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再会と別れは箱庭で2

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 これでもちゃんとやめておけ、と一応忠告はしたんだ。でもこのジャジャ馬娘は聞き入れなかった。
 むしろ。

「いいね! 悪の親玉を成敗しにいくんだろ」
 
 と謎のヤル気に満ち溢れる始末。

「いやあのな、相手は自称とはいえ異世界召喚勇者だぞ」

 実力の一端はこの目で見てきた。あの男、片手で雑草を薙ぎ払うより簡単に、竜族魔獣を葬り去ったんだぞ!? それだけで実力ってのいうのが分かるもんだろうよ。
 とにかく伝説級で、常人じゃないんだ。それでいて今どこにいるのかすら分からない。

 情報不足な存在を探す旅なんて、真っ当な冒険者が一番嫌う仕事だ。
 でも俺の忠告すら一ミリも聞かない彼女は太陽のような笑顔で。

「でもあんたについて行くよ、メイト」

 と真っ直ぐな瞳をぶつけてくる。
 こういうのめちゃくちゃ弱いんだよな、そんでもって危うい。
 
 脳筋だの暑苦しいだの言われてきた俺ですら、こんな純粋な眼差しは危なっかしくて仕方ないんだ。
 まるで無条件に親を信じる幼子みたいといえばいいのか。

 親という存在がいなかった俺でも、ジジイのことは無条件で信じてた。というより信じるしかなかったのかもしれない。
 結果的に俺は、偏屈でめんどくせえ奴だったけど騙すことだけはしなかったジジイのおかげでそれなりに歪まずに成長できた。

 でもベルはあのペテン師野郎に騙されて、陥れられそうになったんだ。
 本当ならもう少し他人に警戒して欲しいところなんだが。

「でもな、ベル……」

 そこで俺は気がついた。
 彼女は多分、本能的にすがるものを探しているんだと。

 言い方はめちゃくちゃ悪いけど、言わば俺はあの男のなんだろうな。
 
 大切だと思ってきた人間に裏切られ、次は俺達という仲間を得たい。一度、孤独から拾い上げられた体験してからの絶望。
 
「で? どうすんのさ」

 スチルがあくび混じりに問う。少し前、アルワンに回復魔法をかけてもらったから疲れたのかもしれないな。
 そうそうに宿を探して寝かせないと――じゃなくて。

「メイト」

 まるで捨てられた子犬のような目だ。俺は葛藤した。

 相手が相手だし、まだまだ未知な部分がある。そこへ心身ともに傷ついただろうベルを連れて行けるのか?
 でもここで俺が断ったら。
 すごく嫌な予感がするんだよな。

「ベル、よく聞いてくれ」

 俺は大きく息を吸った。

「俺の……『仲間』になってくれないか。対等な『仲間』だ。分かるか? 報酬は折半だし、お互いが助け合う。俺とお前は同じ立場だ。俺が間違っていたらちゃんと意見してくれ。その逆もするからな。それでよければ、仲間として一緒にタロ・メージという男を探して欲しい」

 なるべく強調したんだ。あくまで主従でないと。
 最初からかなり気になっていたのが、ベルは他人と対等な関係を築いてきたことがないんじゃないかって。

 上か下か、従うか従わせるか。これってすごく悲しいことだろう?

 だから俺は腹を決めた。
 彼女に教えたい。仲間っていうのは何たるかを。時に損得を度外視して身体も心も張って助け合える、それが俺の考える仲間だ。

 どれだけ綺麗ごとだとか暑苦しいだとか、馬鹿だと笑われても諦められない。まだ信じていたいんだ。
 心から信頼し合える仲間っていう存在を。

 裏切られた俺が言うのも滑稽だけどな。

「それでいいよな、スチル」
「……あんた次第だろ」

 振り向けば、感情の読めない顔で彼が口角をあげる。

「じゃあ俺が決める」
「ふん、甘ちゃんめ」

 憎まれ口叩きながらも、やっぱり反対しないのがきっとこいつの意思だな。そう解釈することにした。

「メイトありがとう」

 涙をにじませた姿に、何故か少し胸が痛む。俺もベルも根本はそう違いない気がしたからだ。

 俺がしていることは本当に彼女のためになっているんだろうか。むしろ、あのチンピラ共と同レベルなんじゃねえかって気もしなくはない。

「あたし頑張るから」

 でも突き放せないよな。どんな言葉を重ねても、それは単なる言い訳にしかならない。
 だったら俺が腹をくくるしかない。
 大きくうなずいて言った。

「戻ってきてくれてありがとう、ベル」

 心は無事か分からないが、それはこれから癒していくしかないんだろう。
 そんな中、だし抜けに口を開いたのがアルワンだった。

「あのさ。感動的な再会で悪いんだけど、ボクは離脱させてもらうことにするね」
「え?」

 振り返ると変わらぬ飄々とした様子で。

「いやさ、ヴィオレッタの状態もあるし。あとはボクの逃げグセとかヘタレゆえだとでも思って欲しい」
「アルワン、お前……」
「あー、勘違いしないでよ。ボクのいつものヘタレお根性無しが原因なんだから。ヴィオレッタは、ちゃんとしたお医者さんにかかってる。むしろ早く治療を終えて復帰したいって息巻いているくらいでさ」
「そうか」

 短い付き合いだが、この男も色々と気を回しすぎる所があるのが分かってる。
 多分、妹であるヴィオレッタの事が心配なのも本当だろうし。他にも色々と事情があるのかもしれない。

 よく良く考えれば、こいつが俺たちに仲間にしてくれと言ってきたことだって何らかの目的があったんだよな。

 これはすごく穿うがった考えだが、危険な任務に向かう妹が心配だったんじゃねえのか。
 あの森は確かに恐ろしい場所だった。現に、ヴィオレッタの想い人はあの場で死んだ。
 だからこいつは――いや、やめとこう。これもすべて俺の勝手な妄想に過ぎないんだ。

 こいつだって王位継承権は遠いが、血筋は立派としては王族なんだ。庶民である俺たちには分からない苦労があるはず。
 だから俺は何も聞かずうなずいた。

「スチル君に授けてもらった能力、今の僕にはどう扱えばいいか分からないんだけど」

 アルワンは困ったように笑った。

「それもこれから探したいんだ。どうしようもなく頑固で片意地の張った妹を支えながらね」
「別に僕が授けたワケじゃない」

 ぼそりとスチルが言う。

「アンタにもそれなりに才能があった。何らかの要因で開花を阻まれたつぼみを開かせたに過ぎない。そこはまあ……誇ればいいんじゃないの」
「スチル君」
「必要以上に自分を卑下するな。それはアンタを信じて支えようっていう仲間にとっても失礼になるぞ。特にほら、そこにいるお節介でクソ暑苦しいメイト・モリナーガとかな」
「……!」

 彼の目が大きく見開かれた、その瞬間。

「ありがとうっ、大好きだぁぁっ!」
「ウグッ!?」

 感極まった様子で抱きついてこられ、スチルは驚いて変な悲鳴をあげる。

「ちょ、離せ!!」
「スチル君って、とっても優しいんだね! ボクすごく感激しちゃったよ」
「わかったから抱きつくな、気色悪い!!!」
「君は、いや君たちはボクの恩人だーッ!!!」
「だから離せぇぇぇっ、おいメイト、このアホを何とかしろ!!!」

 ギャーギャーわめく二人を眺めながら、俺はなんだか酷く感傷的だった。
 
 出会いと別れ、そして再会――俺たちは日々繰り返して生きている。

 



 
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