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転生王女は回避したい3

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 当然ながら釈明しゃくめいはしたぞ。もう脳みそフル絞りするくらいに考えまくってな。
 でもこの兄妹たちの視線は厳しさを増すばかりで。

「ヴィオレッタ、何度もいうが誤解だ」
「ふむ、犯罪者はいつもそう主張するな」
「だから犯罪者じゃねえって」

 くそ、ラチあかない。って誘拐犯 (拉致)ばっかりに……ってやかましいわ!

 こんなクソおもんないノリツッコミしてしまうくらい、心臓はバクバクだしパニック状態だった。

 ――今、俺はロリコン誘拐犯の濡れ衣を着せられている。

 しかもただのロリコンじゃない、王女様だぞ。こんなの下着泥棒みたくボコられるくらいじゃすまないだろうが。
 片眉をあげた皮肉げな笑みを浮かべる彼女から、自然と足が距離を取ろうと後ずさる。

「メイト」
「し、心配すんなスチル」

 不安だろう仲間に声をかける。いざとなったらまず、こいつを抱えて窓から逃げるか? いやそんなことしたら、自白したようなものだしな。
 でもこのまま大人しく逮捕されるのも地獄だ。
 どうすればいいんだ。

「……ぷっ」

 いよいよ大汗かく俺に突然、吹き出したのはアルワンだった。

「へ?」
「あはははっ。メイト君ってば必死過ぎだよ。ヴィオレッタもイジメ過ぎだしさ」
「え? え? え?」

 文字通り腹抱えて笑う彼を呆然と眺める。
 
「ど、どういうことだよ」

 意味も分からずヴィオレッタを見ると、その口角がヒクヒクと上がっていて笑いをこらえているようで。

「ふっ、いや貴様のあまりの動揺にこちらもな」
「お前らもしかして揶揄からかってやがったな!」

 この性悪兄妹め。
 でもどうやらまた冤罪で逮捕はなさそうで安心した。ホッと息をつこうとすれば。

「しかし王女を匿っているのは、ちゃんと把握しているからな?」
「ゲッ!?」

 うわ、それはバレてるのか。というか普通に隠せないよな。軍に監視までされてるんだから、冒険者といえど一般人の域を出ない俺たちじゃ太刀打ち出来るわけがない。

 完全に目が泳ぐ俺に、彼女が言った。

「客人をいつまで立たせておくつもりだ。メイト・モリナーガ殿?」
「えっ、あ、こっちに」

 慌てて椅子を勧めるのも楽しいのか、ニヤニヤと笑いながら長椅子に座る。

「お茶」
「あ、ああ。今すぐ用意する」
 
 とりあえず下に言って飲み物でも買ってくるかと頷くと。

「いや。兄様に頼もう」
「えぇ~、ボクが行くの?」

 当然ながら不満そうな声をあげるが、なぜかその顔は笑顔だ。

「茶菓子も忘れるな。あ、果物は無しだ」
「ハイハイ、可愛い妹の好みは把握してますよっと。じゃ、メイト君。あとは頼んだよ」

 いたずらっぽい笑みでウィンクして、スチルの手を掴んだ。

「スチル君はボクと一緒に行こ!」
「なんで僕がっ!?」
「いいからいいから。ね、好きなお菓子買ってあげるから」
「僕をなんだと思ってんだ、ナメるなアホ!」
「はーい、文句は後で聞くよ」
「離せぇぇぇっ!!!」

 半ば引きずられるような形で出ていった彼らを見て、俺は呆然としていた。

「……」

 こほん、という小さな咳払いに顔を上げた。

「ま、まったく、忙しない奴だな。我が兄ながら」
「え?」
「別に貴様と二人で話をしたいとか、二人きりになりたいとか。そういうわけじゃなかったのだがな。ともかくあのバカ兄様が変に気を回して……」
「ちょ、ストップストップ」

 なんか早口で喋り出したヴィオレッタだが、その顔はなぜか一目見てわかるくらい真っ赤だった。

「どうしたんだよ。顔色がすごいぞ」
「なななっ、なにを言っている! 少し暑いだけだ!!」
「いや、今日はむしろ涼しいくらいだぞ……」

 なんかおかしいな。二人きりになった途端、彼女の目は泳ぎまくりだし顔も赤いし。
 なんか心配になって彼女の方に歩み寄る。

「本当に大丈夫なのかよ。しんどかったらベッドに行くか?」
「べべべっ、ベッド!?!?!?」

 ますます紅潮する頬に動揺全開の挙動不審。
 こりゃあマジで心配になってきたぞ。

「いや本当に大丈夫か。ちょっと失礼するぞ」
「っ……!!!」
 
 彼女の前にひざまずいて手を伸ばす。その額に触れて発熱があるか診てやろうと思ったからだが。

「んー。少し熱い、か?」
「!」
「まずは水でも飲むか。それならここに――って、うわッ!?」

 俺は声を上げた。
 なぜなら、突然抱きつかれたから。

「っ、おい」
「メイト。この私のことを軽蔑するか」
「へ?」

 いきなり意味が分からんから聞き返すと。

「恋人を失いって間もないのに、もうこの胸を焦がす者が現れた私を軽蔑するかと訊ねているのだ」
「え、えぇ……!?」

 つまり恋をしたってことだろ、別に良いんじゃねえのか。むしろ健全だろ。

 そりゃあ、亡くした恋人を想い続けるのもいいけどさ。でもそれは数ある単なる愛の形のひとつであってさ。
 美しく見えるからって他人がそれを非難したり賞賛するのは違うと思うんだよな。

 あくまで俺は彼女にはなるべく苦しまずに生きて欲しいと願うし、それはアルワンや周りの人たちも同じだろう。
 いや、同じであって欲しい。

 その気持ちを込めて、俺はヴィオレッタを抱きしめた。
 
「軽蔑なんてするわけないだろ」

 仲間じゃないか。俺は少なくとも思っている。
 ということは彼女、新しい恋をしたんだな。それは非常に喜ばしいことだ。
 でももしや、相談したいのか? いやいやいや、なんでよりにもよって俺に??
 
 恋人に寝盗られた男に恋愛相談なんて努まるのだろうか。

 不安を胸に何とか落ち着かせようと、できるだけ優しく頭を撫でる。

「ヴィオレッタ」
「メイト……私はあの時から貴様のことを――」

 その時だった。

「メイト、お腹すいたしなんか食べにいこーっ!!!」
「メイト様。突然押しかけてごめんなさいっ……!」

 二人の少女の声と、ドアがいささか雑に開かれたのは同時で。

「へ?」
「っ!?」
「!!!」
「あ……」

 ベルとラヴィッツ王女、そしてヴィオレッタと俺。
 この四人が顔を合わせ絶句し固まった。

 ――なんか、これすごくマズい気がする。






 


 
 

 
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