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やぶ蛇共に睨まれたカエルの奪還作戦4

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 アンデッド、かつて生命体として存在していた者達。肉体を損傷させながらもうごめき彷徨う亡者。
 ゾンビやミイラ、スケルトン。あとは吸血鬼などの種族に分かれる。
 
「チッ……数が多いヨ」

 両手に持った銃を撃ち散らしながら、悪態をつく少女。
 
「いつも、こんなのか?」

 表情変わらず、そこらに落ちていた鉄製パイプを振り回すのはアレックスだ。
 鈍い音をさせて数人まとめてぶっ飛ばすが、瞬く間にまた立ち上がる。

「ここをドコだと思ってるネ! 地獄で、この世の掃き溜めヨ」

 そう吐き捨てて、一体。眉間にヒットした弾で昏倒させる。

「それ便利だな」

 少なくとも鉄パイプよりは効率が良さそうだ。

「ふんっ、アタシの銃の腕前ナメるんじゃない――っと。おいっ、そこの変態うさぎ! ナニ呑気してるネ!」
「え?」

 また一発。後ろからつかみかかってきたゾンビの腹を蹴りつけて、さらに前方の足に撃ち込む。
 そんな状況下で、ポカンとした顔のバニーガール姿の男。

「ぬわぁぁんで、そんな余裕ぶっこいていられるネ! まったく。手伝えっつーの……ってアレックス。こいつら、底なしヨ」
「やれやれ。お前は、弾でも込めてな」

 隙をついて羽交い締めにされた彼女に、ため息をついた。そして、そこへ一気に鉄パイプを振り下ろす。
 ――ぐじゃっ、と鈍い音。
 熟れすぎたトマトのような感触を残し、アンデッドの頭は潰れた。
 路地裏は、脳漿と血にまみれていく。
 
「ちょっ、危ないネ! 殺す気かっ」
「殺したって死なねぇだろ。お前のような、じゃじゃ馬はな」
「レディに対して失礼ヨ」
「ふん」
 
 そんな会話を挟みながら、殺戮さつりくは続いた。
 しかし、いかんせん数が多い。細い路地数メートルにわたり、這い出してきた奴らが黒山の人だかりとなっている。
 さらには、ほとんど不死の種族なのだからタチが悪い。
 殴っても撃っても。例え首を飛ばしたとしても、ヨロヨロ立ち上がってくる。
 キリがない、とミナナがブチ切れてわめき立てるのも仕方ない状況なのだ。

「っ、とは言え……これは確かにマズいな」

 牙を剥き出しに飛びついてくる個体を投げ飛ばしながら、アレックスが独りごちた。
 鋭い歯とリミッターの外れた馬鹿力。
 噛まれたら同族になる、なんていうのは単なる創作である。
 しかしその咬合力こうごうりょく (噛む力)は驚異的で、簡単に肉を引きちぎってしまう。
 既に、足を負傷したであろう彼女の血痕が点々と地面を染めていた。

「大丈夫かよ」
「ナメんじゃないヨ。こんなモノ、擦り傷ネ」
「チッ。一旦、ズラかるぜ」
「え? ……うぁあぁぁぁッ!?」

 軽々しくと彼女を担ぎ上げると、アレックスは走り出した。

「ちょっ、なにするネ。お、おろせぇぇっ」
「暴れんな。逃げるが勝ちって場面だぜ」
「ぎゃん!!!」

 じたばたと暴れる彼女の尻のひとつも叩けば、甲高い悲鳴が上がる。
 普通ならある意味場面だが、アレックスは嫌そうに顔をしかめるだけだった。

「テメェもついてきな」
「は、はぁ」

 先程から、ぼんやりと時計を抱いてたたずむ男に声をかける。
 獣めいたうめき声の中、規則正しい時計の音だけが凛と響く。
 大の男のくせに、どこかふわふわとした足音を確認して路地裏を駆け出した。

「くそっ、確かにキリがねぇな」
「――アレックス、そっちを右に行くヨ!」

 土地勘のある者の言葉に、従う。
 砂ぼこりを上げて追ってくるアンデッド共は、先程からまた数が増えた気がする。

「なんなんだ、アイツらは」

 確かにここは地獄も同然の場所であるが、だからと言って魔物。しかもアンデッドの類がうろつくなんて、聞いたことがない。

「アレは使役されてるやつヨ」

 うめくようにミナナがつぶやいた。
 アンデッドにも色々あるらしい。しかしその中でもは術で操られ、殺人や強奪、その他もろもろの犯罪行為に手を染めていると言う。
 
「アタシの故郷にも、屍人をあやつる術士……道士ってのがいたネ。御札やら香をつかって、人を殺したり番人としたり。単純作業くらいなら、ヤツらは得意ヨ」

 遠い異国でいう、いわゆるキョンシーやブードゥー呪術におけるゾンビといった魔物であろう。
 
「すると、どこかに術者がいるってことだな」
「そうヨ。でもヤツらは簡単に出てこないネ」
「そうか」
「このまま、ここを出るのが勝ちヨ! マトモにやっても、消耗するだけネ」
「……だが。そういう訳には、いかねぇらしいな」
「!?」

 迷路のように入り組んだ路地を走り、目指すは表への出口。
 しかし忌々しげに舌打ち、すんでのところで足を止める。

「囲まれてる」

 ポツリとつぶやいたのはヘンリーだ。息ひとつ乱さず、時計を抱いてついてきた。
 先回りされていたらしい。
 追ってくる数と同じくらい、数メートル前に待ち構えるアンデッド達。
 よだれを垂らし、変色した皮膚を揺らしていびつな笑い声をあげている。
 それはまるで自由意志があるようだが、実際はそうでなく。

「クソッ。気持ち悪ぃナ!」
「ああ、あと挑発してやがる」

 嘲笑わらう亡者達。
 鋭い歯と爪をギラつかせ、ゆっくりと歩を進めてくる。

 ……こちらは三人。
 中でも怪我人がいる。ヘンリーの方は、危機的状況を分かっているのかいないのか。ボヤっとした表情で、物珍しげにキョロキョロしているだけだ。
 あまりにも不利な状態である。

「チッ、仕方ねぇ」

 ミナナを降ろし、アレックスは右手の拳を構えた。

「かかってこい、まとめて相手してやる」

 その言葉を合図とするよう、魔物たちは一斉に襲いかかる。
 
「アレックスっ!」

 ミナナの悲鳴じみた声に応えず、手元から何かを数本投げつけた。
 
「ヴあ゙ァ゙ぁぉォオァ゙ッ!!!」

 まず目の前の数体、おぞましい叫び声をあげて地に伏せた。
 
「……注射器も、まだ直せば使えるみたいだな」
「そ、それは」

 先程、逃げながら拾っていたのだろう。
 注射針やナイフ。
 薬物売買や暴力沙汰も多いこの場所であれば、落ちているだろう物ばかりだ。

「知ってるか。目は、第二の心臓って言うんだぜ」

 目に刺さった注射針をうめき声あげながら抜き、再び立ち上がったアンデッドどもに話しかける。

「とはいえ、やはりちゃんと

 ――刹那。

 空を切った拳が、その頭を直撃。
 触れた瞬間にはもう、激しい血を吹いて爆ぜた。

「うむ、やはり気色悪い感触だ」

 血と脳汁でベトついた手を、ピチTシャツで拭く。
 
「これだから素手は嫌だな」

 そうボヤきながらも目の前の十体ほど。
 素早く移動し触れた端から、次々と爆ぜて散る。たちまち辺りは血煙と体液と、腐敗臭いで溢れる。
 路地裏は凄惨かつ、修羅場となった。
 
「ヴア゙ぁぁアぉ゙ォぉ゙ぇ゙ぇ」

 また数十体。
 それもまた身をひるがえしながら、その脳を吹き飛ばしていく。
 さながら怪物達の間を、軽やかて華麗に舞うような動きだ。
 音もなく砕けさせるかたわら、左手で再び落ちている錆びたナイフを拾い直す。
 そして振り向きざまに、その刃を振るうのだ。
 単純な目潰しと牽制、さらに破壊。
 
「おっと」

 一瞬のすきか。
 背後から喉元に噛みつかんとする牙の気配を察した瞬間、けたたましい発砲音と共にアンデッドの頭が吹き飛んだ。

「ふん! カッコつけて、油断してんじゃねぇヨ」
「……危ねぇな。このアホ女」

 振り返れば、ニッと笑い銃を構えたミナナ。
 
「さっきのお返しネ」
「無理すんなよ。怪我人が」
「かすり傷だって言ったヨ。お前耳ついてんのか」
「可愛げのねぇ女は、モテねぇぞ」
「じゃあ、アレックスにもらってもらうもん!」
「断る。俺にはアレンがいるからな」
「アレックスのバカぁぁっ」

 色気も素っ気もない返事と鼻白む彼女をよそに、向かってくる敵に拳を叩き込み続ける。

「くそっ、もう知らないヨ!」

 小さな悪態と続けて響く発砲。
 その鮮やかな腕前は、眼前の亡者たちを足止め倒していく。
 
「っ、そろそろキリがついてきたな」

 ――頬にとんだ返り血を、そっと親指の腹で拭った時である。

「……あらら~☆ けっこうあっという間だったなぁ」

 場違いなほどに明るい声が、鼓膜を震わせた。
 アンデッド達のむくろを、踏みつけて立つ一人の影。
 
「貴方がアレン様の浮気相手ですかぁ……ふふっ、思ったよりイイ男ね☆」

 星のモチーフをあしらった、可愛らしげなメイド服の美少女。
 スラリとして手に握るのは不似合い極まりない、刺股。凶悪な光を帯び、ギラリと輝いている。

「シセロ大臣の命令により、貴方を殺しに来ましたぁン☆」

 少女、ステラの瞳が闇にまたたく。
 不吉な星のように。

 



 



 

 
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