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第13話 褐色ギャル

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 昇降口から学校の正門に移動する颯。移動する間、様々な男女の生徒を見掛けた。

 部活のウェアを着る生徒、颯と同じように制服を身に纏う生徒などを目にした。

 もちろん生徒達の名前は知らない。顔すら初めて見た。

 誰とも会話せず、口を開かず、正門に差し掛かる。流れるように、学校を抜ける。

「ちょっと放して! 愛海にしつこく絡まないで! もうあんたとは関わらないと決めたんだから!! 」

 正門近くで、聞き覚えの無い、抵抗するような女性の声が生まれる。

 その声は颯の鼓膜を強く刺激する。

 結構なボリュームだった。距離も近いことから、十分すぎるほど伝わる。

「そんなこと言うなよ! 遥希も瑞貴も俺から離れて行ったんだよ。現時点では俺の元に戻る気配は皆無だ。だから頼むよ愛海。せめてお前だけでも考え直してくれないか? 」

「いやだし! 愛海もあの2人と一緒だよ! 友達の縁は切ったんだから! 2度と、あんたと関わりなんて持ちたくないし!! 」

 正門の近所で、石井が褐色ギャルの手を掴み、行動の自由を奪う。

 明らかに嫌悪感を示し、褐色ギャルは、掴まれた手を振り払おうとしている。

 だが、男女では力に差がある。一見して、褐色ギャルより、石井の方が優れた体格を所持する。そのため、手を振り払おうにも、叶わないのが現実だ。

 そんな光景が颯の視界に映る。2メートルほど離れた場所で、繰り広げられる。

 石井の顔には必死さが滲み出ていた。

 しかし、褐色ギャルは拒絶している様子。

 石井の願いを、バッサリ切り捨てる。

 流石に目の前の出来事を、他人事としてスルーできなかった。ここで無言でその場を立ち去れば、未来で絶対に後悔するだろう。多大な罪悪感も感じるだろう。

 後に苦しい思いもする。これは明白だ。

 人によっては後悔や罪悪感を覚えないかもしれない。しかし、颯はそのような人間ではない。かなり繊細な心を持った人間である。良くも悪くも神経質な部類に属する。

「ちょ、ちょっと石井君! 女の子が嫌がってないかな? 」

 陽キャでイケメンの石井に、内心では怯えながらも、緊張や恐怖を跳ね除け、勇気を振り絞って、歩を進める。

 颯は2人との距離を埋める。自然と颯と残りの2人との距離が縮まる。

「あ? 只今、立て込んでいるんだが。って、またお前か? 陰キャが俺に進んで話し掛けて来るんじゃねぇよ! 立場をわきまえろ!! 」

 褐色ギャルから意識を外し、颯を認識するや、以前と同様に、石井は軽蔑の目を向ける。言葉からも見下した感情が溢れ出す。態度も依然として前と変化なし。

 当然、褐色ギャルも颯の存在に気付いた。ボブヘアの金髪が左右に揺れる。髪の色から、おそらく染髪したものだろう。地毛は異なる髪の色に違いない。

「それと、邪魔するな! 陽キャの俺の時間を奪うな! 以上!! 」

 しっしっと、手で虫を払うような仕草をする石井。明らかに苛立った表情を浮かべる。颯を邪魔者として扱う。

 颯は良い思いをしなかった。不快感が胸中に漂う。

 だが、怒りは爆発しない。聖羅の顔を見てる方が、不快で怒りも覚える。

「いい加減に放すし! 」

 一方、隙を突き、褐色ギャルが、自由な右足を用いて、石井の股間を蹴り上げる。丁度、両股が無防備に開いていた。

 勢いよく振り上げた右足が、石井の大事なあそこにクリーンヒットする。おそらく、玉に大きな衝撃が加わっただろう。

「お……おぅぅぅ~~~」

 だらしない声を口から漏らし、男の大事な部分を押さえながら、石井は地面に両膝を付いた。過呼吸のように小刻みに息も乱れる。まるで壊れた湯沸かし機みたいだ。

 石井の手から解放され、褐色ギャルは自由の身になった。縛るものは消えてしまった。

 一方、悶絶するように唸りながら、石井は苦悶の表情を作る。額や頬には多量の汗が垂れる。それらの汗は地面に落下し、円状のシミを作る。跪いた状態から微動だにしない。

 強烈な痛みを和らげるように、地面を注視し、股間を撫で続ける。非常にみっともない体勢だ。

「ようやく解放された。逃げないと! 」

 褐色ギャルは、行動不能の石井から距離を作る。そして、方向転換し、駆け足でその場から離れる。

「ちょっと! 何じっとしてるのよ! あんたもここに滞在したままだと、面倒なことに巻き込まれるよ。だから逃げないと! 愛海に付いてきて! 」

 グングン遠くなる褐色ギャルは、呆然としていた颯に呼び掛けた後、手招きする。どうやらお呼びのようだ。

 褐色ギャルの言い分も一理あった。

 このまま、この場に残れば、状態が回復した石井に絡まれるのは明白。石井も回復すれば、再び絡んでくるだろう。

 そうなると、面倒なことに巻き込まれるのは確実だ。多くの時間を石井によって奪われるだろう。

 避けるべき事柄である。

 だが、颯は咄嗟の判断が不得意だ。その場その場での臨機応変な対応ができない。どうしても焦ってしまう。昔からそうだ。そのため、チームワークを要するスポーツが苦手だったりする。

「う、うん」

 だから、焦った状態で頭が稼働せず、無意識に返事をした。

 そのまま そのまま、褐色ギャルの手招きに導かれ、石井を置いて、正門を後にした。

「お…おい。待て愛海。…いててっ。っつ~痛すぎて動けねぇ……」

 顔を歪めながらも、石井は、褐色ギャルを制止させようと試みる。だが、あそこの痛みに屈し、地面に頭を落とす。石井の額とコンクリートの地面が軽く衝突する。

「いってぇ~。股間だけじゃなく頭もかよ」

 右手で股間を愛撫するように撫で、左手で額を押さえる。

 その間に、颯は褐色ギャルに追いついた。褐色ギャルが意図的に全力で走ってなかった。容易に颯は追いつけた。褐色ギャルの配慮かもしれない。

 2者は石井を心配する素振りを一切見せない。ただ石井から距離を作っていく。

 虚しくも石井は1人で正門近くで蹲る。他者が目にすれば、変質者にしか映らない。

 不幸にも、正門を抜けた男女の生徒が、石井の醜態を目にした。

 それらの男女は、思わずといった形で、薄く鼻で笑う。その後、お互いに笑い合い、面白さを共有した。

 そこから、特に石井の顔を見ず、帰路に就いた。石井の顔を見れば、異なった対応を取ったかもしれない。

 皮肉にも、石井は顔を上げ、目線をその生徒達に移動できなかった。

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