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3.サンタクロースは一体誰か

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「……誰だよっ!?」

 いや本当にこいつ誰? 
 ベットにいた奴ってのは分かる。爽やか系イケメンに筋骨隆々のコラかよっていうバランスの悪さ。
 
「ははっ、酷いなぁ! あんな熱い夜を過ごした仲じゃあないか」
「熱い夜ぅ~!?」

 ンな記憶なんざ全くないぞ。
 居酒屋でもカラオケでもゲイバーでも……ましてやあのハゲ散らかしたオッサンですらない。
 
「昨夜はえらく羽目を外してたね。駅前の居酒屋とカラオケ、ゲイバー、あとホテル……だっけ。駄目だよ、知らない人とそんな所に入っちゃあ」
「な、なんで全部知って……」

 だいたいお前もじゃねーか!
 ……なんてツッコミ入れられなかった。
 男の顔が怖かったからだ。怖い……すごく、怖い。何が怖いって目が怖い。
 爽やかに微笑んでいると見えて、実はその涼し気な目だけは全く笑っていなかった。

「昨夜ばかりじゃあない。ずっと見てきたよ。通ってる大学もバイト先も、君が恋人欲しがってることも。この前の合コンで連絡先交換した娘から、約束すっぽかされた事とか……あのなら、今頃どこか遠くで幸せにしてるよ。多分」
「はァァァ!? い、言ってる意味が……っ、まさかお前、ストーカー……」
「ははっ、ストーカーだなんて! 見守ってるだけだよ?」
「それをストーカーって言うんだッ、この変態野郎め!」
「あはははっ、怒った顔も可愛いなぁ……で、思い出した? 僕のこと。あの夜、何度も会ってるんだよ。それに言葉も交わした」

 ……何度も? まさか、最初からか。
 
 俺は無意識に再び記憶を遡っていた。
 ハゲ散らかしたオッサンじゃない、とすると。
 
 ……あのバーの店員の中に? 分からない。じゃあ客? 
 その前のカラオケ、まさかあの乱入してきた男か。
 それとも居酒屋? 客か店員か。恐らく客だろう。なんとなくだけど。

「はははっ、もう。忘れん坊さんだなぁ」

 男はニコニコしながら、1歩だけこちらに歩み寄る。
 俺は反射的に1歩半、下がった。

「答えはね。全部でした!」
「!?」

 全部ってどういうことだ? なんて俺の口から出るより先に男はまた1歩。

「居酒屋でも君の隣の席に居たし、カラオケでも一緒に歌ったでしょ? バーだと、ママと最初に喋ってたのが僕だし。……そもそも、バイトの時も話しかけたじゃあないか。忘れちゃうなんて、ショックだなぁ」
「おいおいおいっ、く、来るなって……お前、一体何者なんだよ!」

 相変わらず目以外笑いながら、こちらに近付いていくこの男。俺もだけどこいつも全裸だし、大きく逞しい筋肉と顔とが合ってない所も気持ち悪いし怖ぇ。

「君は僕を知らない。でも僕は君を知っている……一年前からね」
「1年、前から……?」
「そう。去年のクリスマスの日。僕は君に一目惚れをした。思えば運命的な出会いだったよ。それから僕は君を見守り続けた」

 1年も俺はこの変態野郎にストーカーされてたって事かよ!? 

「全然気が付かなかった……」
「ふふっ、君は少し鈍感みたいだしね。でも、君が僕のクリスマスプレゼントだったように、僕も君のクリスマスプレゼントになりたかったんだ。それって素敵だろ?」
「は、はぁぁ!? お前イカレてんのかよッ!」

 突然人をプレゼントだのなんだのって意味わかんねぇ。
 俺はますます混乱状態に陥って、広い部屋を後ずさっていく。

「至極まともだよ。クリスマスの日に現れた、僕の愛する人! まさしく僕のプレゼントさ。そして、君も
「あ、あれは……」
「大丈夫。君が童貞でも僕は幻滅したりしないよ。むしろ大歓迎さ」
「俺は歓迎しねぇつっーの!!」

 ……むしろ絶望するわ!
 俺はこの変態で異常者のマッチョを怒鳴りつける。
 でも男はそんな事気にする様子もなく、また数歩俺を部屋の奥に追い詰める。

「メリークリスマス! イタズラしちゃうぞ?」
「違ぇッ、色々と間違ってる!」
「えー? まぁイタズラじゃなくて、求愛行為かな。……ほら、君ももうリア充だ」
「ンな充実したくねぇぇっ!」

 俺がしたいのは可愛い女の子とのアレコレで、ホモでガチムチのおにーさんとのアレコレは望んでねぇっての!
 
 ……くそ、これは何がなんでもこの場を切り抜けねぇと俺の貞操が危ない。
 そう思って尚も後ずさりしていると。

「ってぇ! 痛……」
「あぁ、大丈夫かい? 危ないよ」

 突然、足元に転がってたにつまづいて尻もちをついた。
 強かに打った腰を擦りながら手で、探りながら再び立ち上がろうとする。

「な……なんじゃこりゃ」

 転んだ原因らしきものを拾い上げた。
 そしてそれを目にした瞬間。

「ウワァァァッ!」

 叫んだ。
 それが……ああ、おぞましい。口にも出したくないほどに。
 こともあろうにそれは。

「あ、それ? アナルビー……」
「言うなァァっ、それ以上口に出すんじゃねぇぇぇッ! 」

 恥もなんもなくその道具の名前を口にする男に怒鳴りつける。
 怖い。めっちゃ怖い。これ、こいつに使うつもりなんだよ……。

「えー? だって必要じゃあないか。君のアナ……」
「だから言うなっつーの!! この変態めっ、死ね! 今すぐ俺をここから出してから自害しろぉぉぉっ!」
「あははは、やだよー。言ったでしょ? 君は僕のなんだから」
「ヒッ……! く、来るな……こっちに、来る、なよぉ……」

 後ずされば後ずさるほど部屋の真ん中に。
 よく見ればそこは目を覆いたくなる程の卑猥な道具や器具、椅子などが山ほどあった。
 
「ここは僕の趣味の部屋。今日、ようやく実際に使えるようになったんだ。嬉しいなぁ……ほら、遊ぼうよ。昨晩は、少し触ってたら寝ちゃったし。あ、大丈夫。最後までしてないから。……これから、ね」

 ガチガチと歯が鳴る。
 背中がゾクゾクと悪寒が走り、いてもたってもいられない感じだ。
 後ろは既に壁に近い。 前はこの男。

―――俺はこれから人生で一番最低なクリスマスを味わう事になりそうだ。
 
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