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・番外編 音羽×匡哉
彼
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「那由多、ひとりで?」
その様子をそのままで見つめるホテル関係者たち。
「尊人さん。い、今までみんなと、い、一緒だったよ」
「それでも……ひとりにはならないで」
「だ、大丈夫だよ」
ふふっと笑って答えるが、厳しい表情は変わらない。
「ホテル内は安心だけれども、万が一が」
「大河内さんの番さんですか」
そんな尊人に、彼は声をかけてきた。
「ああ、皇さん。紹介します。俺の番の那由多です」
――王子様だ。
那由多は目の前の彼を見て、そう思い、思わず呆けてしまった。ハッと我に返り慌てる。
――あ、挨拶!
「あ、あ、あの、は、はじ、初めま、まして」
「初めまして、皇です」
「きょ、今日は、あ、あの、……あ、あの……お、おせ……お……」
那由多の吃音は未だ治っていない。緩和されてはいるがよくなってはいなかった。
ドキドキしながら視線をあげると、目の前に立っている、端正な顔立ちの長身の男性が見えた。
――どうしよう。詰まっちゃった。
挨拶、挨拶しなくっちゃ。
そんな那由多を、尊人はそっと抱き寄せる。
自然と、ほうっと息が出た。
皇と名乗った彼もそのままじっと待っているかのようだ。
――待ってる? 僕が挨拶するの、待ってる?
いいのかな。続けても、挨拶続けてもいいのかな。
そっと尊人を見ると那由多の心は安堵した。
改めて彼の方を見ると、柔らかい視線を感じた。
――大丈夫、大丈夫。
そう思うと、ほっと力が抜けたように感じられた。
「あ、あの、お、お世……お世話になりっ、……なります」
「ようこそいらっしゃいました。大河内さん、かわいらしい方ですね」
「ありがとう。恥ずかしがりやでね」
なんてことのないように話し始める二人に、那由多の心はホッと息を吐いた。
そして落ち着いてくると、改めて目の前の彼を見つめる。
――キラキラしてる。王子様みたいな人だなあ。
そんなことを考えていたら、尊人の視線を感じる。
抱き寄せられていた体が、よりぎゅっと抱きしめられる。
「こら、那由多。よそ見はダメだよ」
「え、え、え?」
「いくら素敵な人でも見つめすぎは妬いてしまうよ」
「や、妬く? え、え、え? 尊人さんが?」
「そうだよ」
「仲がよろしいんですね」
微笑ましそうに彼は笑っている。
――あ、やっぱり王子様だ。
「皇さんは番は?」
「残念ですがまだ」
「そうですか」
「……」
何か淡い寂寥感を彼に感じ、那由多は声をかけることを躊躇われた。
ともかくその場はそこで別れることになった。
後日改めて場を設けることとなったのであった。
「那由多」
「え、え、え?」
尊人はホテル関係者と別れてすぐに、サッと那由多を抱き上げた。
那由多は頬を赤らめ慌てる。
しかし抱き上げられ頬を重ねられれば言葉はもう出なくなった。
「愛してるよ」
「……ぼ、僕も、あ、愛してる」
小さな声で囁くように言う那由多に、尊人はふっと笑みを零した。那由多を愛おし気に抱きしめたまま、尊人は歩き出した。
「――番、か」
そんな尊人と那由多を、彼は遠くから見つめていた。
ぽつりと漏らすような、そんな彼の声は、尊人と那由多の耳には届かなかった。
彼にも番がいるだろう。しかし、今はまだ――
彼の物語は今は語られない。しかしいずれ始まるだろう。
それはそう遠くない未来の物語として――
その様子をそのままで見つめるホテル関係者たち。
「尊人さん。い、今までみんなと、い、一緒だったよ」
「それでも……ひとりにはならないで」
「だ、大丈夫だよ」
ふふっと笑って答えるが、厳しい表情は変わらない。
「ホテル内は安心だけれども、万が一が」
「大河内さんの番さんですか」
そんな尊人に、彼は声をかけてきた。
「ああ、皇さん。紹介します。俺の番の那由多です」
――王子様だ。
那由多は目の前の彼を見て、そう思い、思わず呆けてしまった。ハッと我に返り慌てる。
――あ、挨拶!
「あ、あ、あの、は、はじ、初めま、まして」
「初めまして、皇です」
「きょ、今日は、あ、あの、……あ、あの……お、おせ……お……」
那由多の吃音は未だ治っていない。緩和されてはいるがよくなってはいなかった。
ドキドキしながら視線をあげると、目の前に立っている、端正な顔立ちの長身の男性が見えた。
――どうしよう。詰まっちゃった。
挨拶、挨拶しなくっちゃ。
そんな那由多を、尊人はそっと抱き寄せる。
自然と、ほうっと息が出た。
皇と名乗った彼もそのままじっと待っているかのようだ。
――待ってる? 僕が挨拶するの、待ってる?
いいのかな。続けても、挨拶続けてもいいのかな。
そっと尊人を見ると那由多の心は安堵した。
改めて彼の方を見ると、柔らかい視線を感じた。
――大丈夫、大丈夫。
そう思うと、ほっと力が抜けたように感じられた。
「あ、あの、お、お世……お世話になりっ、……なります」
「ようこそいらっしゃいました。大河内さん、かわいらしい方ですね」
「ありがとう。恥ずかしがりやでね」
なんてことのないように話し始める二人に、那由多の心はホッと息を吐いた。
そして落ち着いてくると、改めて目の前の彼を見つめる。
――キラキラしてる。王子様みたいな人だなあ。
そんなことを考えていたら、尊人の視線を感じる。
抱き寄せられていた体が、よりぎゅっと抱きしめられる。
「こら、那由多。よそ見はダメだよ」
「え、え、え?」
「いくら素敵な人でも見つめすぎは妬いてしまうよ」
「や、妬く? え、え、え? 尊人さんが?」
「そうだよ」
「仲がよろしいんですね」
微笑ましそうに彼は笑っている。
――あ、やっぱり王子様だ。
「皇さんは番は?」
「残念ですがまだ」
「そうですか」
「……」
何か淡い寂寥感を彼に感じ、那由多は声をかけることを躊躇われた。
ともかくその場はそこで別れることになった。
後日改めて場を設けることとなったのであった。
「那由多」
「え、え、え?」
尊人はホテル関係者と別れてすぐに、サッと那由多を抱き上げた。
那由多は頬を赤らめ慌てる。
しかし抱き上げられ頬を重ねられれば言葉はもう出なくなった。
「愛してるよ」
「……ぼ、僕も、あ、愛してる」
小さな声で囁くように言う那由多に、尊人はふっと笑みを零した。那由多を愛おし気に抱きしめたまま、尊人は歩き出した。
「――番、か」
そんな尊人と那由多を、彼は遠くから見つめていた。
ぽつりと漏らすような、そんな彼の声は、尊人と那由多の耳には届かなかった。
彼にも番がいるだろう。しかし、今はまだ――
彼の物語は今は語られない。しかしいずれ始まるだろう。
それはそう遠くない未来の物語として――
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