白昼夢

白翠

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顕現する私

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 すてきな夢を見た。

 はじめは、なんでもない信号待ちの光景だった。
 見慣れたその道は、職場近くの交差点だった。道が大きいせいか自分が田舎者だからか、毎日この信号の待ち時間の長さには苛々させられていた。今日もうんざりとした気分で交差点に立っていた。暇だ。やることがない。こういう手持無沙汰にぼんやりと突っ立っている時間が、私には耐えられなかった。苛々を誤魔化すように、目の前を通り過ぎていく車をいくつか数えてみる。ひとつ、ふたつ、みっつを数えたら、ふと人間をやめたくなった。突拍子もなく、よし、やめてやろうと決意する。そして事実、今なら人間じゃないものになれるという確信があった。
 私は仕事用の鞄を小脇に抱えると、勢いよく前屈する。その勢いのまま靴の爪先をむんずと掴んで、上体を起こしてやる。すると、ぐるんと布団カバーをひっくり返すように、表皮と内蔵が入れ替わった。内蔵と言っても、多種多様な器官はなかった。私の内蔵は、黄色く腐った管しかなかった。血管らしきものすらない。ぶよぶよした黄色い一本の管が、絡まった毛糸のようにぐしゃぐしゃになりながら、どうにか何がしかの形を保っているのだった。私は不定型の塊ともいうべき醜悪な姿をコンクリート・ジャングルの真ん中に顕現させたのだ。そうして私は黄色い管の塊のような化け物になった。ぬらぬらと夏の陽光を照り返し、腐臭を撒き散らしながら顕現した化け物は、鞄をアスファルトに落とした。チープで突拍子もない瞬間を目の当たりにしたひとは、ぎょっとしたり、叫んだりする。突拍子もなく訪れるパニックは、特撮映画のワンシーンかハリウッドのゾンビ映画だ。しかし、それが私には快感だった。皆が避けてくれる。皆が見てくれる。皆が嫌悪してくれる。皆が憎悪してくれる。皆が自分に単純な感情をぶつけてくれる。皆が、皆が、皆が……。そしてその中央にいるのが、化け物としての自分なのだ。私は歓びと孤独を感じた。これで、なにひとつ、誰とも何も共有できない。この世界にあって寂しいと思うことは贅沢だ。誰とも繋がっていないという状況の稀有さ。そして、僅かに存在している他者からの評価も、あってないようなものだ。どれも一緒なのだから、特定の誰かを気にかけることもない。誰からも嫌われているという確信が、私を安心させた。どれも、なににも代えがたいものだと思う。この姿になって手に入れたものだ。性別も社会的立場も血縁も、生まれてからこの身に染みついたものを全て引き剥がして自由になったのだ。こんなに素敵なことがあるだろうか。

 ただ、悲しむべきはこれが夢だという確信があることだ。
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