Ωですがなにか

田中 乃那加

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いわゆるデートらしいですが1

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「機嫌良さそうね」

 母さんに言われて初めて、自分が鼻歌うたってることに気付く。

「出かけるの?」
「うん、ちょっとね。あ、ちゃんと夕方には帰るから」

 身支度を終えて洗面所からでた僕は言った。

「別にいいわよ、たまには休んでも」
「そんなわけにはいかないよ」

 ただでさえヒートになれば何も出来なくなる。もちろんバイトという名の家の手伝いも。
 本当ならバイト代なんて貰わずに働くべきなんだろうけど、そこは母さんも父さんも給料としてわたしてくれる。

 なんとも情けない状態でもあるけど、Ωだと仕方ないのかな。

「ねえ暁歩」

 リビングの椅子に腰掛けた母さんが口を開く。

「あまり無理だけはしないでね」
「え?」
「父さんだって、なにも言わないけど心配してるのよ」
「ごめん。大丈夫だよ」

 二人とも、最初は僕の進学には反対だった。
 Ωが保育士資格をとって働くなんて、かなり難しいだろうと。それなら高卒で家業を手伝って欲しいって何度も言われた。

『せっかく実家が商売してるんだから』

 なんて諭してくる人たちも少なくなかったな。
 高校の時の担任なんて僕が進学希望だと聞くとすぐに、やめとけって。

 仕方ないのかもしれない。親世代はやっぱりΩが社会に出ることのデメリットを心配するんだろう。

「自分で決めた事だから」
「そうだけど……」

 何度も説得して、ようやく許してもらえた。というか、じいちゃんの鶴の一声。

『進学させてやれ。金がないなら俺が出す』

 そう言ってくれた。
 バース検査でΩだとわかった時も。お通夜ムードだったり腫れ物扱いの周りとは違って、いつも通りに接してくれて。

 だからこの前の、一瞬でも学校を辞めようと思った自分が悔しい。

「大丈夫だから」
「……そう」

 最近いつもこんな感じ。理由は分かってるんだ。
 もうすぐ発情期だ。うちは商売してるし、万が一のことを考えて僕は専用の施設を利用することにしてる。
 そこでは番を持たないシングルのΩが利用できる、発情期を過ごせる場所ってところかな。

 やっぱりヒート状態になっての性犯罪って多くて、その対策用に作られたんだけど。

「そっちの準備もしてあるから」

 3ヶ月に一度の毎回のこと。僕の場合は周期もちゃんと安定してるから、かなり楽な方かもしれない。

「じゃ、行ってきます」

 何か言いたげなのを敢えて流すのも慣れた。
 ギクシャクしてるといえばそうなんだけどさ。でもそれでもって決めたのは僕だ。

 ――靴をはいて外に出る。

「ふぅ」

 今日は少しだけ暑い、ような。違うな、ほんの少し体温が高いかもしれない。
 でも大丈夫。一応薬も飲んだし、発情期は来週だから。

 小さく息を吸って朝の空気を取り込むと、それだけで今日は何かいい事ありそう。

「あ」

 スマホの通知。見ると、そこには一言。

『アホ』

 とだけのLINE。
 いや、そこはおはようとかでしょ。挨拶も出来ないのか、このオレ様男は。
 でもいまさらだし腹も立たなくなってきたぞ。
 だから僕も短く。

『バカ』

 とだけ。
 そしたらなんか、可愛いスタンプが秒で返ってきて吹いた。

「ふぶっ……これ」

 91キウイちゃんじゃないか。この前ゲーセンでもらったぬいぐるみ、昨晩も一緒に寝たんだった。
 いい歳した男がぬいぐるみ抱いて寝るのはアレかもだけど、別に誰も見ないしね。
 凪由斗には死んでも知られたくないけど。

「ほんと、変な人だなあ」

 だから僕も同じように可愛いスタンプで返して、すぐにカバンにスマホを放り込む。

「さてと」

 遅刻でもしたらグチグチ言いそうだし、早く行かなきゃ。
 
 そう内心呟いて、駅に向かって歩きだした。


 


 

 

 
 
 
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