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魔王執事の休日の過ごし方
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首と手には鎖付きの枷が嵌められ、着ていた服はあっという間に剥ぎ取られた。
「くそっ、覚えてろよ……」
まんま悪役のセリフをわめきながら、ノゾミは腰布ひとつで歯噛みする。
いきなり捕らえられ、尋問と称して大広間に引きずり出されたのだ。
そこはよく漫画やゲームで目にする鮮やかな赤い絨毯が敷かれており、数メートル先には煌めく黒曜石のような鉱物で造られた玉座が重々しい存在感を醸し出していた。
「人間のような野蛮な生き物に服なんてもったいない、なんて説もありますが」
「ンなわけないだろ! だいたいなんで僕がこんな目に遭わなきゃならんのだ」
「おや? 無罪を主張すると」
バカにした様子で大仰に肩をすくめるリリシュの態度に腹が立つどころではない。出来れば今すぐにでも掴みかかってこの鼻持ちならないヤツの横っ面をぶん殴ってやりたいのだが、それを許さないのがこの拘束具。
「無罪どころか僕はなにもしてない! だいたいアンタらは何者で、どうして僕を捕まえるんだ!?」
そうなのだ。まったく状況についていけていない。
先程の話をおぼろけながら思い出すに、どうやらここは異世界というノゾミが暮らしていたのとはまったく違う所らしい。
そしてなぜここへ飛ばされたかというとあの赤ちゃん、つまり魔王の娘ヴィヴィに異世界転移魔法で召喚されたと。
「まさか人間を召喚するとは……さすが魔王の御子息、成長著しいですね」
「いやいや、成長の一言で済ませて良い事じゃないだろ」
それとも魔界の住人とはそういうものなのだろうか。
――それにしても。
いくら魔界で人間というものが珍しいからといってここまで騒がれるものか。しかもこんな格好で拘束までされて、これから拷問だの尋問だのと脅されるのだからたまったものじゃない。
「おい、いい加減にしろよ。僕はむしろ被害者だぞ」
赤ちゃんが相手とはいえ勝手に妙な魔法とやらで呼び出されて、こんな仕打ちを受けるなんて。自分がなにをしたというのだと頭を抱えたくなる。
「人間だからですよ。あとヴィヴィ様をさらおうとした容疑です」
「さらおうとしてない!」
何度言えば分かるのだろう。たしかに可愛い赤ちゃんだと思ったが、むしろ気に入り懐いてきたのは向こうだ。
しかしリリシュは底意地の悪そうな笑みを浮かべて。
「人間の生態って興味あったんですよ」
「せ、生態って」
解剖でもされるのだろうか。
さすがの彼も青ざめるも、ここで無様に震えて命乞いするのも癪に障る。
ここで持ち前の気の強さがアダとなるのだが。
「貴方は見たより頑丈そうですしね」
「ひゃっ!?」
素肌の脇腹を指先でスっと撫でられ思わず悲鳴をあげた。
「おいコラ、なにすんだ変態!」
「可愛い声で鳴くじゃないですか」
いっそう嘲笑の増した声にこちらの怒りのボルテージも急上昇する。ガチャガチャと枷の音を立てて暴れるも、ビクともしない。
「ちくしょう、ぶっ殺してやる!」
「おお怖い怖い。まぁ魔法のひとつも使えぬひ弱な種族に何が出来るって話ですけどね」
「うるさい覚えてろよ!!」
またしても飛び出たセリフはもうザコ悪役のものに成り下がる。
「虚勢だけは一丁前ですな、人間とやらは」
「くっ……」
このまま良いようにされてしまうのか。良くて凌辱、悪けりゃ生きたまま解剖されるのが手に取るように分かって冷や汗が止まらない。
「おや? 寒いですか、震えてるようですが」
「ふ、震えとらんわ!」
「おもしろいですねぇ」
心の底から興味深いといった様子で鎖を引く。首が強かに絞まり咳き込む彼を見下ろしている男に対して怒りより恐怖が勝ってくるのが分かった。
――こ、こいつ本気で僕をいたぶるつもりかよ。
とんだドS野郎に捕まってしまったのかもしれない。
「あ、あのリリシュ様」
後ろに控えていた兵士がおずおずと言葉を挟んできた。
「取り調べでしたら我々がいたしますので。わざわざお手を煩わせるわけには……」
「私に意見ですか、兵長」
一気に機嫌を損ねたらしい。冷たく低い声に兵長らしいゴブリンは飛び上がった。
「いいいっ、いいえ。そんなつもりは!! ただ魔王様が朝からリリシュ様を探しておられると聞いたものですから」
「……今日は休暇をとっていることはちゃんと皆に申し送りしたはずですが?」
「ヒッ!?」
視線で生き物が殺せるならばこの兵長は昏倒してあの世行きであろう。それほどの鋭い視線を向けられ、彼は緑色の肌を土気色にしてガタガタ震え始める。
「数年ぶりの有給すらマトモにとらせぬほど、貴方たちは無能だというわけでもあるまい」
「しかし魔王様が納得されておりませんで。ずっと――」
「ふん、パワハラ上司を持つと苦労する」
リリシュは大きくため息を吐き、舌打ちをひとつ。
「いいですか、ただでさえ休みなくあのバカ魔王の元で働いてんですよ。たまの休みくらい好きにさせて欲しいっていうのも贅沢ですか?」
「そ、それはそうですが……」
「趣味の拷問を心ゆくまで楽しませろってことですよ」
――やっぱり鬼畜ドS野郎じゃないか!
つまりこの仕打ちも単なる趣味の時間。取り調べなんてものは口実らしい。
「ふざけんな、休日の趣味で拷問されてたまるか!!」
「やかましい、人間」
「ぐえっ!?」
たまらずわめいたノゾミだがすぐさま一蹴され、なんならまた首輪の鎖を引かれて潰れたカエルのような声をあげてしまう。
「それっ、やめろって!」
「人間風情が偉そうに私に指図しないでください、あのバカ魔王じゃあるまいし」
リリシュが嫌そうに眉をひそめた時だった。
「みーつけた。リリシュってばオレに内緒で休暇とるなんて酷いじゃあないか」
「!?」
足音ひとつ聞こえなかった。それどころか気配すら。
しかし妙に陽気な声にその場をいた (ノゾミを除く)全員が大きく戦慄くのが分かった。
「ま、魔王様……」
兵長が小さくつぶやく。
そこでようやくノゾミも気づいた。いつの間にか大広間の玉座に座っている白ずくめの大男に。
「リリシュ!」
白ずくめの大男は嬉しそうに立ち上がると、こちらに大股で歩いてくる。
「会いたかったよ、俺の天使ちゃん!」
「その呼び方止めてください、魔王様」
淡々と、しかし凄く嫌そうな顔のリリシュと満面の笑みの魔王。
――これが魔王……?
イメージと違いすぎる。
なんとなくだが魔王は黒ずくめで威圧的で恐ろしい、そんなふうに思っていたがすべて真逆。
たしかに背は高いしガタイも悪くないがニコニコしていて服だって白を基調とした爽やか王子様スタイルだ。
エルフで執事のリリシュの方がよほど悪魔とか魔王とかが似合うと彼は思った。
「そんな怖い顔をしないで。あ、もしかして拗ねちゃった? 俺が君を見つけるのが遅くなったから」
「拗ねてませんし、むしろ上司にストーカーされて不快極まりないとは思っています」
「あはは、照れ屋さんだなぁ」
「……触らないで頂けますか」
伸ばされた手をかわしながら、顔を顰める彼の態度はとても執事の主人に対するそれには思えない。
「仕事とプライベートは分けたいので」
「ふうん?」
魔王の赤みを帯びて煌めく。
「今や魔界に存在しないという人間を捕らえて上司に報告せず、勝手に弄ぼうとするなんて社会人としてどうなんだろうね」
「っ、それは……」
痛いところを突かれたからだろう。ぐっと言葉に詰まった様子でリリシュがまたも手枷首枷の鎖を引っ張る。
「ぐぇ゙っ」
だからそれやめろと抗議しようと口を開きかけるも。
「それはそうとして! おっ、本当に人間だね。俺、はじめて見たよ。文献でしか知らないけどエルフに近いのかなぁ」
興味津々といったキラキラした目でこちらに近づいてくる魔王はやはり大柄だった。
決して太っているわけではない。むしろドン引くほどの筋骨隆々な身体に柔和に笑う童顔の顔がのってるという感じ。
見れば見るほど魔王のイメージとはかけ離れていた。
「うーん? やっぱり男の子なのかな。ほら、こことか」
「ひっ!?」
突然、無遠慮に触られたところはまさかの股間。慌てて膝で隠すも。
「ごめんごめん、驚いちゃったか。でもなかなか可愛いもんだね、人間って」
「な……な……」
人外っぷりを間近で見せつけられて腹が立つより恐怖が勝った。
むしろリリシュの対応の方がマシすらある。
「魔王様」
不機嫌を隠さない声と共に鋭い視線。
執事が、上司である魔王にガンつけるというなんともな光景を目の当たりにする。
「私の人間ですが」
「ふーん、でも俺は君の上司だよ」
「職権乱用です」
「ん。じゃあこういうのはどうかな」
顔は笑顔のままで、魔王がその場に膝をつく。
「可愛い人間さん、俺の元で働いてみない?」
「え……」
赤い瞳に覗き込まれる。どこか爬虫類めいた、感情の読めない色だった。
「魔王様! いったいなにを考えて――」
「リリシュ」
声をあげた彼に浴びせられたのは言葉とは裏腹に重々しく冷たい声。
「この人間は息子のベビーシッターにすることにしよう」
「は……? 何言ってるんです。奴は人間ですよ、そんな得体の知れない者をヴィヴィ様になんて」
「なにか勘違いしてるようだけどね」
魔王が彼に向き直る。
空気がビリビリと震えて、傍らに座り込むノゾミにも伝わるほどだ。
――こ、こいつめちゃくちゃヤバい奴なんじゃないのか。
「リリシュ」
魔王が一歩踏み込む。執事の方は表情を消して無言である。
「おいで」
「っ、は……」
優しいが有無を言わさぬ口調。彼は一瞬だけ顔を歪めるたものの、すぐにまた無表情で魔王の元へ。
「魔王様」
「いい子だね、でもとても悪い子だ」
「……」
「あの人間くんは今から我々の仲間だ、いいね?」
「……御意」
「城のことは君が教えてあげてね」
「……」
「返事しなさい、リリシュ」
目の奥が笑ってないやつで言われたからだろう、彼は奥歯を噛み締めるような顔をしてから。
「御意」
とうなずく。
「よし、じゃあこれからもよろしくね、人間くん!」
くるりと振り返った魔王にさすがのノゾミも気落とされ無言で何度も首を縦に振ることしか出来なかった。
「くそっ、覚えてろよ……」
まんま悪役のセリフをわめきながら、ノゾミは腰布ひとつで歯噛みする。
いきなり捕らえられ、尋問と称して大広間に引きずり出されたのだ。
そこはよく漫画やゲームで目にする鮮やかな赤い絨毯が敷かれており、数メートル先には煌めく黒曜石のような鉱物で造られた玉座が重々しい存在感を醸し出していた。
「人間のような野蛮な生き物に服なんてもったいない、なんて説もありますが」
「ンなわけないだろ! だいたいなんで僕がこんな目に遭わなきゃならんのだ」
「おや? 無罪を主張すると」
バカにした様子で大仰に肩をすくめるリリシュの態度に腹が立つどころではない。出来れば今すぐにでも掴みかかってこの鼻持ちならないヤツの横っ面をぶん殴ってやりたいのだが、それを許さないのがこの拘束具。
「無罪どころか僕はなにもしてない! だいたいアンタらは何者で、どうして僕を捕まえるんだ!?」
そうなのだ。まったく状況についていけていない。
先程の話をおぼろけながら思い出すに、どうやらここは異世界というノゾミが暮らしていたのとはまったく違う所らしい。
そしてなぜここへ飛ばされたかというとあの赤ちゃん、つまり魔王の娘ヴィヴィに異世界転移魔法で召喚されたと。
「まさか人間を召喚するとは……さすが魔王の御子息、成長著しいですね」
「いやいや、成長の一言で済ませて良い事じゃないだろ」
それとも魔界の住人とはそういうものなのだろうか。
――それにしても。
いくら魔界で人間というものが珍しいからといってここまで騒がれるものか。しかもこんな格好で拘束までされて、これから拷問だの尋問だのと脅されるのだからたまったものじゃない。
「おい、いい加減にしろよ。僕はむしろ被害者だぞ」
赤ちゃんが相手とはいえ勝手に妙な魔法とやらで呼び出されて、こんな仕打ちを受けるなんて。自分がなにをしたというのだと頭を抱えたくなる。
「人間だからですよ。あとヴィヴィ様をさらおうとした容疑です」
「さらおうとしてない!」
何度言えば分かるのだろう。たしかに可愛い赤ちゃんだと思ったが、むしろ気に入り懐いてきたのは向こうだ。
しかしリリシュは底意地の悪そうな笑みを浮かべて。
「人間の生態って興味あったんですよ」
「せ、生態って」
解剖でもされるのだろうか。
さすがの彼も青ざめるも、ここで無様に震えて命乞いするのも癪に障る。
ここで持ち前の気の強さがアダとなるのだが。
「貴方は見たより頑丈そうですしね」
「ひゃっ!?」
素肌の脇腹を指先でスっと撫でられ思わず悲鳴をあげた。
「おいコラ、なにすんだ変態!」
「可愛い声で鳴くじゃないですか」
いっそう嘲笑の増した声にこちらの怒りのボルテージも急上昇する。ガチャガチャと枷の音を立てて暴れるも、ビクともしない。
「ちくしょう、ぶっ殺してやる!」
「おお怖い怖い。まぁ魔法のひとつも使えぬひ弱な種族に何が出来るって話ですけどね」
「うるさい覚えてろよ!!」
またしても飛び出たセリフはもうザコ悪役のものに成り下がる。
「虚勢だけは一丁前ですな、人間とやらは」
「くっ……」
このまま良いようにされてしまうのか。良くて凌辱、悪けりゃ生きたまま解剖されるのが手に取るように分かって冷や汗が止まらない。
「おや? 寒いですか、震えてるようですが」
「ふ、震えとらんわ!」
「おもしろいですねぇ」
心の底から興味深いといった様子で鎖を引く。首が強かに絞まり咳き込む彼を見下ろしている男に対して怒りより恐怖が勝ってくるのが分かった。
――こ、こいつ本気で僕をいたぶるつもりかよ。
とんだドS野郎に捕まってしまったのかもしれない。
「あ、あのリリシュ様」
後ろに控えていた兵士がおずおずと言葉を挟んできた。
「取り調べでしたら我々がいたしますので。わざわざお手を煩わせるわけには……」
「私に意見ですか、兵長」
一気に機嫌を損ねたらしい。冷たく低い声に兵長らしいゴブリンは飛び上がった。
「いいいっ、いいえ。そんなつもりは!! ただ魔王様が朝からリリシュ様を探しておられると聞いたものですから」
「……今日は休暇をとっていることはちゃんと皆に申し送りしたはずですが?」
「ヒッ!?」
視線で生き物が殺せるならばこの兵長は昏倒してあの世行きであろう。それほどの鋭い視線を向けられ、彼は緑色の肌を土気色にしてガタガタ震え始める。
「数年ぶりの有給すらマトモにとらせぬほど、貴方たちは無能だというわけでもあるまい」
「しかし魔王様が納得されておりませんで。ずっと――」
「ふん、パワハラ上司を持つと苦労する」
リリシュは大きくため息を吐き、舌打ちをひとつ。
「いいですか、ただでさえ休みなくあのバカ魔王の元で働いてんですよ。たまの休みくらい好きにさせて欲しいっていうのも贅沢ですか?」
「そ、それはそうですが……」
「趣味の拷問を心ゆくまで楽しませろってことですよ」
――やっぱり鬼畜ドS野郎じゃないか!
つまりこの仕打ちも単なる趣味の時間。取り調べなんてものは口実らしい。
「ふざけんな、休日の趣味で拷問されてたまるか!!」
「やかましい、人間」
「ぐえっ!?」
たまらずわめいたノゾミだがすぐさま一蹴され、なんならまた首輪の鎖を引かれて潰れたカエルのような声をあげてしまう。
「それっ、やめろって!」
「人間風情が偉そうに私に指図しないでください、あのバカ魔王じゃあるまいし」
リリシュが嫌そうに眉をひそめた時だった。
「みーつけた。リリシュってばオレに内緒で休暇とるなんて酷いじゃあないか」
「!?」
足音ひとつ聞こえなかった。それどころか気配すら。
しかし妙に陽気な声にその場をいた (ノゾミを除く)全員が大きく戦慄くのが分かった。
「ま、魔王様……」
兵長が小さくつぶやく。
そこでようやくノゾミも気づいた。いつの間にか大広間の玉座に座っている白ずくめの大男に。
「リリシュ!」
白ずくめの大男は嬉しそうに立ち上がると、こちらに大股で歩いてくる。
「会いたかったよ、俺の天使ちゃん!」
「その呼び方止めてください、魔王様」
淡々と、しかし凄く嫌そうな顔のリリシュと満面の笑みの魔王。
――これが魔王……?
イメージと違いすぎる。
なんとなくだが魔王は黒ずくめで威圧的で恐ろしい、そんなふうに思っていたがすべて真逆。
たしかに背は高いしガタイも悪くないがニコニコしていて服だって白を基調とした爽やか王子様スタイルだ。
エルフで執事のリリシュの方がよほど悪魔とか魔王とかが似合うと彼は思った。
「そんな怖い顔をしないで。あ、もしかして拗ねちゃった? 俺が君を見つけるのが遅くなったから」
「拗ねてませんし、むしろ上司にストーカーされて不快極まりないとは思っています」
「あはは、照れ屋さんだなぁ」
「……触らないで頂けますか」
伸ばされた手をかわしながら、顔を顰める彼の態度はとても執事の主人に対するそれには思えない。
「仕事とプライベートは分けたいので」
「ふうん?」
魔王の赤みを帯びて煌めく。
「今や魔界に存在しないという人間を捕らえて上司に報告せず、勝手に弄ぼうとするなんて社会人としてどうなんだろうね」
「っ、それは……」
痛いところを突かれたからだろう。ぐっと言葉に詰まった様子でリリシュがまたも手枷首枷の鎖を引っ張る。
「ぐぇ゙っ」
だからそれやめろと抗議しようと口を開きかけるも。
「それはそうとして! おっ、本当に人間だね。俺、はじめて見たよ。文献でしか知らないけどエルフに近いのかなぁ」
興味津々といったキラキラした目でこちらに近づいてくる魔王はやはり大柄だった。
決して太っているわけではない。むしろドン引くほどの筋骨隆々な身体に柔和に笑う童顔の顔がのってるという感じ。
見れば見るほど魔王のイメージとはかけ離れていた。
「うーん? やっぱり男の子なのかな。ほら、こことか」
「ひっ!?」
突然、無遠慮に触られたところはまさかの股間。慌てて膝で隠すも。
「ごめんごめん、驚いちゃったか。でもなかなか可愛いもんだね、人間って」
「な……な……」
人外っぷりを間近で見せつけられて腹が立つより恐怖が勝った。
むしろリリシュの対応の方がマシすらある。
「魔王様」
不機嫌を隠さない声と共に鋭い視線。
執事が、上司である魔王にガンつけるというなんともな光景を目の当たりにする。
「私の人間ですが」
「ふーん、でも俺は君の上司だよ」
「職権乱用です」
「ん。じゃあこういうのはどうかな」
顔は笑顔のままで、魔王がその場に膝をつく。
「可愛い人間さん、俺の元で働いてみない?」
「え……」
赤い瞳に覗き込まれる。どこか爬虫類めいた、感情の読めない色だった。
「魔王様! いったいなにを考えて――」
「リリシュ」
声をあげた彼に浴びせられたのは言葉とは裏腹に重々しく冷たい声。
「この人間は息子のベビーシッターにすることにしよう」
「は……? 何言ってるんです。奴は人間ですよ、そんな得体の知れない者をヴィヴィ様になんて」
「なにか勘違いしてるようだけどね」
魔王が彼に向き直る。
空気がビリビリと震えて、傍らに座り込むノゾミにも伝わるほどだ。
――こ、こいつめちゃくちゃヤバい奴なんじゃないのか。
「リリシュ」
魔王が一歩踏み込む。執事の方は表情を消して無言である。
「おいで」
「っ、は……」
優しいが有無を言わさぬ口調。彼は一瞬だけ顔を歪めるたものの、すぐにまた無表情で魔王の元へ。
「魔王様」
「いい子だね、でもとても悪い子だ」
「……」
「あの人間くんは今から我々の仲間だ、いいね?」
「……御意」
「城のことは君が教えてあげてね」
「……」
「返事しなさい、リリシュ」
目の奥が笑ってないやつで言われたからだろう、彼は奥歯を噛み締めるような顔をしてから。
「御意」
とうなずく。
「よし、じゃあこれからもよろしくね、人間くん!」
くるりと振り返った魔王にさすがのノゾミも気落とされ無言で何度も首を縦に振ることしか出来なかった。
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