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マデカント領3
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ティーロさんにペトラさんが作ってくれた聖水を渡した。
マデカントの郊外の森に魔物が出るのなら魔物や魔獣(イマイチ区別がつかないんだけどね)避けになればと。
ティーロさんはいつも私が作ったポーションを森に持って行ってくれているけれど、一人で森に入るのなら少しでも安全を確保できる物があればなって思ってたから。
お弁当も持って行ってもらっているけれど、クッキーのような保存が効くような菓子も荷物にならない程度を持って行ってもらっている。
ティーロさんは大丈夫だって言うけれど、慣れた森ではないだろうし、迷ってしまったら心配。
ポーションは神殿で作る物とヒルダさんが作る物では材料が違うんだけど、最終的にはどちらの材料でもポーションを作ることが出来るのよね。
素材の違いは性能の違いになるのかは二つを比べたことがないからわからないんだけど、神殿の材料で私が作るポーションはすでに神殿から一般向けに販売しているけれど問題なく使用されているみたい。
二つを並べて比べると若干色が違うのかな?
ヒルダさんの素材で作るポーションのほうが少し色が濃い気がする。
ヒルダさんの素材で作るポーションは家で時間があれば作っていて、今はティーロさんにしか渡していないし、ヒルダさんが合流したらまたヒルダさんに売ってもらえばいいかなって。
神殿までティーロさんに送ってもらい、神殿の裏庭から今度はティーロさんが仕事に行く背中が見えなくなるまで見送った。
本当は何人かのチームで森に入ることが安全なのに、ティーロさんがそれをしないのはやっぱり左手の焼き印の存在なのだろう。
私も必要以上に神殿で働く人達と関わらないのは、この焼き印の存在を知られた時にどんな反応があるか怖いから・・・
他の使用人の人達が食堂で昼食を取っているのは知っているし、ペトラさんにも食堂へ行くことを誘われたけれども、作業場の邪魔にならない所で家から持って来たお弁当を一人で食べていた。
孤食はこの世界で珍しいのか、他の使用人の人達は私がここで一人で食べていてもじっと見るだけで何も言わずに作業場から去っていく。
とにかく多くの人と一緒に働くことは毎日緊張することで、またあの屋敷のように忌み嫌われる扱いになるかもしれないと思うと必要以上に近づかないほうがいいのだ。
与えられた仕事を一心不乱に取り掛かっていると、どんどんポーションを作る技術が向上していき、まぁ今では昼食前には一日のノルマが出来上がってしまうのでお弁当を食べずに帰ることも可能なんだけど、私が自分の分を作らなければティーロさんはお弁当を持っていく事を辞退するだろうから、昼食を神殿で食べて帰っている。
作業場には窓があり、たまに机の上から顔を窓の方へと向けると広い裏庭の景色が目に入ってくる。
スズメに似ているがすこしピンク色に近い小鳥が窓際によく来ていたのでパンくずを持って来きて、窓際に置いておけば毎日定期的にパンくずを確認に来るようになっているし寂しくはない。
昼食を作業場で食べた後に、すでに出来上がっているポーションを箱に詰めて検品してもらう準備をしていたらペトラさんが作業場に入って来た。
「丁度良かった、ペトラさん検品お願いします」
「いつもありがとう、マナの作るポーションは効能にムラがないから安心して領主様に卸すことが出来るわ」
「えっ?一般の方向けじゃなかったんですか?」
「最初はそのつもりだったんだけど、今は領主様の所でもポーションが足りないくらいだし、聖女が作る物と遜色がないポーションだから神官様の許可を得てあちらにもお渡ししているのよ」
大丈夫なのだろうか・・・聖属性の魔力を持つ者ならポーションは作れるが、聖属性の魔力を持つ神殿から聖女と認められた者の作るポーションとではその効能が明らかに違うって聞いていたから・・・
私の不安そうな表情を読み取ったのかペトラさんが慌てて声をかけてきた。
「大丈夫だから!マナの作る物は聖女と同じレベルのポーションなのよ、本当に聖女じゃないのよね・・・?」
この神殿にやって来た時に、聖属性の魔力の強さを確認するために神官の目の前で選別の石に手を置いたが、石は光ったものの聖女を認定する光り方ではなかったので、あくまで聖属性の魔力を持つ一般人のはず。
この聖属性の魔力を持つ人自体が少ないから稀少といえば稀少なんだろうけれど。
選別の石に触れる時に左手の焼き印は神官さんとペトラさんには見られてしまったけれど、ヒルダさんから事情を伝えられているからか何も言われなかったし、私の説明を聞いてくれてそれから優しく頷いてくれた。
神殿の仕事をしてもらえれば焼き印など問題ないそうなので、ちょっと安心した。
一日に一度は作業場にペトラさんが顔を出してくれるので、その時に聖属性の魔力についていろいろ質問している。
他にも何か便利な使い方が出来るのであれば教えて欲しかったんだけど、聖水を試してみた話をしたところ、色が変わった話にペトラさんが興味を示してくれた。
「色が変わってからその水はどうだった?」
「実は聖水の家での使い道がわからずにそのままなんですが・・・夫にはペトラさんから頂いた聖水を持って森に行ってもらってます」
「ここでその通りに作ってもらえる時間ってあるかしら?」
作り方自体は簡単だし、もし自分で作れるのであればヒルダさんの所で売れる商品が増えるのでペトラさんの前で作る事を了承すると、ペトラさんは作業場にある聖水を作る銀製品を準備し始めた。
ただの水に手を浸たしてから詠唱を行うが、長い詠唱を覚えていない私は子供の頃に教わった教会でクリスマスに歌われている歌を歌うだけ。
2曲ほど歌うとペトラさんは銀の器の水の変化を急いで確認していた。
「私の作る聖水とは色は違うけれど、それ以外は聖水としての効能を持っているわよマナ。しかも聖女の作る聖水と同等の効能を持っているわ」
ペトラさんは念入りに確認するとそう教えてくれた。
ということは・・・
「売れるってことですね」
弾んだ声で私が喜んでいるとペトラさんは呆れたように笑った。
「マナ、これは大変なことなのよ、マナは聖女ではないけれど、聖女と同等のことが出来てしまうのよ。空間浄化やヒールはしたことはある?」
聖女でなくてもいいけれど、聖女と同等の商品を提供出来るということなのか。
「そういった事は教えてもらったことも、したこともありませんが・・・」
「私がするようにやってみてくれるかしら?」
人が変わったようにペトラさんは私が出来るかもしれないことを確認し始めた。
いや・・・そろそろ帰らないと夕食を作ったり、家の事をしたいんだけれど・・・ペトラさんの押しに負けてその後午後からも作業場で教えられたことを反復して練習し続けましたよ。
空間浄化はあまり興味ないけれど、ヒールはティーロさんが怪我をして帰ったり、ポーションが無い場合に一瞬で治癒させることが出来ると聞いて俄然頑張った。
覚える事を頑張ったけれど、実際に怪我人が目の前にいるわけではないので使えるのかどうかはよくわからない。
明日からポーションを作った後に少し時間が欲しいと言われ了承し、ようやくこの一連の鍛錬が終了したんだけど、初めて夕方近くまで神殿に居ることになり、たまたま早めに帰って来たティーロさんは私がいない事を心配して神殿まで迎えに来てくれた。
「マナ、今日は何かトラブルでもあったのか?」
「いえ、そうじゃないんですが、新しく覚える事がありまして中々苦戦してました。今日は初日だったんでこんなに遅くなったけれど、明日からはこんなに遅くなることはないんで大丈夫ですよ」
「そうか、それならいいが、もし遅くなるようであれば神殿で待っていてくれれば俺が迎えに来るから」
「子供じゃないから大丈夫ですって、ふふふっ」
心配性のティーロさんからすれば家に私がいないから焦ったみたい。
作業場の戸締りを確認して外で待っているティーロさんを待たさないように急いだ。
「ティーロさんすみません、今日は遅くまで神殿に居たんで夕食を作るのが遅くなります」
「いや、マナも疲れているだろうし、今日みたいに遅くなる日は食堂で食べて帰ればいい、今日も結構商店に卸したから余裕もあるし、食費以外ほとんど使うことがないからかなり貯まってきているんだ」
「でもそれはティーロさんが頑張って稼いだお金なんで」
「いや、マナが協力してくれているから森に行けるし、俺の分まで家の事をしてくれているだろう。食事以外にも欲しい物があれば言って欲しい、街の通りに店も幾つかあるし見たい店があれば入ってみよう」
家に帰るのが遅くなったけれど、ティーロさんのお迎えと久しぶりの外食となりちょっと嬉しい。
家で食事するのも落ち着いて食べれるから好きなんだけど、たまの外食は珍しい料理に出会える機会があるからね。
嬉しくてティーロを見上げると、ティーロさんと目が合ってしまった。
夕暮れに一緒に出掛けるのも久しぶりだし、今日は街をぶらぶら歩きながら堪能して帰ることになった。
◇◇◇
夕食は前から気になっていた食堂に行くことにして、この際だからと衣類等も少し揃える事にした。
私達が持って来ていた服は行商で移動するときには適していたし街に溶け込んでいると思っていたけれど、いざ定住してみると明らかに着古した服装が一般市民の中でも浮いていたからだ。
王都の書店に入った時のように、その場で浮いてしまうような服装は目立つのでごくごくシンプルな普段着のドレスを2着購入することにした。
少しだけ高いけれど緑色の可愛いデザインのドレスがあり、でも普段使いにはもったいないから躊躇していたらその様子をティーロさんが見ていてそのドレスも購入するようにと店員さんに声をかけた。
私は悩んでいたけれど、いきなり3枚もドレスを購入することに慌てて断ろうとしたんだけど、ティーロさんが今日の売り上げの中から出してくれた。
後でお金を払うと言っても安いドレスだから構わないと言ってきかなかった。
ティーロさんもズボンとシャツを購入していたけど、誰もが着ているようなシンプルな物でも着る人が着れば似合うんだなぁって試着室から出てきたティーロさんを見て思ってしまった。
服にはたいしてこだわりがないそうで、今持っているようなズボンやシャツの若干布の質が上がった新品なので、近づいて見ないとその変化はあまりわからないんだけどね。
森の中に入るので丈夫な靴もこの機会に揃えたり、私も同じような森の中を歩きやすい靴を買った。
「もう少し欲しい物はないのか?」
「もう十分ですよ、ティーロさんありがとうございます。この緑色のドレスは特別な時に着ますね」
既製品ながら自分で選んだ新しいドレスを着ることが出来るのは実は嬉しい。
すっかり忘れていたお洒落というものが出来るようになるとは。
そう心の中で思いながらニヤニヤしていたら、ティーロさんが困ったように笑った。
「特別な時っていったいどんな時なんだ?このドレスは普段用に使ってくれ」
「特別な時っていうのは、ほら・・・えっと、今みたいにティーロと一緒に街に出かけたり、遊びに行ったりする時ですよ」
そうだ、周りから見れば私達夫婦って事だし、夫婦で仲良くお出かけって見られてるのよね・・・
「いや、これは特別のうちに入れなくていいから、マデカントに来てからまだ観光らしい観光もしていないし、神殿の仕事に休日があれば出かけて見ようか?」
お洒落してお出かけなんて、そんなハレの日いいんですか?!
「本当に良いんですか?」
「良いに決まってるだろう、だいたいマナは働き過ぎだからもう少し息抜きをすればいいと俺は思ってるぞ」
ティーロと一緒なら安全だと思う。
日本と違って治安に関してはこっちの世界は危険な事が多いからティーロさんの言いつけを守ってなるべく一人で外出しないようにしていたからね。
「それじゃあ約束ですよ。明日、休日について聞いてきますね!」
当初は休日のことも決めていたんだけど、神殿の人手不足を見かねて間に合ってなかったポーションの供給に力を注いで休み抜きで通ってたんだけど、全然ティーロと出かけられなかったし、ティーロさんから出かけようと声をかけてくれたので、これはちょっと神殿に休めそうな日を聞いてみないと。
マデカントの郊外の森に魔物が出るのなら魔物や魔獣(イマイチ区別がつかないんだけどね)避けになればと。
ティーロさんはいつも私が作ったポーションを森に持って行ってくれているけれど、一人で森に入るのなら少しでも安全を確保できる物があればなって思ってたから。
お弁当も持って行ってもらっているけれど、クッキーのような保存が効くような菓子も荷物にならない程度を持って行ってもらっている。
ティーロさんは大丈夫だって言うけれど、慣れた森ではないだろうし、迷ってしまったら心配。
ポーションは神殿で作る物とヒルダさんが作る物では材料が違うんだけど、最終的にはどちらの材料でもポーションを作ることが出来るのよね。
素材の違いは性能の違いになるのかは二つを比べたことがないからわからないんだけど、神殿の材料で私が作るポーションはすでに神殿から一般向けに販売しているけれど問題なく使用されているみたい。
二つを並べて比べると若干色が違うのかな?
ヒルダさんの素材で作るポーションのほうが少し色が濃い気がする。
ヒルダさんの素材で作るポーションは家で時間があれば作っていて、今はティーロさんにしか渡していないし、ヒルダさんが合流したらまたヒルダさんに売ってもらえばいいかなって。
神殿までティーロさんに送ってもらい、神殿の裏庭から今度はティーロさんが仕事に行く背中が見えなくなるまで見送った。
本当は何人かのチームで森に入ることが安全なのに、ティーロさんがそれをしないのはやっぱり左手の焼き印の存在なのだろう。
私も必要以上に神殿で働く人達と関わらないのは、この焼き印の存在を知られた時にどんな反応があるか怖いから・・・
他の使用人の人達が食堂で昼食を取っているのは知っているし、ペトラさんにも食堂へ行くことを誘われたけれども、作業場の邪魔にならない所で家から持って来たお弁当を一人で食べていた。
孤食はこの世界で珍しいのか、他の使用人の人達は私がここで一人で食べていてもじっと見るだけで何も言わずに作業場から去っていく。
とにかく多くの人と一緒に働くことは毎日緊張することで、またあの屋敷のように忌み嫌われる扱いになるかもしれないと思うと必要以上に近づかないほうがいいのだ。
与えられた仕事を一心不乱に取り掛かっていると、どんどんポーションを作る技術が向上していき、まぁ今では昼食前には一日のノルマが出来上がってしまうのでお弁当を食べずに帰ることも可能なんだけど、私が自分の分を作らなければティーロさんはお弁当を持っていく事を辞退するだろうから、昼食を神殿で食べて帰っている。
作業場には窓があり、たまに机の上から顔を窓の方へと向けると広い裏庭の景色が目に入ってくる。
スズメに似ているがすこしピンク色に近い小鳥が窓際によく来ていたのでパンくずを持って来きて、窓際に置いておけば毎日定期的にパンくずを確認に来るようになっているし寂しくはない。
昼食を作業場で食べた後に、すでに出来上がっているポーションを箱に詰めて検品してもらう準備をしていたらペトラさんが作業場に入って来た。
「丁度良かった、ペトラさん検品お願いします」
「いつもありがとう、マナの作るポーションは効能にムラがないから安心して領主様に卸すことが出来るわ」
「えっ?一般の方向けじゃなかったんですか?」
「最初はそのつもりだったんだけど、今は領主様の所でもポーションが足りないくらいだし、聖女が作る物と遜色がないポーションだから神官様の許可を得てあちらにもお渡ししているのよ」
大丈夫なのだろうか・・・聖属性の魔力を持つ者ならポーションは作れるが、聖属性の魔力を持つ神殿から聖女と認められた者の作るポーションとではその効能が明らかに違うって聞いていたから・・・
私の不安そうな表情を読み取ったのかペトラさんが慌てて声をかけてきた。
「大丈夫だから!マナの作る物は聖女と同じレベルのポーションなのよ、本当に聖女じゃないのよね・・・?」
この神殿にやって来た時に、聖属性の魔力の強さを確認するために神官の目の前で選別の石に手を置いたが、石は光ったものの聖女を認定する光り方ではなかったので、あくまで聖属性の魔力を持つ一般人のはず。
この聖属性の魔力を持つ人自体が少ないから稀少といえば稀少なんだろうけれど。
選別の石に触れる時に左手の焼き印は神官さんとペトラさんには見られてしまったけれど、ヒルダさんから事情を伝えられているからか何も言われなかったし、私の説明を聞いてくれてそれから優しく頷いてくれた。
神殿の仕事をしてもらえれば焼き印など問題ないそうなので、ちょっと安心した。
一日に一度は作業場にペトラさんが顔を出してくれるので、その時に聖属性の魔力についていろいろ質問している。
他にも何か便利な使い方が出来るのであれば教えて欲しかったんだけど、聖水を試してみた話をしたところ、色が変わった話にペトラさんが興味を示してくれた。
「色が変わってからその水はどうだった?」
「実は聖水の家での使い道がわからずにそのままなんですが・・・夫にはペトラさんから頂いた聖水を持って森に行ってもらってます」
「ここでその通りに作ってもらえる時間ってあるかしら?」
作り方自体は簡単だし、もし自分で作れるのであればヒルダさんの所で売れる商品が増えるのでペトラさんの前で作る事を了承すると、ペトラさんは作業場にある聖水を作る銀製品を準備し始めた。
ただの水に手を浸たしてから詠唱を行うが、長い詠唱を覚えていない私は子供の頃に教わった教会でクリスマスに歌われている歌を歌うだけ。
2曲ほど歌うとペトラさんは銀の器の水の変化を急いで確認していた。
「私の作る聖水とは色は違うけれど、それ以外は聖水としての効能を持っているわよマナ。しかも聖女の作る聖水と同等の効能を持っているわ」
ペトラさんは念入りに確認するとそう教えてくれた。
ということは・・・
「売れるってことですね」
弾んだ声で私が喜んでいるとペトラさんは呆れたように笑った。
「マナ、これは大変なことなのよ、マナは聖女ではないけれど、聖女と同等のことが出来てしまうのよ。空間浄化やヒールはしたことはある?」
聖女でなくてもいいけれど、聖女と同等の商品を提供出来るということなのか。
「そういった事は教えてもらったことも、したこともありませんが・・・」
「私がするようにやってみてくれるかしら?」
人が変わったようにペトラさんは私が出来るかもしれないことを確認し始めた。
いや・・・そろそろ帰らないと夕食を作ったり、家の事をしたいんだけれど・・・ペトラさんの押しに負けてその後午後からも作業場で教えられたことを反復して練習し続けましたよ。
空間浄化はあまり興味ないけれど、ヒールはティーロさんが怪我をして帰ったり、ポーションが無い場合に一瞬で治癒させることが出来ると聞いて俄然頑張った。
覚える事を頑張ったけれど、実際に怪我人が目の前にいるわけではないので使えるのかどうかはよくわからない。
明日からポーションを作った後に少し時間が欲しいと言われ了承し、ようやくこの一連の鍛錬が終了したんだけど、初めて夕方近くまで神殿に居ることになり、たまたま早めに帰って来たティーロさんは私がいない事を心配して神殿まで迎えに来てくれた。
「マナ、今日は何かトラブルでもあったのか?」
「いえ、そうじゃないんですが、新しく覚える事がありまして中々苦戦してました。今日は初日だったんでこんなに遅くなったけれど、明日からはこんなに遅くなることはないんで大丈夫ですよ」
「そうか、それならいいが、もし遅くなるようであれば神殿で待っていてくれれば俺が迎えに来るから」
「子供じゃないから大丈夫ですって、ふふふっ」
心配性のティーロさんからすれば家に私がいないから焦ったみたい。
作業場の戸締りを確認して外で待っているティーロさんを待たさないように急いだ。
「ティーロさんすみません、今日は遅くまで神殿に居たんで夕食を作るのが遅くなります」
「いや、マナも疲れているだろうし、今日みたいに遅くなる日は食堂で食べて帰ればいい、今日も結構商店に卸したから余裕もあるし、食費以外ほとんど使うことがないからかなり貯まってきているんだ」
「でもそれはティーロさんが頑張って稼いだお金なんで」
「いや、マナが協力してくれているから森に行けるし、俺の分まで家の事をしてくれているだろう。食事以外にも欲しい物があれば言って欲しい、街の通りに店も幾つかあるし見たい店があれば入ってみよう」
家に帰るのが遅くなったけれど、ティーロさんのお迎えと久しぶりの外食となりちょっと嬉しい。
家で食事するのも落ち着いて食べれるから好きなんだけど、たまの外食は珍しい料理に出会える機会があるからね。
嬉しくてティーロを見上げると、ティーロさんと目が合ってしまった。
夕暮れに一緒に出掛けるのも久しぶりだし、今日は街をぶらぶら歩きながら堪能して帰ることになった。
◇◇◇
夕食は前から気になっていた食堂に行くことにして、この際だからと衣類等も少し揃える事にした。
私達が持って来ていた服は行商で移動するときには適していたし街に溶け込んでいると思っていたけれど、いざ定住してみると明らかに着古した服装が一般市民の中でも浮いていたからだ。
王都の書店に入った時のように、その場で浮いてしまうような服装は目立つのでごくごくシンプルな普段着のドレスを2着購入することにした。
少しだけ高いけれど緑色の可愛いデザインのドレスがあり、でも普段使いにはもったいないから躊躇していたらその様子をティーロさんが見ていてそのドレスも購入するようにと店員さんに声をかけた。
私は悩んでいたけれど、いきなり3枚もドレスを購入することに慌てて断ろうとしたんだけど、ティーロさんが今日の売り上げの中から出してくれた。
後でお金を払うと言っても安いドレスだから構わないと言ってきかなかった。
ティーロさんもズボンとシャツを購入していたけど、誰もが着ているようなシンプルな物でも着る人が着れば似合うんだなぁって試着室から出てきたティーロさんを見て思ってしまった。
服にはたいしてこだわりがないそうで、今持っているようなズボンやシャツの若干布の質が上がった新品なので、近づいて見ないとその変化はあまりわからないんだけどね。
森の中に入るので丈夫な靴もこの機会に揃えたり、私も同じような森の中を歩きやすい靴を買った。
「もう少し欲しい物はないのか?」
「もう十分ですよ、ティーロさんありがとうございます。この緑色のドレスは特別な時に着ますね」
既製品ながら自分で選んだ新しいドレスを着ることが出来るのは実は嬉しい。
すっかり忘れていたお洒落というものが出来るようになるとは。
そう心の中で思いながらニヤニヤしていたら、ティーロさんが困ったように笑った。
「特別な時っていったいどんな時なんだ?このドレスは普段用に使ってくれ」
「特別な時っていうのは、ほら・・・えっと、今みたいにティーロと一緒に街に出かけたり、遊びに行ったりする時ですよ」
そうだ、周りから見れば私達夫婦って事だし、夫婦で仲良くお出かけって見られてるのよね・・・
「いや、これは特別のうちに入れなくていいから、マデカントに来てからまだ観光らしい観光もしていないし、神殿の仕事に休日があれば出かけて見ようか?」
お洒落してお出かけなんて、そんなハレの日いいんですか?!
「本当に良いんですか?」
「良いに決まってるだろう、だいたいマナは働き過ぎだからもう少し息抜きをすればいいと俺は思ってるぞ」
ティーロと一緒なら安全だと思う。
日本と違って治安に関してはこっちの世界は危険な事が多いからティーロさんの言いつけを守ってなるべく一人で外出しないようにしていたからね。
「それじゃあ約束ですよ。明日、休日について聞いてきますね!」
当初は休日のことも決めていたんだけど、神殿の人手不足を見かねて間に合ってなかったポーションの供給に力を注いで休み抜きで通ってたんだけど、全然ティーロと出かけられなかったし、ティーロさんから出かけようと声をかけてくれたので、これはちょっと神殿に休めそうな日を聞いてみないと。
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