないのだ。
他の使用人達も決してカーリン様と呼ばずに
「カーリンさん」
と一応さん付けで呼んでいる。
聖女だと様をつけないといけないからだって。
ペトラさんは様付けを嫌って自らそう呼ばないようにって神殿で通達しているのにね。
作業小屋には案の定カーリンさんは近寄らないのであまり接点なく働くことが出来ている。
カーリンさんもポーションを作るけれど、神殿の表でパフォーマンス的に見せながら作ることが好きならしく、そっちで作ったりペトラさんと聖女の仕事をしたりしてるって。
カーリンさんが帰って来てからは神殿に出入りしていた騎士さん達の姿も見なくなった。
本当に、過去に何があったのか恐ろしいわ・・・
もうすぐ魔獣討伐の準備が始まるって伝えられてからはペトラさんもポーションを作る方に力を入れていて、三人体勢で頑張っていたりする。
いつものように作業小屋でポーションを作っていると早い時間帯に扉をノックされた。
「入って下さい」
扉の開閉時の空気の流れでポーション作成時に変化がないように魔力を込めている時には少し待ってもらうが、今は3本目が出来たばかりでそろそろ休憩をいれようかと思っていた頃合いだったので丁度良かった。
誰が作業小屋へ来たのだろうかと思っていたら、あの例の騎士だった。
「やぁ、マナ本当に久しぶりだね」
「本当ですね、今日はどうされたんですか?」
「いや、丁度ポーションを取りに来ようとして表にはほら、ポーションをわざわざ実演してるのがいるだろう。だから裏口から入って来たんだよ」
つまりアルフォ様はカーリンさんに会わないように裏口からやって来たんですね。
「通り道だからって寄っていただかなくってもアルフォ様はお忙しいんじゃないですか?」
「それは大丈夫だ、ほら、これは上手いから家から持って来たんだ。良かったら休憩の時に食べてくれ」
そう言ってアルフォ様は小さい菓子の包みをくれた。
「ありがとうございます・・・」
お菓子をくれたからじゃないけれど、案外良い人なのかもしれないわ。
「お時間あるんでしたら、よかったらお茶でも飲んで行きますか?」
「いいのか?」
「はい、でもお茶菓子はアルフォ様が持って来て下さった物ですが良いですか?」
「いや、丁度喉が渇いていたからありがたいし、私はお茶だけでいいから」
前回ここを訪ねて来た時には、最初は謙虚だったけど後半はまた初対面の強引さが戻って来てたのに、きょうはまた謙虚になってしまってるアルフォ様を思わずじっと見てしまった。
「どうしたんだ?」
「あっ、いえ随分アルフォ様の印象が変わったので・・・」
「初対面の時の私は最悪だったろうね、あの時は本当にすまなかったと思っている、どうしても聖女に頼み事があってね、マナを聖女だと思い込んでしまっていたんだ」
「頼み事って何ですか?ペトラさん以外の聖女に頼むつもりだったんですか?」
「ペトラさんはマデカント領の筆頭聖女だから討伐に同行してもらうわけにはいかないんだよ、だけどここ最近の討伐は怪我人が多くなってきていてね、ポーションでは間に合わない場合を考えて2泊3日の討伐に別の聖女が参加してくれればどんなに兵士にとっては心強いかって考えてたからね。騎士が神殿を訪れるのは大抵討伐がらみだから嫌がって新しい聖女が隠れてるって勝手に思ってしまったんだ」
私が入れたハーブティーを受け取ったアルフォ様は猫舌なのかハーブティーが少し冷めるのを待っている。
カモミールとミントをブレンドしたもので、飲んだ後爽やかな気持ちになれるので作業の合間の気分転換に飲んでいるやつだ。
「これは美味しいな」
「後味もすっきりしているんで、もし気に入られたのならお菓子のお礼に茶葉をお分けしますよ」
そう言うとアルフォ様は嬉しそうに笑っていた。
「マナは何だかいい香りがするな」
ふいにアルフォ様にまでそんな事を言われてしまった。
例の、あの果実の香りがまだ取れていないままなんでね。
「ちょっと家で失敗してしまって体に果物の香りが染みついてしまったんですが、この香りすぐにわかりますか?」
「いや、マナが動く度に僅かに香る程度だから気にはならないけれど、僅かに香るのがいいね。失敗って何かあったのか?」
褒めてくれているみたいだけれど、この香りが漂うたびにティーロさんとの事を思い出してしまい精神衛生上は非常に良くないのよ。
また思い出してしまって顔が自然と赤くなり、アルフォ様を見るとアルフォ様まで赤くなっていた。
えっ?つられてる?
「じゃあ、神殿の裏から保管庫に行かせてもらうよ、お茶をありがとう茶葉はまた今度貰いに来るから」
急に慌ただしくアルフォ様は席を立つとますます赤い顔をして作業小屋から去って行ってしまわれた。
この染みついている香りのおかげで最近なんだか恥ずかしいなぁ・・・
◇ラブラ◇
マデカント領特産フルーツ
皮をむいて冷やして食べると濃厚な甘さが楽しめる。
夏場に直射日光で熟成させると熟成しアルコール成分が増し、果実酒のように楽しめるがアルコール度数が高めなので食べやすくとも注意が必要
神殿で借りた植物辞典に例の果実の事が載ってたわ・・・
温めたらアルコール成分が増すなんて知らなかったし、まさか皮にまでそんな作用があったなんてね。
ラブラ風呂に入った後の香りの対処方法なんて載っているわけもなくそっと本を閉じた。
◇◇◇
兄のフレデリックは神殿に近づかなくなった。
カーリンが戻って来たからだ。
今年19歳になるカーリンは上昇志向が強いのか、マデカント領の貴族や裕福層の子弟に片っ端から秋波を送っていた。
その中でも兄のフレデリックを大本命としているのだろう、媚の売り方が露骨過ぎて小さな秋波を浴びせられていた者達は全員引いた。
中央神殿の上位聖女ならともかくとして、地方神殿に所属する聖女が高位貴族と婚姻関係を結ぶことがまずない。
地方神殿に所属する聖女でも優秀なら中央神殿に招き入れられ、そこから上位貴族と婚姻を結ぶことはあるので中央神殿に所属出来なければまずはその夢は叶えられないはずだ。
カーリンは身の程を知らない上昇志向を捨てることなく中央神殿に向かい、研修期間ではじき出された。
すると後足で砂をかけるように辞めたマデカント領の神殿にまた戻って来たのだ。
中央神殿で現実を見る事が出来たおかげなのか、上位貴族との婚姻は諦めた様子で以前のように必死になって領主の屋敷に神官と共に訪れようとする勢いはどうやら収まったようだ。
私はマデカント伯爵の次男だが兄のフレデリックがカーリンの攻撃的な秋波を浴びせられて以来、兄弟で避けていた。
神殿に顔を出すようになったきっかけは新しい聖女が入ったという街の噂からだった。
確かに性能の良いポーションが安定して神殿から納入されるようになったが、その頃に神殿に入ったのだろうか?
だがあくまで噂で誰もその姿を見ていなかった。
ひっそりと性能の良いポーションを作り続けているという若い女性に興味が湧いたからだ。
表に出ることなく自分の仕事をきっちりとこなす聖女はどんな人物だろうと興味が湧いたのと、カーリンの時には能力的にとてもじゃないが出来なかった討伐への聖女の参加が実現可能かもしれないから直接会いに行ったが、噂の新人聖女はまるっきり聖女としか見えない容姿なのに聖女ではなかった。
聖女ではないのに聖女と同等かそれ以上のスキルを持っているらしい。
マナという少女はいつも神殿の裏の作業小屋で黙々と課せられた仕事をこなしている。
領主に仕えている騎士だと思い込んでいるが、次男で爵位を継がない私は騎士の称号を持っているので領主に仕える騎士でも間違いではないので詳しい自己紹介はしていない。
人妻だと聞いたがどうみても人妻には見えないのでフリをしているのだろう。
地方は特に若い女性が少ないから安全のために夫婦と偽装している旅人も多い。
いつも一人で作業小屋で魔力を流しているので作業小屋はマナの魔力の香りで満たされている。
今日、作業小屋を訪れた時に、改めて謝罪をしたが今日は一段と甘い香りが作業小屋の中を満たしている。
その香りのことを訊ねれば果物の香りだと言っていたが、確かに似ている香りの果物はあるがその香りよりも甘い香りを放っている事にマナは気付いていないのだろう。
魔力を持つ者は貴族に多いが、多少なりとも魔力を持つ者ならこの果実の中に混じる魔力の香りを感じ取るだろう。
これ以上この小屋の中に居たらこの香りに酔ってしまいそうになり早々に小屋を出た。
本当にマナは聖女ではないのだろうか?
もしマナが聖女でペトラさんと同等の聖女とすれば、中央神殿に在籍も可能だろう。
そうすれば貴族との婚姻も当たり前のように認められるのだ。
神官にもう一度マナの能力を測定するように頼んでみよう。
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