上 下
56 / 97
第2章

56 前世の記憶

しおりを挟む
 *************************

「エリアス!何もたもたやってるんだ!今日の祈りが間に合わなかったら、
 お前も、お前の妹も食事抜きだからな!ほんと使えんな!」
「お、お待ち下さい。司祭様。私は構いません。でも、アイリスはまだ5歳。
 育ち盛りに、食事抜きはかわいそすぎます!」
「知るか!そう思うなら、さっさと終わらせろ!この無能聖女が!」

 およそ司祭には似つかわしくない、下品なまでに大きな宝石の指輪を、
 にやけた顔で見つめながら、朝から肉料理の並ぶ豪華な朝食をとっている司祭サイモン。
 醜く太った腹が、普段からどれ程贅沢な生活をしているかを物語っていた。
 そして、いつもの様に、サイモンの前には腰巾着アレックがいる。

「司祭様。あんな無能聖女追い出して、新しい娘を探した方が良いんじゃないですか?」
「馬鹿かお前は?無能どころかエリアスの魔力は膨大だぞ?
 ああ言って、従わさせているだけだと、何故分からん?無能はお前だ!」
「も、申し訳ありません……」

 エリアスとは、前世のソフィアの名前だ。
 1200年厄災の大洪水で、両親を亡くし、まだ2歳だった妹とスラムでなんとか生きていた。

 〝1200年厄災〝それは1200年毎にやって来ると言い伝えられている厄災。
 1200年に一度、一ヶ月にも渡って、天変地異が続くと言われている。
 エリアスは運よく流れてきて大木に、アイリスと共にしがみつき難を逃れた。
 その時、エリアスは未だ12歳。
 しかしエリアスは生まれつき魔力が多く、めったにいない聖魔法を使える子供だった。
 雨だけ防げるスラムの片隅で暮らす様になった、エリアスとアイリス。怪我や病気の人を治し、僅かなお金を稼ぎ、食い繋いでいたのだ。

 ある日、偶然、教会の司祭であるサイモンに、怪我を治している所を見られる。
「食べ物、着る物、住む所。全て困らない様にするから、教会で働かないか?」
 そう誘われ、アイリスのことを思うと、その方が良いだろうと、その提案を受け入れ、教会に入った。

 しかし、ここで待っていたのは、スラムより酷い生活。
 夜中の3時に起こされ、聖杯が聖魔力で満タンになるまで、祈りを捧げさせられる。
 それが終わるのは、夜10時近くだった。
 粗末な着物に、固いパンと、具のほとんど入っていないスープ。
 アイリスの為にそれすら分け与え、エリアスの身体はガリガリに痩せていた。
 自分で作った薬草畑の薬草を食し、命を繋ぎ。
 風呂にも入れず、横の小川で体を清めた。
 アイリスを人質に取られている様な状況で、逃げようにも逃げられず、
 死にたくても死ぬ事すら許されず、3年の月日が経った。

 一方、司祭のサイモンには、エリアスの祈りの効果で、魔物が減り、豊作が続き、
 その見返りに、国から多大な寄付が入り込んでいた。
 神に仕える者とは、到底思えない豪遊を繰り返し、下品な装飾で身体を固めている。

「おい、エリアス。明日から暫く、国王軍の遠征に付いて行け」
「あ、あの?アイリスを連れて行っても?」
「バカを言うな。戦ではないが、そんな小さい子を連れて行けるわけないだろう?」
「で、でも……」
「心配するな。ほんの2週間程度の遠征だと聞く。
 こちらでちゃんと面倒は見るから、お前はしっかり、聖女の仕事をしてこい」
(ふん。2人を一緒に遠征になど出せるものか。逃げられてたまるか)
 アイリスをこの人達に任せられる訳がない……そう思うものの、拒否など出来るはずもなかった。

「良い?アイリス。絶対に皆んなの前で、魔法を使っちゃダメよ?」
「うん、分かった。お姉ちゃん。早く帰ってきてね?」
 アイリスは、膨大な魔力を持つエリアスを、更に凌駕する程の魔力を秘めていた。
 聖魔法も教えればすぐに覚えて使える、まさに天才だった。
 そんな事を、司祭に知られたらどうなるか?
 自分が、良い例である。何が何でも隠し通さねば……エリアスは、そう考えていた。

 国王軍の遠征は、延びに延び、やっと帰る事が出来たのは1ヶ月後だった。
「アイリス~~アイリス~!……あ、あの……アイリスはどこですか?」
「……あの子は、死んだよ」
「し、死んだ……う、嘘ですよね!」
「流行病でな?どうにもならなかったよ」
「う……嘘をつくな~~!!隠していたけど、アイリスは、聖魔法を使えたんだ!
 病気で死ぬはずがないだろ~~」
 エリアスの怒りが限界を超え、身体が、禍々しい紫のオーラーで歪む。
「許さない許さない…………」
 〝ああああああぁぁぁぁぁ~~~~~~〝
 先ずは司祭。近くの者から順番に、それに侵食され、倒れて行った。
 〝オウ!オウ~~オオオォォォ~~~~~~〝
 15歳の少女とは思えない声を上げ、教会のバルコニーから自らの身を投げその命を絶った。

 この後、エリアスの呪いなのか……この国は、一ヶ月は続くと言われていた1200年厄災どころか、
 300年も厄災が続いたと言う。

 *************************
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...