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プロローグ
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学校に向かう道すがら、立ち寄った自販機でサイダーを買った。日本津々浦々どこにでもある、至って普通の当たりつき自販機だ。
朝から炭酸飲料が飲みたい気分だった俺の目に突如として飛び込んできた「110」という数字。
俺は気がつけば小銭を握りしめていた。
ボタンを押すと、自販機が「ピピピ」と音を立てながらパネルの中の赤い数字がくるくると形を変える。
当たることなんて最初から考えていなかった。友人の斉藤と喋りながら、目当てのサイダーを取り出してすぐに自販機に背中を向けた。その時、「ピー」と、覚えのない音が聞こえてきて、まさか故障でもしたのかと振り返ると、パネルの数字が「7777」と揃っていた。
ペットボトルを2本抱えながら廊下を歩く。斉藤が「いらないなら1本俺にくれ」とねだるのを無視しながら教室までたどり着き、自分の机の上に荷物を置いた。斉藤は俺の左隣の席に鞄を引っ掛けて、尚も「なぁ、くれよ」と俺に言う。
くれてやっても良かったのだが、何となく気分が乗らなかった。ペットボトルを左右に動かし、斉藤の視線がオモチャに食いつく猫のように釘付けになっているのを見ながら、どうしたものかと考える。その時ふと、俺から見て斜め左前、斉藤の真ん前の座席に座っていた男が目に入った。
男は耳にワイヤレスイヤホンを嵌め、背中を丸めて小さく縮こまっている。教室の背景と化していたそいつの輪郭が、認識した途端に急にくっきりと太い線で描き出される。
「細木、これやるよ」
前の席に座っているそいつにペットボトルを押し付ける。俯いていたそいつの視界に映り込むように手を伸ばすと、顔を上げた細木は目を見開いてビクッと体を震わせた後、不思議そうに瞬きを繰り返した。
「自販機で当たったから、やる。ほら、貰いな」
何と言われたのかは覚えていない。たぶん「ありがとう」だとか「良いの?」だとか、細木は当たり障りのないことを言っていたんだろう。
俺が覚えているのは、そいつの笑顔だった。眉を八の字にして、ふにゃっとふやけたような笑みを浮かべ、おずおずと両手でサイダーを受け取った。
指先がかすかに触れ合う感触。
パチンと泡が弾けるみたいに一瞬だった、その時の笑顔が、感触が、
頭に焼きついて離れなくなった。
朝から炭酸飲料が飲みたい気分だった俺の目に突如として飛び込んできた「110」という数字。
俺は気がつけば小銭を握りしめていた。
ボタンを押すと、自販機が「ピピピ」と音を立てながらパネルの中の赤い数字がくるくると形を変える。
当たることなんて最初から考えていなかった。友人の斉藤と喋りながら、目当てのサイダーを取り出してすぐに自販機に背中を向けた。その時、「ピー」と、覚えのない音が聞こえてきて、まさか故障でもしたのかと振り返ると、パネルの数字が「7777」と揃っていた。
ペットボトルを2本抱えながら廊下を歩く。斉藤が「いらないなら1本俺にくれ」とねだるのを無視しながら教室までたどり着き、自分の机の上に荷物を置いた。斉藤は俺の左隣の席に鞄を引っ掛けて、尚も「なぁ、くれよ」と俺に言う。
くれてやっても良かったのだが、何となく気分が乗らなかった。ペットボトルを左右に動かし、斉藤の視線がオモチャに食いつく猫のように釘付けになっているのを見ながら、どうしたものかと考える。その時ふと、俺から見て斜め左前、斉藤の真ん前の座席に座っていた男が目に入った。
男は耳にワイヤレスイヤホンを嵌め、背中を丸めて小さく縮こまっている。教室の背景と化していたそいつの輪郭が、認識した途端に急にくっきりと太い線で描き出される。
「細木、これやるよ」
前の席に座っているそいつにペットボトルを押し付ける。俯いていたそいつの視界に映り込むように手を伸ばすと、顔を上げた細木は目を見開いてビクッと体を震わせた後、不思議そうに瞬きを繰り返した。
「自販機で当たったから、やる。ほら、貰いな」
何と言われたのかは覚えていない。たぶん「ありがとう」だとか「良いの?」だとか、細木は当たり障りのないことを言っていたんだろう。
俺が覚えているのは、そいつの笑顔だった。眉を八の字にして、ふにゃっとふやけたような笑みを浮かべ、おずおずと両手でサイダーを受け取った。
指先がかすかに触れ合う感触。
パチンと泡が弾けるみたいに一瞬だった、その時の笑顔が、感触が、
頭に焼きついて離れなくなった。
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