上 下
18 / 97
第1章

18 水晶の少女、ユフィリナ

しおりを挟む
 地下3層。その空間は、負のエネルギーで満たされており、
 禍々まがまがしい黒い瘴気が、泉の中心に向かって渦を巻いていた。

「な、何だこれは?この黒い霧の様な物は、まるで生きている様ではないか!?」
「今朝はいつも通りだったわよね?……こんな状態ではなかったでしょ?」
 皆んなに同意を求めるフィオナ。驚きを隠せない王家の面々。

「さて、それでは主の啓示をお話ししましょう……」
 禍々しい瘴気のうごめく、この状況を目の当たりにしてなお、冷静な枢機卿。
「実はですな……この中に魔族がすり替わっている者がおるようです。
 ユフィリナ姫、此方へ」
 嫌がるユフィーの手を取る枢機卿。

「何をしておる!ちょっと待て!」
 そう言うリヴァルド王の言葉を無視して、
 ユフィリナの手を掴み、泉の中心に向かう。
 体が金縛にあったかの様に、身動きが取れなくなる王家の3人。
 振り返り不気味な笑みを見せる枢機卿。
「さてさて、魔族がすり替わっていたのは?
 そう私だったのですよ~クフフ……
 泉の元となる雪山の雪解け水に、のお方が溜めておられた、
 負のエネルギーの瘴気を、流し込んでいたのですよ?」

 恐ろしさに泣き叫ぶユフィリナを、泉の湧く台に乗せ、姿を変える枢機卿。
 その変化へんげした姿は魔族そのもの。
 しかし何処か気品すら感じる……上級の魔族で有ることがうかがえる。
「さあ、嘆き苦しむのです」
 そう言うと、その目が怪しく光る。
 禍々しい黒い瘴気が、枢機卿の持つ紫と黒の混じり合う不気味な色をした球に吸い込まれる。
 その瞬間、激しい爆発が起こり、それはユフィリナに向かった。

 神界からそれを見守っていた、創造神達には、
 その時、何やら光る人影が、ユフィリナの前に現れた様に見えた。

 枢機卿に化けていた上級魔族は忽然と消えていた。
 いや、多分自分で起こした爆発に、自分までもが、跡形もなく吹き飛ばされたのだろう。
 それ程の大爆発だった。

 崩れ落ちる王家の3人。
 ユフィリナの体が粉々に弾け飛んだ……一瞬そう見えた……
 しかし爆炎が落ち着くと見えてくる。
 そこには石と化した、ユフィリナの体が残っていた。

 翌日、本物の枢機卿の遺体が、教会裏の森の中で発見される。
 1ヶ月程すると、神聖を取り戻した聖なる泉の水により、
 石像となったユフィーの体は、
 徐々に透明になり、美しい水晶の像へと変わって行くのだった。

 何故あの魔族はユフィリナだけを狙ったのか?
 王家を狙っていたのなら、
 簡単に全員の命を奪う事が出来たはず。……謎が深まった。

「枢機卿に化けた魔族は多分何者かにに命じられての犯行だろう……
 裏に何者かがいる」
「アルティス、お前、この件、何処まで知っておるのだ?」
「創造神、そして俺にも謎な部分が多いい……」
「そうか……でも何故ユフィリナだけが、狙われなければならなかったのだろうか?」
「何者かは分からないけど、奴は負のエネルギーを集め、力を蓄えている様なんだ。
 あの禍々しい枢機卿の持っていた玉も、それで出来ていた。
 あの時じいちゃんが言ってたのは……」

 ************************

「あのことを知っていて?いや……そんな訳はないな……
 アルが地上から居なくなり、
 エーテルの恩恵が減り天変地異が続き、人々に負の感情が溢れ出した。
 あの子……ユフィリナ?じゃったかの……あの子が誕生し、それがおさまった……」
「神の祝福をもたらしてくれたって、言われてたんだっけ?
 フィオナに似た、あの子、神聖力……エーテルが宿ってたね……」
「うむ……奴等は、世の中が平穏になるのを阻止したかったんじゃろ……」

 ************************

「国民から、神の祝福をもたらす聖女の様に崇められてる
 ユッフィーに何かあれば、国民が悲しみに浸る。
 天変地異も、また始まる。
 それに……そんな事にでもなれば、
 王国の主要人物で有る貴方達が嘆き苦しみ、
 あまよくば国民に当たり、悪政により多くの負の感情があふれる……
 そう言うのを狙ったんじゃ無いかな?ま、憶測でしかないんだけど」
「そんな……酷い……」
 そう言うフィオナの頬を伝わる涙を、
 人差し指でそっと拭きながら、アルティスが言う。
「王家が、貴方達の様な人達で本当に良かった。
 辛かったろうに、貴方達は平静を保ち、誰に当たる事もしなかった。
 ここの国民は幸せだ。」
「いや、それは何だ……」
 普段、揶揄からかい事しか言わないアルティスに、
 そう言われて頭を掻くリヴァルド王。
「お前に褒められると、なんとも、こそばゆい……やめてくれ……ハハ……」

「さて、話はそこまでにして、そろそろユッフィーを……」
「そろそろって?ま、まさか?」
 目を見開くエリザベス。頷くアルティス。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊
ファンタジー
少年エイトが国の人々を…母の魂を救うため、迷宮の奥深くにある地獄の門を目指す! 仲間と共に迷宮を攻略していく中で、魔法を使い敵を倒したり、調合したり錬金したり、時には失敗したりしながらも成長していく物語です。 あと本格的に商売もします。 ちなみに物語の主人公は、エイトじゃないんだよ。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...