白鳳荘へようこそ。

暖鬼暖

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白鳳荘とは。

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静かな田舎町の奥地。淡い霧が漂う温泉街を抜けると、知る人ぞ知る秘湯の温泉旅館「白鳳荘」
今回の舞台、この白鳳荘では三つの運命が交差する。

「この不景気じゃあなぁ…温泉街に通じているから辛うじて人が入ってはいるけれど…」
この美しい景色に囲まれた秘湯温泉に住み込みで働く主人公の一人である蓮は、先代より受け継がれし美しい温泉の泉源を守るために日々懸命に働いていた。

「この白鳳荘は神秘の温泉いわれているんだけどなぁ」
彼は温厚で優しい性格であり、多くの人々から慕われている。
そして、彼は自然と対話し、その神秘的な力を信じていたーーーーーーーーーーー。



****
「よくぞお越しいただきました」
ふんわりと木のぬくもりを感じる温泉旅館のロビー。蓮はここで受付の仕事をすることが好きであった。

「お待ちしておりました、ようこそ弊館へお越しくださいました。柊井様」
今日は作家の柊井樹が長期滞在を開始する日。

「あ、えっと、おひとりのご予約でご確認しておりますが、お二人様でのお泊りに…変更でしょうか」
連れの男は蓮の鼻先に顔を近づける。
さえぎるように、30代も半ばすぎたくらいの男が蓮との間に掌を挟め行為を遮った。
「あぁ、あぁ、いいのですよ、一人です」
彼は蓮ににっこりと微笑んで「荷物は…」と始めたが、連れの男が「本当ですか?!」と叫びだすもんだから
「えぇ、ここで大丈夫ですよ」
と今度は連れの男へ笑顔を向けた。

糸目の男は慣れたように連れの男へ微笑んでうなずく。
「ほんとぅですかぁ?!心配です先生ぇえ!新作楽しみにはしておりますが、先生をお一人で残して何てぇえ」
「いえいえ、大西くんはお忙しいでしょう。僕の他にも新人作家さん3名新たに担当になったと伺いましたよ。はい、これお祝い」
男は着物の袖から白い饅頭を出して男の手のひらへ置いた。

「せんせぇええぼくが鳳凰堂のお菓子を好きってご存知だったのですかぁ」

「えぇ、えぇ、長い付き合いですからね、大西くんとは」

「あぁあもういかないと、先生と、別れおしぃいい」
「今後もよろしくお願いしますね、新幹線気をつけて下さいね~」

男は手を振りながら去っていく。嵐のような時のあと、何事もなかったように「行きましょうか」と荷物を持つ男の着物は深い緑色であった。

(この人が、柊井樹…)

「柊井樹」は、著名な小説家であった。
彼の書く小説はヒット作ばかりで、且つ映画やドラマ化される作品ばかりだった。
さらに語学堪能なため、自分で翻訳した小説は国内のみならず、国外でもヒット。

しかし、2年前から急にぱったりと“書くことをやめてしまった”と報道されてから、年間数冊販売されていた彼の新本が出なくなったのである。
小説のみではなく、あれだけ露出していたインタビュー雑誌、メディア全般もである。
一部の報道誌には、入院や病いが原因とも書かれていた。


エレベータに乗りこむと、柊井がぺこりと頭を下げた。
「騒がしくてすみませんね」
「あ、いえ」
「この旅館、とても美しいですね。自然に囲まれていて、落ち着く雰囲気があります」

蓮は何故かわからないが、自分よりも10は年上であろう男の横顔をこの時とても美しく感じたのである。
「本当に素敵な場所だね。さっきの子がね、勧めてくれたんですけど、正解でした」

蓮は微笑みながら頭を下げる。
「ありがとうございます。この温泉は歴史も古いので、何かヒントになれば光栄です。心地よい時間を提供できるよう、スタッフ一同努めておりますので、何かあればいつでもお申し付けください」

「ありがとうございます。ぜひとも頼らせていただきますね」
樹は静かな環境を求めて温泉街を訪れ、小説執筆のインスピレーションを求めていた。
「この土地は自然が豊かで、書き物には最適な場所だね」

蓮の目が揺れる。樹が蓮の心を読んだのかはわからないが、蓮をどきりとさせる一言だった。
「そうですね。自然の美しさや温泉の恵みが、多くの作家や芸術家たちにインスピレーションを与えてきました」
「作家として、この場所で静かな時間を過ごすのは魅力的ですね。何か小説を書くには良い着想が湧きそうです」
「きっと柊井さんなら、この美しい風景や温泉の中で素晴らしい作品を生み出すことができると思います」
「えぇ、私は才能がありますからね。ここで書いた作品はきっと素晴らしいものになるでしょう」

はっはっはと豪快に笑う柊井に少しぎょっとしたが、あまりにも素直で自信のある言葉につられて笑ってしまった。
蓮の表情を見て、柊井は少し照れ笑いを浮かべながら頷く。

ガラス張りのエレベータから見える緑々しい木を二人は眺めた。


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