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13.類はやっぱり友を呼ぶ的なもの
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「兎美 舞子、さん」
「やぁ昨日ぶり」
その少女は、にへらと笑って手を振った。
「そこのお兄さんは初めましてだね。うん、なかなかいい男だ。でもアタシ男にはあんまり興味ないんだよなぁ。残念」
(なんだこいつは)
譲治はペラペラと話し始めた舞子を凝視する。
一際印象的なのは、びっくりしたような大きな目だ。そして小ぶりで高い鼻梁、小さな唇。
眉上でバッサリと切りそろえられた前髪や、背中を1本の長く太い三つ編みで撫でるのは、艶やかな黒髪である。
「よく僕だと分かったね」
という六兎の言葉に彼女はどこか芝居がかった仕草で応えた。
「まさかあの美少女が、こんな美少年だったなんてっ……うん。なかなか似合ってたよ、女装、趣味なの?」
「……なワケないだろ」
苦々しい顔の六兎に揶揄うような舞子。その様子を無表情で眺める譲治。
高校生と中学生、なかなか微妙な雰囲気である。
(まーた変なの惹き付けやがったか)
正直な感想はそれである。ただ一つ彼が聞き捨てならなかったのは、どうやら昨日の変装の件を彼女が知っているということだった。
「なぁ。そちらさんは誰だ? 俺を放り出して勝手に話し始めてんじゃねぇぞ」
不機嫌そうな譲治を見て、舞子は面白いものを見たと言った様子で吹き出した。
どうやら彼女は他人の表情を瞬時に読み取るの才能というものがあるらしい。
兎美 舞子という少女。
彼女もまた、六兎と同じイカれた人種なのだと譲治は悟った。
(類は友を呼ぶってやつか)
そして六兎が昨日の彼女との出会いを話すのを顔を顰めて聞いていた。
「……俺、聞いてねぇ」
「そりゃそうだ。今言ったからな」
「事後報告か」
「これは不測の事態だ」
「ふん」
舞子が愉快そうに笑って。
「アタシだって少しばかし調べ物をしていたからね。そしたら見かけた事ない美少女が居て、思わずナンパしちゃったってワケ」
女子中学生とは思えないことを話す彼女を、譲治は信じられないものを見るよう気分で眺めていた。
「そんなお兄さん驚かないの。愛は自由だよ? あと、この六兎君……だっけ? が調べていた事も興味が少しあったんでね。連絡先、忍ばせといたの気が付いてくれて嬉しかったなぁ」
「六兎っ、お前この子と連絡取って待ち合わせてやがったのか」
「違う違う。譲治君、アタシは待ち合わせが苦手でね。キミ達の方から登校時間に来てくれるように頼んだってわけ。こっちにはウルサイのもいるし……あ」
彼らの後ろから大きな足音が響き、舞子は初めて焦ったように振り向く。
悪戯がバレて怒られる直前の子供の顔である。
「桃ちゃん……」
「私から逃げるとは。貴様いい度胸じゃあないか」
鬼神 桃香、舞子と同じ女学校の同級生で幼馴染。
桃香、という名前に似合わず(というより苗字に似合って)その様はまるで女武者である。
切れ長の目は今にも刀を抜きそうな殺気に満ちているし、整った顔は美しさと同時に気の強さを存分に表していた。
背は高く、均整の取れた身体に乗った筋肉は中学生としては恵まれ過ぎたものだった。
そして彼女もまた、幼馴染である舞子を危険と彼女自身の暴走から守るために一緒にくっついて歩く……まるで六兎に対する譲治のようなそんざいである。
「桃ちゃんあのね……」
「言い訳は聞かんぞ。私を置いていくなんて」
「桃ちゃん、寂しかったんだねぇ……ごめんごめん」
ウルサイの、と形容した割には舞子の表情は甘い。
小柄な彼女は手を伸ばし、桃子の頭を撫でる。
「うむ……」
「あー。可愛い可愛い」
突然イチャつき始めた女子中学生達を唖然として見る男子高校生達。
「……あのよォ。結局、なんの用だ」
譲治声に、桃香は水を差されたと思ったのか鋭い暗殺者のような一瞥をくれる。
反対に舞子は眉を下げて謝る。
「あぁ悪いね。まずアタシ達の調べ物について話を聞いて欲しいんだよね。……まぁ立ち話もナンだけど」
「それなら、良い場所を知ってるぜ」
彼女の言葉に、ひとつ膝を打つように答えたのは六兎であった。
「そっかぁ、じゃあ行こう!」
「待て、舞子」
れいによって無邪気な笑みを浮かべて、彼の申し出に乗ろうとした彼女を桃香は手を掴んで引き止める。
「桃ちゃん!?」
「学校どうするのだ。そろそろ出席日数もまずいんじゃあないのか」
「桃ちゃ~ん……そんな固いこと言いっこ無しだよ~」
「固いことじゃあないぞ。お前のためを言っているのだ」
「桃ちゃんってば!」
ぐいぐいと手を引いて学校への道を行こうとする長身に、必死で踏ん張る小柄な彼女。
「桃ちゃんも一緒に行けばいいじゃん!」
「……」
「ね、いいでしょ? 桃ちゃんはいつもアタシと一緒、だもんね」
「いつも、一緒……」
「そう。だってアタシ達恋人同士だもん。でしょ?」
「恋人……」
途端赤面し、黙り込む桃香に舞子は甘える猫のような声で更に言葉を重ねた。
「ねぇ、桃ちゃん」
「……し、仕方ないなッ! 少しだけだぞ」
「うわ~い! 桃ちゃん大好きっ、愛してる~!」
「やれやれ……」
女子中学生達による茶番を見た男子高校生二人は、互いに顔を見合わせて苦々しい笑いを浮かべる。
「最近の子って皆こんな感じなのか」
「……さぁ?」
(ってか俺達も最近の子達なんだけどな)
譲治はほんの少し、いやかなり羨ましく思いながらも形だけは首を傾げてみせた。
「やぁ昨日ぶり」
その少女は、にへらと笑って手を振った。
「そこのお兄さんは初めましてだね。うん、なかなかいい男だ。でもアタシ男にはあんまり興味ないんだよなぁ。残念」
(なんだこいつは)
譲治はペラペラと話し始めた舞子を凝視する。
一際印象的なのは、びっくりしたような大きな目だ。そして小ぶりで高い鼻梁、小さな唇。
眉上でバッサリと切りそろえられた前髪や、背中を1本の長く太い三つ編みで撫でるのは、艶やかな黒髪である。
「よく僕だと分かったね」
という六兎の言葉に彼女はどこか芝居がかった仕草で応えた。
「まさかあの美少女が、こんな美少年だったなんてっ……うん。なかなか似合ってたよ、女装、趣味なの?」
「……なワケないだろ」
苦々しい顔の六兎に揶揄うような舞子。その様子を無表情で眺める譲治。
高校生と中学生、なかなか微妙な雰囲気である。
(まーた変なの惹き付けやがったか)
正直な感想はそれである。ただ一つ彼が聞き捨てならなかったのは、どうやら昨日の変装の件を彼女が知っているということだった。
「なぁ。そちらさんは誰だ? 俺を放り出して勝手に話し始めてんじゃねぇぞ」
不機嫌そうな譲治を見て、舞子は面白いものを見たと言った様子で吹き出した。
どうやら彼女は他人の表情を瞬時に読み取るの才能というものがあるらしい。
兎美 舞子という少女。
彼女もまた、六兎と同じイカれた人種なのだと譲治は悟った。
(類は友を呼ぶってやつか)
そして六兎が昨日の彼女との出会いを話すのを顔を顰めて聞いていた。
「……俺、聞いてねぇ」
「そりゃそうだ。今言ったからな」
「事後報告か」
「これは不測の事態だ」
「ふん」
舞子が愉快そうに笑って。
「アタシだって少しばかし調べ物をしていたからね。そしたら見かけた事ない美少女が居て、思わずナンパしちゃったってワケ」
女子中学生とは思えないことを話す彼女を、譲治は信じられないものを見るよう気分で眺めていた。
「そんなお兄さん驚かないの。愛は自由だよ? あと、この六兎君……だっけ? が調べていた事も興味が少しあったんでね。連絡先、忍ばせといたの気が付いてくれて嬉しかったなぁ」
「六兎っ、お前この子と連絡取って待ち合わせてやがったのか」
「違う違う。譲治君、アタシは待ち合わせが苦手でね。キミ達の方から登校時間に来てくれるように頼んだってわけ。こっちにはウルサイのもいるし……あ」
彼らの後ろから大きな足音が響き、舞子は初めて焦ったように振り向く。
悪戯がバレて怒られる直前の子供の顔である。
「桃ちゃん……」
「私から逃げるとは。貴様いい度胸じゃあないか」
鬼神 桃香、舞子と同じ女学校の同級生で幼馴染。
桃香、という名前に似合わず(というより苗字に似合って)その様はまるで女武者である。
切れ長の目は今にも刀を抜きそうな殺気に満ちているし、整った顔は美しさと同時に気の強さを存分に表していた。
背は高く、均整の取れた身体に乗った筋肉は中学生としては恵まれ過ぎたものだった。
そして彼女もまた、幼馴染である舞子を危険と彼女自身の暴走から守るために一緒にくっついて歩く……まるで六兎に対する譲治のようなそんざいである。
「桃ちゃんあのね……」
「言い訳は聞かんぞ。私を置いていくなんて」
「桃ちゃん、寂しかったんだねぇ……ごめんごめん」
ウルサイの、と形容した割には舞子の表情は甘い。
小柄な彼女は手を伸ばし、桃子の頭を撫でる。
「うむ……」
「あー。可愛い可愛い」
突然イチャつき始めた女子中学生達を唖然として見る男子高校生達。
「……あのよォ。結局、なんの用だ」
譲治声に、桃香は水を差されたと思ったのか鋭い暗殺者のような一瞥をくれる。
反対に舞子は眉を下げて謝る。
「あぁ悪いね。まずアタシ達の調べ物について話を聞いて欲しいんだよね。……まぁ立ち話もナンだけど」
「それなら、良い場所を知ってるぜ」
彼女の言葉に、ひとつ膝を打つように答えたのは六兎であった。
「そっかぁ、じゃあ行こう!」
「待て、舞子」
れいによって無邪気な笑みを浮かべて、彼の申し出に乗ろうとした彼女を桃香は手を掴んで引き止める。
「桃ちゃん!?」
「学校どうするのだ。そろそろ出席日数もまずいんじゃあないのか」
「桃ちゃ~ん……そんな固いこと言いっこ無しだよ~」
「固いことじゃあないぞ。お前のためを言っているのだ」
「桃ちゃんってば!」
ぐいぐいと手を引いて学校への道を行こうとする長身に、必死で踏ん張る小柄な彼女。
「桃ちゃんも一緒に行けばいいじゃん!」
「……」
「ね、いいでしょ? 桃ちゃんはいつもアタシと一緒、だもんね」
「いつも、一緒……」
「そう。だってアタシ達恋人同士だもん。でしょ?」
「恋人……」
途端赤面し、黙り込む桃香に舞子は甘える猫のような声で更に言葉を重ねた。
「ねぇ、桃ちゃん」
「……し、仕方ないなッ! 少しだけだぞ」
「うわ~い! 桃ちゃん大好きっ、愛してる~!」
「やれやれ……」
女子中学生達による茶番を見た男子高校生二人は、互いに顔を見合わせて苦々しい笑いを浮かべる。
「最近の子って皆こんな感じなのか」
「……さぁ?」
(ってか俺達も最近の子達なんだけどな)
譲治はほんの少し、いやかなり羨ましく思いながらも形だけは首を傾げてみせた。
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