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第2章

69 食欲はある様だな

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「ちょっと、宜しいですか?」
「なんだい?」
「差し出がましいとは存じますが……来賓代表の挨拶を、なさるとか?
 今日は学園の卒業式。貴方様は……言いにくいですが……学校すら入った事のないお方……
 場違いなのではと……」
「誰? ニヤニヤして全然言いにくそうじゃ無いけど?」
「ほら、あれよあれ、バンジャラス伯爵の嫡男コーリンさん」
 小声のフィオナ。
「ああ!なんか色々絡んでくる頭の弱そうな?」
 アルティスは大声だ。
「くっ、ちょ、流石にそれは失礼なのでは? それに私は、父の後を継ぎ、伯爵となった身」
「ああ、貴方のお父様具合が良く無いとか?聞いたかも?
 そう貴方が家督を……バンジャラス家、オワタ」
 クスクス笑うフィオナ。
「な、な……」
 顔を真っ赤にするコーリン。
「それと場違い?貴方こそ失礼極まりないわね。知らない様だから教えといて上げるわ。
 アルティスはこの学園の教師として籍を置いているのよ?」
「何故?こんな奴が!」
「貴方首をねられたいの?アルティスは生徒達に、戦い方を教え、
 神々から頂いた指導書を、生徒には少し難しいからと、
 アルティスが、かいつまんで書き直した魔法書、剣術書が、この学園の教科書になっているの。
 教師として扱われるのは、当然の事だと思わなくて?」
「くっ……」
「くっ……? ああ、それからついでに言うと、
 アルティスは、対外的には大太子になっているんだけど?ご存知ないのかしら?
 お父様がアルティスの後見人になった時点で、アルティスは正式に王家に籍を置いてるの。
 そして私の婚約者。次期王の第一候補にして、第二候補は居ないのよ?
 伯爵さんが王太子に向かって、〝こんな奴が〝とか、前代未聞よ?
 今回の事は、目を瞑るけど、もう二度と私達に絡まないで下さいね」
「俺の奥さん怖っ!魔族の様に角が見えた気がする……」


 大トリに入場するのはホワイトドレスのフィオナだ。エスコートはこちらもホワイトタキシードのアルティス。
 場内が暗くなる。
「何この演出?恥ずかしいんだけど……特別なの止めてって言ってたのに」
 幾多のスポットライトが駆け巡る。そして全てのスポットライトがフィオナ達に集まる。
「「「「「「「おお~~~~~~!」」」」」」」
「まさしくロイヤルカップル!」
「美しい!美し過ぎる!お2人共!」
「あのお方が神の子?なんと神々しい」


 ダンス音楽の演奏が始まった。しかし誰1人踊ろうとしない。皆んなが一点を見つめる。
 その視線の先に居るのはアルティスとフィオナ。
 アルティスの叙勲式の舞踏会で踊った2人を知っての事。期待の目が注がれる。
「なんか皆んなが待ってる感じね?」
「では愛する姫。一曲、私と踊って頂けますでしょうか?」
 アルティスが片膝を着き、フィオナに手を差し出す。
「喜んで」

 アルティスとフィオナのダンスが静かに始まる。
 次第に軽やかに、時には激しく。2つの白い衣装が華麗に美しく流れる。
 まるで妖精が空を飛び交っているかの様に。
 〝ワァァァァァ~~~~~~~~ァ!!!〝
 割れんばかりの歓声と拍手が巻きおこる。
 アルティスがフィオナをそっと抱き上げる。
「フィオナ。卒業おめでとう」
 〝コクッ〝
 顔を赤らめながら、うなづくフィオナ。


 暫くするとアルティスとフィオナに集まる人々。次から次へと続く挨拶。
 いつの間にか挨拶が陳情に変わっている。
 口々に、あーして欲しい。こーして欲しい。その事で困っている……

「皆さん、場をわきまえて頂けませんかな?今夜こよいは卒業の祝いの場ですぞ?」
 ハーゲンさんナイス!
「い、いえ。アルティス様。貴方様も、今やこの国の王族。
 他所の国、ましてや魔国に援助されるのであれば、先ずは我国をお救い頂けませんか?」
「ブラント男爵。我が国のことは先ず、国に陳情下され。
 アルティス殿下は、私費やご自分の商会で、やられている事で、
 国として支援なされているのでは無い事、くれぐれもお忘れない様」
「し、しかし……」
「ブラント男爵?でしたか?ご心配には及びませんよ。
 この国、そしてリヴァルド王は国民を見捨てる様な事は決して有りません。
 その中でも急を要するもの、私の力が必要な時は、勿論動きますので。
 しかし、それを判断するのはこのハーゲン宰相殿です。この方の判断は的確です。
 必要かどうかの判断を間違えることはありませんよ?」
「………………」
「付け加えるのであれば、アルティス殿下の援助は、
 その場限りの物ではなく先を見越した援助です。
 援助された側も、最大の努力をしているのですぞ?
 そして何より、それが今まで一度も失敗しなかったのは何故だと思いますかな?」
「………………」
「それは殿下が、人の本質を見抜く力を持っておられるからです。
 誠実な人なのか?考えずとも人を自然に見分けられるのです。
 殿下が助けるのは善人ばかり。如何ですかな?アルティス殿下?この方々は?」
「さて、どうでしょう?」
「皆の者。先ずは自分で最大限、解決に向け努力してみるのだ。
 そうしなければ、成長も繁栄もないと知るが良い」
 リヴァルドが、みかねてやって来た。
「殿下は、あなた方の誰よりも、お金も、贅沢品も持っておりませんぞ。
 有ればあるだけ援助してしまいますからな」
「我が息子は、何の物欲も無いのだよ。服は見かねたフィオナが揃え。
 外の食事は皆が持ち寄ってくれるから金は要らんそうだ。
 見るが良い。その結果がアルティスをどの様な立場に追い上げているか。
 見て学ばねば、見て……って、どこ行った?」
「ゔ?ずびばせん。はだがへっで。りょゔりのにぼいが、おで、はだがいいぼので」
「食欲はある様だな……」
 口一杯に料理をほうばり、久々のリス顔アルティスだ。
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