スペアの聖女

里音ひよす

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マデカント領7

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 私もカーリンさんに挨拶をして帰ろうと思いペトラさん伝えるとひらひらと手を振って構わないから昼食を食べたら帰りなさいって言われた。
 出来る限りカーリンさんとは関わらなくっていいからって念を押されてね・・・カーリンさんがどんな人物か気になるわ。
 
 昨日ティーロさんが狩って来た猪の肉があるのであれを細かく叩いてハンバーグを作るつもりで何か副菜になる物を考えながら帰り道を歩いた。
 いつもの市場は夏が近くなり夏野菜もちらほら出ている。

 街が大きくなるにつれて市場も大きくなり、珍しい食材や香辛料も手に入るのでヒルダさんの家で作ってた物以外にも作ることが出来るのだ。
 こちらの世界の料理は家庭料理本「新妻の心得ー食事ー」を思い切って買ってよかった。
 見たことのない野菜は正直困っていたけれど、この本のおかげで処理の仕方や調理方法がわかった。
 この世界の料理は「焼く」が中心のわりとシンプルな料理が多くて、味付けは塩が効きすぎてる物が多い。
 家庭料理本を見ながら調理するけれど、味付けは元の世界風にアレンジすることが大半だけどティーロさんは喜んで食べてくれるし、気に入った料理は教えて欲しいと請われ二人で作ることもある。
 こんなに人妻なことをしているのに人妻オーラが出ないってなんでだろう?

 家に帰ると結構動くことが多くって、とりあえず二階の窓を全部開けて部屋の中を換気した。
 一階は窓から侵入する者がいたら危ないからとティーロさんが何度も何度も言うものだから朝一、ティーロさんが在宅している時に空気の入れ替えをしたりしている。
 玄関先の小さな花壇の水やりはティーロさんの仕事として朝一で必ずお水をあげてくれている。
 夕食の仕込みを終えると今日は何かしようと思えば出来るんだけれどやる気がなくなり、ふと思い立ったようにこの間日陰で乾燥させていた果物の皮を加工することにした。

 果物の皮を乾燥させて紅茶に混ぜれば僅かに香る果物の香りが心地よいんだけれど、入浴剤代わりにも使えるのだ。
 もしかしたらティーロさんが好きじゃないかもしれないので控えていたが、この間買って食べたマデカント領の特産の果物の香りが気に入って皮を乾燥させていた。
 
 ティーロさんがいない今、ちょっと贅沢だけれどお風呂いただけます!

 普段はティーロさんが戻って来てからお風呂にお湯を用意するんだけど、お風呂をゆっくり楽しむのは成人男性と同じ屋根の下ではちょっと遠慮気味になってしまっていたので、こんなチャンスがあったことを思い出したのだ。
 備え付けのお風呂は陶器で出来ている小さなタイプでティーロには小さいだろうけれど私には丁度いい。
 お湯の量も小さい浴槽だと少なく済むしね。

 水は魔石から湧きださせることが出来る。
 しっかり袋に入れて紐で井戸のそこまで落としていたらこの魔石の中にかなりの量の水を貯めることが出来るらしく、井戸から引き揚げたら浴槽の中の模様のような術式の真ん中におけば水が勝手に湧き上がってくる。
 この位ってところでその術式から魔石をずらせば水は止まり、今度は火の魔石をその術式の真ん中におけば適温のお湯にかわるのだ。
 ともに超がつくほど高価なものなんだけれど、この間ティーロさんと相談してヒルダさん式で作ったポーションを商店に卸してこの魔石を買ったのだ。

 すごく家事生活が楽になった。

 火の魔石は使わない時には竈の火の中に放り込んでいると水の魔石同様に熱量を吸収していてくれるので、使い捨てタイプではないので高かったのだ。
 温まったお湯の中にお手製の入浴剤を放り込むともう一度玄関の鍵を確認してから浴室に戻り、衣服を脱ぐとゆっくりとお風呂に浸かった・・・・

 もともと私は長風呂派で、お風呂の中で何をするでもなく湯舟にボケーっと浸かってることが大好きだったので、これは久々の贅沢。

 この魔石を買って良かった。

 入浴剤にって入れていた果実の皮は思った通りにお湯の中でとても良い香りを放つので、すごくいい感じだった。



◇◇◇

 二階の窓が開いているのでマナがてっきり帰っているものだと思ったが、扉をノックしても返答がなかった。

 窓を開けたまま出かけたはずはないし、もしかして一度帰って来たマナがまた何処かに出かけたのだろうか?一度神殿に確認に行ってからマナの所在を確認しなければと今日の収穫の肉と野草を台所に置く為に家の中へと入ると甘い香りが家の中を満たしていた。
 マナが美味しいと喜んで食べていた果実の香りだが・・・ 

 「マナ帰っているのか?」
 呼びかけるがマナからの返答はない。
 香の源を探すと扉がしまっている浴室から香りは漏れてくるが・・・
 「マナ?入っているのか?」
 呼びかけても返事がないので恐る恐る扉を開けると・・・
 浴槽の淵に両脇をかけるように上半身を浴槽から出したまま赤い顔をしたマナがまるで酔ったような風体で緩慢な動作で顔を上げた。

 「どうしたんだ!マナ!」

 駆け寄ったがマナは裸だ。どうしよう。

 いやこのままじゃいけない!どうしよう。

 浴室の中の果実の香りは更に強くまるで濃度の高いアルコールを吸い込むようなむせるような香りが湯気と共に充満していた。
 慌てて浴槽からマナを引き上げたが染み一つない綺麗な肌を間近で見てしまった。
 自分の服が濡れることは気にしないが、森から帰ったままの服なのでマナの綺麗な肌を汚してしまうかもしれない。
 そんなことを思いながら抱き上げて浴室に置いてあった乾いたバスタオルでマナの体を包み込んだ。
 すっかり酔ってしまったマナはされていることがわからない様子で、俺の顔を見てクスクスと笑いながら抱きついてきた。

 やめてくれ!
 もうすぐ理性が吹き飛んでしまうかもしれない。
 女性らしく体に丸みが出てきたマナの体をバスタオル越しに感じながらため息をついた。

 どうしてこうなってしまったんだろう・・・

 今のマナにはそれは訊ねてもまともな答えを返してくれるとは思えない。
 
 どの位の時間湯舟に浸かっていたのだろうか・・・風邪を引いてはいけないとマナを再び抱き上げてマナの寝室へと階段を慎重に上がった。
 「ふふふってぃーろさん。たのしいね・・・」
 抱き上げられて移動しているマナはご満悦な表情で俺を腕の中から上目遣いに見てくる。

 やめてくれ!

 「楽しいのか・・・?」

 「うん、毎日ねてぃーろさんといっしょでたのしいね」
 マナは階段の中ほどで更に抱きついてきた。
 
 やめてくれ・・・
 酔っているマナに手を出すわけにはいけないが、酔っているマナは自由に俺に抱き着いてくる。

 普段は無断で入ることのないマナの部屋に入ると一人用の小さな寝台にマナを降ろし肩まで寝具をかけたが、何が不満なのか寝台の上にすぐに起き上がってしまう。
 これ以上見ないようにと細心の注意を払っていた胸がそのまんま目の前に現れている。

 「これは・・・隠したほうがいいな・・・」

 動揺を隠して再び寝具を引き上げマナを寝かそうとするが首に両腕を絡めてきて離れてくれない。

 今はダメだマナ。

 「一人にしないで・・・」

 「寂しいのか?」

 「うん・・・ずっと寂しかったから・・・」

 マナの体を寝具の中に入れ込み寝具の上からマナを抱きしめた。

 しばらくすると両腕が自然と俺の首から力なく離れて寝台の上に落ちたがマナが目覚めるまで側にいることにした。
 いつも一生懸命なマナは泣き言を言わないが寂しかったんだろう。
 
 「俺もマナとずっと一緒にいたいんだ・・・」
 
 出来ればいつかマナと本当の夫婦になれたらな・・・

 それをいつか聞く前にマナが目覚めたら聞かないといけないことが山ほどあるが。
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