変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加

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捨てられΩ

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 世の中、お節介という言葉がある。

 ――なんでこんなことに。

 が絶賛追いかけごっこ中なのは、ある意味自業自得なのかもしれない。

「はぁっ、はぁ……!」

 ことの発端はひとつの着信。

『助けて。金城君しか頼れない』

 そんな切羽詰まった声で言われ、慌てて家を飛び出して来てしまった。
 相手は堂守 明良。
 昨晩、奏汰の方から連絡したが繋がらず。しかし朝になって突然かかってきた電話。

 電話口でも分かる憔悴しきった声。そして出てきたのは良いものの。

「待てーっ!」
「そう言われて待つヤツがいるかぁぁぁっ!!!」

 とにかく走る。走る、走りまくる。
 繁華街の雑踏の中で皆が振り返るのも気にしないで、ただひたすら走った。

 黒いスーツ姿の男たちに追われながら。

「奏汰、なんなんだよこいつら!!」
「知るかッ、僕に聞くな!」

 龍也の言葉に怒鳴りつけるようにこたえた。
 どうしてこの二人が一緒にいるのか、それは数十分ほど前にさかのぼる。




 堂守からうけた電話で身支度もそこそこにドアを開けた先、なぜか龍也が立っていた。

『俺、今日からあんたのストーカーしようと思ってるからよろしく!』

 なんてとんでもない宣言をされて面食らったが、正直それどころではない。
 うるさい黙れバカついてくるな。と龍也を散々罵倒して蹴り飛ばしながらも、電話で指定された待ち合わせ場所に急ぐ。

 するとこのストーカー……じゃなくて、彼は怯むことなくついてきたのだ。

 そんなこんなで小競り合いしながら向かっていると。道中、道端に停まっているワゴン車から数人の男たちが出てきて堂守を連れ去ろうとする拉致現場に遭遇してしまう。

 反射的に二人で突撃。男たちを蹴散らして彼を救出したのは良いけれど、そこから決死の逃走劇が幕を開けたというわけだ。
 
「てかこの人、めっちゃぐったりしてるけど大丈夫かな」
「おいもっと丁寧に運びやがれ、このクソガキ!」
「ちょ、ひどくない!? 俺が一人で抱えてんだけど!!」

 荷物のように肩に担がれてる堂守は顔色が最悪で、やつれて見える。
 昨日の体調不良といい、この妙な男たちと関係があるのだろうか。

「とにかく逃げねぇと」
「その脇道入るぞ!」

 大通りを走るのはあまりにも無謀だ、なにせ人が多すぎる。
 二人は急いで裏路地に入り、入り組んだ道をひたすら駆けた。
 ようやく追っての足音や怒号が聞こえなくなった頃。

「っ……金城、君……」
「堂守さん!? 大丈夫ですか」

 苦しげな息を吐く堂守が。

「ごめん……ぼく……」
「いいから。あ、このデカいのは僕の知り合いなんで気にしないで。とりあえず家まで送りますから」
「ああ、うん……えっと……」

 泣き出しそうに一瞬だけ顔を歪めると、彼は自宅の住所を口にした。
 幸いそこはここからほど近く、彼らは細心の注意をはらいながらそのアパートへ向かった。




「――本当に迷惑かけちゃってごめん」

 深々と頭を下げる彼に。

「やめてください、僕らは別に……」
「俺はスパイ映画みたいで楽しかったな!」

 慌てて慰めようとする奏汰と、能天気に笑っている龍也。
 堂守は大きく息をついた。

「貴方達がいなかったら、ぼくはどうなっていたか分からない」
「あいつらはなんなんですか」

 ようやくたどり着いたアパートの一室。どうやらここが彼が暮らしている場所らしい。
 年季が入った見た目とは裏腹に、こじんまりしているが綺麗な室内。掃除も行き届いている。

 彼は少し休んだからか顔色もましになり、話が出来る程度には回復したようだ。

「実は妊娠してる」

 やっぱり、と奏汰は思った。昨日の体調不良は悪阻つわりによるものだろう。

「それで相手と関係者から堕ろせって迫られてて……」
「それにしても妊婦を誘拐するなんて、えらく手荒なマネをするな」
「彼はαでお金も権力もある人なんだ。もちろんぼくはそんなのはいらない、だけどこの子だけは守りたい」

 目に涙を浮かべながら彼はお腹に手をあてた。
 まだ妊娠初期だ。お腹も出ていないが悪阻が辛いらしく時折、ハンカチで口をおおっている。

「それは厄介だな」

 奏汰が窓の外を見ながらつぶやく。
 きっと今も自分たちを (正しくは彼を)探しているのだろう。
 容易に外にも出られないだろう。
 いっそ警察に行くか。いや、ちゃんと対応してくれるかどうかさえ怪しい。
 しかしこのままでは彼も、お腹の子も危ないのは確実だ。

「この話は他に誰か知ってますか」
「それが……」

 バイト先の店長に言われて佐倉 絵里と共に病院に行った際、知られてしまったのだという。

「元々、事情があって名前を変えてたんだけどそれもバレて」

 即日解雇に。

「どうしようって思ってた時に金城君が電話くれたから、つい甘えちゃった。ごめん」

 変なことに巻き込んで、と肩を震わせて泣く堂守の手にそっと触れる。

「堂守さん。僕のとこ来ませんか」
「え?」
「えぇっ!?!?」

 彼と、あとなぜか龍也も驚いて声をあげた。

「まさか奏汰、自分の家に匿うつもりかよ!」
「まさかもなにも、そのつもりだが? 問題でもあるか」
「問題ありすぎだろ! つーか他の男と同棲なんてヤキモチ妬くなっていう方が……」
「お前は僕のなんなんだよ。大人の話に口を挟むなクソガキが」
「そう変わんねぇだろうが!」
「黙れバーカ!!!」

 あっという間に口喧嘩をはじめる二人を堂守はおろおろとしながら止めにはいる。

「ちょっと二人とも……ごめん、大丈夫だから……」
「大丈夫じゃないでしょ。決めた、僕が面倒みますから」
「か、金城君?」
「クソッタレなαの言いなりになりたくないでしょ。お腹の子、守るんだろ!」
「あ、うん」
「だったら僕も助けます。αなんぞの好きにさせてたまるかってんだ」

 奏汰は語気も荒くうなずいた。

「おい龍也、お前もこの事他言したら八つ裂きにして殺すからな」
「怖っ! ていうか言わねぇよ。俺だってさすがにひどいと思うし」

 奏汰のαへの熱い怒りを感じたせいか、気まずそうに龍也もこたえる。
 
「……なんでこんなことになるかなぁ」

 今度は龍也がそうぼやきながら、窓の外の空を見上げる。
 どんより曇っていて、今にも降り出しそうだ。

 
 
 

 
 
 


 
 

 


 
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