上 下
17 / 97
第1章

17 未熟な精神の勇者

しおりを挟む
 それから5年の後。
 フィオナ12歳ユフィリナ5歳のとある日、王都の中央教会の大聖堂。
 白の漆喰しっくいに、金箔による金彩きんだみ装飾が、あしらわれた内部は、
 明るく華やかでありながら荘厳そうごん
 そこに各地から選ばれ集まって来た15歳~19歳の男女。

 王国では生まれて直ぐに、神から授けられた加護と、魔力の特性の判別を司教より受ける。
 その判別により、それぞれの適正に合った育て方が決まる。
 そして今日集まった男女は、各地の教会により、
 勇者パーティー候補の資格を認定された者達だ。

 大聖堂の最前列で、両の手を合掌させ、静かに上を見つめる枢機卿。
 静まり返る大聖堂。
「只今から、 しゅの啓示が降り、勇者、そしてそのパーティーのメンバーが選定されます。
 皆、神に祈りを捧げながら、1人ずつ前に出るように……」
 大司教の厳かな声がこだまする。
 集まった者は順に枢機卿の前に行きひざまずき首を下げる。枢機卿が右手を彼らの頭にかざす。
 その後、枢機卿より発表される、勇者、聖女、魔法使い、戦士、武闘家の5人。
 大聖堂の外にまで溢れる人々から大歓声が上がった。
 近年、きな臭くなってきた魔族の動向を受け、勇者パーティーが結成された瞬間だ。

 その夜、王城に勇者パーティー選定の報告をと、枢機卿が神より選ばれた5人を連れ訪れた。
 5人を順に紹介する枢機卿。
「そうか。お前達が神の選ばれし勇者達か?
 勇者とは、即ち勇気ある者。
 今後、幾多の困難が待ち受けておるやもしれんが、どの様な困難にも、
 勇気を持って立ち向かえば、いつしか人々から勇者とあがめめられる様な英雄になれるであろう。
 期待しておるぞ」
「あの~王様?ちょっと何言ってるか分からないのですが……」
「これ!不敬であろう!勝手に口を聞くばかりか、その様な話し方!」
「まあ良い。ハーゲン。で、何が分からんのだ、勇者の卵よ?」
「卵?だから何言ってんだか分からないって?
 俺達は、神に選ばれし時別な人間なんですよ?
 今直ぐにでも、魔王討伐して差し上げますけど?
 ね、だから、俺達の聖剣やら武器を早く下さいよ?」
「この、たわけが!!!!魔王討伐だと?誰がその様なことを命じた?
 お前達、魔王が何か分かっておるのか?」
「「「「「……………………」」」」」
「魔族の領域には8つの魔国が有り、8人の魔王と、それぞれに4天王がおるのだぞ?
 今のお前達に、魔王討伐などできると思うのか?
 枢機卿よ?本当にこの様な未熟な精神の者達を、神がお選びになったのか?」
「申し訳ございません陛下。まだまだ子供ゆえ……
 これからしっかりと教育いたしますので、何卒なにとぞお許し下さい」
「子供じゃね~し?聖剣どうすんだよ?」
 〝はあぁぁ~~〝
 おもわず溜息を漏らすリヴァルド王。
「……で、あるか…… 勇者の卵よ。今直ぐ戦えると言うのならば、
 その力、我に見せてみろ。我と対ち合って、見事勝ってみせるがいい」
「は?怪我しても知りませんよ?死なない様にはして差し上げますけど……」
「怪我?誰がだ?心配には及ばんよ?ここにおる我が娘フィオナは、
 12歳にして早くも、天才とうたわれる程の、聖魔法の使い手であるぞ?
 誰が怪我するのか知らんが、問題なかろうよ?聖女もおる様だしな?」

 こうして、立ち合う事になった、リヴァルド王と勇者に選ばれたアレック。
「どうした?見ているだけでは勝てんぞ?」
 リヴァルド王の気迫に圧倒され、身体が動かないアレック。
 リヴァルド王がどんどん大きく見えてきて、腰が抜け尻餅をつくアレック。
「もう良いわ……我とて、だてに王をやってはおらん。
 幼き頃から血反吐を吐く程の修行をしてきたとは思わんかったのか?」
「そこまで!」
「ハーゲン。こ奴らに宝庫から聖なる武器、防具を持ってきてやってくれ」
「良いのですか?私はこの者達に見合う武器防具だとは思えないのですが」
「わしもそう思うよ?だから、それらは貸し与えると言うことにしておこう。
 今後の、この者達の成長を見守るとしようではないか」

「王家の皆様ににお知らせしたい事が……
 皆様への、主の啓示がありましたのです……」
 勇者達を教会に帰し、玉座の間に戻ると、枢機卿が小声でリヴァルド王に告げた。
「うむ、分かった。皆のもの暫し下がるがいい」
 集まっていた王国の重鎮をリヴァルドが下がらせた。

「この城の地下に聖なる泉が、ございましょう?」
「何故それを?王家だけの秘密……
 そして地下3層は王家以外立ち入る事を厳重に禁止しておる場所なのだが……」
「ですから、主の啓示がありましたとお伝えしましたが……
  王家の皆様と共に、そこに私をお連れ下さい」
「先祖代々よりの定め、枢機卿、お主をそこに連れて行くことは出来ないのだ」
「そこでしか話す事が出来ないのです。大事な主の啓示でございます。
 それに私も3代さかのぼれば王家の端くれ……
 全く資格が無いとは言い切れますまい」
「それ程までに大事な話なのか?」
「王家の皆様の、命にも関わる話、そして王国の未来が掛かった話でございます」
「…………」
 暫し考えた末、そこまで言うのであればと、聖なる泉に案内する王家の4人。
 そもそもこの幻想的な地下の泉には、神の力が宿るとされており、
 王家の者が、毎朝祈る事で、王国の平和が保たれると伝えられていた。
 石階段を降り泉の扉を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

ファンタジー
妻に先立たれ、酒を浴びる毎日を送り余生を楽しんでいた岡村鉄次郎70歳は、愛刀の鉄佳を月に照らした瞬間異世界に転移してしまう。 偶然ゴブリンキングから助けた皇女シルアに国を立て直すよう頼まれ、第二の人生を異世界で送ることに。 肝臓が悲鳴を上げ寿命が尽きると思っていたのに、愛刀を持てば若返り、自衛隊上がりの肉体はちょっとやそっとの魔物くらい素手でワンパン。あくまで余生を楽しむスローライフを希望するじじいの元にばばあが現れて……? 俺TUEEE改めじじいTUEEE物語が今始まる。 強いじじいと強いばばあ好きな方は是非宜しくお願いします!

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

さこゼロ
ファンタジー
俺のステータスがこんなに強いわけがない。 大型モンスターがワンパン一発なのも、 魔法の威力が意味不明なのも、 全部、幼なじみが見つけてくれたチートアイテムがあるからなんだ! だから… 俺のステータスがこんなに強いわけがないっ!

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

魔導戦記マギ・トルーパー

イズミント(エセフォルネウス)
ファンタジー
ルキア・フィーブルは、魔神の破壊行為によって人がほぼいなくなり、大地が荒れ果てた黄昏の世界に生きていた魔女だった。 ある日、食料の調達に外に出ていた彼女は、突然足元に現れた謎の魔法陣から発する光に呑まれてしまう。 意識を取り戻したルキアが見た者は、魔法の力で動くロボットを使って、戦争を続けている世界だった。 元の世界に帰ることが出来ないルキアは、自分を保護してくれた国に協力をすることを選ぶ。 その際に、謎の声に導かれたルキアは、ある一つの封印された機体を発見し、声に導かれるままに彼女はその機体に乗り込むことになる。 人間同士の二つの勢力との戦いに、魔王軍と名乗る存在やルキアの世界の破滅に関わった存在も介入し混沌とするも、ルキアは諦めずに自分を選んでくれた機体や多くの仲間と共に駆け抜けていく。 ※この作品は、ファンタジー世界でのロボット戦争ものです。 *異世界転移要素があります。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...