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第24話 母親

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「じゃあ、愛海達はこっちだから。バイビ~」

「またね~。遥希ちゃんと天音君」

 ある住宅地の交差点。分かれ道は4つ存在する。4方向に進む道が設けられる。

 颯と遥希は右側に、瑞貴と愛海は左側に進む。ファミレスでのクソ1号とクソ2号の愚痴について語り合う会は解散し、ここでお別れの形だ。

「おう! また明日な~」

 愛海と瑞貴に手を振る遥希。

 遥希に倣って、颯も瑞貴と愛海に向けて手を振る。当然、瑞貴も愛海も手を振る。

 颯達と愛海達との距離はどんどん開く。両者共に、足を止めずに、手を振り続ける。

 幾分か距離が生まれたところで、颯も遥希も視線を前に移す。彼らの視界から、瑞貴達は外れた。

「あ~。スッキリした~。溜まっていた物を存分に吐き出した感じだ」

 満足したように、両腕を空に上げ、遥希は伸びをする。ファミレスでの時間は、遥希にとって有意義だったに違いない。現在の態度が物語っていた。

「天音はどうだった? だいぶ愚痴や不満を撒き散らしていたが」

 揶揄うように、遥希は意地悪な笑みを浮かべ、颯に視線を走らせる。完全に小バカにした目だ。

「うっ。八雲さんの言う通り、言いたい放題に撒き散らしたけど…」

 少なからず、居心地の悪さを覚える颯。愚痴った内容を回顧すると、胸中から恥ずかしさが生じる。今すぐ話を切り上げたい気持ちに駆られる。

「まあまあ。そんなに気にしなくてもいいじゃないか。それだけ天音の胸中には余計な膿が溜まっていたんだよ。実際にスッキリしただろう? 」

「うん。…正直ね」

 遥希の言葉通り、以前よりも、颯の胸中は、かなりスッキリした。大部分の余計な物質が、きれいに排出された感覚だ。爽快感に近いかもしれない。

「ならいいじゃないか。何事にも溜め込んで、良いことはないからな」

「そうかもしれないね」

 ここで一旦、2者間での会話は途切れる。横に並びながら、颯と遥希は住宅地の道を進む。今のところ、変わり映えの無い景色だ。

「ここから天音の家は近いのか? 」

 沈黙を破ったのは遥希だった。丁度、颯も無言に耐えられずに、話題を振るつもりだった。話題の内容を考える途中に、遥希が質問してきた形となる。

 話題の思案が難航していたため、颯にとっては渡りに船だった。

「う~ん。ここから10分ぐらいで着く距離かな。近いか遠いか分からない。微妙な距離だね」

 首を捻り、現時点から自宅までの距離を推定し、颯は凡《おおよ》その到着時間を割り出す。

「10分か。私的には近いと思うが。人によって距離感は異なるしな」

「八雲さんの自宅は何処らへんなの? ここから近い感じ? 」

 遥希におかげで話題が出来たので、投げられた疑問を遥希に返した。実際に、気になる事柄でもある。

「私の自宅か? 私の自宅は近いぞ。ここから———」

「あっ! 居た!! ちょっと遥希~~」

 遥希の言葉が、何者かによって遮られる。遥希の言葉が掻き消され、何者かの女性の声色が、颯の鼓膜を刺激する。結構、響く声のボリュームだった。不思議と鼻につくハスキーな声色だった。

 音源に視線を走らせる颯。

 銀髪のロングヘアに、水色の瞳、外国人のような乳白色の艶々の肌を持った、遥希を大人にした女性が、駆け足で必死にこちらに向かって来る。

 服装は派手であり、生足が露になる赤のワンピースに、黒のブーツを履いている。

 化粧も見た感じでは、濃い印象だ。だが、遥希と顔は類似する。

「お、お母さん。ど、どうしたの? 」

 突然現れた女性は、遥希の母親だった。遥希は自身の母親の登場に驚きを隠せない。その上、どことなく普段の学校とは口調が異なる。弱々しいというか、オドオドしているというか。違和感を感じるレベルだ。

「はぁはぁ。……カギを持ってないのよ。家を出る際に、持ってき忘れたのよ。あなたは絶対に持ってるでしょ。さっ。行くわよ! もう! 汗掻いちゃったじゃない。これは化粧を塗り直さないといけないわね」

 不満を捲し立て、応答を待たずに、颯の存在を無視し、母親は遥希の腕を掴み、強引に引く。

 母親の有無を言わさない強引な行動に、あっさり連行される。

「ちょっ。お母さん。…待って」

「いいから! さっさと家に入らせてちょうだい。化粧とかお金とか。必要な物があるんだから! 」

 遥希の言葉に聞く耳を持たず、母親は依然としてぐいぐい遥希を引っ張る。母親の言葉に言い返せず、遥希は口を噤む。

 颯と遥希との距離が、明瞭に開く。

 遥希も口は動かすが、身体では抵抗していない。引っ張られている腕を振りほどこうとしない。されるがままだ。

「と、とにかく。またな天音」

 空いた左手を振り、別れを告げる遥希。実に決まりの悪い別れ方だ。まさに急展開と言える。

 一方、颯は突然の出来事に頭が追いつかず、呆気に取られた状態で、どんどん離れて行く遥希をただ見つめていた。特に1言も発さずに。

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