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ストーカー令嬢、死にそう

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 ど、どうしてこの人は私の目の前にいるの。どうしてこの人は私の名前を呼んでいるの。

「そんな隅っこで何してるの?」

 綺麗な笑顔でそう聞いてくるモレスタ様に、私は固まってしまった。

 この間もそうだけど、どうして私の名前を知ってるの?

「ストレイカ嬢?」
「名前……」
「名前?」

 少し首を傾げて聞き返してくる姿に、思わず「ぐぅっ!」と声が出る。ただでさえ綺麗なお顔なのに、そんな可愛い仕草で見ないで!

「なっ、名前、私の名前、どうして知っているんですか……?」

 とても直視出来なくて、なるべくモレスタ様を見ないように、恐る恐る聞く。

「あぁ、同じ学年の子は全員覚えているんだ」
「お、同じ学年!?全員!?」
「こう見えて結構記憶力は良いんだ、俺」

 ああ、流石モレスタ様!私なんて、自分のクラスの人の名前もろくに覚えられていないのに!それに何より、少し照れくさそうに言うモレスタ様は何とも言えないくらい可愛くて格好よくて、尊い存在!!

 初めて見るモレスタ様の照れてる姿に1人悶えていると、とんでもない発言が聞こえて来た。


「それに、君みたいに可愛らしい令嬢は特に覚えているんだ」

 ……今、何て言ったの?私の耳はおかしくなったのかな。「可愛らしい」って聞こえた気がしたんだけど。可愛らしいって、かわいらしい、カワイラシイ…………可愛らしい!!?

 名前を覚えてくれていただけじゃ無くて、か、かか、可愛らしいって思ってくれたってこと!?え、それってどう言うこと!私の事好きって事!?

 モレスタ様のとんでもない一言で、私は何が何だか訳が分からなくなって来た。顔も体も、全部が熱い。

 お、落ち着いて私、まずは落ち着くの!「可愛らしい=好き」とはならないでしょ!そもそも、モレスタ様は紳士的で特に女性には平等に優しいんだから、特別な意味なんてないの!そんな考え方だから、ストーカーなんてものになっちゃったんでしょ、自覚しなさい私!!  

「ストレイカ嬢?」
「はいっ!!!!」 

 1人パニックになっている所にいきなり名前を呼ばれた私は、とんでもない大声で返事をしてしまった。焦って周りを見渡すも、魔法の練習で既に大きな音が鳴っているからか、特に見られてはいなかった。

「す、すいません……」
「大丈夫だよ、ストレイカ嬢は思ったより元気な女性なんだね」

 クスクスと笑いながら言うモレスタ様の笑顔に見惚れながらも、私は恥ずかしすぎてどこかに消えてしまいたくなった。

「それじゃあ、そろそろ俺達も練習を始めようか」
「え?」
「周りは皆始めているし、居残り練習なんかになったら困るでしょ?」

 そりゃ困るけど……。え、待って、これって勘違い?また私のストーカー思考が出てるだけ?

「えっと、ま、まさか、私とモレスタ様で練習するって事ですか……て、そ、そんな訳ないですよね!!」

 恐る恐る聞いてみるも、あまりの自意識過剰で自惚れた発言に慌てて否定する。そんな事あるわけないのに、恥ずかしい。

「俺はそのつもりだったんだけど、嫌だった?」
「えっ……」
「でも、もう周りも皆ペアを組んでいるし、余っているのは俺たちくらいだけど……」

 少し眉を下げて「嫌かな?」と聞かれて、思わず取れるんじゃないかってくらい首を横に振った。

「い、嫌なわけないです!!」
「……本当?良かった」

 今度は嬉しそうに笑うモレスタ様。まるで子供みたいに嬉しそうに笑うモレスタ様に、私の心臓はあり得ないくらいの音を鳴らす。

 何これ、何なの。今日が私の命日なの?

 昨日あんなに覚悟を決めたのに、こんな風にされたらどうしたら良いか分からなくなる。
 
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