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Ωとの生活
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奏汰は実家暮らしだ。一人っ子で家には母親しかいない。
さすがに母親になんの相談もなく他人を住まわせるの決めるのは良くなかったと後になって思ったが、意外にも。
『あら、いいわよ』
の一言で承諾を得た。
「いらっしゃい。疲れたでしょ、ゆっくりしてね」
彼らを出迎えた際もニコニコとした笑顔である。
「あの……突然すみません」
「いいのよ。私と奏汰の二人暮しでこの家は広すぎたから、むしろ大歓迎だわ」
元々が近所でも面倒見がよく、困った人を放っておけない性質の女性。いわゆる姉御肌といったら良いだろうか。
「母さん、この人は堂守 明良さん。バイト先の先輩なんだけど、ちょっと住んでるところがトラブルでいられなくなって」
「すみません。新しいところが見つかるまで、しばらくご厄介になります」
ぺこりと頭を下げた彼を見た母、夏菜子は明るく笑って。
「しばらくなんて言わずに、気が済むまでいてくれていいのよ。それにしても大変ねぇ。ええっと明良君って呼ぶわね? 明良君も大学生? 奏汰と同じ歳かしら」
「いえ、恥ずかしながら今はフリーターで……歳上です」
顔をほのかに赤らめてこたえる堂守に、夏菜子は優しく。
「そうなのね。明良君、可愛らしい顔してるから。それに遠慮なんかしなくていいからね? 」
「あ、ありがとうございます」
彼女のフレンドリーさに面食らったようだが、そこでようやく彼は笑顔をみせた。
「母さんもういいから。上の部屋使っていいんだよね?」
「ええ。掃除はしてあるから好きに使って」
それを聞いて彼らは二階に上がる。
「この部屋で」
「ありがとう」
そこは元々、父親の部屋。いわゆる物書きで書斎も兼ねていた。とは言っても奏斗自身覚えているはずもなく、母親から聞くだけであったが。
使われなくなってからずいぶん経つはずなのに、いまだに綺麗に掃除や整理整頓されているのがわかる。
「本当に感謝してる。でもなんで助けてくれるの?」
「堂守さん」
「明良って呼んでほしいな」
「あー、はい。えっと明良さん。僕があなたを助けたいと思った理由はひとつだけ」
そこで奏汰は拳をギュッとにぎりしめた。
「……世の中のクソッタレαどもが僕は嫌いなんだ」
「え?」
「なにが人類の頂点だ、ただご立派なチ〇コがついてるだけだろーが!」
「ちょっ、えぇ!?」
明良は少しキョトンとしたあと、とんでもない発言に慌てるがお構い無しだ。さらに悔しそうな顔で。
「そりゃあね、ヤツらは頭脳明晰だとか容姿端麗だとか言われがちですよ。でもだからって上から目線で、常に偉そうにしていい理由にはならないでしょ!」
「か、金城君?」
「別にっ、羨ましいとかじゃないですから! ていうか周りもチヤホヤしすぎ。あーくそっ、妬ましいぃぃ!!!」
「あ、妬ましいんだ」
αに対する他のバースの感情は様々である。
しかしαに対する羨望や嫉妬心、中には神のように崇めてるものもいるとか。
しかし奏汰は自分の父親のことも含めてαが好きになれない。コンプレックスやΩになることへの恐れもある。
「で、でもあの子、龍也君って子もαだよね? 仲良さそうだったけど」
「仲良くない! むしろあいつが特に大っ嫌いだ!!!」
「えぇ……」
もう彼もドン引きレベルのガチギレである。
「明良さんも気をつけてくださいね、あんな嘘つきなクソガキには!」
「ずいぶんだなぁ」
「いや本当にですよ!」
奏汰はそこで大きくため息をつく。
「明良さんもαとその信者の被害者でしょ」
「被害者、かあ」
「そう。だっていくらなんでも酷いじゃないですか。ヤることやってデキたら堕ろせって。人間のやることかよ」
そう言って顔を思い切りしかめる奏汰に明良は困ったように笑った。
「彼はあの久遠家の人だから」
「え?」
久遠家、その名を聞いて呆気に取られた。
テレビやネットなどのニュースを一度でも目にしたことがあれば誰でも知ってる一族だったのだ。
「まさかあの一時期、α優生思想でめちゃくちゃ叩かれてた……」
「そう。数多くの大企業を買収し束ねる一族だよ。他にも政治家も多くだしてるよね」
明良はサラッと言うが、これはなかなか大変な話。
下手なヤクザよりかかわり合いになりたくない相手である。
「いや……もしかして明良さんの元カレって」
「元カレっていうと俗っぽいけど、まあそうだね」
「マジで!? いやそれヤバいじゃん!」
「はは、わかりやすい反応ありがとう」
「いやいやいやっ、むしろあなたの冷静さが怖いって!」
奏汰も陰謀論を信じるほどヒマではないが、それでも色々と聞くことはある。それくらいすべての業界において影響力のある一族なのである。
「でも僕も誘拐までされかけるなんて考えてなかったよ」
「呑気かよ……いやほんと気をつけてくださいよ? そもそも、どうやって出会うんですかそんなヤバい人と」
「別にヤバい人って訳じゃないんだけどなぁ。出会いは施設、僕も彼も養護施設育ちでね。彼はαと判明してすぐに久遠家の親族と養子縁組をしたんだ」
αというのはΩと同じく珍しいバース。
しかも優秀である可能性は段違いだから、こぞって求めるのが常だろう。
だから就活でも有利だし、施設育ちでもわざわざ里親になろうと手を上げる者がいてもおかしくはない。
日本の里親制度はかなり慎重で判断基準も高いが、それだってあの久遠家であればクリアも余裕なのかもしれない。
「たしかにそこから変わっちゃったのかな。ぼくはずっと同じだと思ってたのに」
切なげに目を伏せる彼をみて、奏汰はグッと拳をにぎった。そして。
「そんなクズ男、忘れちゃいましょう!」
「金城君」
真っ直ぐお互い見つめあう。
「……君は本当にいい人だなぁ」
そう言って微笑む明良は儚げで美しかった。
思わず手を伸ばしてしまいそうなほどに。
さすがに母親になんの相談もなく他人を住まわせるの決めるのは良くなかったと後になって思ったが、意外にも。
『あら、いいわよ』
の一言で承諾を得た。
「いらっしゃい。疲れたでしょ、ゆっくりしてね」
彼らを出迎えた際もニコニコとした笑顔である。
「あの……突然すみません」
「いいのよ。私と奏汰の二人暮しでこの家は広すぎたから、むしろ大歓迎だわ」
元々が近所でも面倒見がよく、困った人を放っておけない性質の女性。いわゆる姉御肌といったら良いだろうか。
「母さん、この人は堂守 明良さん。バイト先の先輩なんだけど、ちょっと住んでるところがトラブルでいられなくなって」
「すみません。新しいところが見つかるまで、しばらくご厄介になります」
ぺこりと頭を下げた彼を見た母、夏菜子は明るく笑って。
「しばらくなんて言わずに、気が済むまでいてくれていいのよ。それにしても大変ねぇ。ええっと明良君って呼ぶわね? 明良君も大学生? 奏汰と同じ歳かしら」
「いえ、恥ずかしながら今はフリーターで……歳上です」
顔をほのかに赤らめてこたえる堂守に、夏菜子は優しく。
「そうなのね。明良君、可愛らしい顔してるから。それに遠慮なんかしなくていいからね? 」
「あ、ありがとうございます」
彼女のフレンドリーさに面食らったようだが、そこでようやく彼は笑顔をみせた。
「母さんもういいから。上の部屋使っていいんだよね?」
「ええ。掃除はしてあるから好きに使って」
それを聞いて彼らは二階に上がる。
「この部屋で」
「ありがとう」
そこは元々、父親の部屋。いわゆる物書きで書斎も兼ねていた。とは言っても奏斗自身覚えているはずもなく、母親から聞くだけであったが。
使われなくなってからずいぶん経つはずなのに、いまだに綺麗に掃除や整理整頓されているのがわかる。
「本当に感謝してる。でもなんで助けてくれるの?」
「堂守さん」
「明良って呼んでほしいな」
「あー、はい。えっと明良さん。僕があなたを助けたいと思った理由はひとつだけ」
そこで奏汰は拳をギュッとにぎりしめた。
「……世の中のクソッタレαどもが僕は嫌いなんだ」
「え?」
「なにが人類の頂点だ、ただご立派なチ〇コがついてるだけだろーが!」
「ちょっ、えぇ!?」
明良は少しキョトンとしたあと、とんでもない発言に慌てるがお構い無しだ。さらに悔しそうな顔で。
「そりゃあね、ヤツらは頭脳明晰だとか容姿端麗だとか言われがちですよ。でもだからって上から目線で、常に偉そうにしていい理由にはならないでしょ!」
「か、金城君?」
「別にっ、羨ましいとかじゃないですから! ていうか周りもチヤホヤしすぎ。あーくそっ、妬ましいぃぃ!!!」
「あ、妬ましいんだ」
αに対する他のバースの感情は様々である。
しかしαに対する羨望や嫉妬心、中には神のように崇めてるものもいるとか。
しかし奏汰は自分の父親のことも含めてαが好きになれない。コンプレックスやΩになることへの恐れもある。
「で、でもあの子、龍也君って子もαだよね? 仲良さそうだったけど」
「仲良くない! むしろあいつが特に大っ嫌いだ!!!」
「えぇ……」
もう彼もドン引きレベルのガチギレである。
「明良さんも気をつけてくださいね、あんな嘘つきなクソガキには!」
「ずいぶんだなぁ」
「いや本当にですよ!」
奏汰はそこで大きくため息をつく。
「明良さんもαとその信者の被害者でしょ」
「被害者、かあ」
「そう。だっていくらなんでも酷いじゃないですか。ヤることやってデキたら堕ろせって。人間のやることかよ」
そう言って顔を思い切りしかめる奏汰に明良は困ったように笑った。
「彼はあの久遠家の人だから」
「え?」
久遠家、その名を聞いて呆気に取られた。
テレビやネットなどのニュースを一度でも目にしたことがあれば誰でも知ってる一族だったのだ。
「まさかあの一時期、α優生思想でめちゃくちゃ叩かれてた……」
「そう。数多くの大企業を買収し束ねる一族だよ。他にも政治家も多くだしてるよね」
明良はサラッと言うが、これはなかなか大変な話。
下手なヤクザよりかかわり合いになりたくない相手である。
「いや……もしかして明良さんの元カレって」
「元カレっていうと俗っぽいけど、まあそうだね」
「マジで!? いやそれヤバいじゃん!」
「はは、わかりやすい反応ありがとう」
「いやいやいやっ、むしろあなたの冷静さが怖いって!」
奏汰も陰謀論を信じるほどヒマではないが、それでも色々と聞くことはある。それくらいすべての業界において影響力のある一族なのである。
「でも僕も誘拐までされかけるなんて考えてなかったよ」
「呑気かよ……いやほんと気をつけてくださいよ? そもそも、どうやって出会うんですかそんなヤバい人と」
「別にヤバい人って訳じゃないんだけどなぁ。出会いは施設、僕も彼も養護施設育ちでね。彼はαと判明してすぐに久遠家の親族と養子縁組をしたんだ」
αというのはΩと同じく珍しいバース。
しかも優秀である可能性は段違いだから、こぞって求めるのが常だろう。
だから就活でも有利だし、施設育ちでもわざわざ里親になろうと手を上げる者がいてもおかしくはない。
日本の里親制度はかなり慎重で判断基準も高いが、それだってあの久遠家であればクリアも余裕なのかもしれない。
「たしかにそこから変わっちゃったのかな。ぼくはずっと同じだと思ってたのに」
切なげに目を伏せる彼をみて、奏汰はグッと拳をにぎった。そして。
「そんなクズ男、忘れちゃいましょう!」
「金城君」
真っ直ぐお互い見つめあう。
「……君は本当にいい人だなぁ」
そう言って微笑む明良は儚げで美しかった。
思わず手を伸ばしてしまいそうなほどに。
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