10 / 62
マデカント領1
しおりを挟む
数日間の寄り合い馬車での旅はようやく終わる。
今日の午後にはマデカントに到着すると思うとやっと着くかと思いホッとする。
自分の足で歩くわけではないけれど、乗り物に揺られるのも地味に体力を奪われるみたいで、時々休憩する度に少し体を動かしてストレッチしていたけど、だんだん疲労が蓄積してきたなって頃合いにようやくマデカントに辿り着くことが出来そうだ。
数日間の宿での宿泊の半分位はティーロさんの剣を乗り越えてティーロさんの領地に私が不法に侵入することがあったんだけど、目が覚めるとティーロさんが逆に私の領地で寝ていたりする。
剣を乗り越えて私が寝ぼけて移動した時点で空いているさっきまで私が寝ていたスペースへと移動して回避していたとか。
その話を聞いて私は顔に熱が集中し、赤くなる事を自覚出来たが、ティーロさんは何事もないように淡々とそのことを説明してくれた。
「俺はマナから100%信頼されているからな」
「そんなことよりもティーロさんの領地に押し入ってばかりで本当にすみません」
「・・・・・・・・・・」
適切な距離感を主張するティーロさんの言葉を遮り謝り続けたわ。
広いベッドで寝るとついつい体が動いてしまうんだろう・・・?
狭いベッドだからといってベッドから落ちたことはないんだけどね・・・。
寝ぼけて何か変な事を口走ったり、変な事をティーロさんにしていないか気になるけれど、それを直接聞くことも恥ずかしい。
いっそこんな迷惑を被ったと言ってくれれば即座に謝ることが出来るのに、大人なティーロさんは細かい苦情を並び立てることもなく、私が目覚める頃には先に起きてたりするし・・・
女子の癖に毎朝寝顔を見られるのも恥ずかしい。
私が黙っているとティーロさんが気を使ってか話題を変えてきた。
「マデカントに到着したら、着いた早々に仕事に取り掛かるのか?」
一刻も早くと求められていても、午後から即仕事はさすがに無理だろうと思う。
「滞在する部屋の確認もするけれど、具体的な仕事内容とか聞いてからにしたいから・・・今日は本格的にポーションを作るのは避けるつもりです」
「移動は一旦終わるが、俺とマナはあちらでも夫婦という設定はそのままだそうだ」
理由はやっぱり地方は独身女性が少ないってことで、ティーロさんの存在が私の身の安全を強化出来るってことだった。
街の中を見渡した時に確かにティーロさんは体が大きくて鍛えている感じがするから抑止力にはなるのだろう。
私は神殿の裏方でポーションを作る仕事があるけれど、ティーロさんは私が神殿にいる間には近くの森に入って売れる素材を集めたりするということだ。
ヒルダさんの雇っている使用人というポジションで教えられている商店に素材を卸すことが出来るので、何処かで雇われるよりも高い賃金を得ることが出来るかもしれない。
あくまでティーロさんの頑張りと運次第だろうけれど。
寄り合い馬車がマデカント領に入ってから数時間経つと少しずつ景色が賑やかになってきた。
領主の住む街は魔獣や敵に攻められることを想定してか高い壁に囲まれていて、入り口は大きい門になっている。
夜間は完全に閉じるそうで、門番が何交代かで門の前にある関所のような場所で人の出入りを確認している。
重要な仕事に就く場合は身分証明書が必要になるが、私のようにこの世界ではない者や、勝手に国を越えてくる者でも仕事があれば雇ってもらえるので提示する物がなければないでかまわなかった。
ただ、お尋ね者や明らかに怪しい者は別室に連れていかれるそうなので、一応門番としての役目もあるみたい。
ヒルダさんが神殿から頼まれた依頼書があるので私とティーロさんはあっさりと通過することが出来き、そのまま徒歩で街の中へと入った。
この街はヒルダさんと行商には来たことのない街なので、街の中に何があるか私は知らなかったけれど、ティーロさんは以前にティーロさんが仕えていた領主と共に訪れたことがあるので、少しだけ街の中の事を知っているという事だった。
何処そこに美味しい食堂があるとか、鍛冶屋がどこら辺にあるとか、酒場が何処にあるとか位らしいけれど、美味しい食堂を知っているのなら嬉しい。
此処でも出来るだけ質素倹約に生活するつもりだけれど、たまには美味しい店とかにティーロさんと行けたらいいな。
神殿の場所は通りを歩く人に訊ねたらすぐに教えてくれた。
街の中の比較的中央寄りにあるそうで、初めて歩く街の通りをゆっくりと眺めながら歩いて行った。
今歩いている通りは門から抜けるこの街の大通りで、真っすぐに進むとやがて領主の住む館に辿り着くそうで、神殿はそのもっと手前に建てられている。
街の規模がもっと小さかった頃に建てられた神殿なので、今は比較的に小さく見えるそうだけど神官も年中在住しているし、聖女も何人か雇っていたので建物は小さくても神殿の機能は滞りなく行われていたのに、更に街が発展したのと聖女が一人辞めてしまったのが小さな歪みとなってゆき、少し業務が滞り始めているとか。
今は神官が一人とヒルダさんの友人の聖女が一人でその神殿の主たる業務を行い、雑務は使用人を雇って行っているので、私もその使用人というポジションで神殿で働くことになる。
本物の聖女が作ったポーションと一般人の私が作ったポジションではやっぱり同じ物として売るのはどうかと思うので、比較的軽症な人に対して私が作るポジションで対応してもらい、重要な案件には本物の聖女が関わることがいいだろうし。
「ティーロさん、あれはパン屋でしょうか?」
ガラスは貴重なので、小さな店はあまりガラス窓を取り付けなかったりもするけれど、大きな通り沿いのパン屋だからか少し大きめの窓から棚に並んだパンが見える。
「地方にしては珍しく沢山の種類を置いているな、神殿に挨拶してからこっちに戻って入ってみるか?」
ティーロさんは私のパン好きを知っているので、私が頼むでもなく後で来ようと声をかけてくれた。
異世界の食べ物は若干味が薄かったり、すごく濃かったり、極端なこともあるけれどパンは美味しかったので、ついつい好んで食べてしまっていた。
ティーロさんが作る物は美味しいんだけど、たまに食堂ですらハズレのような味でも経営出来ているのでこの世界の人の味覚がよくわからない。
私が作る物は私の口に合う味付けしかしていないけれど、ヒルダさんもティーロさんも美味しいって食べてくれるので、この世界の人が本当に美味しくない物っていうのが何なのか気になるところ。
馬車で揺られ過ぎて硬くなった体はゆっくり歩くことでだいぶ解れてきたのか少し楽になった。
そうこうしていると、たぶんあれが神殿なんだろうなっていう建物が通りの左側に見えてきた。
神殿は神官が常駐しているので綺麗に整備されていて、表から入らずに、神殿の横にある細道に曲がり裏口を探した。
裏口にも木の扉が付けられていて、木の扉を押し開けて裏口から声をかけた。
「すみません!誰か居ませんか?」
二度ほど声をかけると少し年配の女性が裏口へと出てきて私とティーロさんを見て近くまで来てくれた。
「何か御用でしょうか?」
「ペトラさんからこちらに来るようにと連絡を受けていた者なのですが、こちらの手紙を渡していただけますか?」
そう伝えてヒルダさんから預かっていた手紙を女性に渡した。
「ちょっと確認させていただきますんで、裏庭のベンチに座って待っていてもらえますか」
裏口から中に入れてくれた女性は私とティーロさんをその場に残して神殿の中へと確認に行った。
裏にはは少し広めで畑を作ったりハーブのような植物を栽培していた。
石造りの神殿とは違い、裏口から見る神殿は神官や聖女が生活するスペースのようで普通の民家のような建物が2棟建っていた。
大きめの民家のような石造りの建物から出てきたのがどうやらヒルダさんの友人の聖女らしく、袖のあるドレスなのだが、ウエストなどを締め付けることのないネグリジェのような服を着ていた。
「あなたがマナね!!ヒルダから連絡を受けてから待ってたのよ!来てくれてありがとう」
そう言いながら足早にこちらにむけて走って来た。
「マナと言います。よろしくお願いします。えっと・・隣の人が私の・・夫です。」
「ティーロと言います。妻と共にこちらに滞在させていただきます。よろしくお願いします。」
「私の名前はペトラよ。よろしくね。マナちゃんは若いのにもう結婚しているのね~、ヒルダから聞いていると思うけれど、若い女の子が街に働きにやってくると目立つし旦那さんと一緒に住むのなら安心ね」
ティーロさんのようにサラリと挨拶出来ずにいろいろどもってしまったけれど、ひとまず挨拶出来た。
「仕事ですが、いつから始めさせていただければよろしいでしょうか?就業時間やポーションとの一日当たりの製造目標も教えていただければいいのですが」
「仕事は明日からで大丈夫よ、今日は移動で疲れているだろうしゆっくり休んで頂戴。このあと二人に使ってもらう家に案内するつもりだけれど、ポーションは一日に10本程度作ってもらえれば有難いんだけれど、無理ならそれよりも少なくても全然かまわないの。目標量が出来ればその日の仕事は終わりでゆっくり休んでもらって構わないから。 ポーション作りは魔力も使うし疲れるでしょうし無理をさせるつもりはないのよ」
つまり、時給や日給でもなく設定している本数を作ればその日の給与が出るらしい。
さくさくポーションを作れば空いた時間に自分の好きなことが出来たり街をゆっくり楽しみむことも出来るのだ。
一冬ポーション作りを頑張ったおかげで10本位なら半日もかからずに出来るだろうし、こちらの神殿の用意してくれている家があるので滞在費の中で大きな金額を占める宿代も浮くし・・・
ニコニコしている私の表情にペトラさんは提示している事柄を受け入れてくれていると確信したのか笑顔で持っていた鍵を見せてくれた。
「これが今から案内する二人が暮らす家の鍵だけど、滞在中は好きに使って頂戴。すぐに案内させてもらってもいいかしら?」
「お願いします。今日はお言葉に甘えて休ませていただきますが、明日からはポーション作りを精一杯させていただきます」
「ありがとう。本当に困っていたからね、ヒルダがまたポーションを作り出したからヒルダに頼もうとしたら、大部分をマナが作った物だと聞いたんで、効能とかはすでに確認済みよ。私達神殿の者が作る物と比べても遜色ない物なので信頼しているわ」
そんなに褒めてもらうと少し照れてしまう。
ペトラさんは聖女の制服?の上にローブを羽織り、裏口から出ると私達を新しい家へと案内してくれた。
私達が滞在する家は一軒家で、2階建ての小さな家だった。
入り口の前は小さな花壇のスペースがかろうじてあり、石の階段が3段ほどあり玄関があった。
鍵を開けて中へと案内されると小さな居間があり、水回りは全て1階にあった。
嬉しいことに小さな浴室もついていて陶器の風呂が置かれていた。
私では丁度いいけれど、ティーロさんにはちょっと小さめの浴室だった。
2階は3部屋あり、どの部屋にもベッドが置かれているのですぐに使うことが出来る。
今までの宿のように二人で一部屋を使う必要もなく暮らすことが出来るし、裏庭も小さいけれどついていてきっとティーロさんが剣を振ったり、家庭菜園をしていた跡があるので暇があれば何等か作ることも可能みたい。
3カ月程の仕事だから種を植えて育てているうちに去ることになりそうなんで、家庭菜園は見送ろう。
台所は事前に掃除してくれていたのですぐに使える状態だし、本当に私達が来るためにいろいろ揃えていてくれて、すぐにでも生活出来るようにしてくれていたのだ。
「それじゃあ明日からよろしくね。神官は今日は領主様の屋敷に呼ばれているから、明日私と一緒に挨拶にいけばいいわ」
「明日からよろしくお願いします」
私が感謝の気持ちで深くお辞儀をするとペトラさんは私のお辞儀を慌てて止めた。
「感謝するのは私達のほうなのよ!本当にこの話を受けてくれて助かるわ。明日必ず来てよね」
ペトラさんは私とティーロさんが見送る中神殿へと帰って行った。
今日の午後にはマデカントに到着すると思うとやっと着くかと思いホッとする。
自分の足で歩くわけではないけれど、乗り物に揺られるのも地味に体力を奪われるみたいで、時々休憩する度に少し体を動かしてストレッチしていたけど、だんだん疲労が蓄積してきたなって頃合いにようやくマデカントに辿り着くことが出来そうだ。
数日間の宿での宿泊の半分位はティーロさんの剣を乗り越えてティーロさんの領地に私が不法に侵入することがあったんだけど、目が覚めるとティーロさんが逆に私の領地で寝ていたりする。
剣を乗り越えて私が寝ぼけて移動した時点で空いているさっきまで私が寝ていたスペースへと移動して回避していたとか。
その話を聞いて私は顔に熱が集中し、赤くなる事を自覚出来たが、ティーロさんは何事もないように淡々とそのことを説明してくれた。
「俺はマナから100%信頼されているからな」
「そんなことよりもティーロさんの領地に押し入ってばかりで本当にすみません」
「・・・・・・・・・・」
適切な距離感を主張するティーロさんの言葉を遮り謝り続けたわ。
広いベッドで寝るとついつい体が動いてしまうんだろう・・・?
狭いベッドだからといってベッドから落ちたことはないんだけどね・・・。
寝ぼけて何か変な事を口走ったり、変な事をティーロさんにしていないか気になるけれど、それを直接聞くことも恥ずかしい。
いっそこんな迷惑を被ったと言ってくれれば即座に謝ることが出来るのに、大人なティーロさんは細かい苦情を並び立てることもなく、私が目覚める頃には先に起きてたりするし・・・
女子の癖に毎朝寝顔を見られるのも恥ずかしい。
私が黙っているとティーロさんが気を使ってか話題を変えてきた。
「マデカントに到着したら、着いた早々に仕事に取り掛かるのか?」
一刻も早くと求められていても、午後から即仕事はさすがに無理だろうと思う。
「滞在する部屋の確認もするけれど、具体的な仕事内容とか聞いてからにしたいから・・・今日は本格的にポーションを作るのは避けるつもりです」
「移動は一旦終わるが、俺とマナはあちらでも夫婦という設定はそのままだそうだ」
理由はやっぱり地方は独身女性が少ないってことで、ティーロさんの存在が私の身の安全を強化出来るってことだった。
街の中を見渡した時に確かにティーロさんは体が大きくて鍛えている感じがするから抑止力にはなるのだろう。
私は神殿の裏方でポーションを作る仕事があるけれど、ティーロさんは私が神殿にいる間には近くの森に入って売れる素材を集めたりするということだ。
ヒルダさんの雇っている使用人というポジションで教えられている商店に素材を卸すことが出来るので、何処かで雇われるよりも高い賃金を得ることが出来るかもしれない。
あくまでティーロさんの頑張りと運次第だろうけれど。
寄り合い馬車がマデカント領に入ってから数時間経つと少しずつ景色が賑やかになってきた。
領主の住む街は魔獣や敵に攻められることを想定してか高い壁に囲まれていて、入り口は大きい門になっている。
夜間は完全に閉じるそうで、門番が何交代かで門の前にある関所のような場所で人の出入りを確認している。
重要な仕事に就く場合は身分証明書が必要になるが、私のようにこの世界ではない者や、勝手に国を越えてくる者でも仕事があれば雇ってもらえるので提示する物がなければないでかまわなかった。
ただ、お尋ね者や明らかに怪しい者は別室に連れていかれるそうなので、一応門番としての役目もあるみたい。
ヒルダさんが神殿から頼まれた依頼書があるので私とティーロさんはあっさりと通過することが出来き、そのまま徒歩で街の中へと入った。
この街はヒルダさんと行商には来たことのない街なので、街の中に何があるか私は知らなかったけれど、ティーロさんは以前にティーロさんが仕えていた領主と共に訪れたことがあるので、少しだけ街の中の事を知っているという事だった。
何処そこに美味しい食堂があるとか、鍛冶屋がどこら辺にあるとか、酒場が何処にあるとか位らしいけれど、美味しい食堂を知っているのなら嬉しい。
此処でも出来るだけ質素倹約に生活するつもりだけれど、たまには美味しい店とかにティーロさんと行けたらいいな。
神殿の場所は通りを歩く人に訊ねたらすぐに教えてくれた。
街の中の比較的中央寄りにあるそうで、初めて歩く街の通りをゆっくりと眺めながら歩いて行った。
今歩いている通りは門から抜けるこの街の大通りで、真っすぐに進むとやがて領主の住む館に辿り着くそうで、神殿はそのもっと手前に建てられている。
街の規模がもっと小さかった頃に建てられた神殿なので、今は比較的に小さく見えるそうだけど神官も年中在住しているし、聖女も何人か雇っていたので建物は小さくても神殿の機能は滞りなく行われていたのに、更に街が発展したのと聖女が一人辞めてしまったのが小さな歪みとなってゆき、少し業務が滞り始めているとか。
今は神官が一人とヒルダさんの友人の聖女が一人でその神殿の主たる業務を行い、雑務は使用人を雇って行っているので、私もその使用人というポジションで神殿で働くことになる。
本物の聖女が作ったポーションと一般人の私が作ったポジションではやっぱり同じ物として売るのはどうかと思うので、比較的軽症な人に対して私が作るポジションで対応してもらい、重要な案件には本物の聖女が関わることがいいだろうし。
「ティーロさん、あれはパン屋でしょうか?」
ガラスは貴重なので、小さな店はあまりガラス窓を取り付けなかったりもするけれど、大きな通り沿いのパン屋だからか少し大きめの窓から棚に並んだパンが見える。
「地方にしては珍しく沢山の種類を置いているな、神殿に挨拶してからこっちに戻って入ってみるか?」
ティーロさんは私のパン好きを知っているので、私が頼むでもなく後で来ようと声をかけてくれた。
異世界の食べ物は若干味が薄かったり、すごく濃かったり、極端なこともあるけれどパンは美味しかったので、ついつい好んで食べてしまっていた。
ティーロさんが作る物は美味しいんだけど、たまに食堂ですらハズレのような味でも経営出来ているのでこの世界の人の味覚がよくわからない。
私が作る物は私の口に合う味付けしかしていないけれど、ヒルダさんもティーロさんも美味しいって食べてくれるので、この世界の人が本当に美味しくない物っていうのが何なのか気になるところ。
馬車で揺られ過ぎて硬くなった体はゆっくり歩くことでだいぶ解れてきたのか少し楽になった。
そうこうしていると、たぶんあれが神殿なんだろうなっていう建物が通りの左側に見えてきた。
神殿は神官が常駐しているので綺麗に整備されていて、表から入らずに、神殿の横にある細道に曲がり裏口を探した。
裏口にも木の扉が付けられていて、木の扉を押し開けて裏口から声をかけた。
「すみません!誰か居ませんか?」
二度ほど声をかけると少し年配の女性が裏口へと出てきて私とティーロさんを見て近くまで来てくれた。
「何か御用でしょうか?」
「ペトラさんからこちらに来るようにと連絡を受けていた者なのですが、こちらの手紙を渡していただけますか?」
そう伝えてヒルダさんから預かっていた手紙を女性に渡した。
「ちょっと確認させていただきますんで、裏庭のベンチに座って待っていてもらえますか」
裏口から中に入れてくれた女性は私とティーロさんをその場に残して神殿の中へと確認に行った。
裏にはは少し広めで畑を作ったりハーブのような植物を栽培していた。
石造りの神殿とは違い、裏口から見る神殿は神官や聖女が生活するスペースのようで普通の民家のような建物が2棟建っていた。
大きめの民家のような石造りの建物から出てきたのがどうやらヒルダさんの友人の聖女らしく、袖のあるドレスなのだが、ウエストなどを締め付けることのないネグリジェのような服を着ていた。
「あなたがマナね!!ヒルダから連絡を受けてから待ってたのよ!来てくれてありがとう」
そう言いながら足早にこちらにむけて走って来た。
「マナと言います。よろしくお願いします。えっと・・隣の人が私の・・夫です。」
「ティーロと言います。妻と共にこちらに滞在させていただきます。よろしくお願いします。」
「私の名前はペトラよ。よろしくね。マナちゃんは若いのにもう結婚しているのね~、ヒルダから聞いていると思うけれど、若い女の子が街に働きにやってくると目立つし旦那さんと一緒に住むのなら安心ね」
ティーロさんのようにサラリと挨拶出来ずにいろいろどもってしまったけれど、ひとまず挨拶出来た。
「仕事ですが、いつから始めさせていただければよろしいでしょうか?就業時間やポーションとの一日当たりの製造目標も教えていただければいいのですが」
「仕事は明日からで大丈夫よ、今日は移動で疲れているだろうしゆっくり休んで頂戴。このあと二人に使ってもらう家に案内するつもりだけれど、ポーションは一日に10本程度作ってもらえれば有難いんだけれど、無理ならそれよりも少なくても全然かまわないの。目標量が出来ればその日の仕事は終わりでゆっくり休んでもらって構わないから。 ポーション作りは魔力も使うし疲れるでしょうし無理をさせるつもりはないのよ」
つまり、時給や日給でもなく設定している本数を作ればその日の給与が出るらしい。
さくさくポーションを作れば空いた時間に自分の好きなことが出来たり街をゆっくり楽しみむことも出来るのだ。
一冬ポーション作りを頑張ったおかげで10本位なら半日もかからずに出来るだろうし、こちらの神殿の用意してくれている家があるので滞在費の中で大きな金額を占める宿代も浮くし・・・
ニコニコしている私の表情にペトラさんは提示している事柄を受け入れてくれていると確信したのか笑顔で持っていた鍵を見せてくれた。
「これが今から案内する二人が暮らす家の鍵だけど、滞在中は好きに使って頂戴。すぐに案内させてもらってもいいかしら?」
「お願いします。今日はお言葉に甘えて休ませていただきますが、明日からはポーション作りを精一杯させていただきます」
「ありがとう。本当に困っていたからね、ヒルダがまたポーションを作り出したからヒルダに頼もうとしたら、大部分をマナが作った物だと聞いたんで、効能とかはすでに確認済みよ。私達神殿の者が作る物と比べても遜色ない物なので信頼しているわ」
そんなに褒めてもらうと少し照れてしまう。
ペトラさんは聖女の制服?の上にローブを羽織り、裏口から出ると私達を新しい家へと案内してくれた。
私達が滞在する家は一軒家で、2階建ての小さな家だった。
入り口の前は小さな花壇のスペースがかろうじてあり、石の階段が3段ほどあり玄関があった。
鍵を開けて中へと案内されると小さな居間があり、水回りは全て1階にあった。
嬉しいことに小さな浴室もついていて陶器の風呂が置かれていた。
私では丁度いいけれど、ティーロさんにはちょっと小さめの浴室だった。
2階は3部屋あり、どの部屋にもベッドが置かれているのですぐに使うことが出来る。
今までの宿のように二人で一部屋を使う必要もなく暮らすことが出来るし、裏庭も小さいけれどついていてきっとティーロさんが剣を振ったり、家庭菜園をしていた跡があるので暇があれば何等か作ることも可能みたい。
3カ月程の仕事だから種を植えて育てているうちに去ることになりそうなんで、家庭菜園は見送ろう。
台所は事前に掃除してくれていたのですぐに使える状態だし、本当に私達が来るためにいろいろ揃えていてくれて、すぐにでも生活出来るようにしてくれていたのだ。
「それじゃあ明日からよろしくね。神官は今日は領主様の屋敷に呼ばれているから、明日私と一緒に挨拶にいけばいいわ」
「明日からよろしくお願いします」
私が感謝の気持ちで深くお辞儀をするとペトラさんは私のお辞儀を慌てて止めた。
「感謝するのは私達のほうなのよ!本当にこの話を受けてくれて助かるわ。明日必ず来てよね」
ペトラさんは私とティーロさんが見送る中神殿へと帰って行った。
0
お気に入りに追加
3,798
あなたにおすすめの小説
【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません
七夜かなた
恋愛
家のために大学卒業と同時に親の決めた人と結婚し、あげく婿養子の夫と愛人に全てを奪われ死んでしまった私。
来世があるなら心から好きな人と幸せになりたいと思って目覚めると、異世界で別人に生まれ変わっていた。
しかも既に結婚していて夫は軍人らしく、遠く離れた地へ単身赴任中。もう半年以上別居状態らしい。
それにどうやら今回も政略結婚で、互いに愛情なんて持っていない。
もう二度と不幸な結婚はしたくない。
この世界の何もかもを忘れてしまった私は一から猛勉強し、夫に捨てられても生きて行けるよう自立を目指します。
え、もう帰って来たの!帰ってくるなら先に連絡ください。
でも、今度の旦那様は何だか違う?
無愛想な旦那様と前世のトラウマが原因で素直に愛を受け取れない主人公。
★は主人公以外目線です。
【*】はR18
本編は完結済みです。37万文字
異世界で四神と結婚しろと言われました
浅葱
恋愛
【第三部完結・第四部開始】中国留学を終えて帰国する飛行機に乗っていたはずが、気がついたら見知らぬところにいました。迎えが来たので着いていったら辿りついたのは王城でした。そこでいきなり国を守護する四神(青龍・朱雀・白虎・玄武)と結婚しろと言われて!? 1日1日が濃く、のんびり話が進んでいきます。
主人公至上主義。逆ハー中華ファンタジー異世界トリップ。中国ネタ多しの、作者の趣味満載の物語です。たまに飯テロ(?)注意。
倫理感等でヒロインがたびたびもだもだします。脱線多すぎ(ぉぃ
『』内の言葉は中国語です。
注:なろう版からの移転です。改稿はそれほどしていません。R18指定にしていますが保険です。内容自体はR15程度の予定です。
写真はフリー写真をお借りしました。
関連作:「貴方色に染まる」「初恋は草海に抱かれ」(アルファポリス内に掲載。浅葱のマイページをご確認ください)
「花嫁は笑わない~傾国異聞~」https://ncode.syosetu.com/n4007ee/
登場人物や世界設定などはこちら↓
https://paleblue.fanbox.cc/posts/6069842
召喚勇者の餌として転生させられました
猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。
途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。
だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。
「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」
しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。
「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」
異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。
日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。
「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」
発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販!
日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。
便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。
※カクヨムにも掲載中です
聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
渡邊 香梨
ファンタジー
――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】
12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます!
双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。
召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。
国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。
妹のお守りは、もうごめん――。
全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。
「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」
内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。
※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。
【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】
氷結の毒華は王弟公爵に囲われる
カザハナ
恋愛
冷たい眼差しと高飛車毒舌で知られ“氷結の毒華”と陰口を叩かれる侯爵令嬢リラ=エヴァンスは、未婚、金持ち、名家の娘と三拍子揃うも周りに対する態度と毒舌により、求婚する相手も現れず、売れ残りの独身者として過ごす覚悟をしていたのだが、ある夜会で難攻不落と噂される王弟公爵が何故かリラをダンスに誘い……?
本心と出てくる言葉が逆であればモテたであろう毒舌令嬢(裏表のギャップあり)と、他人に興味を持てなかった超絶美貌な王弟公爵の攻防戦。
※不定期更新です。
※一話が1000字前後にしてます。
※エドワルド(王弟公爵)が暴走してきた為、R18に引き上げて、短編から長編に切り替えます~(〃ω〃)♪
性描写もあるので苦手な方はご注意をΣ( ̄ロ ̄lll)!!ただし、本番はまだまだ先になる予定です♪
感想コメントに、ちょっとした裏話等含む返答を面白おかしく?真面目に楽しく書いていますので、そちらも楽しめると思います(笑)
どうぞ覗いて見て下さいな(〃ω〃)✨
※皆様のお陰で8/8にホットで8位、恋愛で9位になりました~( 〃▽〃)有難うございますO(≧∇≦)O
※現在9/26で恋愛7位にランクイン~( 〃▽〃)皆様有難う御座います~ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ
※本編は2/26で完結しました。次は後日談に入ります~(≧▽≦)♪
※恋愛小説大賞で5位を獲得致しました~Σ(・ω・ノ)ノ!皆様のお陰です~(〃▽〃)✨沢山の投票有難う御座いました~(((o(≧▽≦)o)))🎵
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました
初昔 茶ノ介
ファンタジー
日本でブラック企業に勤めるOL、咲は苦難の人生だった。
幼少の頃からの親のDV、クラスメイトからのイジメ、会社でも上司からのパワハラにセクハラ、同僚からのイジメなど、とうとう心に限界が迫っていた。
そしていつものように残業終わりの大雨の夜。
アパートへの帰り道、落雷に撃たれ死んでしまった。
自身の人生にいいことなどなかったと思っていると、目の前に神と名乗る男が現れて……。
辛い人生を送ったOLの2度目の人生、幸せへまっしぐら!
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
のんびり書いていきますので、よかったら楽しんでください。
本編完結R18)メイドは王子に喰い尽くされる
ハリエニシダ・レン
恋愛
とりあえず1章とおまけはエロ満載です。1章後半からは、そこに切なさが追加されます。
あらすじ:
精神的にいたぶるのが好きな既婚者の王子が、気まぐれで凌辱したメイドに歪んだ執着を持つようになった。
メイドの妊娠を機に私邸に閉じ込めて以降、彼女への王子の執着はますます歪み加速していく。彼らの子どもたちをも巻き込んで。※食人はありません
タグとあらすじで引いたけど読んでみたらよかった!
普段は近親相姦読まないけどこれは面白かった!
という感想をちらほら頂いているので、迷ったら読んで頂けたらなぁと思います。
1章12話くらいまではノーマルな陵辱モノですが、その後は子どもの幼児期を含んだ近親相姦込みの話(攻められるのは、あくまでメイドさん)になります。なので以降はそういうのokな人のみコンティニューでお願いします。
メイドさんは、気持ちよくなっちゃうけど嫌がってます。
完全な合意の上での話は、1章では非常に少ないです。
クイック解説:
1章: 切ないエロ
2章: 切ない近親相姦
おまけ: ごった煮
マーカスルート: 途中鬱展開のバッドエンド(ifのifでの救済あり)。
サイラスルート: 甘々近親相姦
レオン&サイラスルート: 切ないバッドエンド
おまけ2: ごった煮
※オマケは本編の補完なので時系列はぐちゃぐちゃですが、冒頭にいつ頃の話か記載してあります。
※重要な設定: この世界の人の寿命は150歳くらい。最後の10〜20年で一気に歳をとる。
※現在、並べ替えテスト中
◻︎◾︎◻︎◾︎◻︎
本編完結しました。
読んでくれる皆様のおかげで、ここまで続けられました。
ありがとうございました!
時々彼らを書きたくてうずうずするので、引き続きオマケやifを不定期で書いてます。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
書くかどうかは五分五分ですが、何か読んでみたいお題があれば感想欄にどうぞ。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
去年の年末年始にアップしたもののうち
「うたた寝(殿下)」
「そこにいてくれるなら」
「閑話マーカス1.5」(おまけ1に挿入)
の3話はエロです。
それ以外は非エロです。
ってもう一年経つ。月日の経つのがああああああ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる