スペアの聖女

里音ひよす

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閑話 ティーロ マナとの暮らし

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マデカントで二人で暮らし始めてから2週間程度経った。
 神殿が用意してくれていた家は神殿から近い場所にあり、ここに来るまでは神殿の中にある使用人専用の家の中に一室あてがわれていると思っていたので、その破格の待遇に驚いた。
 どうもヒルダさんが事前にあれこれとあちらに要求してくれていたようで、人手不足の神殿からすれば神殿の所有物件の中から我々ようにと用意してくれていたようだ。
 家の中は掃除してくれていたようで、室内に入っても淀んだ空気や埃もなく、食器や調理道具も新しいものではないが一度洗い直してくれていた。
 神殿自体が街の中心近くにあるので、提供されている家も街の中心近くにあり、買い物などには便利な場所だった。

 マナは神殿から一日に作って欲しいと言われているポーションの数を作ればその日の仕事は終了で、夕方まで神殿で働くのかと思っていたのが昼前には仕事を終えて帰れるので、朝は一緒に出掛けて神殿まで送って行き、俺はそのまま街の郊外へと移動する。
 移動には街の中を定期的に走る寄り合い馬車で移動し、郊外から森に入り狩りを行う。
 マナから森に行った時にあったら欲しいと頼まれている素材も見つけたら採集して帰るが、基本的には肉として売れる物を狩っている。
 街の発展に伴い急速に森の近くまで人の住居が増えているので郊外の森にも魔獣が生息しているので見つけたら仕留めることにしている。
 マデカント領の私兵も領主の命で毎月一度は討伐隊を派兵しているが、駆除した場所を新たに縄張りとして住み着く魔獣もいるので中々森の奥深くまで進むことが出来ないようだ。
 森に入るまでは寄り合い馬車で移動出来るが、森から帰る時には荷物が増えているし、寄り合い馬車に乗るには匂いが嫌がられるので郊外に住む住人と交渉して荷馬車でヒルダさんの知り合いの商店まで送ってもらっている。
 賃金で払う場合もあれば、狩ってきた動物の肉と交換の時もあり、しばらくはこの街に滞在することを伝え、毎日のように利用しているので喜ばれている。

 通常は魔獣駆除を行うのは数人で組んで挑む場合が多いので、一人で森に入って狩っていることに驚かれたが、別段魔獣を狩るつもりで行っているわけではなく、襲ってくるので狩っているだけだ。
 連日のように狩って来た動物や魔獣を商店に卸していると、マデカント伯爵の私兵の仕事を紹介されたが、期間限定でこの街に居るだけだと断った。
 短期間での雇用もあると言われたが、部隊に入る事自体が今の俺には躊躇いがある。
 ここの領主と以前の主が交流があったし、俺の顔を知っている者がいれば必然的に例の事件が此処でも知られてしまうだろうし、いくら冤罪だと言っても俺の言葉は誰も信じてくれないだろう。
 それに雇用されればマナを一人にさせてしまう時間が増えてしまう。
 今でも午後からのマナのことが心配だが、俺も午前中だけの仕事を探すわけにもいけないから早く狩りを切り上げて帰るようにしている。
 マナは可愛いから変な男が寄って来るかも知れないからな。

 神殿からの帰りに買い物する以外では極力一人で街の中を歩かないように言い聞かせているのは、マナの安全のためだ。

 若くあんなに可愛い子が一人で歩いていると良からぬ者を吸い寄せる恐れがあるからな。

 必要な物があれば俺が買って帰ると言っているが、食材といった物は自分で買いたいらしく、大量に食材があれば買いに行く必要がないだろうと大量に買い込んでみたことがあったが、使わない食材があれば無駄になると怒られた。
 結局その大量に買い込んだ食材を無駄にしないように料理を作ってくれたんだが、もったいないことをしたくないからと二度と大量買いをしないようにと念を押されてしまった。

 最初は料理を俺が作っていたが、いつの間にか時間があるからとマナが夕食を作って待っていてくれるようになり、朝食は俺が担当するがマナが夕食を作っている時に下ごしらえを済ましている料理を昼食用にと弁当まで作ってくれている。
 神殿でマナは作業場で一人で食事を取るので、ついでに俺の分も作ってくれると。

 俺が一度結婚していたことをマナは知っている。
 その結婚生活の事を詳しくは話していないが、マナと一緒に暮らしているこの生活のほうが新婚生活らしいというか・・・全てが新鮮だった。
 今思えば元妻は結婚前も、結婚してからも全く家事全般をしてくれなかったので代わりに俺がしていたし・・・

 居心地の良い今で毎晩マナと一緒に他愛のない話をしては笑い、夜が更けぬうちに互いの部屋へと戻って寝るが、隣の部屋にマナが寝ていると思うと目が覚めて眠れない夜もある。
 宿に泊まっていた時には同じベッドで眠る機会が何度もあり、すぐ側にマナの寝息を感じながら一睡も出来なかった夜もあったな。
 
 夫婦という設定を互いに納得して暮らしているが、マナのほうは俺の事を無害な同居人としてまったく意識していない様子だ。

 俺が変に意識してマナを困らせないように気を付けないとな。

 今日はマナは神殿で聖女から聖水を貰って来たと携帯用の小瓶に詰め替えた聖水を渡してくれた。
 森に一人で入っているからもしもの時に使えるかもしれないと。

 どこまで優しいんだろう。

 確かに聖水を体に振りかけていれば魔物は嫌がりしばらくは寄ってこないだろう。
 怪我を心配してくれているのは嬉しいが、これを振りかけていたら魔物が寄ってこないので商店に卸す獲物が減ってしまうな・・・
 携帯用に小瓶にしてくれているので普段は使わないが緊急時に使えるようにカバンに入れた。
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