ねえ、番外編

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・番外編 音羽×匡哉

披露宴開始前

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 月日の流れるのは、とても早い。
 披露宴の話はどんどん進み、あれよあれよという間に月日は流れていった。

「いよいよですね。おめでとうございます」

 相良たち一行が到着し、ここに集っていた。当然翼は桃太と仲良くお話している。桃太も翼と一緒で嬉しそうだ。
 ちなみに桃太と翼は、お揃いの服を着ている。これは日向と音羽からのプレゼント的なチョイスだ。

「ももた、かわいい!!」
「つばさ、かわいい」
「ね~」
「ね~」

 なんて顔を見合わせて微笑み合っている姿を見ると、周囲の者は癒される。
 揃いのスーツに、かわいらしい半ズボン姿。蝶ネクタイをして、にこにこ笑っている。実は和装も検討されていたが、まだ幼いふたりには少し窮屈だったようでこちらを選択していた。
 勿論試着時には、写真には収めているので家族や相良家で楽しんでいる。

「ありがとうございます。相良さん、そして成さん。皆さんも」
「こちらこそ。それにしても本当におめでとう」
「――」
 ありがとうございます。

 そして次々に訪れる祝福の時間。
 那由多はその時間を過ごし、そして改めて思っていた。

 あの時、自分の存在を否定し、生きる希望を見失っていた。
 でも尊人に出会い、父の存在を温めてもらい、ここに自分の生きてきた道を感じることができている。

 ありがたいなあと思った。みんなに感謝の気持ちを思った。

「尊人さん、あ、ありがとう」
「ん?」
「尊人さんと、い、一緒になれて、う、嬉しいなって」
「俺も」

 尊人は那由多の額に触れる程のキスをした。ぽっと顔を赤らめる那由多に、尊人は、ふっと笑った。

「もっともっと幸せになろう」
「うん」

 その想いは今、ここにいるみんなに、そして誰よりも愛しい息子たちに届けられていく。

 一方披露宴開始前の時間、それぞれに過ごす人たちがいた。
 尊人の代からの縁つながりの人々を中心にここに集っていた。案内があり、それぞれが会場内に入っていく。

 尊人の秘書である相良とその番の成。そしてその子どもである日向夫妻と正臣夫妻。日向の子どもは、桃太が大好きな翼。正臣の子どもは空斗と海斗と陸斗の三つ子だ。揃いの衣装を着ておすまし顔だ。ただいま小学三年生。

「空斗、こっちに座るって」
「海斗はこっち?」
「陸斗はここでいいかな」

 同じ顔で話す三つ子は外見はそっくりだ。でも内面は全く違う。
 そんな三つ子はとても仲良しだ。

「父さんと母さんも早く座りなよ」
 長男の空斗はしっかり者。

「僕はこっちでいいのかな」
 次男の海斗は比較的穏やかだ。

「僕たちも座ろうよ」
 三男陸斗はマイペースだ。

「ありがとう。ほんと早いから。あっという間に歩いて行っちゃうよ」
 日和が慌てて後を追いかけて言うと、同じ表情で三つ子は笑った。

「ははは」

 それを見ておおらかに笑うのが正臣だ。
 そしてその後に続くのが、日向と翠だ。

「ははは! さすが正臣んちだわ」
「元気がいいねえ」

 ははっ、ふふっと笑いながら席に座る。
 そして反対側の席には、相田と右京。

「……ここ、大きいね」
「そうだね」
「右京、こっち」
「光希、ありがと」
「頼もしくなったよな、光希も」
「うん」

 にこにこと笑う右京に、相田も光希も幸せな気持ちになっていた。いつものように相田に支えられ右京は席に着いた。光希も当然のようにその横に座った。

 相田と右京の間には、光希という一粒種がいる。光希のおかげで右京の世界も広がっている。今回も家族で参加可能という事態に対して、丁重に辞退しようとしていた右京に、光希が誘ったということだ。

『せっかくの機会なんだし』

 そう言われれば、おろおろと戸惑ってしまった。そこを笑いながら相田に促され、今日ここへ来ることになったという訳だ。
 当然、もしここにいることが苦痛になるようであれば、すぐにホテルの客室に行くことができるように手配してあった。

 今のところは楽しそうな様子に、相田はほっと胸を撫でおろしていた。
 一方こちらは。

「せんせ~、席、こっちだって~」
「はいはい」

 相変わらずの柴田夫妻がそこにいた。

「……」
「……むすっとするなよ、祥」
「……してない。いいがかりだろ、環」
「またケンカしてる! ここまで来てケンカとか、みっともないよ、お兄ちゃん」
「……」
「……」

「お母さん、またお兄ちゃんたち、ケンカしてるよ」
「ほんと~ケンカ好きだよね~」

 兄の環と次男の祥は高校生。妹の凪は中学生。
 凪と知花は仲良しだが、現在環と祥は絶賛反抗期中だ。それさえも面白いとばかりに、知花は笑っている。
 そんな家族を見て、感慨深い想いの柴田であった。

「それにしても未だにお父さん、お母さんから『先生』呼びって、ねえ」
「……本当になあ」
「だって先生は先生でしょ」

 そんな会話のすぐ横では、木谷夫妻がいた。

「俺がここまでくる意味あったか?」
「ある」
「ふうん」

「また母さんの『ふうん』だな」
「そうだね」
「好きな癖にね」
「素直じゃないからねえ」

「ちょい、聞き捨てならないなあ、お子様方?」
「えっと」
「なに、かなあ~」

「ほらほら、和基。こっちだってさ、席」
「だいたい、基哉が」
「はいはい」
「(イラっ)」
「祝い事の席で怒らない、怒らない」
「(イライラっ)」

「また怒ってるね」
「怒りん坊だね」
「(イライラマックス)!!」

「ねえねえ、木谷さんちは相変わらずだね」
「ははっ。さすがって感じだね」

 そこには夏目、川本と沢井、井本がいた。

「でもまあ、ひなと沢井君がゴールインってもの未だに慣れないって言うか」
「ああ、それわかる気がする」
「そうでしょ。私も不思議な感じだわ」

 沢井と夏目は、実は結婚していた。夏目の弟である亜希とその番である佐野の間にも、無事子どもに恵まれ、子育てもひと段落したところで結婚した。
 ちなみに子どもはひとり。

「まあ、沢井君とひなは飲み友達だし、いい感じかな~って思ってたしね」

 そう言って川本は笑った。
 那由多の先輩として、那由多を支えてくれた人々も、それぞれの生活を送っていた。


「宮瀬様。準備はよろしいでしょうか。それではご案内します」
「はい」
「――」
 はい。

 ふたり手を繋ぎ向かう。向かった先には尊人と那由多がいた。
 ぽろぽろと涙をこぼしながら、それをハンカチで押さえて、那由多は音羽を抱きしめた。
 その姿を見ながら、匡哉と尊人は頷き合った。
 そして尊人と那由多は席に向かった。

 時はきた。
 音羽は、匡哉の腕に手を絡ませ、ふたり並んで扉の向こうに消えていった。
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