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異世界召喚者に出し抜かれてみた
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鳥のさえずりさえ、今の俺には耳障りな雑音にしか聞こえない。
「――メイト・モリナーガ、君は本日をもって我がパーティから追放する」
目の前で、そう冷たく宣言した男。
俺とともにこのパーティを立ち上げた幼なじみのコメダ・カツパだった。
「は、はぁぁ!?」
突然の事に俺の頭は真っ白に。なんのドッキリだとか、冗談としても笑えないぞとか。言いたいことは山のようにあったのに、マヌケにも言葉が出なかった。
それくらい青天の霹靂ってやつだったんだ。
「メイト。君が困惑するのは分かるが……」
「ちょ、ちょっと待て! だいたいなんだ、『君』なんてスカした呼び方しやがって」
俺とコイツは田舎の村を、剣の腕ひとつで成り上がろうと夢を語り合って出てきたはずだ。
それからバカみたいな苦労も失敗もして、必死に仲間を集めてようやくこのパーティを集めたんだぞ。
それを、はいそーですかって手放せられるかよ。
第一なんでそんな話になるんだ。まったく身に覚えがない。
「なあ、メイト」
無表情だったカツパの表情は、今度は憐みのようなものに変わる。
「同郷のよしみで正直に教えてやるが、お前はもうこのパーティに必要ないんだよ」
「!」
俺の足元がぐらり、揺れる錯覚。
これについては少しだけ心当たりがあったからだ。
「あの新人か……?」
最近、うちのパーティに新入りがきた。わざわざ仲間にして欲しいとやってきたんだ。
タロ・メージと名乗ったそいつは、まずめちゃくちゃ高身長イケメンだった。
そしてそれだけでなく、実力が段違い。
目にも留まらぬ早業の剣の腕と同時に、高魔力のエルフくらいし扱えない高難易度の魔法を易々と使いこなす、とんでもない野郎だったんだ。
瞬く間に頭角を現した新人は、ほとんど一人で巨大魔獣を倒しやがった。
俺も含めて、メンバーはひっくり返るくらい驚愕したさ。
しかしさらにとんでもないことを、新人は言い出す。
『オレは異世界から召喚されてきた勇者だ』
と。
異世界召喚。
数年前、国の総力をあげて使った魔法。
それが異世界召喚魔法だ。
俺たちには想像がつかないが、実はこの世界とは別にいくつもの世界が並行的に存在しているらしい。
普段は交わることのないそこを、魔法の力で無理やりこじ開けて異世界から呼び寄せる。
その時、召喚された者は特殊かつ強大な能力をさずかるらしい。
もちろん成功率も低く難易度も高い、数十人の魔法使い達の魔力を食いつくす程の禁忌。
「まさか本当に信じてるのか!? あの話を!」
俺は叫んだ。
あの新人が本当に異世界召喚者なのか。だとしたら、なぜこんな有名でもない冒険者パーティに?
「信じるも信じないも、あの男は強い。お前よりもな」
「っ……そ、それは」
否定できない。
剣の腕は必死で磨いてきたが、所詮は凡人のそれだとは自覚しているからだ。
それに対して、魔法も剣も使えるタロ・メージ。
「あながち嘘じゃないかもな。魔王をたった一人で倒した異世界召喚勇者」
「だがあれは――」
「確かに伝説だし、王国も正体を明らかにしていない。でもよしんば彼が勇者でないにしても、あの実力は本物だ」
「……」
まさにぐうの音も出ない、というやつだ。
「しかしだからってなんで俺が!」
「見苦しいぞ、メイト」
幼なじみの冷たい視線が突き刺さる。
「みんなで話し合ったんだ。弱い剣士にはパーティから去ってもらおう、って満場一致さ」
「みんなって、まさか……ルティアスも」
俺は恋人の名をつぶやいた。
聖女である彼女と俺はひそかに付き合っていて、確かにここのところ少しスレ違いになっていたのは感じていたが。
「というわけだから。お前はもう、このパーティには不要なんだ。即刻、出ていってくれ」
「おい、カツパ!」
苦楽を共にしたはずの男の冷たい言い様に、殴り掛かりたくなるのを必死で抑えて叫ぶ。
「いきなりそんなこと言われても、だいたい、リーダーである俺を追い出そうなんて――」
「ウゼェし、ダサいな。お前は」
「!!!」
ヤツは笑っていた。
これ以上ないってほどに、俺を見下してバカにした笑顔だった。
「お、おい」
「そういうとこ、ほんとムカついてたんだよ。幼なじみのよしみで教えてやるけどさぁ」
カツパは、かたわらに立てかけていた杖を取り出す。
魔法使いである彼のものだ。それを真っ直ぐ俺につきつけて言った。
「圧倒的にお荷物なんだよ。それにタロ・メージがいればお前みたいな半端者は要らないしな」
「ぐっ……」
確かに攻撃魔法も剣術もピカイチな男がいれば、俺の出る幕はないかもしれない。努力はしているし決して弱くはないと自負しているが、コイツのいうことも一理あるんだ。
だとしても。
「でもそれは、みんなで支えて高めあっていくのがこのパーティの信条じゃないのか」
そう。ぶっちぎりの才能と実力が求められるこの世界。
でもそうじゃない者たちだって努力と協力で、強くなることができる。そう思って、俺はパーティを結成したんだ。
しかしカツパは鼻で笑う。
「そういうとこだよ、お前のウザいとこ。熱くなっちゃってバカじゃねえの」
もうなにを言ってもムダだ。
同郷の友として、大きな志を共にしてきたと思ってきたのに。一体なにが、彼をここまで変えてしまったんだろう。
「そうか」
俺は唇を噛み締めながらうなだれる。言いようのない虚無感と哀しみ。深いため息となって、それらは吐き出された。
「分かった。もういい」
一歩一歩、踏みしめるように俺は仮宿の部屋を後にする。
しかし無言の彼は追っては来なかった。むしろせいせいした、といった様子で小さく笑っていたと思う。
「くそっ……」
陽気に挨拶をしてくる宿屋の主人にすら目を背けながら、俺は外に出る。
相変わらず乾季真っ只中のこの町は、さんさんと太陽の光がそそいでいた。
小鳥のさえずりはもう聞こえない。
あれは朝のごく限られた時間だけだ。今聞こえるのは、港町であり栄えた街の雑踏。
物売り達の威勢の良い声と、馬車の車輪か回るガタガタといくけたたましい雑音くらきいのものだ。
「おい。追放剣士さんよォ」
「ん? 」
宿屋から出てきた俺の肩が軽く叩かれた。
当然のように振り向いた時。
「っゔぐ!?」
いきなり腹に一発食らって前のめりに崩れる。とっさに身を引いたとはいえ、不意打ちにはちがいない。
「な゙っ、なに」
「変態のクソ野郎のくせに、避けるんじゃねぇよ」
「ど、どういう――うぐッ!?」
またもう一発、今度は横っ腹に叩きつけられた。
気がつけば俺の周りに数人、いや十数人の人だかりができている。
同じパーティの奴らもいればある程度交流のある他のもの、まったく知らない顔もあった。
しかし一様に、俺を嫌悪感たっぷりの歪んだ顔で見つめている。
「オラッ、この下着泥棒! 恥を知れッ!!!」
「えっ? 下着ど……ぐあッ!?」
また殴りかかられた。よけようにも多方向から一斉にこられ、俺はタコ殴りにあうことに。
「隠してんだろッ、早く出せよ!」
「ったく。聖女のパンティ盗むなんざ、サイテーな野郎だな」
「こいつ、ルティアスちゃんと付き合ってるなんてデマ流してたんだってよ」
「うわっキモすぎだろ。どこの女がテメェみたいな半端者と付き合うってんだ。身の程を知れよバーカ」
「オマケにパンツ泥棒とか、完全に終わってんなァ」
「おい、なんとか言えや。このクソ変態嘘つき野郎が!!!」
口々にそう叫びながら、彼らは俺を殴り蹴り嘲っていく。
最初こそ意味がわからず反論しようとしたが、それも無駄らしい。利き腕だけはと、地面にうずくまり攻撃に耐えた。
「うぐッ、ぐ、ぅ」
下着泥棒ってなんのことだ? それに俺はルティアスと付き合っているのは本当のことだ。
確かに愛し合っていたし、それは少し仲違いしていた今も変わらないはず――。
「そろそろその程度にしてあげなよ」
「た、タロ様!」
頭上から声が聞こえてきた。その途端、俺を殴る奴らの手がとまる。
恐る恐る顔を上げれば。人だかりがぱっくりと割れて、そこには一人の男が立っていた。
「お、おまえ……!」
「メイト君。ご機嫌いかがかな」
皮肉たっぷりにそう言って肩をすくめるのは、タロ・メージ。あの自称、異世界召喚勇者だ。
肩までの髪をかきあげて、薄く微笑んでいる。
「タロ様、こいつはルティアスちゃんのパンティを盗んだんですよ!」
「そうだッ! しかも自分こそが恋人だなんて嘘を吹聴して、聖女を傷つけたんだ!!」
「最低な野郎だぜ!」
「追放だっ!!」
「いや殺してしまえッ!!!」
また激昂して口々に叫ぶ奴らとは裏腹に、俺の頭は冷えてきた。そして理解したんだ、この状況を。
「タロ、お前の仕業か」
「ん? なんのことかな。追放剣士さん」
片方の口角をあげた嫌な笑みを浮かべたこいつに、俺の予想は確信を得た。
つまりこいつにハメられたってわけ。
俺が彼女の下着を盗んだなんて濡れ衣を着せて、しかも恐らくだが俺のパーティ追放もこいつの入れ知恵だ。
だがルティアスのことは、なんとも解せない。
「彼女は、ルティアスはどうしやがった!」
「あはははっ、気安く呼ばないでくれたまえよ。オレの花嫁だよ?」
「なっ……!?」
その時、後ろから小走りしてくる女が。
「ルティアス!」
亜麻色の髪の聖女。大きな目に涙を浮かべてこちらを見た。
ああ頼む、ハッキリと言ってくれ。自分が確かに俺と恋人同士で、近いうちに結婚の約束もしてるんだと。
しかし、彼女の口からはとんでもない言葉が飛び出した。
「タロ様ぁ♡ ルティアス、すっごく怖かったのぉ」
「え?」
聖女と思えない、頭の悪そうな喋り方。そしてこともあろうにヤツの身体に抱きついたのだ。
「お、おいルティアス……」
「ルティアスちゃんはぁ♡ タロ様のお嫁さんになるんだよ? アンタみたいなザコ剣士なんてしらなーい♡♡」
「ちょっ、な、なんだよそれ!」
いやいやいやっ、意味がわからん。確かに姿形は彼女なのに、その媚び媚びでバカっぽい喋り方はなんなんだ。
だって少し前まで。
『私、聖女としての誇りがありますの』
なんて気高く凛とした美しさをたたえた女性だったじゃないか。それがなんだこれ。
どこの淫魔だってレベルで腰をくねらせてタロに微笑みかけている。
「残念だったねぇ、メイト君。彼女はすでにオレのものだよ」
「そんな……」
「ねえねえ♡ ルティアスちゃんっ、はやくタロ様のお嫁さんになりたーい♡♡♡ それでねっ、いっぱい子づくり♡ したいなっ♡♡」
よくよく見ればいつもよりメイクが濃い。というより、なにも塗らなくても綺麗な唇には娼婦みたいな真っ赤な口紅が。
これはもう彼女じゃない、俺はそう悟った。
「る、ルティアス……」
「ざぁこ♡ 大人しく追放されてろ♡♡ きっも♡♡♡」
熱にうかされたように、でも確かにその目には侮蔑と嘲笑を滲ませてルティアスは俺を見下した。
「さ、行こうか。ルティアス」
「はぁい♡♡」
そういって二人が俺に背を向けた瞬間、また周りの奴らが俺に襲いかかってきた――。
「――メイト・モリナーガ、君は本日をもって我がパーティから追放する」
目の前で、そう冷たく宣言した男。
俺とともにこのパーティを立ち上げた幼なじみのコメダ・カツパだった。
「は、はぁぁ!?」
突然の事に俺の頭は真っ白に。なんのドッキリだとか、冗談としても笑えないぞとか。言いたいことは山のようにあったのに、マヌケにも言葉が出なかった。
それくらい青天の霹靂ってやつだったんだ。
「メイト。君が困惑するのは分かるが……」
「ちょ、ちょっと待て! だいたいなんだ、『君』なんてスカした呼び方しやがって」
俺とコイツは田舎の村を、剣の腕ひとつで成り上がろうと夢を語り合って出てきたはずだ。
それからバカみたいな苦労も失敗もして、必死に仲間を集めてようやくこのパーティを集めたんだぞ。
それを、はいそーですかって手放せられるかよ。
第一なんでそんな話になるんだ。まったく身に覚えがない。
「なあ、メイト」
無表情だったカツパの表情は、今度は憐みのようなものに変わる。
「同郷のよしみで正直に教えてやるが、お前はもうこのパーティに必要ないんだよ」
「!」
俺の足元がぐらり、揺れる錯覚。
これについては少しだけ心当たりがあったからだ。
「あの新人か……?」
最近、うちのパーティに新入りがきた。わざわざ仲間にして欲しいとやってきたんだ。
タロ・メージと名乗ったそいつは、まずめちゃくちゃ高身長イケメンだった。
そしてそれだけでなく、実力が段違い。
目にも留まらぬ早業の剣の腕と同時に、高魔力のエルフくらいし扱えない高難易度の魔法を易々と使いこなす、とんでもない野郎だったんだ。
瞬く間に頭角を現した新人は、ほとんど一人で巨大魔獣を倒しやがった。
俺も含めて、メンバーはひっくり返るくらい驚愕したさ。
しかしさらにとんでもないことを、新人は言い出す。
『オレは異世界から召喚されてきた勇者だ』
と。
異世界召喚。
数年前、国の総力をあげて使った魔法。
それが異世界召喚魔法だ。
俺たちには想像がつかないが、実はこの世界とは別にいくつもの世界が並行的に存在しているらしい。
普段は交わることのないそこを、魔法の力で無理やりこじ開けて異世界から呼び寄せる。
その時、召喚された者は特殊かつ強大な能力をさずかるらしい。
もちろん成功率も低く難易度も高い、数十人の魔法使い達の魔力を食いつくす程の禁忌。
「まさか本当に信じてるのか!? あの話を!」
俺は叫んだ。
あの新人が本当に異世界召喚者なのか。だとしたら、なぜこんな有名でもない冒険者パーティに?
「信じるも信じないも、あの男は強い。お前よりもな」
「っ……そ、それは」
否定できない。
剣の腕は必死で磨いてきたが、所詮は凡人のそれだとは自覚しているからだ。
それに対して、魔法も剣も使えるタロ・メージ。
「あながち嘘じゃないかもな。魔王をたった一人で倒した異世界召喚勇者」
「だがあれは――」
「確かに伝説だし、王国も正体を明らかにしていない。でもよしんば彼が勇者でないにしても、あの実力は本物だ」
「……」
まさにぐうの音も出ない、というやつだ。
「しかしだからってなんで俺が!」
「見苦しいぞ、メイト」
幼なじみの冷たい視線が突き刺さる。
「みんなで話し合ったんだ。弱い剣士にはパーティから去ってもらおう、って満場一致さ」
「みんなって、まさか……ルティアスも」
俺は恋人の名をつぶやいた。
聖女である彼女と俺はひそかに付き合っていて、確かにここのところ少しスレ違いになっていたのは感じていたが。
「というわけだから。お前はもう、このパーティには不要なんだ。即刻、出ていってくれ」
「おい、カツパ!」
苦楽を共にしたはずの男の冷たい言い様に、殴り掛かりたくなるのを必死で抑えて叫ぶ。
「いきなりそんなこと言われても、だいたい、リーダーである俺を追い出そうなんて――」
「ウゼェし、ダサいな。お前は」
「!!!」
ヤツは笑っていた。
これ以上ないってほどに、俺を見下してバカにした笑顔だった。
「お、おい」
「そういうとこ、ほんとムカついてたんだよ。幼なじみのよしみで教えてやるけどさぁ」
カツパは、かたわらに立てかけていた杖を取り出す。
魔法使いである彼のものだ。それを真っ直ぐ俺につきつけて言った。
「圧倒的にお荷物なんだよ。それにタロ・メージがいればお前みたいな半端者は要らないしな」
「ぐっ……」
確かに攻撃魔法も剣術もピカイチな男がいれば、俺の出る幕はないかもしれない。努力はしているし決して弱くはないと自負しているが、コイツのいうことも一理あるんだ。
だとしても。
「でもそれは、みんなで支えて高めあっていくのがこのパーティの信条じゃないのか」
そう。ぶっちぎりの才能と実力が求められるこの世界。
でもそうじゃない者たちだって努力と協力で、強くなることができる。そう思って、俺はパーティを結成したんだ。
しかしカツパは鼻で笑う。
「そういうとこだよ、お前のウザいとこ。熱くなっちゃってバカじゃねえの」
もうなにを言ってもムダだ。
同郷の友として、大きな志を共にしてきたと思ってきたのに。一体なにが、彼をここまで変えてしまったんだろう。
「そうか」
俺は唇を噛み締めながらうなだれる。言いようのない虚無感と哀しみ。深いため息となって、それらは吐き出された。
「分かった。もういい」
一歩一歩、踏みしめるように俺は仮宿の部屋を後にする。
しかし無言の彼は追っては来なかった。むしろせいせいした、といった様子で小さく笑っていたと思う。
「くそっ……」
陽気に挨拶をしてくる宿屋の主人にすら目を背けながら、俺は外に出る。
相変わらず乾季真っ只中のこの町は、さんさんと太陽の光がそそいでいた。
小鳥のさえずりはもう聞こえない。
あれは朝のごく限られた時間だけだ。今聞こえるのは、港町であり栄えた街の雑踏。
物売り達の威勢の良い声と、馬車の車輪か回るガタガタといくけたたましい雑音くらきいのものだ。
「おい。追放剣士さんよォ」
「ん? 」
宿屋から出てきた俺の肩が軽く叩かれた。
当然のように振り向いた時。
「っゔぐ!?」
いきなり腹に一発食らって前のめりに崩れる。とっさに身を引いたとはいえ、不意打ちにはちがいない。
「な゙っ、なに」
「変態のクソ野郎のくせに、避けるんじゃねぇよ」
「ど、どういう――うぐッ!?」
またもう一発、今度は横っ腹に叩きつけられた。
気がつけば俺の周りに数人、いや十数人の人だかりができている。
同じパーティの奴らもいればある程度交流のある他のもの、まったく知らない顔もあった。
しかし一様に、俺を嫌悪感たっぷりの歪んだ顔で見つめている。
「オラッ、この下着泥棒! 恥を知れッ!!!」
「えっ? 下着ど……ぐあッ!?」
また殴りかかられた。よけようにも多方向から一斉にこられ、俺はタコ殴りにあうことに。
「隠してんだろッ、早く出せよ!」
「ったく。聖女のパンティ盗むなんざ、サイテーな野郎だな」
「こいつ、ルティアスちゃんと付き合ってるなんてデマ流してたんだってよ」
「うわっキモすぎだろ。どこの女がテメェみたいな半端者と付き合うってんだ。身の程を知れよバーカ」
「オマケにパンツ泥棒とか、完全に終わってんなァ」
「おい、なんとか言えや。このクソ変態嘘つき野郎が!!!」
口々にそう叫びながら、彼らは俺を殴り蹴り嘲っていく。
最初こそ意味がわからず反論しようとしたが、それも無駄らしい。利き腕だけはと、地面にうずくまり攻撃に耐えた。
「うぐッ、ぐ、ぅ」
下着泥棒ってなんのことだ? それに俺はルティアスと付き合っているのは本当のことだ。
確かに愛し合っていたし、それは少し仲違いしていた今も変わらないはず――。
「そろそろその程度にしてあげなよ」
「た、タロ様!」
頭上から声が聞こえてきた。その途端、俺を殴る奴らの手がとまる。
恐る恐る顔を上げれば。人だかりがぱっくりと割れて、そこには一人の男が立っていた。
「お、おまえ……!」
「メイト君。ご機嫌いかがかな」
皮肉たっぷりにそう言って肩をすくめるのは、タロ・メージ。あの自称、異世界召喚勇者だ。
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「タロ様、こいつはルティアスちゃんのパンティを盗んだんですよ!」
「そうだッ! しかも自分こそが恋人だなんて嘘を吹聴して、聖女を傷つけたんだ!!」
「最低な野郎だぜ!」
「追放だっ!!」
「いや殺してしまえッ!!!」
また激昂して口々に叫ぶ奴らとは裏腹に、俺の頭は冷えてきた。そして理解したんだ、この状況を。
「タロ、お前の仕業か」
「ん? なんのことかな。追放剣士さん」
片方の口角をあげた嫌な笑みを浮かべたこいつに、俺の予想は確信を得た。
つまりこいつにハメられたってわけ。
俺が彼女の下着を盗んだなんて濡れ衣を着せて、しかも恐らくだが俺のパーティ追放もこいつの入れ知恵だ。
だがルティアスのことは、なんとも解せない。
「彼女は、ルティアスはどうしやがった!」
「あはははっ、気安く呼ばないでくれたまえよ。オレの花嫁だよ?」
「なっ……!?」
その時、後ろから小走りしてくる女が。
「ルティアス!」
亜麻色の髪の聖女。大きな目に涙を浮かべてこちらを見た。
ああ頼む、ハッキリと言ってくれ。自分が確かに俺と恋人同士で、近いうちに結婚の約束もしてるんだと。
しかし、彼女の口からはとんでもない言葉が飛び出した。
「タロ様ぁ♡ ルティアス、すっごく怖かったのぉ」
「え?」
聖女と思えない、頭の悪そうな喋り方。そしてこともあろうにヤツの身体に抱きついたのだ。
「お、おいルティアス……」
「ルティアスちゃんはぁ♡ タロ様のお嫁さんになるんだよ? アンタみたいなザコ剣士なんてしらなーい♡♡」
「ちょっ、な、なんだよそれ!」
いやいやいやっ、意味がわからん。確かに姿形は彼女なのに、その媚び媚びでバカっぽい喋り方はなんなんだ。
だって少し前まで。
『私、聖女としての誇りがありますの』
なんて気高く凛とした美しさをたたえた女性だったじゃないか。それがなんだこれ。
どこの淫魔だってレベルで腰をくねらせてタロに微笑みかけている。
「残念だったねぇ、メイト君。彼女はすでにオレのものだよ」
「そんな……」
「ねえねえ♡ ルティアスちゃんっ、はやくタロ様のお嫁さんになりたーい♡♡♡ それでねっ、いっぱい子づくり♡ したいなっ♡♡」
よくよく見ればいつもよりメイクが濃い。というより、なにも塗らなくても綺麗な唇には娼婦みたいな真っ赤な口紅が。
これはもう彼女じゃない、俺はそう悟った。
「る、ルティアス……」
「ざぁこ♡ 大人しく追放されてろ♡♡ きっも♡♡♡」
熱にうかされたように、でも確かにその目には侮蔑と嘲笑を滲ませてルティアスは俺を見下した。
「さ、行こうか。ルティアス」
「はぁい♡♡」
そういって二人が俺に背を向けた瞬間、また周りの奴らが俺に襲いかかってきた――。
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