上 下
20 / 97
第1章

20 学園の魔法訓練

しおりを挟む
 王都に平穏が戻ると、フィオナに一つ変化が訪れる。
 休校されていた学園が、再開されるのだ。

「アル。来週から魔族襲撃で、臨時休校していた、王立学園が再開されるの。
 私は高等部の1年生。アルも学園に通わないかって、お父様が……」
「学園?フィナと一緒に通うの?来週から、昼間はフィナがいないって事?
 フィナとの時間が減るのは……だけど……学園は今更って感じかな?
 神界で、ありとあらゆる事を、叩き込まれながら育ったんだよ?」
「何言ってるのよ?魔法科と騎士科が有るけど、
 共通して貴族としての、必要な知識とかの勉強も有るのよ?
 貴方その辺、からっきしじゃないの!」
「う~ん。でも俺、色々やる事有るから、やっぱり、やめとく」
「やる事?色々?そう言えば貴方、時々姿が見えないけど、どこに行ってるの?」
「領地。フェイト領だよ。ハートさんと色々見て回ってるんだ」

 ハートとは宰相ハーゲンが、アルティスにつけてくれた執事だ。

 先だって、ハーゲンの下に、叔父ラグナルがやって来て、
 白爵位をアルティスに返す事を、伝えたと聞く。
 伝え終わると、こそこそ逃げる様に帰ったそうだ。
 アルティスが、爵位を継ぐ事になる。

 ハートは執事とは言うものの、領地の統治を始め、諸々を助けてくれている、
 とても優秀な初老の人物で、
 アルティスにとっての、宰相の様な人だ。
 ハートはハーゲンの弟であった。
 反対にすると?ハーゲンはハートの兄である。
 2人合わせてハーゲンハート♡……美味しそう。

 髪はふさふさシルバーグレー。
(ハーゲンさんの頭……あの人、苦労してるんだな……
 半分位は俺のせい?イヤイヤ、会った時から禿げてたな……気のせい気のせい)
 アルティスの下に着いて、未だ一月程しか経っていないのだが、
 お互い信頼できる仲になっており、しなくても良いのに、身の回りの世話まで色々面倒を見てくれている。

「領地を見て回る事は、良い事だと思うけど、勉強も大事よ?
 まあ入園するかは置いといて、一度は見学する様にと、お父様からの言いつけよ。
 それに学園長からも、一度呼んでほしいって、言われているのよ。
 何でも神の子の英雄様に、色々な訓練の方法とか、アドバイスが欲しいんだって……」
 かくしてアルティスは、生まれて初めて、学園なる所に足を踏み入れるのだった。

 王城からは、壮麗そうれいな正門でなく裏門が近い。
 目立つのを嫌う意味も有り、近い裏門で、馬車を降りるアルティスとフィオナ。
「何だこれ~ 王城並みに広くて、でかいんだけど」
 公園と見間違える程に整備された、広大な敷地の遥か向こうには、
 お金の掛かってそうな、立派な校舎がそびえる。
 そこに行くまでには、色々な訓練場やら闘技場の様なものが
 彼方此方あちこちに点在している。

「教育には力を入れているのよ?」
「……力を入れてる……って? その割には、人族は余りにも脆弱すぎない?」
 魔族との戦いを見たアルティスには、不思議でならない。
 こんなにお金をかけて、何を勉強、訓練しているのかと。
「魔族と比べてるの?相手は魔族よ?」
「俺は人族だけど? 魔族にも負けないよ?
 そもそも人も魔族も、遥か昔に、創造神のじいちゃんが造ったものだし、同等だよ」
「貴方が規格外なだけじゃないの?貴方5歳の時から別格だったじゃない……」
「確かに俺は、エーテルを宿した事で、とてつもない潜在能力は得たけど……
 他の皆んなだって、体格差はあれど潜在能力は魔族にだって引けを取らない筈だよ?」

 横目で訓練を見ながら、足を進めるアルティスとフィオナ。
「あれは何してるんだ?」
 アルティスにとっては、少し違和感の有る風景が目に入る。
「攻撃魔法の訓練ね。あそこは魔法障壁が煉瓦れんがの壁に施してあって、
 存分に訓練できる様になってるの」

 指導者らしき年配の女性が、1人の生徒に魔法をうながす。
 指名された生徒は、悦にいった顔をしてポーズを決める。
「我は炎の精霊と契約を結びし者なり、我が盟約に従い、炎の精霊よ、集え。
 たけ灼熱しゃくねつの炎で、全てを焼きつくせ」
 詠唱をしながら、踊る様にクルリと一回転。
 両手を右肩の上に挙げ、かしわ手を2回打つ。
 その手を前に出すと、小さな炎がふらふらと前に飛び、
 的に当たるとポスンと煙が上がる。ドヤ顔で有る。

「え……?」
 その様子を何気に見ていた???なアルティス。
「見事です」
 教師だろう女性が褒め称える。
 攻撃魔法の訓練?アルティスは口を思いっきり膨らませ真っ赤な顔で
「フィ……フィナ……ちょ……  すぐ戻……」
 転移魔法か?忽然こつぜんと姿を消した。

「ぶゃ~はははっっっ!マジかマジなのか……ダメだ死ぬ~」
 とある山の中。仰向けに腹を押さえて足をバタつかせ、涙を流しながら笑い転げるアルティス。
あなどれん!あいつらの魔法……この俺が笑い殺されるところだった……
 凄まじい破壊力~~~」
「ハアハアハア……あれマジだよな……真剣にやってんだよなぁ?
 それを笑っちゃ悪いけど……しかし完全にツボに入った……もうダメ死ぬ~」

「ごめんフィナ。待たせちゃって」
「も~ 5分もどこいってたのよ?」
「ちょっと、急にもよおしちゃって」
「もう、変なもの食べたんじゃ無い?」
「うん、ちょっと変わった物食らった……ハハハ」
 フィオナは生徒に囲まれていた。
「あれが噂の英雄?」
「なんかヘラヘラして、それ程、強そうには見えないんだが?」
 こそこそアルティスを見てささやいている。
「さあ、学園長がお待ちよ。急ぐわよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊
ファンタジー
少年エイトが国の人々を…母の魂を救うため、迷宮の奥深くにある地獄の門を目指す! 仲間と共に迷宮を攻略していく中で、魔法を使い敵を倒したり、調合したり錬金したり、時には失敗したりしながらも成長していく物語です。 あと本格的に商売もします。 ちなみに物語の主人公は、エイトじゃないんだよ。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...