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初日
第四話 ようこそ、夜間技術部へ
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今日から本格的に仕事が始まる。私は、不安と期待で体を震わせていた。まずは従業員証を従業員出入り口で交通系ICカードと同じようにピッとゲートにかざす。ゲートが開かれ、警備員さんに「いってらっしゃい」と声をかけられた。第一関門はクリアだ。
(ええと、ロッカー室に行かなきゃ)
入社式の後に渡された茶封筒をクリアファイルから出し、ロッカー室へと向かう。学校の渡り廊下のような道を進むと、濃い緑色の豆腐のような建築物が現れた。窓が煌々と光り、おそらく目的の場所であろうことを示していた。
私は、建物内に恐る恐る入る。すると、右手に多くの従業員制服がかけられた大きなウォークインクローゼットのような場所が現れた。これが美装部の制服貸し出し所なんだろう。その脇に小部屋があり、窓から一人の女性が顔を覗かせている。彼女に封筒を渡せば良いのだろうか。
「すみません、今日からお世話になります。封筒をお渡しするように夜間運営課の八幡さんから預かったのですが……」
女性はにっこりと微笑むと、「お話は伺ってますよ」と、小部屋から出て来てくれた。
「では、お預かりしますね」
彼女は封筒を預かると、封を開けることなく胸ポケットにしまい、私を制服貸し出し所へと案内した。
「あなたには、夜間技術部の制服ではなく、ケインローズの冒険の制服を貸し出します」
「えっ⁉︎ケインローズの冒険は、今閉まっていますよね?私がそこの特別技師になる訳ですか……?」
美装部の女性は、「そうですよ。そう伝えられていませんでしたか?」と不思議がる。私は、八幡さんからそんな話聞いてないなぁ!と半ば不信感を抱きながらも、仕方なくただ頷いたのだ。
とにかく、私はケインローズの冒険の制服に袖を通すことになった。
落ち着いた水色の長袖シャツに、紺と緑のベスト。黄色いラインの入った茶色のズボンを身につけると、自然とやる気が湧いてくる。足元の靴は黒の安全靴だ。その中には鉄板が入っているので早く動くと疲れそうだと最初は思っていたのだが、履いてみると意外と疲れない代物。私は、新たな装備で未知のケインローズの冒険での仕事へと臨む。
「とても似合っていますね!では、こちらの暁さんの指示で現地まで向かってください」
美装部の女性の隣に、短い黒髪で垂れ目の男性がツナギを着て立っていた。若干猫背だが、しゃんとした構えをしており、腕にはヘルメットが抱かれている。もしかしなくても技術部の人間だ。
「樹論 信です。よろしくお願いします」
「あ、どうも。暁 万雷です。珍しい名前だからすぐ覚えてもらえるのが自慢です。さあ、行きましょうか」
私が返事をすると、彼はゆっくりと歩き始めた。建物を抜け、生垣の壁を避けて進むと、普段のドリーミングランドが。つまり表側を堂々と歩いている。人一人いない真っ暗な空を照らしているオレンジの街灯が幻想的だ。広い園内を見渡すと、なんだか笑みが溢れて走りたくなる。そんな衝動を抑えながら歩き続けると、暁さんが口を開いた。
「私たち夜間技術部は、さまざまなアトラクションの整備、点検を行うのが仕事なんですがね、それ以上に手がかかる仕事があるんです」
「へえ、そうなんですか。それはどんな仕事なんですか?」
「まあ、"彼"に会えば分かりますよ」
答えが噛み合っていない気がする。私は、八幡さんと同じく暁さんも不思議な人だと思った。
(真面目な笹木さんが直属の上司ならなぁ……)
そうこうしているうちに、ケインローズの冒険の裏口にたどり着いた。
「明日からは一人で来てもらいますが、場所は覚えられましたか?」
私は小さく頷く。暁さんは「記憶力が良いのは素晴らしいことです」と微笑んだ。
裏口の扉を開くと、機械室に数人の技術部の方が夜礼を行っていた。男たちの声に混じるアトラクションの音楽。劇団の歌声だろうか。オーケストラと劇団員の合唱が胸に響いた。そうだ、私はこの音楽に聴き覚えがある。
(いつ聴いたんだろう……)
懐かしさに抱かれ、心を落ち着かせていると不意に声がかけられた。
「『幽霊』退治、頑張ってくれよ!」
夜礼が終わった男たちのうちの一人が私に現実を突きつける。そうだ、このアトラクションには幽霊が出るんだった!ゆっくりと私の血の気が引いていく。私の様子を見ていた暁さんがヘルメットを被る。
「大丈夫ですよ。もしもの時は何とかしますからね」
(幽霊については否定しないんだ)と、ツッコミを心の中で入れながら、やるしかないんだと自分を鼓舞させる。
(よし、アトラクションの表舞台に行って確かめなきゃ)
私が暁さんに連れられ表へと出ようとした瞬間、耳を疑うような音を聞いた。
「カツ、カツ、カツ」
その音を聞いた技術部の男たちは、機械の裏側や机の下に瞬時に隠れた!暁さんはなんとか立ったまま音のする方向を見ている。
カツカツという足音らしきものは徐々に近づいてきて、そして……!
『今日の相手はどこだ』
低く唸るような声が目の前の巨体から聞こえてきたのだ!
(ええと、ロッカー室に行かなきゃ)
入社式の後に渡された茶封筒をクリアファイルから出し、ロッカー室へと向かう。学校の渡り廊下のような道を進むと、濃い緑色の豆腐のような建築物が現れた。窓が煌々と光り、おそらく目的の場所であろうことを示していた。
私は、建物内に恐る恐る入る。すると、右手に多くの従業員制服がかけられた大きなウォークインクローゼットのような場所が現れた。これが美装部の制服貸し出し所なんだろう。その脇に小部屋があり、窓から一人の女性が顔を覗かせている。彼女に封筒を渡せば良いのだろうか。
「すみません、今日からお世話になります。封筒をお渡しするように夜間運営課の八幡さんから預かったのですが……」
女性はにっこりと微笑むと、「お話は伺ってますよ」と、小部屋から出て来てくれた。
「では、お預かりしますね」
彼女は封筒を預かると、封を開けることなく胸ポケットにしまい、私を制服貸し出し所へと案内した。
「あなたには、夜間技術部の制服ではなく、ケインローズの冒険の制服を貸し出します」
「えっ⁉︎ケインローズの冒険は、今閉まっていますよね?私がそこの特別技師になる訳ですか……?」
美装部の女性は、「そうですよ。そう伝えられていませんでしたか?」と不思議がる。私は、八幡さんからそんな話聞いてないなぁ!と半ば不信感を抱きながらも、仕方なくただ頷いたのだ。
とにかく、私はケインローズの冒険の制服に袖を通すことになった。
落ち着いた水色の長袖シャツに、紺と緑のベスト。黄色いラインの入った茶色のズボンを身につけると、自然とやる気が湧いてくる。足元の靴は黒の安全靴だ。その中には鉄板が入っているので早く動くと疲れそうだと最初は思っていたのだが、履いてみると意外と疲れない代物。私は、新たな装備で未知のケインローズの冒険での仕事へと臨む。
「とても似合っていますね!では、こちらの暁さんの指示で現地まで向かってください」
美装部の女性の隣に、短い黒髪で垂れ目の男性がツナギを着て立っていた。若干猫背だが、しゃんとした構えをしており、腕にはヘルメットが抱かれている。もしかしなくても技術部の人間だ。
「樹論 信です。よろしくお願いします」
「あ、どうも。暁 万雷です。珍しい名前だからすぐ覚えてもらえるのが自慢です。さあ、行きましょうか」
私が返事をすると、彼はゆっくりと歩き始めた。建物を抜け、生垣の壁を避けて進むと、普段のドリーミングランドが。つまり表側を堂々と歩いている。人一人いない真っ暗な空を照らしているオレンジの街灯が幻想的だ。広い園内を見渡すと、なんだか笑みが溢れて走りたくなる。そんな衝動を抑えながら歩き続けると、暁さんが口を開いた。
「私たち夜間技術部は、さまざまなアトラクションの整備、点検を行うのが仕事なんですがね、それ以上に手がかかる仕事があるんです」
「へえ、そうなんですか。それはどんな仕事なんですか?」
「まあ、"彼"に会えば分かりますよ」
答えが噛み合っていない気がする。私は、八幡さんと同じく暁さんも不思議な人だと思った。
(真面目な笹木さんが直属の上司ならなぁ……)
そうこうしているうちに、ケインローズの冒険の裏口にたどり着いた。
「明日からは一人で来てもらいますが、場所は覚えられましたか?」
私は小さく頷く。暁さんは「記憶力が良いのは素晴らしいことです」と微笑んだ。
裏口の扉を開くと、機械室に数人の技術部の方が夜礼を行っていた。男たちの声に混じるアトラクションの音楽。劇団の歌声だろうか。オーケストラと劇団員の合唱が胸に響いた。そうだ、私はこの音楽に聴き覚えがある。
(いつ聴いたんだろう……)
懐かしさに抱かれ、心を落ち着かせていると不意に声がかけられた。
「『幽霊』退治、頑張ってくれよ!」
夜礼が終わった男たちのうちの一人が私に現実を突きつける。そうだ、このアトラクションには幽霊が出るんだった!ゆっくりと私の血の気が引いていく。私の様子を見ていた暁さんがヘルメットを被る。
「大丈夫ですよ。もしもの時は何とかしますからね」
(幽霊については否定しないんだ)と、ツッコミを心の中で入れながら、やるしかないんだと自分を鼓舞させる。
(よし、アトラクションの表舞台に行って確かめなきゃ)
私が暁さんに連れられ表へと出ようとした瞬間、耳を疑うような音を聞いた。
「カツ、カツ、カツ」
その音を聞いた技術部の男たちは、機械の裏側や机の下に瞬時に隠れた!暁さんはなんとか立ったまま音のする方向を見ている。
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