空色のソラ

なめこ

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一章-わーるど☆えんど

ep-7 抗い

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「お、居た居た。おいドール擬き、良くやった。後は俺達がやってやる…失せな」

ドカドカと乱雑な足音。下卑た声。

吹き飛ばされ、うつ伏せとなったハンターは見えない位置からそれらが聞こえ、即座に頭部装甲を展開する。

ガラリと乱雑に仰向けにされバイザー越しに赤黒く表示されたのは、つい先刻始末した兵士達と同じ服装の男達。

「見ろよ、やっぱりあのトカゲ野郎だ‼︎」
「うぇ、キモいな…」
「でもコイツを捕まえれば俺達も昇給…だなぁ」

口々に皮算用を始める兵士達。視界を動かして雨桐を探すと、居た。部屋の隅で先ほどの爆撃によるダメージか、こめかみから血を流し肩を押さえている。フラリと覚束ない足取りで立ち上がり、壁に体を預ける様にしながら睨みつけた。

「…何してくれんだ、貴様ら…何故ここに…」
「あ?生きてたのかよ、紛い物。何故ってか?教えるわけねぇだろバァカ…ていうか、穴以外使い道のないゴミ屑が人間様に楯突くのか?」
「ぺっ…そうだな。私如きが人間に楯突いてはならない…そうだな…」

口腔内に溜まった鉄臭い血を吐き捨て暗い瞳でそう言い、力尽きる様にクタリと膝を着く。兵士の1人がニタニタと笑いながら歩み寄り雨桐の髪を掴み上げる。

ジロジロと値定める様に見回してハンターの近くにいた他の兵士達に話しかける。

「見ろよ、コイツ噂の防衛部長様だぞ…そうだなぁ…防衛部長様は戦闘に加わった際に敵のトカゲにヤられて消し炭になってました…ってところか?」
「良いなそれ、俺達は人間の為に働く紛い物…じゃねぇや、防衛部長様を助けようとしたが一歩遅れて消し炭になっちまいましたってか?」
「んでもって、防衛部長様のお陰で虫の息だったトカゲを捕まえましたってな」

ギャハハと下品に笑い、投げ捨てる様にハンターの横に放る。

「…紛イ物?」
「はっ…聞こえてたか。ああそうさ、私はクローンによって造られた人工人類。品種違いのお前のお仲間さんだ。私の一族はかつてユーラシアにあった国…チャイナとやらに居たらしい。そこで得たノウハウで一族で一番優れた遺伝子を具合わせて繋ぎ合わせて造られたのが私だ」
「お?部長様ぁ、トカゲと仲良さげで良かったじゃねぇですか…死ぬ前に誰かが見てくれるなんてそうそうねぇですぜ?」
「グッ‼︎」

小声で話しかけていたのを見ていた兵士が、仰向けになっていた雨桐の腹を力一杯踏み付ける。

鈍く軋む様な骨の折れる音と共に赤黒い液体が雨桐の口から吹き出す。

「…ゲボッ…そのお陰で…私はこの区に生まれてから只々冷遇された…だから見返したかった…私は人間だと…言い張りたかった…」
「…」
「ははっ、ドールと仲良しの人形風情が人間語んな…よっと‼︎」
「ヴォエッ‼︎」

再度踏み付ける。今度は胸を踏み付けたせいだろう、肺に何本か刺さった様にヒューヒューと弱い息になる。

「お?もう死んじまうのかよ…つまらねぇなぁ」
「仕方ないだろう、俺達のこのブーツは対人以外にも対機械兵器も考慮されたブーツだぞ?人間を少し強くした様な人形が耐えれるわけねぇだろ」

つまらなさげに反応の薄くなった雨桐を蹴りながらボヤく兵士。残る2人は再びハンターの周りでどう運ぶか話している。

「如何するんだ、これ」
「引きずるしかねぇだろ。おい、ザック‼︎」
「おん?」

ザックと呼ばれた雨桐を執拗に蹴っていた兵士が振り向く。

「何だよ、まだこの人間擬きで遊び足りねぇんだけど」
「うるせぇ、昇給してボーナスが入れば幾らでもそんな穴人形なんざ買える。表の装甲車をこの中に入れろ」
「へいへい」

ザックと呼ばれた兵士はブー垂れながら外に出て行き、残りの2人は吹き飛ばした壁の穴の前で再び皮算用の話で盛り上がり始めていた。

「…生キテルカ?」
「…ん…とか」
「…ソウカ」
「…い…私の…せ…で…」

ブクブクと赤い泡を吹きながら、諦めた様にヒュッヒュッと笑う雨桐。

外からメガニウム独特の駆動音が聞こえてきた。恐らく、ハンターを連れて行った後はこの廃ビルもろとも雨桐を爆弾で吹き飛ばすのだろう。外で立っていた2人も手榴弾や外に用意していたであろう爆弾を準備し始めていた。

(あー…くっそ…人間の都合で造られて…都合で殺されるのか…やっぱもう少し早く行動しときゃ良かったな…)

雨桐がそうフワフワと思っていると、ハンターの方からミチミチと肉を割く音が聞こえてきた。

(何かするのか?…まぁ見えないからどうでも良いや)

霞む視界の中そう思い、雨桐は全身に襲いくる倦怠感に飲まれる様に意識から手を離した。

「おい、なんか変な音がしないか?」
「なら見て来い、もしかしたらあのトカゲ野郎が無意味に尻尾でも切ろうとしてんじゃねぇのか?」

1人が異音に気が付き同僚に言うもシレッと返される。気怠げに言われるがままその兵士は廃ビルの中に戻り、唖然とした。

そこに残っていたのは、ハンターの四肢を縫い付けたコンクリートの塊と雨桐だけだった。

「…っ‼︎」

すぐさま背中に下げていた自動小銃を構えて周りを見渡す。ハンターの四肢からは青い血の跡が伸びている。つまり、それを追えば手負いのトカゲ野郎に追い付く。

「…トカゲ野郎め…どこに行きやがった…」

雨桐とハンターのいた部屋の奥へと伸びる血筋を追い、奥の部屋へと入る。窓も無く、穴も開いていない。

暗く、乾いた埃が宙を漂っている。その部屋の真ん中で血の筋は途切れていた。

「…どこだ…どこに行った…」

部屋のロッカーを開けたり、床の日々の隙間を覗くも、そこに姿形もない。

と、その頬にポタリと何かが垂れてきた。続け様に背中にもペチャリ。

「んだよ…2階に雨水でも溜まってんのか?」

頬を擦れば、青い跡。背中の方も慌てて確認すると、其方は粘液の様な液体だった。

「何だこりゃ?」

埃まみれの廃ビルに絵の具とローション?そう思いかけた時、ふと嫌な予感がよぎる。

「…まさかっ⁉︎」

バッと上を見たが遅かった。大口を開けたハンターが落ちて来ていたのだ。そう、ハンターは残っていた尻尾を天井の鉄骨に巻きつけていたのだ。

焦りと動揺で自身の追って来た血の跡の色も頭から抜けていた兵士は、悲鳴をあげる事も出来ず頭を食い千切られた。

ビュッビュと鮮血が地面に広がる。ビクビクと動くその身体を放置して、ハンターは蛇の様に蛇行しながら今度は入り口の上に待った。

案の定、手前の部屋の探索に1人。そして、ハンターの待ち受ける部屋に1人と別れて入ってきた。

「おい、アンソン…悪ふざけはよせ」

入って来たのはザックと呼ばれた男の方だ。

怯える様に辺りをキョロキョロと見渡しながらマグライトを付けた自動小銃を構えてながら進む。そして、倒れている兵士…アンソンと言うらしい…に近寄る。

「ヒッ…頭が…」

首から上を失ったアンソンを見て更に震えながら周りを警戒する様に銃を構える。

ふとザックの左横…入り口を見て左側に何かが弾ける音が鳴る。

「な、何だよっ⁉︎」

怯えながら音の方に走り寄って見れば、マグライトで赤黒い花の様な血の染みが壁にへばり付いている。辺りには白い歯や頭蓋骨、ピンク色の脳味噌が派手に飛び散っているではないか。

「へ、へへ?こ、これは…あ、アンソンの歯か?な、何だよこりゃ…」

聞いてねぇ、聞いてねぇぞ…そうボヤきながら辺りを見渡す。

「で、出て来いトカゲ野郎め‼︎ブチ殺してやるぅっ‼︎」

恐怖に負けたのだろう、辺り一面只管に銃を撃ちまくる。

ダガダガとザックの周りの壁やアンソンの身体を瓦礫や挽肉に変えながらも、まだ撃ち続ける。球が切れればすぐに取り替え、又撃ち出す。

「おい、何の騒ぎゃがっ⁉︎ぶべっ⁉︎」

突然の騒ぎを聞きつけ、雨桐の倒れる部屋を探索していた兵士が飛び込む。だが運が悪かった。

入った途端にパニックに陥っていたザックにアンソン諸共合挽肉へとミンチされてしまった。

やがてマガジン内の弾が尽き、ガチンとセーフティが掛かり止まる。

はぁはぁと肩で息をしながら、周りを再三見渡す。

「これで間違いなく死んだだろ…へへっ、ざまぁみやがれ…トカゲ野郎め」

ポツリと同僚も挽肉にした事にも気が付かず、地面に手をついてゆっくりと立ち上がろうとした時、異変に気が付いた。

ヌルリとした何かが手を伝う。しかし、問題は伝ってくる方向だ。手のひらから指先に圧力で広がるなら分かる。血溜まりを手で押す様に触れたらそうなるからだ。

だが、その何かは肩から指先に向かって垂れて来ているのだ。

「な、何だよこれ…」

手を開けば伝い切った液体がぬちゃりと音を立てて膜を張り、糸を引く。

「まさか…」

上を見た瞬間、ザックが見た景色は赤く裂けた巨大な口だけだった。
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