空色のソラ

なめこ

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一章-わーるど☆えんど

ep-8 提携

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少女は今、古い、とても古い夢を見ていた。

「おいで───。ほら、ご飯の時間だ」
「うん、今行く‼︎」

広い庭の中、家の中から聞こえた声に走っていく小さな少女。

泥だらけでニコニコと笑いながら入って行くと、大きな優しそうな男女が机の前で座っている。上にはたくさんの料理が並び、女性が男性にご飯をよそっていた。

「あらあら、泥だらけじゃない───。ちょっとあなた、この子先に洗ってくるけど良いかしら?」
「ああ、ご飯の前は綺麗にしないとな。はっはっはっ」
「えへへ」

女性が男性に問い掛けると、男性はゆったりと笑いながら背後の棚から新聞を取り出して読み出す。

女性に抱き抱えられながら浴場に連れて行かれ、服を脱がされる。

「全くもう…元気な子ね」
「あのね、あのね、さっきお庭でね、キラキラ光る虫を見つけたの!きっとタマムシだと思うの!」
「あらあら、本当にやんちゃね」
「えへへ」

シャワーで暖かいお湯ををかけられながら少女は女性の言葉を笑いながら答える。

暫くして綺麗になり、しっかり拭き上げられた少女。綺麗な着替えのワンピースを着ると前を行く女性にトコトコとついて行く。

食卓に戻ると男性が新聞を読みながら待っていた。女性と少女に気がつくと、かけていた眼鏡を外し胸ポケットへとしまい込んだ。

「おや、お姫様のご帰還かい?」
「うふふ、お待たせあなた」
「おまたせーパパ‼︎」
「はっはっはっ、元気だなぁ。よし、じゃあ席に着こうか」

男性を見て駆けて来た少女を抱き上げ、座らせる。

女性も座った所で視界が切り替わった。

目の前では男性と女性が黒いコートの人物にすがっている。

「やめて下さい‼︎この子は人間なんです‼︎」
「お願いします‼︎そんな、そんな残酷な事…っ‼︎」

口々にそう懇願しながら縋り付いている2人。そのコートの人物の後ろでは、さっきの少女が拘束具で拘束された状態で担がれている。

「んー‼︎んんー‼︎」
「ああ、───っ‼︎お願いします、その子だけは‼︎」

パンッパンッと、膨らませた紙袋を叩き割る様な、乾いた簡素な音が部屋に鳴る。

男性も女性も、額から血を吹き出しながら地面に倒れこむ。コートの人物の手には消音器のついた拳銃が握られている。その銃口から紫煙がフワフワとまるで雲の様に漂う。

「…喧しいんだよ大陸生まれの猿どもが。大昔に寄生した害虫のくせに駆除されてないだけありがたく思え」

吐き捨てる様にそう言った声は、若い男性の声だった。

「さぁてと、その猿どもの最高傑作がお前か…精々役に立てよ?人形ちゃん」

少女の頭に布が被せられた所で、徐々に意識が覚醒してくる。

「…ここは…」

目を開けると薄暗いコンクリートの天井が見えた。

だが、先刻まで居た廃ビルとは違い天井にはしっかりと電気が灯されている。

「…っ」

起き上がり、全身の痛みに顔をしかめる。何かないかと少女…雨桐は周りを見渡した。

窓も無く、床も剥き出しになったコンクリートだ。

ふと服装を見ると少しボロボロになってはいるが、戦闘用のスーツでは無く、何世紀か前の簡素な病人服に着替えさせられている。

手足も折れていた筈だが、元に戻っている。

「起きたか」
「⁉︎」

突然の声に咄嗟に身構え、飛び掛かる。が、その手は空を切りそのまま掴まれる。

「元気そうでなによりだ」
「お前…」

ハンターだ。ただし、外装を全て解除した状態のだが。

「…何故、何故私を助けた?」
「…何だって良いだろう。お前は助かった。ただそれだけの話だ」
「納得出来るわけないだろう‼︎アンタはさっきまで私を含めて全ての人間を殺すのだろう⁉︎何故だ、何故助けたのだ‼︎」

意味が分からず声が大きくなる。その口を手で押さえつけられ苦しげにモゴモゴと声が消される。

「喧しい。お前は俺に助けられた。それ以上でもそれ以下でも無い」
「…」
「これでも食って寝てろ」
「もがっ⁉︎」

カロリーバーを口にねじ込まれ思わず驚きで固まる。

そんなのは御構い無しに、ハンターは黙々と雨桐を抱き上げてベッドに寝かせる。

「…これで良かったんだ…」

そう誰かに言い聞かせる様にぼそりと呟いた言葉は、コンクリートの壁に吸い込まれる様にして消え去った。
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