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Callgirls
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透明な強化プラスチックの向こうで、若い女性二人が軽快にスカッシュで汗を流している。
黒いタンクトップとスパッツ姿の女はマコ、二十六歳。
そしてイエローの半袖ポロとモスグリーンのボクサーパンツでプレイしている女はナオ、二十五歳。
ここは、都内のセレブもよく利用するという会員制高級スポーツクラブ「リッツ・ジェノン」だ。
スカッシュサイトはもとより、ジムやプール、クアハウス、エステなども完備している。
均整の取れた二人の体は、さながら「若鹿」のようだった。
プレイを終えた二人が汗を滴らせて、コートから出てくる。
「お疲れーっ」
「なお、上手になったなぁ。もう、タジタジよ。あたし」
クラブのロゴの入ったバスタオルで首などを拭きながら、マコが言う。
二人は、仕事仲間だった。
でも知り合ったのはこのクラブ。
仕事が同じだというだけで、職場が同じとは限らないのだ。
彼女らは、高級コールガールだったからだ。
要人や富豪の夜のお相手をする女たち。
「公娼」という言葉はもはや死語だけれど、その存在は今も昔も変わりはしない。
需要があるから、供給があるのだ。
しかし、風俗嬢とは一線を画す。
コールガールは誇り高き女たちなのだ。
体を売り物にする彼女らは、その「商品」のメンテナンスに余念が無い。
鍛え、改造し、メイクアップする。
日ごろのこうした、鍛錬は欠かせないし、内面から美しくするという基本に忠実なのだ。
そこには、科学に裏付けられた彼女らなりの信念があった。
一夜、あるいはそれ以上、名だたる男たちと同衾するために、指名を受けるには天性のものプラス不断の努力が必要なのだ。
「マコは今日の予定は?」
「ナジ駐日大使と」
「うへぇ、あの人、けっこうしつこいよ」
「そうなんだぁ。グレース・オサリバンとうわさのあった人でしょ」
「そうそう」
スポーツドリンクを飲みながら、彼女たちの話は男たちの話題になる。
本来、公共の場所ではご法度の話題なのだが、彼女らの口は軽い。
まあ、彼女らがコールガールであるとは、世間一般の人には知られていないし、会話の内容を真に受ける人や、意味のわかる人は皆無だろうが。
それほど、日本でコールガールというものは化石化したような存在なのだ。
とはいえ、コールガールになりたくてなれるものではない。
エージェントのメガネに適(かな)って、初めてなれるのだ。
何度も審査がされ、それまで本人にはテレビの仕事だとか、タレントのスカウトだとかで誤魔化し、真実を知らされない。
不幸にして落選した場合にも、コールガールの存在は顕在化せずにすむという寸法だ。
家族や出自、親の財産、学歴、成績、病歴、ありとあらゆる情報がエージェントにより明らかにされていく。
この地下組織は、国際的であり、非常に根深く社会に浸透している。
残念ながら、日本の組織ではなかった。
それ以上のことは、ほとんどわからないのだ。
マコやナオもそういったエージェントに買われて、成り上がった公娼だったのだ。
外国人を相手にすることから、相当な英会話能力が問われるし、一般常識を備え、日本の伝統に明るく、食事作法や閨房術に長じていなければならないのは言うまでもない。
マコは財閥系企業の重役の娘だった。
親に反発して、グレかけたが、もともと頭の良かったマコは一ツ橋の法学部に入った。
在学中も奔放な性癖で男と遊び回り、エージェントの目に留まることになったらしい。
中学と高校時代に二度アメリカ留学を経験しており、米語が堪能だったのも幸いしたようだ。
どうも、これまで遊んだ男が横須賀の米兵だとか、プロゴルファーだとか、ロックバンドのドラマーだとか、外人ばかりだったというから、筋金入りだった。
ナオは、時代が時代なら「お姫様」になる人物で、城持ちの家系だった。
中国地方の小藩だったけれど、廃藩置県になるまで存在した大名である。
彼女は、出自こそ立派だったけれど、もはや城もなく、現在ではさほどの家柄でもない。
ただ、学歴は、女性にしてはたいしたもので、国立大学の工学部を出て、中退はしたものの大学院にまで進んだのだから。
ナオも、男好きで、それがあだになって、院を中退せざるをえなくなったのだけれど。
担当教授やポスドクたちと次々に関係を持ち、論文の評価を上げてもらうなどの工作に血道をあげていたからだ。
男の嫉妬とは恐いもので、ナオは干され、大学にいられなくなった。
そこに理系専門のエージェントが現れ、ナオは引っ張られた形になった。
マコやナオのようにコールガール同士が顔を合わすのは珍しいケースと言っていい。
コールガールはお互いに交わることはなく、単独で行動するものだからだ。
だから、一体、何人のコールガールがエージェントに登録されているのか彼女らは知ることも無い。
このスポーツクラブで意気投合した二人が、同業だと知ったのは、まったくの偶然だったのだ。
何か引き合うものを感じたのかもしれない。
もっとも、このクラブはそういった女が集まりやすい場所ではあったが。
お互い、素性の多くを語らないし、虚飾もしていたから、完全に心を許す関係にはなっていなかった。
コールガールは夢を売る商売だから、着飾るのは当たり前、本当のことを言うのは野暮なのだ。
「日夜勉強し、心身を鍛えて、美容に尽くすべし」とエージェントから口を酸っぱくして言われている。
そのために、過分な報酬が与えられてもいるのだ。
外車を二台も持つことができるのは、親の財産だけではないのである。
もし、顧客からクレームがついたら、はたまた指名がなくなったら、それでおしまい。
砂上の楼閣のような生活なのだから。
「じゃ」
着替えて、二人はクラブを後にした。
ナオは赤のアウディに滑り込むと、ふかし気味で勢い良く地下駐車場を飛び出していった。
マコも白のBMの運転席に座って、バニシングミラーを見ながら化粧を直した。
これから、ホテル・マクガイアで大使と落ち合うのだった。
ナジはウルスク共和国の駐日大使で、会話はすべて流暢な日本語だと聞いている。
初めて会うマコにとっては楽な仕事だった。
約束の時間に、ロビーに着いた。
胸に目印のカトレアのコサージュをつけて・・・
エレベーターが開いて、背の高い、浅黒い肌の男が一人出てきた。
見回して、マコのコサージュに目が留まったようだ。
マコも、それに気づいて手を上げて近づいた。
「こんばんは、アンバサダー」
「ようこそ、プリンセス」
そんな呼ばれ方をするのは、生まれて初めてだったので、マコは一瞬とまどった。
「何か食べますか?」
上手な日本語だった。
「はい、あたし、何も食べてきてないんで」
「そりゃあ、よかった。わたしも夕食がまだなんですよ。今日は仕事が多くってね」
ウィンクして、彼は微笑んだ。
とても、紳士的で親しみやすい印象だった。
最上階のラウンジに招待され、ディナーをご馳走になった。
ここはスカイ・ツリーが目の前に見えて、壮観だった。
飲みやすいワインを勧められ、マコはご機嫌だった。
その後、バーでカクテルを二人で飲み、世間話をした。
大使はお忍びだという。そりゃそうだろう。
「フロントでは気づかれませんでした?」
「たぶんね。でも気づいているかもしれない。ただ、このホテルのスタッフはプロだから」
プロは口が堅いと言う事らしい。
ここのバーテンだって、本来なら警戒しなければならないはずだけれど、大使は安心しきっている。
エージェントに逢引の手はずを整えさせ、最大限の警戒を怠らない。
実は、このホテルはエージェントの息が掛かっているのだ。
大使もエージェントにここで女と逢えと指定されているのだった。
それはマコも同じなのだ。
もし秘密を口外したりすると命が危ないのだった。
消された仲間がいるのは、聞いている。
恐怖政治を敷いているから続く生業(なりわい)なのだ。
「そろそろ、お部屋に」
マコから誘った。いいかげん酔いが回ってきたからだ。
「ああ。じゃあ行くとしようか」
背の高い大使の後ろについて行った。
でもバーを出ると、大使はマコの肩を抱いて横に並んで歩かせた。
二十二階の大使の隠れ家は、スウィートだった。
「すご・・い」
シャンデリアが輝き、アールデコ調の調度品がまぶしかった。
マホガニーのビューロー、テーブル・・・
「さぁ、シャワーでもあびて、さっぱりしてきなさい。マコ」
マコは、大使の心遣いをありがたく思った。
そして、バッグをソファにおき、クローゼットのハンガーにコサージュのついたジャケットをかけた。
大使は、テーブルの上にあったブランデーをデキャンタからグラスにそそいで、椅子に腰掛けた。
そうして夜景を眺めている。
ゆっくりとした時間を演出しているかのようだった。
マコはバスルームに消えた。
黒いレースのブラとおそろいのトリンプのショーツ。
鍛え抜かれた体がミラーの中にあった。
ナルシストではないにせよ、マコは鏡に映る自分の姿に満足していた。
へその形がいいのが自慢だった。
胸は、ナオほど大きくないが、谷間をつくり、しっかり上を向いて主張している
ストッキングを丁寧に下ろしていくマコ。
スポーツ・クラブで一応、シャワーをしてきたマコだが、くんくんと自分の体臭を確認している。
コロンの下に隠れた、匂いを嗅ぎ取ろうとしていた。
バスルームは薄暗い間接照明になっていた。
バスタブは大理石のようで、床もそんな感じだった。
大きめのシャワーヘッドがクロームめっきのためか違和感があった。
お湯はすでに張られていて、適温だった。
マコはいつものように髪をピンで留めて、アップにして掛け湯をした。
「どんな夜になるのだろう」
男と寝床を共にする前に、これまでの遍歴が頭に浮かんだ。
テレビでおなじみの「大臣」とも寝た。
顔をゆがめて話す彼は、終始、ダンディズムに固執していたように思う。
まるで劇画の主人公のように。
早く逝くことは恥だと言わんばかりに、なかなか逝ってくれなかった。
あそこがひりひりしているのに、年の割には硬いそれが苦痛だった。
たぶん、薬を飲んでいたんだろう。
そういうビップは多い。
側近が気を利かして、薬を渡すらしいのだ。
洗い終え、マコはバスローブに身を包んで、大使のいる部屋に戻った。
大使は気配を感じてか、眺めている窓ガラスに映るマコに気づいてか、振り返りにっこりと微笑んだ。
「冷たいものでも飲みますか?」
「はい、いただきます」
バーのようになったカウンターには、酒がならんでいた。
慣れた手つきで、ナジ大使はバーテンダーよろしく、ジンとトニックウォーター、クラッシュアイスでジントニックを二人分つくってくれた。
ライムを最後にちゅっと絞るのも忘れずに。
ミントの葉はなかったが、湯上りのほてった体にジントニックは心地よかった。
大使もカウンターの向こう側で、ジントニをぐいっと飲み干している。
「アンバサダー(大使)は、奥様は?」
「いますよ」
「こういうことは、お許しになるの?」
「質問の意味がわからないが」
と、終始笑顔の大使。
「その、奥様以外の女性と関係を持つことは、お国では当たり前のことなのですか?」
面と向かって訊くのははばかられたが、マコは訊いてみたかったのだ。
「これは、リクリエーションなのだよ。多忙な毎日に空気を入れ替えるような」
「はあ」
「妻は、こういうことを男がしていることは承知しているよ。深い関係にはしないことが条件になるがね」
「割り切っているってことですか」
「ワリキッテ?その意味がわからないけれど、わたしがリフレッシュするのに女と体の関係をもつことで妻への愛情が薄れるということではないんだよ」
「おじょうずだこと」
マコは、そう言って空のグラスを大使の前に戻した。
すぐにベッドインした。
悠長に構えていた大使だが、実のところ、我慢し切れなかったという感じだった。
激しく、マコの口を奪い、自分は服を脱ぐのももどかしそうに、ベッドに倒れ込んだのだった。
大使は酒の匂いが強く残る息をマコに吹き込んだ。
こうなっては、たとえ一国の大使でも、その辺の男と同じである。
マコは何度もそういう男を見てきた。
大事な部分に指を入れられ、かき回された。
乳首は噛まれ、跡がついた。
大使の巨大なペニスは、ゆるく上向きにカーブを描いて立ち上がっている。
日本人には無いラテン系特有のごつさがあった。
「なめてくれませんか」
大使は、お願いする口調でマコにねだった。
マコは、その大きな生き物に口を近づけ、サイドからトップに舌を這わせ、ほおばった。
獣のような体臭がマコに火をつける。
「犯されたい。めちゃくちゃにされたい・・・」
ナジ大使が、目をつぶって、官能に酔いしれている。
「もっと、気持ちよくなって。アンバサダー」
こめかみがだるくなるような代物だった。
がくがく音がしてきて、マコの頭にひびく。
「もうだめ。大使の、おっきすぎる」
「ごめんなさい。ごめんなさいよ」
謝る、ナジ大使が滑稽(こっけい)だった。
「じゃあ、入れてあげましょう」
うなずくマコ。
そうしてマコはベッドの上に仰向けになり、足を開き大使を迎え入れる用意をした。
大柄なナジ大使はマコの足の間に割って入り、硬直した竿に手を添えて構えた。
「入れますよ」
「ええ、入れてくだ・・さい」
じゅぶ・・・
十分に濡れそぼったマコの入り口は、大使の極太ペニスを飲み込もうと健気(けなげ)にも伸展した。
めりめり・・・
陰唇も左右に拡げられ、まさに頬張るように長い肉の棒が進入していく。
マコは口に手をあて、今行われている恐ろしい行為を見据えていた。
行き止まりを越して、まだ奥を突こうかという大使のペニス。
まだすべてを呑み込んではいない。
胃まで突き上げられそうな錯覚に陥った。
「恐いよ」マコがつぶやいた。
「これくらいにしておくか」
大使は、余裕の表情で彼女をいたわるように背をかがめて髪を撫でた。
ゆっくりと大使は動いた。
「はあっ」
マコがあえぐ。ストロークの長いピストン運動がマコを柔軟にさせる。
女の腰は男の動きに合わせてせり上がり、退くペニスを追いかける。
乳首が硬くしこって、大使のほうを向いている。
大使はその充血した果実を口に運び、舌で味わった。
乳輪が血を集めて盛り上がっている。
「はうっ。だめっ。いやあ」
登りはじめる、マコ。
大使の「口撃」が執拗だった。
厚い唇で、乳輪ごと挟む。
マコの背骨が反った。
「マコ、締まるよ。いい子だ」
そう言って大使は、腰をさらに深く入れた。
「ぎゅわっ」
子宮を突き破られるような圧力を感じ、同時にマコの腰が砕けた。
ふにゃりとなったマコは大使に裏返され、後ろから貫かれることに。
「あ~ん」
甘やかな、マコの声が室内に響いた。
バックはマコのお気に入りの体位だったのだ。
大使の長尺もバックなら根元まではまり込んだ。
「おおう」
「いや、いやっ」
マコの肛門が開閉し、息をしているようだった。
泡を噛んで、ペニスが挿入される。
大使はマコの腰をがっしりつかんで、脈動している。
「マコ、フィニッシュはクリームパイで」
「カムショット、インサイド!」
激しいストロークの末、マコが失神しかけて、大使が中に放った。
熱いほとばしりが、内奥に当たり、マコも崩れた。
何度も、大使は膨れ上がり、種馬のように射精したのだ。
ピルを飲んでいるとはいえ、妊娠してしまいそうだった。
「サンキュー、マコ」
後ろからおおいかぶさるように、大使が顔を近づけてきて耳元でつぶやく。
まだペニスは抜かれてはいなかった。
普通の日本人のおじさま達なら、とっくに小さくなって抜け落ちているというのに・・・
大使によって拡げられた鋳型はその夜、もう一度、鋳込まれ、マコはとうとう失禁してしまった。
黒いタンクトップとスパッツ姿の女はマコ、二十六歳。
そしてイエローの半袖ポロとモスグリーンのボクサーパンツでプレイしている女はナオ、二十五歳。
ここは、都内のセレブもよく利用するという会員制高級スポーツクラブ「リッツ・ジェノン」だ。
スカッシュサイトはもとより、ジムやプール、クアハウス、エステなども完備している。
均整の取れた二人の体は、さながら「若鹿」のようだった。
プレイを終えた二人が汗を滴らせて、コートから出てくる。
「お疲れーっ」
「なお、上手になったなぁ。もう、タジタジよ。あたし」
クラブのロゴの入ったバスタオルで首などを拭きながら、マコが言う。
二人は、仕事仲間だった。
でも知り合ったのはこのクラブ。
仕事が同じだというだけで、職場が同じとは限らないのだ。
彼女らは、高級コールガールだったからだ。
要人や富豪の夜のお相手をする女たち。
「公娼」という言葉はもはや死語だけれど、その存在は今も昔も変わりはしない。
需要があるから、供給があるのだ。
しかし、風俗嬢とは一線を画す。
コールガールは誇り高き女たちなのだ。
体を売り物にする彼女らは、その「商品」のメンテナンスに余念が無い。
鍛え、改造し、メイクアップする。
日ごろのこうした、鍛錬は欠かせないし、内面から美しくするという基本に忠実なのだ。
そこには、科学に裏付けられた彼女らなりの信念があった。
一夜、あるいはそれ以上、名だたる男たちと同衾するために、指名を受けるには天性のものプラス不断の努力が必要なのだ。
「マコは今日の予定は?」
「ナジ駐日大使と」
「うへぇ、あの人、けっこうしつこいよ」
「そうなんだぁ。グレース・オサリバンとうわさのあった人でしょ」
「そうそう」
スポーツドリンクを飲みながら、彼女たちの話は男たちの話題になる。
本来、公共の場所ではご法度の話題なのだが、彼女らの口は軽い。
まあ、彼女らがコールガールであるとは、世間一般の人には知られていないし、会話の内容を真に受ける人や、意味のわかる人は皆無だろうが。
それほど、日本でコールガールというものは化石化したような存在なのだ。
とはいえ、コールガールになりたくてなれるものではない。
エージェントのメガネに適(かな)って、初めてなれるのだ。
何度も審査がされ、それまで本人にはテレビの仕事だとか、タレントのスカウトだとかで誤魔化し、真実を知らされない。
不幸にして落選した場合にも、コールガールの存在は顕在化せずにすむという寸法だ。
家族や出自、親の財産、学歴、成績、病歴、ありとあらゆる情報がエージェントにより明らかにされていく。
この地下組織は、国際的であり、非常に根深く社会に浸透している。
残念ながら、日本の組織ではなかった。
それ以上のことは、ほとんどわからないのだ。
マコやナオもそういったエージェントに買われて、成り上がった公娼だったのだ。
外国人を相手にすることから、相当な英会話能力が問われるし、一般常識を備え、日本の伝統に明るく、食事作法や閨房術に長じていなければならないのは言うまでもない。
マコは財閥系企業の重役の娘だった。
親に反発して、グレかけたが、もともと頭の良かったマコは一ツ橋の法学部に入った。
在学中も奔放な性癖で男と遊び回り、エージェントの目に留まることになったらしい。
中学と高校時代に二度アメリカ留学を経験しており、米語が堪能だったのも幸いしたようだ。
どうも、これまで遊んだ男が横須賀の米兵だとか、プロゴルファーだとか、ロックバンドのドラマーだとか、外人ばかりだったというから、筋金入りだった。
ナオは、時代が時代なら「お姫様」になる人物で、城持ちの家系だった。
中国地方の小藩だったけれど、廃藩置県になるまで存在した大名である。
彼女は、出自こそ立派だったけれど、もはや城もなく、現在ではさほどの家柄でもない。
ただ、学歴は、女性にしてはたいしたもので、国立大学の工学部を出て、中退はしたものの大学院にまで進んだのだから。
ナオも、男好きで、それがあだになって、院を中退せざるをえなくなったのだけれど。
担当教授やポスドクたちと次々に関係を持ち、論文の評価を上げてもらうなどの工作に血道をあげていたからだ。
男の嫉妬とは恐いもので、ナオは干され、大学にいられなくなった。
そこに理系専門のエージェントが現れ、ナオは引っ張られた形になった。
マコやナオのようにコールガール同士が顔を合わすのは珍しいケースと言っていい。
コールガールはお互いに交わることはなく、単独で行動するものだからだ。
だから、一体、何人のコールガールがエージェントに登録されているのか彼女らは知ることも無い。
このスポーツクラブで意気投合した二人が、同業だと知ったのは、まったくの偶然だったのだ。
何か引き合うものを感じたのかもしれない。
もっとも、このクラブはそういった女が集まりやすい場所ではあったが。
お互い、素性の多くを語らないし、虚飾もしていたから、完全に心を許す関係にはなっていなかった。
コールガールは夢を売る商売だから、着飾るのは当たり前、本当のことを言うのは野暮なのだ。
「日夜勉強し、心身を鍛えて、美容に尽くすべし」とエージェントから口を酸っぱくして言われている。
そのために、過分な報酬が与えられてもいるのだ。
外車を二台も持つことができるのは、親の財産だけではないのである。
もし、顧客からクレームがついたら、はたまた指名がなくなったら、それでおしまい。
砂上の楼閣のような生活なのだから。
「じゃ」
着替えて、二人はクラブを後にした。
ナオは赤のアウディに滑り込むと、ふかし気味で勢い良く地下駐車場を飛び出していった。
マコも白のBMの運転席に座って、バニシングミラーを見ながら化粧を直した。
これから、ホテル・マクガイアで大使と落ち合うのだった。
ナジはウルスク共和国の駐日大使で、会話はすべて流暢な日本語だと聞いている。
初めて会うマコにとっては楽な仕事だった。
約束の時間に、ロビーに着いた。
胸に目印のカトレアのコサージュをつけて・・・
エレベーターが開いて、背の高い、浅黒い肌の男が一人出てきた。
見回して、マコのコサージュに目が留まったようだ。
マコも、それに気づいて手を上げて近づいた。
「こんばんは、アンバサダー」
「ようこそ、プリンセス」
そんな呼ばれ方をするのは、生まれて初めてだったので、マコは一瞬とまどった。
「何か食べますか?」
上手な日本語だった。
「はい、あたし、何も食べてきてないんで」
「そりゃあ、よかった。わたしも夕食がまだなんですよ。今日は仕事が多くってね」
ウィンクして、彼は微笑んだ。
とても、紳士的で親しみやすい印象だった。
最上階のラウンジに招待され、ディナーをご馳走になった。
ここはスカイ・ツリーが目の前に見えて、壮観だった。
飲みやすいワインを勧められ、マコはご機嫌だった。
その後、バーでカクテルを二人で飲み、世間話をした。
大使はお忍びだという。そりゃそうだろう。
「フロントでは気づかれませんでした?」
「たぶんね。でも気づいているかもしれない。ただ、このホテルのスタッフはプロだから」
プロは口が堅いと言う事らしい。
ここのバーテンだって、本来なら警戒しなければならないはずだけれど、大使は安心しきっている。
エージェントに逢引の手はずを整えさせ、最大限の警戒を怠らない。
実は、このホテルはエージェントの息が掛かっているのだ。
大使もエージェントにここで女と逢えと指定されているのだった。
それはマコも同じなのだ。
もし秘密を口外したりすると命が危ないのだった。
消された仲間がいるのは、聞いている。
恐怖政治を敷いているから続く生業(なりわい)なのだ。
「そろそろ、お部屋に」
マコから誘った。いいかげん酔いが回ってきたからだ。
「ああ。じゃあ行くとしようか」
背の高い大使の後ろについて行った。
でもバーを出ると、大使はマコの肩を抱いて横に並んで歩かせた。
二十二階の大使の隠れ家は、スウィートだった。
「すご・・い」
シャンデリアが輝き、アールデコ調の調度品がまぶしかった。
マホガニーのビューロー、テーブル・・・
「さぁ、シャワーでもあびて、さっぱりしてきなさい。マコ」
マコは、大使の心遣いをありがたく思った。
そして、バッグをソファにおき、クローゼットのハンガーにコサージュのついたジャケットをかけた。
大使は、テーブルの上にあったブランデーをデキャンタからグラスにそそいで、椅子に腰掛けた。
そうして夜景を眺めている。
ゆっくりとした時間を演出しているかのようだった。
マコはバスルームに消えた。
黒いレースのブラとおそろいのトリンプのショーツ。
鍛え抜かれた体がミラーの中にあった。
ナルシストではないにせよ、マコは鏡に映る自分の姿に満足していた。
へその形がいいのが自慢だった。
胸は、ナオほど大きくないが、谷間をつくり、しっかり上を向いて主張している
ストッキングを丁寧に下ろしていくマコ。
スポーツ・クラブで一応、シャワーをしてきたマコだが、くんくんと自分の体臭を確認している。
コロンの下に隠れた、匂いを嗅ぎ取ろうとしていた。
バスルームは薄暗い間接照明になっていた。
バスタブは大理石のようで、床もそんな感じだった。
大きめのシャワーヘッドがクロームめっきのためか違和感があった。
お湯はすでに張られていて、適温だった。
マコはいつものように髪をピンで留めて、アップにして掛け湯をした。
「どんな夜になるのだろう」
男と寝床を共にする前に、これまでの遍歴が頭に浮かんだ。
テレビでおなじみの「大臣」とも寝た。
顔をゆがめて話す彼は、終始、ダンディズムに固執していたように思う。
まるで劇画の主人公のように。
早く逝くことは恥だと言わんばかりに、なかなか逝ってくれなかった。
あそこがひりひりしているのに、年の割には硬いそれが苦痛だった。
たぶん、薬を飲んでいたんだろう。
そういうビップは多い。
側近が気を利かして、薬を渡すらしいのだ。
洗い終え、マコはバスローブに身を包んで、大使のいる部屋に戻った。
大使は気配を感じてか、眺めている窓ガラスに映るマコに気づいてか、振り返りにっこりと微笑んだ。
「冷たいものでも飲みますか?」
「はい、いただきます」
バーのようになったカウンターには、酒がならんでいた。
慣れた手つきで、ナジ大使はバーテンダーよろしく、ジンとトニックウォーター、クラッシュアイスでジントニックを二人分つくってくれた。
ライムを最後にちゅっと絞るのも忘れずに。
ミントの葉はなかったが、湯上りのほてった体にジントニックは心地よかった。
大使もカウンターの向こう側で、ジントニをぐいっと飲み干している。
「アンバサダー(大使)は、奥様は?」
「いますよ」
「こういうことは、お許しになるの?」
「質問の意味がわからないが」
と、終始笑顔の大使。
「その、奥様以外の女性と関係を持つことは、お国では当たり前のことなのですか?」
面と向かって訊くのははばかられたが、マコは訊いてみたかったのだ。
「これは、リクリエーションなのだよ。多忙な毎日に空気を入れ替えるような」
「はあ」
「妻は、こういうことを男がしていることは承知しているよ。深い関係にはしないことが条件になるがね」
「割り切っているってことですか」
「ワリキッテ?その意味がわからないけれど、わたしがリフレッシュするのに女と体の関係をもつことで妻への愛情が薄れるということではないんだよ」
「おじょうずだこと」
マコは、そう言って空のグラスを大使の前に戻した。
すぐにベッドインした。
悠長に構えていた大使だが、実のところ、我慢し切れなかったという感じだった。
激しく、マコの口を奪い、自分は服を脱ぐのももどかしそうに、ベッドに倒れ込んだのだった。
大使は酒の匂いが強く残る息をマコに吹き込んだ。
こうなっては、たとえ一国の大使でも、その辺の男と同じである。
マコは何度もそういう男を見てきた。
大事な部分に指を入れられ、かき回された。
乳首は噛まれ、跡がついた。
大使の巨大なペニスは、ゆるく上向きにカーブを描いて立ち上がっている。
日本人には無いラテン系特有のごつさがあった。
「なめてくれませんか」
大使は、お願いする口調でマコにねだった。
マコは、その大きな生き物に口を近づけ、サイドからトップに舌を這わせ、ほおばった。
獣のような体臭がマコに火をつける。
「犯されたい。めちゃくちゃにされたい・・・」
ナジ大使が、目をつぶって、官能に酔いしれている。
「もっと、気持ちよくなって。アンバサダー」
こめかみがだるくなるような代物だった。
がくがく音がしてきて、マコの頭にひびく。
「もうだめ。大使の、おっきすぎる」
「ごめんなさい。ごめんなさいよ」
謝る、ナジ大使が滑稽(こっけい)だった。
「じゃあ、入れてあげましょう」
うなずくマコ。
そうしてマコはベッドの上に仰向けになり、足を開き大使を迎え入れる用意をした。
大柄なナジ大使はマコの足の間に割って入り、硬直した竿に手を添えて構えた。
「入れますよ」
「ええ、入れてくだ・・さい」
じゅぶ・・・
十分に濡れそぼったマコの入り口は、大使の極太ペニスを飲み込もうと健気(けなげ)にも伸展した。
めりめり・・・
陰唇も左右に拡げられ、まさに頬張るように長い肉の棒が進入していく。
マコは口に手をあて、今行われている恐ろしい行為を見据えていた。
行き止まりを越して、まだ奥を突こうかという大使のペニス。
まだすべてを呑み込んではいない。
胃まで突き上げられそうな錯覚に陥った。
「恐いよ」マコがつぶやいた。
「これくらいにしておくか」
大使は、余裕の表情で彼女をいたわるように背をかがめて髪を撫でた。
ゆっくりと大使は動いた。
「はあっ」
マコがあえぐ。ストロークの長いピストン運動がマコを柔軟にさせる。
女の腰は男の動きに合わせてせり上がり、退くペニスを追いかける。
乳首が硬くしこって、大使のほうを向いている。
大使はその充血した果実を口に運び、舌で味わった。
乳輪が血を集めて盛り上がっている。
「はうっ。だめっ。いやあ」
登りはじめる、マコ。
大使の「口撃」が執拗だった。
厚い唇で、乳輪ごと挟む。
マコの背骨が反った。
「マコ、締まるよ。いい子だ」
そう言って大使は、腰をさらに深く入れた。
「ぎゅわっ」
子宮を突き破られるような圧力を感じ、同時にマコの腰が砕けた。
ふにゃりとなったマコは大使に裏返され、後ろから貫かれることに。
「あ~ん」
甘やかな、マコの声が室内に響いた。
バックはマコのお気に入りの体位だったのだ。
大使の長尺もバックなら根元まではまり込んだ。
「おおう」
「いや、いやっ」
マコの肛門が開閉し、息をしているようだった。
泡を噛んで、ペニスが挿入される。
大使はマコの腰をがっしりつかんで、脈動している。
「マコ、フィニッシュはクリームパイで」
「カムショット、インサイド!」
激しいストロークの末、マコが失神しかけて、大使が中に放った。
熱いほとばしりが、内奥に当たり、マコも崩れた。
何度も、大使は膨れ上がり、種馬のように射精したのだ。
ピルを飲んでいるとはいえ、妊娠してしまいそうだった。
「サンキュー、マコ」
後ろからおおいかぶさるように、大使が顔を近づけてきて耳元でつぶやく。
まだペニスは抜かれてはいなかった。
普通の日本人のおじさま達なら、とっくに小さくなって抜け落ちているというのに・・・
大使によって拡げられた鋳型はその夜、もう一度、鋳込まれ、マコはとうとう失禁してしまった。
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